騎士不適合の魔法譚

gagaga

文字の大きさ
上 下
3 / 111
第一章

3

しおりを挟む

 オーレリアがスッと離れ、僕にスペースを与えてくれる。以心伝心、というよりも慣れだね。
 妹の襲撃に慣れるなんて、僕も中々にエキセントリックな人生を歩んでいると思うよ。

「ナトリ。危ないからやめようね?」

 そう一言だけ苦言をていしてから、僕は腰の剣を鞘ごと抜いてナトリからの上段斬りを受け止め、彼女がケガしないようにそっと地面へとうけ流す。
 受け止められたナトリはうれしそうな顔で芝生の上をゴロゴロと転がるけど、なんでドレスにスカートなんだよ。もう絶対にそれ、勉強から逃げてきたんだよね? まじめに勉強しなきゃダメだよ、もう。

 この世界、ゴムがないから貴族のパンツは紐パンだ。すぐぬげて用をたせるようにって配慮。女子がスカートなのもその為。だから訓練時以外は基本みんな女の子はスカート。そして紐パンだ。
 妹の紐パンがチラチラ見える。僕が描いてあげたパンダの柄までバッチリ見える。ゴロゴロが止まったあとは、なんとおっぴろげだった。

 君、本当に貴族の家の淑女なんだよね?

 そんなことを言って妹の機嫌をそこねたくないけど、実の兄としては一言申したくなるよ。

「ナトリー、見えてるよー」

 はい、申したくても言えません。最低限の指摘をするだけです。
 僕はいま、微妙な立場にいるからね。家族相手でもあんまり強気にでれないんだー。

「お兄さまが油断なさるのであればこの程度やすいものです!」

 おっぴろげ状態から足で反動をつけて一気に起き上がるエキセントリックな妹に、僕は思わず叫んでしまった。

「自分を安売りしちゃいけないよ!?」

 さすがにこれは指摘するよ!?
 この子、なに言ってるの!?

「うっふっふー、連続攻撃です! のうさつ、です!」

 今度は両手でスカートのスソを掴んだと思うと、おもむろに、がばり、とスカートをまくり上げる。うちの妹は、露出狂のケでもあるのだろうか?
 人の趣味だしとやかく言いたくないけど、その道はよくないと思うんだ、僕。


 しかし、うーん、悩殺、ねぇ。
 妹はたしかに客観的にみるととってもかわいい。かわいいけど、血がつながっている妹だしね。一応この国では血を濃く残すために兄弟婚の制度があるけど、まだ十歳の女の子、それも僕にそっくりな顔をした妹のパンツにはムラムラしてこないよ。柔らかくてスベスベしていそうなお腹は触ってみたいけど、それでもエロ目的にはならないね。兄妹のスキンシップ止まりだと思う。

 それはともかく、妹にこれ以上はしたない格好をしてもらっていては色々困るかな。僕の婚約者だっているし、いつ使用人以外の人間が来るとも分からないのだからね。

 両手をふさいでスカートをめくりドヤ顔しているかわいい妹に接近して、真後ろからチョップをかるく見舞う。

「ていっ! ナトリ。そんなことをしてはいけません。あと、両手ふさがったら攻撃できないよね?」
「う、ううー、お兄さまのいけず!」

 いけずも何も、ああ、もう走り去っていった。
 あの機動力はすごいね。足の速さだけなら彼女は僕を優に上回っているよ。さすが肉体全振り一族の集大成とまで言われた妹だ。

「あの子もこまったものですわね」
「んー、そうだね。妹とあそぶのは楽しいけど、前もって教えて欲しいよね」
「あなたもちょっとこまったものですわね。兄妹ですし、似た者同士なのですわね」

 ニコニコとしつつもちょっと顔に力が入っているオーレリアがこわい。

「この方は私のえものですのに……むだな努力を……ギリィ」
「なにか言ったかい?」

 小声だったのと、僕がちょっとビビっちゃったからオーレリアの声を聞き逃した。だから聞き直してみたけど、なんでもないですわとはぐらかされてしまった。彼女がそう言うのであれば、ただの独り言だったのかもしれないねー。


「明日は、成人の儀ですわね」
「そうだねー。いやー、たのしみだねー」

 うそです。だいぶビビってます。
 僕は前世の自我を取り戻してから人前で魔法を使わなくなった。ときどき、こっそり使いはするけど大っぴらにはしていない。だからオーレリアは僕が魔法を使えるのを知らないし、それで今までは大丈夫だったのもある。
 さっき、肉体全振りの妹の強襲を受け止めれた。だからそんな僕が魔法使いだなんて彼女はまったく思ってないだろう。


 僕のチートのひとつ、レべル上限突破。
 正確に言うと、これの効能として、初期ステータスが全部底上げされるって部分。そのために成長期でまだまだ体が完成していない彼女らと互角の肉体性能をほこっているのだ。

 とは言え、僕の肉体は今後もそれほど成長しない。成長係数と呼ぶべき最初の才能の素質振りでぜんぜん振ってないから。つまりこの時点で僕の剣術の腕は頭打ち。平民よりは強いけど、大人の騎士には敵わないし、これから僕が成長しても追いつけないだろう。

「かなしそうなお顔。大丈夫です、私がついています。なにがあっても、ずっと、ずーーっとおそばに居りますわ!」
「……うん、ありがとう」

 事情を知らないオーレリアは、僕に根掘り葉掘り聞いてこない。それが貴族の淑女、公爵家の家にとつぐ妻の立ち位置だと理解しているのだ。十二歳なのに、なんてできた女性なのだろうか。今も上目遣いでみあげてきて、子供らしさが欠片も感じられなくてちょっとビビっちゃったけど、すごい子なのだ。

 そんな子がここまで言ってくれている。僕を信じてくれている。
 大丈夫、大丈夫。
 そんな言葉が僕に勇気をくれる。

 今は手を握るのが精いっぱいだけど、もし成人の儀が終わったら彼女のかわいらしい唇にキスをしよう。

 しかし僕のそんな淡い恋心は、木っ端みじんに打ち砕かれた。




「この裏切り者! あなたとはもう二度と会いたくないわ!」

 婚約者オーレリアに絶縁状を叩きつけられた。
 それはその日、僕と彼女の成人の儀のことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

【R18】抑圧された真面目男が異世界でハメを外してハメまくる話

黒丸
ファンタジー
※大変アダルトな内容です。 ※最初の方は、女の子が不潔な意味で汚いです。苦手な方はご注意ください。 矢島九郎は真面目に生きてきた。 文武の両道に勤め、人の模範となるべく身を慎んで行いを正しくし生きてきた。 友人達と遊んでも節度を保ち、女子に告白されても断った。 そしてある日、気づいてしまう。 人生がぜんっぜん楽しくない! 本当はもっと好きに生きたい。 仲間と遊んではしゃぎ回り、自由気ままに暴力をふるい、かわいい娘がいれば後腐れなくエッチしたい。 エッチしたい! もうネットでエグめの動画を見るだけでは耐えられない。 意を決し、進学を期に大学デビューを決意するも失敗! 新歓でどうはしゃいだらいいかわからない。 女の子とどう話したらいいかわからない。 当たり前だ。女の子と手をつないだのすら小学校が最後だぞ! そして行き着くところは神頼み。 自分を変える切欠が欲しいと、ものすごく控えめなお願いをしたら、男が存在しないどころか男の概念すらない異世界に飛ばされました。 そんな彼が、欲望の赴くままにハメを外しまくる話。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...