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終章 リュータとそれぞれの話
第九十五話 リュータの話 その三
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「はぁ!? 北側に新しい橋をかけてきただと!?」
「お、おう・・・」
イヤイヤ出勤して、イヤイヤ仕事していたら、いきなりウィルに怒られました。
怒られた理由は、街の北側にある川に新たな橋を作ったからで、でもそれで怒るのはどうなんだろうか。
「この地図で正確な場所を示せ。・・・場所は、そこだと!? あんな場所に・・・。それで・・・、それで、だ!!」
「あ、ああ。それで、何だい。ひとまず顔が近いから離れてくれると嬉しいなぁって」
「なんだと!?」
うひぃぃぃ!!
たす、助けて~~~!!
なんて叫んでも誰も来ません。
だって普段は一緒にいて、一緒に仕事をしている俺の頼れる奥さんたちは、今全員、家にいるから。
理由はただ一つ。
今朝、シルちゃんとミチルさんが同時に産気づいて、てんやわんやの大騒ぎ中だから。
なら俺も家に残って誕生に立ち会うべきだって思うんだけど、溜まった仕事の所為でほら、この通りです・・・。
「貴様! こちらが気を使い仕事量を減らしておいたのにこれとは・・・、これ、とは!! まったく、次から次へと!」
「・・・、これで減らしてくれてたのか・・・」
山と積まれた書類の数々と、絶対にウィルの趣味だろ! と突っ込みたくなる「要動作確認」と書かれた紙が貼られた発明品の数々を見て、思わずそう漏らす。いや、スタンガンはともかくトイレのスッポン、ラバーカップだっけ? がどうして兵器として転用されたのかとか、どう言う感じで相手を倒すのか、とか興味はあるんだけど・・・。
これ、どう見ても全部を真面目にこなしていたら、我が子の誕生に間に合わないよね!?
「ウィル、こっちは終わったぜ。あー、さすがに缶詰で徹夜はねーよ。せめて一旦帰らせろゴルァ!」
「こっちも終わったぜー」
!?
なんだこれは!
天の助けか!
まさかこのタイミングでスケープゴートを二人も寄越してくれるとは、エンテ様は神か! あ、普通に神様だったわ。
旅に出る直前まで、ほぼ一年近く家で近所のおばちゃんめいた行動をしていた妙に人間臭いエンテ様の所為で、あまり神々しいと言うイメージがないんだよなぁ。ツヨシ君とアンリエット様を強引に結婚させたり、他にも街の独身連中の為に合同見合いのセッティングしたり、さりげなくお悩み相談所を作ってお小遣いを稼いでいたり、井戸端でおばちゃんらと世間話していたり・・・。
「あれ? エンテ様って本当に神様なのか?」
「兄貴、まだいたのか。てーか、妙な事口走ってんな。聞かれたらやべーぞ。泣くぞ、あの神様。ぜってー泣くわ。てか、これはさすがに家に帰してやった方がよくねーか? これ以上妙な事されたらやべーぞ」
そ、そうだ、言ってやってくれ、ツヨシ君!
俺は妙でやべーから帰らせてやれと!
・・・、おや?
「ジョンソンが言ってたが、待つだけの夫の身ってのは辛いらしいな。あの時も、見るに見かねてあいつを家に帰したっけな」
ガルフ、ナイス援護!
「いや、だが! ・・・、そうだな・・・。子供が産まれるのだから、そうするのが道理だろう。しかしツヨシ、ガルフよ」
「なんだー? またアニキはやらかしたのか?」
「ああ、また、か」
なんだよ、またって。
俺はそんなにやらかしてないぞ。
・・・、やらかして、ないよね?
考えれば考えるほど自分に自信が無くなってきて、何か怖くなってきたし、逃げるか!
「そうだ、またもやらかしてくれおった。あいつはあの北の川で・・・、おい、リュータ、どこへ行く! 話は終わっていないのだ、逃げるでないわ!」
「ひえーー! すんませーん!」
一応、謝っておく。
「ふざけるな! 貴様、せめてどうやって橋を作ったのか詳しく詳細に、その面白そうな話を語ってからにしろ!」
「うわーん! 聞きたかったのそれ!? そんなの『生活魔法』の『架橋』だよーー!!」
「「「『生活魔法』!?」」」
俺が得意な魔法なんて、それしかないじゃん!
そりゃちょっと非常識なレベルの規模の魔法で、「これは、生活の領域を大幅に超えてないかのぉ」とさすがにあのシルちゃんも呆れてたくらいだけどさ!
でも、俺はこう考えているんだ。
人の生活に自然との対立は必要不可欠。川を整備し、ダムを作って洪水の危険をなくしたり、山肌を固めて土砂崩れを防いだり、そう言うのって生活と密接に関りがあると思うんだ。
そのノリでやってみたら、出来た。
さすがに魔力が枯渇して、ドラゴンのゴンが助けてくれなかったら一割も作れなかったんだけどね。
いやー、ゴン、拾ってよかったよ。まさかあんな役に立つとは思わなかったよ。
本人、本ドラゴン? は、電池扱いにたいそう不服そうだったけど。
「っとと。ここまで来たら大丈夫か」
とにもかくにも全力で走っていたら、オビヒロのメインストリートから一本外れ、木工屋や石材屋、細工屋などが立ち並ぶ職人通りに出ていた。馴染みの店と、俺が離れていた間に出来た店とを眺めながら、家族への面白いお土産がないかな~なんてお気楽な感じで散策する。
いや~、正直なところ、今すぐ帰っても出来ることはないと思うんだよね~。
・・・、おや?
あそこにいるのは、最近入ってきたらしい犬顔の小柄な青い毛並みの獣人、コボルト族。それに相対しているのは、鳥顔で残りは普通の人間のような鳥人族。その二人が、にらみ合いをしている。
「おいテメェ! いい加減にしろ! その青い顔、どうにかなんねーのか!」
「なんだとぅ!」
「とぅ! ぶはは! なんだそのナマリはよお! とぅ! とぅ!」
「ぬ、ぐぬぬぬぬルルルルル!!」
どうやら職人同士が喧嘩をしている模様。
周りの人たちに、止める気配はない。
はー、やれやれ。
実の所、俺は今まで仕事をさぼっていた訳じゃない。
多種族が暮らすこの街では、このような些細ないさかいが非常に多い。それが単に相手の短気だとか、悪意だとかであればみんなも動くし、街に配備された兵士たちがいちはやく動く。でも、この場でもそうだけど、明確な悪意、敵意じゃなくて文化、習性の違いによる衝突となると、どうしても第三者が仲介しなきゃ大ごとになる。
「いいか、ワン公。よく聞け」
「誰がワン公とぅあ!」
「聞けよ」
さて、何を言い出すのか。
いや、コボルト族の店を見たら一目瞭然なんだけどさ。
「テメーんとこ、くせーんだよ! 青いんだよ! なんで店中にくっさいラマの実の煮汁をまき散らかしてんだよ!! テメー自身も汁まみれで、お陰でこちとら、いや、ここいら一体に客が寄り付かなくなっちまったんだよ! 商品にも臭いが付いてしまったし、どうしてくれんだ!」
ラマの実とは、染料に使う実で、青を出すのに使われるもの。それが、煮込むととても青臭い異臭を放つ。防虫効果もあるから昔から愛用されているけど、それを扱う職人は少ない。なお、布に定着させてから乾燥させると人間が感じ取れるレベルの臭いではなくなるので、完成品は程よい香りになる。
そんな扱う職人が少ないほどに臭いソレを、店中にまいている。
そりゃ、近隣の住人も近寄らないよな。今も様子見している面々は鼻をつまんで涙目だ。
逆に、鼻がよさそうな犬顔のコボルト族が平気なのが、不思議なんだけど。
「ま、俺には関係ないけどね。『消臭』の範囲拡大。ほい、ほいっと」
あまり魔力量のない俺だし、家に帰った後の事も考えると無駄遣いは出来ないけど、それでも仲介するなら近寄らないといけないが、大丈夫だ、問題ない。
『消臭』を振りまきつつ、可能な限り大げさなモーションで、目立つように近寄り、彼らに声をかけた。
「やぁ、お困りかな?」
その後、お互いの言い分を聞いた。
鳥人族側は木工職人、コボルト側は予想通り染め物職人だった。
そして何やら要領を得ない、人慣れしていないコボルトから話を聞き出すに、あの臭いはコボルト的に「いい匂い」だったそうで、それを香水のようにまいていただけだった。俺から見ると不気味過ぎる濃すぎる青い色も、自分たちコボルトの体毛と同じ色なのでまったく気にしていなかったらしい。
当人も最初はなんでこの青の染め物が人気なのか、それなのにどうして職人が少ないのか疑問だったらしいけど、彼に近寄ってくる人がいなかったし、客は折角安く提供してくれる職人の機嫌を損ねたくなかったからか、その事を指摘してくれなかったらしい。そして、コボルト族は森で暮らしていたから、周囲はもっと臭いだらけだった。だから今まで、何が悪いのか気づかなかったらしい。
「ま、それも『生活魔法』で全部解決だけどねぇ」
どれだけ頑固な臭いも、『消臭』で一気に消える。臭い移りもない。範囲拡大させるのは大変だし、普通の人は出来ないらしい。でも、店の外へと漏れ出る分は範囲拡大を使わなくても簡単に払えるから、コボルトでも問題なかった。
そして、鳥人の作った木工についてしまったラマの実の臭いも、『消臭』で消せた。まぁ、ヒノキみたいな木の香りも同時に消してしまったけど、本人はラマの実の臭いさえ消えればよかったみたいで特に気にしてなかったから問題ないでしょう。
・・・、後で気付いて泣くパターンかもしれないけど・・・。
その後も四件ばかり、異種族間によるどうしようもない衝突を平和的に『生活魔法』で解決し、俺は帰宅した。
「ただいまー。今日も一杯仕事したよー」
「嘘つけ!」
お、おや?
目の前には険しい目を俺に向ける真紅さん。いつの間に先回りしてきたのかウィル、そしてツヨシ君がいる。
先ほど俺を糾弾したのは、真紅さん。
俺の奥さんなんだけど、真紅さんはとても真面目で約束や契約を大事にするから、何というか、お怒りです。
「ダンナ、お疲れ様でやす。おしぼりでやす」
「あ、ああ。ありがとう」
そして空気を全く読まずに、いや、むしろこの剣呑な空気を読んで敢えて道化に徹してくれた、俺におしぼりを差し出してくるレッドキャップにお礼を言いつつ、俺は冷静になるべくおしぼりを使う。
手を拭き、顔を拭き、首の裏を拭いて一息ついた。
「はー、生き返るなぁ」
あ、はい、すいません。謝るから真紅さん、そんなに睨まないで下さい。
「テメー、子供が産まれるってんで真面目に仕事するっつったよなぁ?」
ええ、してましたよ、仕事。
「途中で投げ出さねーっつったよなぁ?」
・・・、こう見えて、俺の決済が必要な分は最低限、済ませていますよ。
いやいや、そもそも人手が足りなさすぎるのが原因で、決して俺の能力が低いとか、怠けてるとかじゃないんだからねっ!
「で、テメーは何してたんだ? てか、なんでこいつらの方が家来るの早かったんだ!?」
お、おう。どうやら真紅さんは俺が仕事を早めに切り上げてきた事よりも、寄り道していたことがご不満らしい。
そりゃそうか。子供の誕生に立ち会いたい、シルちゃんとミチルさんの不安を解消したい、みたいな理由で急いで帰ったのに道草食っていたら怒るか。
これは正直に言わないとダメだね。
「え、えーと。街の平和を、守っていました」
「なんだそりゃ。正義の味方かっつーの。・・・、いや、アニキならあり得る、か?」
「この怠け者がそんなもの、あり得るわけがなかろう」
友人二人がひどいです。割とそこそこ、本当の事なのに!
「なら、いい。着替えたらシルビィとミチルに顔を見せに行ってこい」
「はーい」
と、まぁ真紅さんは俺が何しているか知ってるからこんな感じです。
そして一方、この軽いやり取りを聞いて唖然としていたウィルとツヨシ君は、とても失礼だった。
「そ、それで納得するのか」
「俺様ぁ、アニキの事をまだ全然知らなかったんだなぁ」
「あの旅ですっかり奥方たちはリュータに丸め込まれてしまったのか。この世に、正義は、道理はないのか!?」
「あー、見た目に反してくそ真面目な真紅はテメーと話が合ってたもんなぁ。ったく、アニキも残酷な事しやがるぜ。アニキにゃ言えねぇが、ひでー話だ」
聞こえてますよー?
「そう言えば、ガルフはどうしたの?」
「ああ、あいつなら留守番だ」
「責任感も強いし、仕事を押し付けるにはうってつけだった」
ひでぇ!!
「あ・な・た、大変よ! 二人の子が産まれそうなの!?」
「ソラミちゃん、ただい、ま? まじで!? のんびりしている場合じゃなかった! 『ホコリ取り』『殺菌消毒』。よし、今行くよ!」
もう産まれそうなんて、それなら着替えるのは後だ!
手早く『生活魔法』で服と自分を綺麗にしてから、二人の待つ寝室へと急ぎ向かう。
そしてついた先は、戦場だった。
「おい、湯をもっと作れ! 魔法で作る? それはダメだ! 子供が魔力酔いをして、最悪死んでしまうぞ!!」
「清潔な布を! そう、もっとよ! 汗を拭いた後のものはきちんと洗濯して、熱湯で消毒よ! あと、桶を持ってきて! 赤ちゃん用じゃないわ! 産まれた後で使うのよ!!」
元々、出産は大仕事だ。それは産む側だけでなく、それを支える側にとっても。今いるのは、助産婦さんと、出産経験がありシルちゃんが立ち会った事もあるステファンさんだ。
実の所、今日俺が出勤しなければならなかったのはステファンさんがこちらに来ていて、ジョンソンさんが代わりに子供たちの面倒を見る事になったからだったりする。
しかし、知識としては知っていたけど、俺は他人の出産に立ち会ったことはないからこの喧騒は、いや、すごいね。そりゃ、男だし医者でもないんだから、経験ないのは当然なんだけどさ!
「来たわね、リュータ! あなたは本当にいつもここぞのタイミングで現れるわね。まるで、運命の女神に愛されているかのようだわ。あの女神め、忌々しい」
ちょっと、藍子さん!? 最後、本音漏れてません!?
なお、運命の女神とは、エンテ様の事である。
あの神様、破壊神が最初に全部の役目を投げ捨てたもんだから、いろんな属性背負いこんでいるんだよな。
「それとその格好でこの部屋に入るのはナシよ。体を洗って、着替えて来なさい! 念入りに爪の間も洗いなさいよ!」
・・・、うん、生活魔法も万能ではないようだ。横着をしたらステファンさんに完璧なノーグッドを食らいました。
ふう、さっぱり。
そして真紅さんが準備してくれていた真新しい服に着替えて、念のために『殺菌消毒』も施して、いざ入室。
「二人のベッドの間に隙間があるけど、そこに行けって? なるほど、そう言う事ね」
シルちゃんとミチルさんが横たわっている二つのベッドの間が、丁度人ひとり分入れるだけのスペースがある。
俺は指差したステファンさんに返事をしてから、そこに身を潜り込ませ、ベッドで横たわる二人の頭を撫でた。
「ただいま、シルちゃん、ミチルさん」
「お、おお、リュータか。先ほども声だけは聞こえておったが、お帰りなのじゃ。いやはや、出産の立ち合いは何度も経験があるが、実際に我が身の事となると、そう都合よくもいかんのぉ」
「大丈夫?」
「リュータだけでなく、ほれ、このように大勢に助けられておるのじゃ。不安など一切ないぞ!」
そう言って、汗だくで痛みに悶えながらもニコッと笑うシルちゃんに、愛していると告げてから、もう一人の奥さんへと顔を向ける。
「ミチルさんは、さすがに苦しそうだね」
現在ニ十歳のミチルさんは、とても辛そうだった。
「リュ、リュータさん。これ、結構きついです。きついですよ。それとミチルって呼んで下さいよ!」
「う、うん。ごめんね、つい癖で。それと、代わってあげられなくて悪いけど、応援してるから」
これだけ苦しそうに呻くミチルさんに、思わずそう言えば、目をクワッと見開いて反論してきた。
ホワイ!?
「そ、そんなのだめです! この幸せは、リュータさんでも譲れません! あ、でも痛いです。とてもすごく、苦しいです!! ハァハァ、なんだか興奮してきました。この世に、こんな痛みが、苦しみが、幸せがあったなんてぇぇl」
そ、そうなんだー。痛くて苦しいのが、幸せなのかー。
ちょっとミチルさんとの接し方を変えなきゃいけないのかなぁ。
まさかここに来て、新たな性癖を追加してしまうとは、さすが元勇者と言うべきか、厄介な性格をしていると呆れるべきか。
なんて様々にあったけど、無事、二人は出産を終えました。
そして子供二人に、前々から家族会議で決まっていた名前を名付け、目いっぱいかわいがりました。
うーん、甘やかされすぎてこの子たちの将来がちょっと不安だけど、愛されていないよりは、いいよね!!
その後?
うん、まぁその後はあれだよ。
奥さんは全員妊娠、出産して子供がたくさん産まれました。
幸いにも俺は領主として大成してるから、百人産まれても経済的には問題なかった。
・・・、うん、最終的に何人産まれたかは言わないよ。ただ、女神さまの希望を大幅に上回った、とだけ。
行政の方は人材が育ってきて書類仕事が激減、それに俺の苦労の甲斐もあり異種族間の問題も段々と減って、しまいには完全に解決出来たのは驚きだった。
なお、行政だけでなく、異種族間のわだかまりや問題も何もかもを全部解決したのは、なんと『生活魔法』だった。
風習なんかも全て『生活魔法』がどうにかしてくれた。計算、臭い、騒音、景観、全てが『生活魔法』で解決可能だったのもまた、驚いたけど。
「『生活魔法』、最強すぎるだろ」
俺が行った『架橋』も、規模を縮小した『足場作り』で代用可能で、それで一気に川の工事の進捗も早くなり、道路も簡単に作れるようになった。
そうやって、とにかくいろんな場所で、いろんな『生活魔法』が使われ、人々の生活は一気に豊かになった。
その余裕が国中に広がると、次には王様からの依頼、いわゆる勅命が各貴族に下され、次々と開拓団が結成され、うちの街人を主軸に魔物に荒らされた土地の復興が始まった。そしてなんでも、厄介な魔物の退治に、俺が使っていた「生活魔法を付けて殴る」が非常に高い効果を発揮していると聞いている。やはり固い魔物、特殊な魔物、亡霊系魔物には生活魔法が有効なようだ。
そうやって世界が着実に今までと変わっていく中、俺は前線勤務には使命されず、真面目に自分の領地で書類仕事する日々が続いて、とても平和な日々を送っている。
ペラリ、とテーブルの上に置いてある開拓団のメンバーのリストを確認する。
獣人、リザードマン、エルフ、人間・・・、ハーフもクオーターも、それ以上に混じったものもいる。
この中には、開拓作業後、その地に留まり、異種族で結婚した者たちもいると書かれている。
少し前まではそんな事、考えられなかったことだろう。
ドワーフと獣人のハーフであるデイジーさんだって子供の頃に捨てられ、最近まで結婚相手を探していたくらいだ。まぁ、彼女は変態忍者と無事に結婚して、すでに二児の母となっているけど、それでも彼女のような存在は当時とても珍しかったのを覚えている。
「様々な種族がそれぞれの問題を乗り越え、共に手を取り進んでいく。もしかして、これがあの破壊神の目指したものだったのかな」
全てを破壊し、ゼロからやり直す。
そのやり直そうとした先に見た夢の光景が今のこれだったら、嬉しいなぁ。
「なんて、そんなの本人しか、分からないか」
でも、俺にはなんだか
それが、望んでいたカタチだったと、分かってしまったのである。
「お、おう・・・」
イヤイヤ出勤して、イヤイヤ仕事していたら、いきなりウィルに怒られました。
怒られた理由は、街の北側にある川に新たな橋を作ったからで、でもそれで怒るのはどうなんだろうか。
「この地図で正確な場所を示せ。・・・場所は、そこだと!? あんな場所に・・・。それで・・・、それで、だ!!」
「あ、ああ。それで、何だい。ひとまず顔が近いから離れてくれると嬉しいなぁって」
「なんだと!?」
うひぃぃぃ!!
たす、助けて~~~!!
なんて叫んでも誰も来ません。
だって普段は一緒にいて、一緒に仕事をしている俺の頼れる奥さんたちは、今全員、家にいるから。
理由はただ一つ。
今朝、シルちゃんとミチルさんが同時に産気づいて、てんやわんやの大騒ぎ中だから。
なら俺も家に残って誕生に立ち会うべきだって思うんだけど、溜まった仕事の所為でほら、この通りです・・・。
「貴様! こちらが気を使い仕事量を減らしておいたのにこれとは・・・、これ、とは!! まったく、次から次へと!」
「・・・、これで減らしてくれてたのか・・・」
山と積まれた書類の数々と、絶対にウィルの趣味だろ! と突っ込みたくなる「要動作確認」と書かれた紙が貼られた発明品の数々を見て、思わずそう漏らす。いや、スタンガンはともかくトイレのスッポン、ラバーカップだっけ? がどうして兵器として転用されたのかとか、どう言う感じで相手を倒すのか、とか興味はあるんだけど・・・。
これ、どう見ても全部を真面目にこなしていたら、我が子の誕生に間に合わないよね!?
「ウィル、こっちは終わったぜ。あー、さすがに缶詰で徹夜はねーよ。せめて一旦帰らせろゴルァ!」
「こっちも終わったぜー」
!?
なんだこれは!
天の助けか!
まさかこのタイミングでスケープゴートを二人も寄越してくれるとは、エンテ様は神か! あ、普通に神様だったわ。
旅に出る直前まで、ほぼ一年近く家で近所のおばちゃんめいた行動をしていた妙に人間臭いエンテ様の所為で、あまり神々しいと言うイメージがないんだよなぁ。ツヨシ君とアンリエット様を強引に結婚させたり、他にも街の独身連中の為に合同見合いのセッティングしたり、さりげなくお悩み相談所を作ってお小遣いを稼いでいたり、井戸端でおばちゃんらと世間話していたり・・・。
「あれ? エンテ様って本当に神様なのか?」
「兄貴、まだいたのか。てーか、妙な事口走ってんな。聞かれたらやべーぞ。泣くぞ、あの神様。ぜってー泣くわ。てか、これはさすがに家に帰してやった方がよくねーか? これ以上妙な事されたらやべーぞ」
そ、そうだ、言ってやってくれ、ツヨシ君!
俺は妙でやべーから帰らせてやれと!
・・・、おや?
「ジョンソンが言ってたが、待つだけの夫の身ってのは辛いらしいな。あの時も、見るに見かねてあいつを家に帰したっけな」
ガルフ、ナイス援護!
「いや、だが! ・・・、そうだな・・・。子供が産まれるのだから、そうするのが道理だろう。しかしツヨシ、ガルフよ」
「なんだー? またアニキはやらかしたのか?」
「ああ、また、か」
なんだよ、またって。
俺はそんなにやらかしてないぞ。
・・・、やらかして、ないよね?
考えれば考えるほど自分に自信が無くなってきて、何か怖くなってきたし、逃げるか!
「そうだ、またもやらかしてくれおった。あいつはあの北の川で・・・、おい、リュータ、どこへ行く! 話は終わっていないのだ、逃げるでないわ!」
「ひえーー! すんませーん!」
一応、謝っておく。
「ふざけるな! 貴様、せめてどうやって橋を作ったのか詳しく詳細に、その面白そうな話を語ってからにしろ!」
「うわーん! 聞きたかったのそれ!? そんなの『生活魔法』の『架橋』だよーー!!」
「「「『生活魔法』!?」」」
俺が得意な魔法なんて、それしかないじゃん!
そりゃちょっと非常識なレベルの規模の魔法で、「これは、生活の領域を大幅に超えてないかのぉ」とさすがにあのシルちゃんも呆れてたくらいだけどさ!
でも、俺はこう考えているんだ。
人の生活に自然との対立は必要不可欠。川を整備し、ダムを作って洪水の危険をなくしたり、山肌を固めて土砂崩れを防いだり、そう言うのって生活と密接に関りがあると思うんだ。
そのノリでやってみたら、出来た。
さすがに魔力が枯渇して、ドラゴンのゴンが助けてくれなかったら一割も作れなかったんだけどね。
いやー、ゴン、拾ってよかったよ。まさかあんな役に立つとは思わなかったよ。
本人、本ドラゴン? は、電池扱いにたいそう不服そうだったけど。
「っとと。ここまで来たら大丈夫か」
とにもかくにも全力で走っていたら、オビヒロのメインストリートから一本外れ、木工屋や石材屋、細工屋などが立ち並ぶ職人通りに出ていた。馴染みの店と、俺が離れていた間に出来た店とを眺めながら、家族への面白いお土産がないかな~なんてお気楽な感じで散策する。
いや~、正直なところ、今すぐ帰っても出来ることはないと思うんだよね~。
・・・、おや?
あそこにいるのは、最近入ってきたらしい犬顔の小柄な青い毛並みの獣人、コボルト族。それに相対しているのは、鳥顔で残りは普通の人間のような鳥人族。その二人が、にらみ合いをしている。
「おいテメェ! いい加減にしろ! その青い顔、どうにかなんねーのか!」
「なんだとぅ!」
「とぅ! ぶはは! なんだそのナマリはよお! とぅ! とぅ!」
「ぬ、ぐぬぬぬぬルルルルル!!」
どうやら職人同士が喧嘩をしている模様。
周りの人たちに、止める気配はない。
はー、やれやれ。
実の所、俺は今まで仕事をさぼっていた訳じゃない。
多種族が暮らすこの街では、このような些細ないさかいが非常に多い。それが単に相手の短気だとか、悪意だとかであればみんなも動くし、街に配備された兵士たちがいちはやく動く。でも、この場でもそうだけど、明確な悪意、敵意じゃなくて文化、習性の違いによる衝突となると、どうしても第三者が仲介しなきゃ大ごとになる。
「いいか、ワン公。よく聞け」
「誰がワン公とぅあ!」
「聞けよ」
さて、何を言い出すのか。
いや、コボルト族の店を見たら一目瞭然なんだけどさ。
「テメーんとこ、くせーんだよ! 青いんだよ! なんで店中にくっさいラマの実の煮汁をまき散らかしてんだよ!! テメー自身も汁まみれで、お陰でこちとら、いや、ここいら一体に客が寄り付かなくなっちまったんだよ! 商品にも臭いが付いてしまったし、どうしてくれんだ!」
ラマの実とは、染料に使う実で、青を出すのに使われるもの。それが、煮込むととても青臭い異臭を放つ。防虫効果もあるから昔から愛用されているけど、それを扱う職人は少ない。なお、布に定着させてから乾燥させると人間が感じ取れるレベルの臭いではなくなるので、完成品は程よい香りになる。
そんな扱う職人が少ないほどに臭いソレを、店中にまいている。
そりゃ、近隣の住人も近寄らないよな。今も様子見している面々は鼻をつまんで涙目だ。
逆に、鼻がよさそうな犬顔のコボルト族が平気なのが、不思議なんだけど。
「ま、俺には関係ないけどね。『消臭』の範囲拡大。ほい、ほいっと」
あまり魔力量のない俺だし、家に帰った後の事も考えると無駄遣いは出来ないけど、それでも仲介するなら近寄らないといけないが、大丈夫だ、問題ない。
『消臭』を振りまきつつ、可能な限り大げさなモーションで、目立つように近寄り、彼らに声をかけた。
「やぁ、お困りかな?」
その後、お互いの言い分を聞いた。
鳥人族側は木工職人、コボルト側は予想通り染め物職人だった。
そして何やら要領を得ない、人慣れしていないコボルトから話を聞き出すに、あの臭いはコボルト的に「いい匂い」だったそうで、それを香水のようにまいていただけだった。俺から見ると不気味過ぎる濃すぎる青い色も、自分たちコボルトの体毛と同じ色なのでまったく気にしていなかったらしい。
当人も最初はなんでこの青の染め物が人気なのか、それなのにどうして職人が少ないのか疑問だったらしいけど、彼に近寄ってくる人がいなかったし、客は折角安く提供してくれる職人の機嫌を損ねたくなかったからか、その事を指摘してくれなかったらしい。そして、コボルト族は森で暮らしていたから、周囲はもっと臭いだらけだった。だから今まで、何が悪いのか気づかなかったらしい。
「ま、それも『生活魔法』で全部解決だけどねぇ」
どれだけ頑固な臭いも、『消臭』で一気に消える。臭い移りもない。範囲拡大させるのは大変だし、普通の人は出来ないらしい。でも、店の外へと漏れ出る分は範囲拡大を使わなくても簡単に払えるから、コボルトでも問題なかった。
そして、鳥人の作った木工についてしまったラマの実の臭いも、『消臭』で消せた。まぁ、ヒノキみたいな木の香りも同時に消してしまったけど、本人はラマの実の臭いさえ消えればよかったみたいで特に気にしてなかったから問題ないでしょう。
・・・、後で気付いて泣くパターンかもしれないけど・・・。
その後も四件ばかり、異種族間によるどうしようもない衝突を平和的に『生活魔法』で解決し、俺は帰宅した。
「ただいまー。今日も一杯仕事したよー」
「嘘つけ!」
お、おや?
目の前には険しい目を俺に向ける真紅さん。いつの間に先回りしてきたのかウィル、そしてツヨシ君がいる。
先ほど俺を糾弾したのは、真紅さん。
俺の奥さんなんだけど、真紅さんはとても真面目で約束や契約を大事にするから、何というか、お怒りです。
「ダンナ、お疲れ様でやす。おしぼりでやす」
「あ、ああ。ありがとう」
そして空気を全く読まずに、いや、むしろこの剣呑な空気を読んで敢えて道化に徹してくれた、俺におしぼりを差し出してくるレッドキャップにお礼を言いつつ、俺は冷静になるべくおしぼりを使う。
手を拭き、顔を拭き、首の裏を拭いて一息ついた。
「はー、生き返るなぁ」
あ、はい、すいません。謝るから真紅さん、そんなに睨まないで下さい。
「テメー、子供が産まれるってんで真面目に仕事するっつったよなぁ?」
ええ、してましたよ、仕事。
「途中で投げ出さねーっつったよなぁ?」
・・・、こう見えて、俺の決済が必要な分は最低限、済ませていますよ。
いやいや、そもそも人手が足りなさすぎるのが原因で、決して俺の能力が低いとか、怠けてるとかじゃないんだからねっ!
「で、テメーは何してたんだ? てか、なんでこいつらの方が家来るの早かったんだ!?」
お、おう。どうやら真紅さんは俺が仕事を早めに切り上げてきた事よりも、寄り道していたことがご不満らしい。
そりゃそうか。子供の誕生に立ち会いたい、シルちゃんとミチルさんの不安を解消したい、みたいな理由で急いで帰ったのに道草食っていたら怒るか。
これは正直に言わないとダメだね。
「え、えーと。街の平和を、守っていました」
「なんだそりゃ。正義の味方かっつーの。・・・、いや、アニキならあり得る、か?」
「この怠け者がそんなもの、あり得るわけがなかろう」
友人二人がひどいです。割とそこそこ、本当の事なのに!
「なら、いい。着替えたらシルビィとミチルに顔を見せに行ってこい」
「はーい」
と、まぁ真紅さんは俺が何しているか知ってるからこんな感じです。
そして一方、この軽いやり取りを聞いて唖然としていたウィルとツヨシ君は、とても失礼だった。
「そ、それで納得するのか」
「俺様ぁ、アニキの事をまだ全然知らなかったんだなぁ」
「あの旅ですっかり奥方たちはリュータに丸め込まれてしまったのか。この世に、正義は、道理はないのか!?」
「あー、見た目に反してくそ真面目な真紅はテメーと話が合ってたもんなぁ。ったく、アニキも残酷な事しやがるぜ。アニキにゃ言えねぇが、ひでー話だ」
聞こえてますよー?
「そう言えば、ガルフはどうしたの?」
「ああ、あいつなら留守番だ」
「責任感も強いし、仕事を押し付けるにはうってつけだった」
ひでぇ!!
「あ・な・た、大変よ! 二人の子が産まれそうなの!?」
「ソラミちゃん、ただい、ま? まじで!? のんびりしている場合じゃなかった! 『ホコリ取り』『殺菌消毒』。よし、今行くよ!」
もう産まれそうなんて、それなら着替えるのは後だ!
手早く『生活魔法』で服と自分を綺麗にしてから、二人の待つ寝室へと急ぎ向かう。
そしてついた先は、戦場だった。
「おい、湯をもっと作れ! 魔法で作る? それはダメだ! 子供が魔力酔いをして、最悪死んでしまうぞ!!」
「清潔な布を! そう、もっとよ! 汗を拭いた後のものはきちんと洗濯して、熱湯で消毒よ! あと、桶を持ってきて! 赤ちゃん用じゃないわ! 産まれた後で使うのよ!!」
元々、出産は大仕事だ。それは産む側だけでなく、それを支える側にとっても。今いるのは、助産婦さんと、出産経験がありシルちゃんが立ち会った事もあるステファンさんだ。
実の所、今日俺が出勤しなければならなかったのはステファンさんがこちらに来ていて、ジョンソンさんが代わりに子供たちの面倒を見る事になったからだったりする。
しかし、知識としては知っていたけど、俺は他人の出産に立ち会ったことはないからこの喧騒は、いや、すごいね。そりゃ、男だし医者でもないんだから、経験ないのは当然なんだけどさ!
「来たわね、リュータ! あなたは本当にいつもここぞのタイミングで現れるわね。まるで、運命の女神に愛されているかのようだわ。あの女神め、忌々しい」
ちょっと、藍子さん!? 最後、本音漏れてません!?
なお、運命の女神とは、エンテ様の事である。
あの神様、破壊神が最初に全部の役目を投げ捨てたもんだから、いろんな属性背負いこんでいるんだよな。
「それとその格好でこの部屋に入るのはナシよ。体を洗って、着替えて来なさい! 念入りに爪の間も洗いなさいよ!」
・・・、うん、生活魔法も万能ではないようだ。横着をしたらステファンさんに完璧なノーグッドを食らいました。
ふう、さっぱり。
そして真紅さんが準備してくれていた真新しい服に着替えて、念のために『殺菌消毒』も施して、いざ入室。
「二人のベッドの間に隙間があるけど、そこに行けって? なるほど、そう言う事ね」
シルちゃんとミチルさんが横たわっている二つのベッドの間が、丁度人ひとり分入れるだけのスペースがある。
俺は指差したステファンさんに返事をしてから、そこに身を潜り込ませ、ベッドで横たわる二人の頭を撫でた。
「ただいま、シルちゃん、ミチルさん」
「お、おお、リュータか。先ほども声だけは聞こえておったが、お帰りなのじゃ。いやはや、出産の立ち合いは何度も経験があるが、実際に我が身の事となると、そう都合よくもいかんのぉ」
「大丈夫?」
「リュータだけでなく、ほれ、このように大勢に助けられておるのじゃ。不安など一切ないぞ!」
そう言って、汗だくで痛みに悶えながらもニコッと笑うシルちゃんに、愛していると告げてから、もう一人の奥さんへと顔を向ける。
「ミチルさんは、さすがに苦しそうだね」
現在ニ十歳のミチルさんは、とても辛そうだった。
「リュ、リュータさん。これ、結構きついです。きついですよ。それとミチルって呼んで下さいよ!」
「う、うん。ごめんね、つい癖で。それと、代わってあげられなくて悪いけど、応援してるから」
これだけ苦しそうに呻くミチルさんに、思わずそう言えば、目をクワッと見開いて反論してきた。
ホワイ!?
「そ、そんなのだめです! この幸せは、リュータさんでも譲れません! あ、でも痛いです。とてもすごく、苦しいです!! ハァハァ、なんだか興奮してきました。この世に、こんな痛みが、苦しみが、幸せがあったなんてぇぇl」
そ、そうなんだー。痛くて苦しいのが、幸せなのかー。
ちょっとミチルさんとの接し方を変えなきゃいけないのかなぁ。
まさかここに来て、新たな性癖を追加してしまうとは、さすが元勇者と言うべきか、厄介な性格をしていると呆れるべきか。
なんて様々にあったけど、無事、二人は出産を終えました。
そして子供二人に、前々から家族会議で決まっていた名前を名付け、目いっぱいかわいがりました。
うーん、甘やかされすぎてこの子たちの将来がちょっと不安だけど、愛されていないよりは、いいよね!!
その後?
うん、まぁその後はあれだよ。
奥さんは全員妊娠、出産して子供がたくさん産まれました。
幸いにも俺は領主として大成してるから、百人産まれても経済的には問題なかった。
・・・、うん、最終的に何人産まれたかは言わないよ。ただ、女神さまの希望を大幅に上回った、とだけ。
行政の方は人材が育ってきて書類仕事が激減、それに俺の苦労の甲斐もあり異種族間の問題も段々と減って、しまいには完全に解決出来たのは驚きだった。
なお、行政だけでなく、異種族間のわだかまりや問題も何もかもを全部解決したのは、なんと『生活魔法』だった。
風習なんかも全て『生活魔法』がどうにかしてくれた。計算、臭い、騒音、景観、全てが『生活魔法』で解決可能だったのもまた、驚いたけど。
「『生活魔法』、最強すぎるだろ」
俺が行った『架橋』も、規模を縮小した『足場作り』で代用可能で、それで一気に川の工事の進捗も早くなり、道路も簡単に作れるようになった。
そうやって、とにかくいろんな場所で、いろんな『生活魔法』が使われ、人々の生活は一気に豊かになった。
その余裕が国中に広がると、次には王様からの依頼、いわゆる勅命が各貴族に下され、次々と開拓団が結成され、うちの街人を主軸に魔物に荒らされた土地の復興が始まった。そしてなんでも、厄介な魔物の退治に、俺が使っていた「生活魔法を付けて殴る」が非常に高い効果を発揮していると聞いている。やはり固い魔物、特殊な魔物、亡霊系魔物には生活魔法が有効なようだ。
そうやって世界が着実に今までと変わっていく中、俺は前線勤務には使命されず、真面目に自分の領地で書類仕事する日々が続いて、とても平和な日々を送っている。
ペラリ、とテーブルの上に置いてある開拓団のメンバーのリストを確認する。
獣人、リザードマン、エルフ、人間・・・、ハーフもクオーターも、それ以上に混じったものもいる。
この中には、開拓作業後、その地に留まり、異種族で結婚した者たちもいると書かれている。
少し前まではそんな事、考えられなかったことだろう。
ドワーフと獣人のハーフであるデイジーさんだって子供の頃に捨てられ、最近まで結婚相手を探していたくらいだ。まぁ、彼女は変態忍者と無事に結婚して、すでに二児の母となっているけど、それでも彼女のような存在は当時とても珍しかったのを覚えている。
「様々な種族がそれぞれの問題を乗り越え、共に手を取り進んでいく。もしかして、これがあの破壊神の目指したものだったのかな」
全てを破壊し、ゼロからやり直す。
そのやり直そうとした先に見た夢の光景が今のこれだったら、嬉しいなぁ。
「なんて、そんなの本人しか、分からないか」
でも、俺にはなんだか
それが、望んでいたカタチだったと、分かってしまったのである。
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