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第一章
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しおりを挟む――あれから六年。
俺は、隣の国で冒険者となっていた。
「今日の清算だ」
「はい、カイ様。こちらへどうぞ」
騒がしい受付から、職員に連れられ個室の清算スペースへと移動する。
亜空間から取り出した今日の獲物を、必要分以外全部出す。
この二年で慣れたからか、職員も驚かない。
「では清算しましたら、いつものようにさせて頂きます」
「ああ……」
常連の俺は指定しなくても勝手にあっちが判断して、いいようにしてくれる。
俺は三等級の冒険者だ。
一等級が一番上で、七等級が一番下。
上から三番目なので、すごく、すごい。
魔法使いの枠の中ではほぼ最強だと言ってもいい。
「ところでカイ様。この情報は……」
「いつもどおりだ」
「はい、かしこまりました。それではこのナイトアント、ルークアント、ソルジャーアント。アントの大群をおひとりで処理なされた事は伏せさせていただきます」
俺は、いつも通り不機嫌な顔で街中を歩く。
俺が今やっていることは、八つ当たりだ。
毎日毎日飽きもせずダンジョンに潜り、殺してもいい魔物という存在を相手にじゅうりんを繰り返している。
今日もじゅうりんした。
――三時間前、ダンジョン内。
「そろそろ飯にするか」
俺は亜空間から葉っぱで包まれたパンを取り出しかじる。あまりおいしくはないが、腹にたまるしすぐに食べられる。
食事、排便がダンジョン内ではもっとも隙ができる。だからそこは最小限に留めておくのが冒険者としての鉄則だ。
もっとも、体を動かさずに相手を倒せる俺にはあんまり意味のない行動ではあるが、俺が強い魔法使いだと知られるのも厄介なので普段は可能な限り実力は隠している。
食事を終え、水を飲んだ俺のほうに向かってくる人影があった。
気配察知、魔力感知などで分かっていたが、同業の冒険者だ。
冒険者は、助け合い。
弱肉強食、競争社会のただ中で、冒険者ギルドは馴れ合いを原則の方針としていた。
だから向こうが俺に襲い掛かってくるなんて物語にありがちな展開はない。俺もあいつを迎撃しようとは思わない。過酷で孤立しがちなダンジョンでは、横のつながりは何よりも大事なのだそうだ。
俺はそんなのくそ喰らえと思っているが、かと言ってギルドの方針に従わないなんてヘマはしない。
こんな恰好の狩場を用意してくれるのだから、最低限のルールは守る。
「おい、そこのお前! 早く逃げるんだ!!」
向こうからようやく見えてきたくらいの距離で、そう言われた。
どうやら何か問題があったらしいな。
「どうした? 何があった?」
「スタンピードだ! 魔物の大群に襲われた! すぐこっちにも来る! 仲間が抑えているがそれもいつまで持つか分からん!」
と、まぁ、冒険者ってのは親切だ。
俺の心配をしてくれるし、こうして獲物がたくさんいると教えてもくれる。
今も仲間が命をかけて時間を稼いでいるのだろう。その身近な仲間よりも冒険者全体を考えて動く。冒険者はすべて家族だとか何だとか。
「ご大層なことだ」
そんな彼らを軽蔑する気はない。それは二年もここで活動している俺だから嫌でも分かる。こいつらは立派だと。
馴れ合う気なんてないが、その心情を邪魔する気もない。
だが、それとこれとは話が別だ。
「大群ってのはどの規模だ?」
「ナイトアント百匹以上だ! あれはまずいぞ! 軍団規模だ!」
ナイトアントはソルジャーアントの上位種だ。二足歩行を可能とした巨大アリで、右腕の一本が発達し槍のようになっている魔物。
その右腕は、高値で売れる。
素材も相手も、数も申し分ない。
「分かった。お前は念のためギルドに伝えに行け。俺は魔物を叩いてくる」
「そんな、無茶だ! 俺たち四等級パーティでさえダメだったんだ! お前も逃げてくれ!」
「それは聞けんな。ほれ、いいからいけ」
「くっ! 済まない! できるだけ時間を稼いでくれ!」
どうやら男は自分のパーティに引き続き、俺も魔物が進行しないよう時間をかせぐために犠牲になるのだと思ったようだ。
ま、面倒がなくて都合がいい。
「そんじゃま、じゅうりんといこうかね」
ポンポンポーンとスキップで現場に辿り着く。
ぱっと見たところ、あの男のいう通り大量のナイトアントがあふれていた。その中には左腕が盾となっているルークアントも混じっていた。
「こりゃすごい。宝の山じゃねぇか」
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