騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第一章

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 ――成人の儀。

「不安でしょうがないよ、オーレリア」
「大丈夫です! 私がおりますわ!」

 隣に座り、キュッと手を握ってくれるオーレリアのはげましに、僕は引きつった笑みを返す。

 今日は大事な成人の儀。
 すでにおおよその結果を把握している僕は戦々恐々としていた。

 だって、魔法全振りだからね。
 結果なんて見えてるよ。

「あれだけの剣の腕があるのです。きっと、才能も国一番ですわ! 将来はこの国一番の騎士です!」

 今の時点で僕の剣の腕は、確かに一番に近い。
 最強候補のオーレリアや妹と肩を並べられるのだから。

 でも、僕は知っている。
 この先、僕の前衛としての伸びしろは絶望的だって。
 それが彼女を裏切ってしまうのではないか。それがただただ心配だった。

「ありがとう、心強いよ。どんな結果になろうとも僕は最善をつくす。だからこれからもよろしくね、オーレリア」

 そんなことおくびにも出さず、いや、出してないよ、ちょっと震えてるだけ、そんな生まれたての小鹿のような僕はオーレリアの手を握り返す。

 今日緊張しているのはこの検査結果に怯えてだけじゃないんだ。
 だって僕らと同じこの場には、同じ年齢の第三王子様もいる。一応僕らも公爵家で、この国でも有数のえらい家の子だからいてもいいんだけど、それでも王族のかたがいる場所は緊張する。
 特に第三王子様は武闘派だ。筋骨隆々、角刈りビシッなスポーツマンタイプの大柄な少年は、目つきのするどさもあってとってもこわい。
 ふるえる僕を心配してか、時折視線を送ってくるんだけどそれもこわい! お願いだから見ないでー。

 その王子様が立ち上がる。

「さぁ、行ってまいれ」
「はい、父上!」

 そう、そして彼のお父さん、この国の国王様もいらっしゃるのだ。緊張していないオーレリアの方が変じゃない? 変だよね、これ。

「国王陛下もいらっしゃるなんて、光栄ですわね」
「そうだねー」

 うーん、これはもしかして彼女、近衛騎士のお父上と一緒に何度か国王陛下ともお会いしてるのかな?

「ええ、そうですわ。ですから国王陛下はわが父も同じ、と言っては不敬かもしれませんが、心の中ではそう思っていますわ。だからこそ、私もこの国を守れるりっぱな騎士を目指しているのです」

 そうだったのかー。知らなかったよ。それはすごい、立派な考えだ。
 幼いころから一緒にいる婚約者なのに、今の今まで知らなかったなぁ。さすがオーレリアだ。

 その国王様は、おひげが立派なナイスミドル。すごく格好いいし、王子様と違って目元が優しい。
 それでもものすごい剣の腕で、聖剣なんてものも携えているすごいお方なのだ。僕らの国の自慢の王様です。


「うおおおおおおお!!」

 王子様の叫びが聞こえる。
 すごい音量だ。まるで雷が落ちたかのようで、思わずビクッとなる。
 オーレリアの手を握って心を落ち着かせようとしたけど、そのオーレリアが椅子から立ち上がってた。

 そして王子様が高々と掲げる検査装置を見て、オーレリアが我がことのようにはしゃいで飛び跳ねている。

「すごい、すごいですわ! 全面緑色! さすが王子様ですわ!」

 装置はだいたい五十センチくらいの大きさで、幅が五センチくらいの直方体。
 その箱に一回り小さく検査結果を表示するスペースがある。
 左から緑色、右から赤色の棒が伸びて、真ん中の黒いラインで止まっているのが何もしてない時。
 左右に両手を触れてから、ぬうんと念じるとその棒が左右で押し合いをする。そしてそれが止まると結果発表。
 緑色が多ければ多いほど前衛としての素質が高く、赤色が多いほど魔法使いとしての素質が高い。

 理想は八対二。
 そのくらいまで肉体の才能があると、とても優秀だと言われている。
 そんな中で王子様は、なんと驚愕の九対一。僕とは真逆の結果だ。

「でもあれ、比率しか分からないんだよねー。全容量が五十しかなくても、百あっても割合しか分からないんじゃなー」

 そう、その装置は割合しか分からない。
 王家の方々は総じて人としての許容量が大きく、平民ほど低い。
 だからこの王子様は魔法の才能が一割しかないのに、平民よりも魔法が使える。血統って大事。だから兄妹婚なんて制度があるんだろうね。

 なんて考えつつも、僕もオーレリアに釣られてスタンディングオペレーションで拍手している。
 王子様の検査結果が、ほとんど緑色だったから。
 これはすごい、すばらしいって誰も彼もが王子様を褒め称える。

 王子様の素養は九対一。とんでもない肉体派だ。実際に王子様は脳みそまで筋肉ってレベルの人だよ。そりゃ肉体関係に商才とか入ってないわけだって納得よ。

「ありがとう、みなよ! 私はこの力で、王国のすべてを守りたい!」

 王子様の、王子様的な宣言に紳士淑女は大喝采だった。
 いやー、すごいね。こんなお方が僕らと同じ年で、こんなお方に仕える事ができるなんて感激だよ。

 なんて、この時までは気楽に考えていた。


 オーレリアも理想的な八対二を引き当てみんなに祝福されていた。

 次は、僕の番だ。
 お父様、僕はやりますよ!
 だからそんな悲し気な顔をしないで!
 オーレリアだっているんだから、きっと大丈夫だよ!


 結果は分かってた通り、まっ赤っか。
 緑がまったく見えません。
 こうして見ると、うわーやっちゃったーて気分になる。

 でも大丈夫だとオーレリアの方を見る。
 彼女が僕を支えてくれる。僕はこの魔法の才能で彼女を、そしてこの国を守るんだ!
 だから僕はこの結果でも、胸を張ります!

「何と言うことだ……やはり、恐れていた通りだったか」

 お父様?

「話には聞いており、もしやと思っておったが……これは……」

 王様?

「これが、これが私に仕えるべきだった一族の男子なのか!?」

 王子様? え? 王子様まで?

 それとちょっと待って。
 なんでオーレリアは王子様に寄り添っているの?

「オーレリア嬢から疑心の報告を受けておったが、これでは報告が確かだったと言わざるを得ないな」
「そうです、父上! この男は、オーレリアに相応しくない!」

 ちょっと待って。
 これ、どういう流れ?
 だれか説明ぷりーず!

「陛下。ことこの期におよんでは致し方ありません。私も腹をくくります」
「卿が悪い訳ではない。そしてその子も悪い訳ではない。ただただ、運がなかったのだ」
「私の不徳の致すところです」
「何を申すか。そのようなことはない。だがしかし、決定はせねばならぬ。この国のためにの」

 お父様と王様は一体何を話されているのだろうか。
 不安に心臓がギュッとなる。

「カインズよ。お主に告げる。お主は騎士不適合だ。今後、騎士とはなれぬ」

 衝撃の宣告。この国の公爵家の一員としては死刑宣告にも等しいそのお言葉に、僕は黙ってうなづくしかなかった。
 宣言した王様もかなしそうな顔をされていたので、僕は何も言い返せなかった。

「そしてオーレリア嬢の具申どおり、今この場でカインズとオーレリアの婚約破棄を言い渡す!」

 は、えーーーー!?
 なんで? どうして!?
 そこは黙っていられないのですが!?

「そのオーレリアは俺がもらう! 前からカインズについては相談されてたしな!」

 うっそ! まさかの恋人簒奪!?
 王子様なんだからよりどりみどりなはずなのに、どうして僕の恋人を狙ったのさ!
 そしてなんでオーレリアはそんな嬉しそうな顔で王子様に寄り添っているの!?

 オーレリア? 君は今、何を考えているの?

「この裏切り者! あなたとはもう二度と会いたくないわ!」


 この日、裏切られたのは僕のほうだった。

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