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第五章 リュータと異国の塔

第五十八話 リュータの特訓その2と復活と

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 今、俺は道場のような所にいます。
 エルフの方々の修練場その二です。体育館のような外見に、床は畳。どう見ても道場です。ワン君もさっきまで張り切って空手か何かの演武をしていました。ちょっとカッコよかった。

 それはともかく、俺はその道場でミチルさんと向き合っている。片や木の棒、片や木刀ですが・・・

「脇が甘いです!」
「あいたー!」

 いや、ちょっと待って!
 なんで木刀で脇を殴られたのに頭が痛いの!? どうしてHPが二回も減ったの!?

「今のは二段打ちです。脇を下からすくい上げて、返す刀で振り下ろして頭をたたきました。ちなみにスキルではありません」
「そこまでする必要あったの!? 俺もうHPないんだけど!? しかもスキルじゃないなら俺、覚えられないよね!?」
「痛くないと覚えませんから」

 いやいや、単に脇が甘いだけで脇を叩かれただけじゃなく、脳天も揺らされたらたまらんよ。と言うか、死ぬし!?
 HP残り7よ!?
 まだここに来て三十分経ってませんよ!?

「大丈夫です。『手加減』スキルを使っています」
「いや、そりゃ大丈夫じゃねーダロ。HP1だと手加減しても死ぬゾ?」
「え?」

 ・・・。
 ワン君の何気ない突っ込みに、場が凍る。いや、ワン君は正しいんだけどさ。
 どうするんだよと思ってミチルさんを見てみれば・・・

「てへっ(∀`*ゞ)」

 上が白で下が黒の「はかま」のような道着姿で照れるミチルさん。

 うん、恐怖が先に走ってかわいいと思えません!
 いや、うそです! だからそんなに睨まないで! 睨まれただけでHP減ってるんですけど!?

「だめっ、死んじゃうっ」 びくんびくん

 ティウンティウンティウン。

「あ・・・『威圧』しちゃいました」
「本当に死んだゾ・・・オイ」

 そして俺は光になった。


***

「あー、びっくりした」
「こっちがビビるっつーの。テメー本当に人類かヨ」
「聞いてはいましたが、本当に生き返るんですね」

 本当にね、びっくりだよ。気が付いたら三十分ほど経ってるし、シルちゃんの所のモノリスにいるし。と言う訳で今はシルちゃんの所のお社でお茶をしています。なお、シルちゃんはうちに来ていた頃に溜まっていた事務処理に追われて不在です。

「ストックに限りがあるから出来る限り死にたくないんだけど。あと、死ぬ時にものすごい、えーと、きょざつかん?」
「虚脱感ジャネ?」
「そう、それ。それがあるんだよね」
「でもすごいですね。最弱だけど最強! みたいな感じありますよ!」
「ああ、うん。それ絶対褒めてないよね」

 間違いなくこの里の中で最弱は俺だと断言できるけど、それはないよー。
 そうそう、セーブだけど、石碑と言うかモノリスに触りながらシルちゃんに承諾してもらったら出来ました。
 アナウンスで

 [セーブが完了しました:セーブ地点:エンテの石碑]

 と出たんだけど、エンテって、何? だった。シルちゃんも知らん模様。あいかわらず謎が謎を呼ぶ不親切な世界だ。


 しかしそう言う意味ではこの復活も不思議だな。

「これってやっぱり、神様からの加護なのかなー?」
「ンな訳ねーだロ。だったらなんでテメー、その、フサフサなんだオ!!」 

 ワン君、噛みおった。
 でも確かにおかしいよな。生き返る加護なんて、あまりに強力すぎる。それをなんの代償もなしに手に入れてるって、ちょっと違和感。


 ん、おや、アナウンス?

[記子:ますたー、私が調べてみるの]

 ほんと!? お願いできる?

[記子:任せるの。でも、その代わりしばらく出てこれないの]

 そっかー、スキル再構築とか色々忙しいみたいだけど、お願いね。

[記子:任されたの。ごほうび待ってるの]

 うん、わかったよ。ずいぶんとお世話になってるし、出来る事ならなんでもするよ。

[記子:言質、とったの]

 え?

「記子さん、意外と計算高い?」
「アン?」
「いや、記子さんが俺の秘密について調べてくれるって」
「ほー、すげーな。ダンジョンコアの妖精ってのは便利なんだナ。俺もダンジョン行きてーナ」
「そもそもダンジョンってどこにあるんでしょうか。ここみたいなオープン型じゃない、クローズド型と言うのでしょうか。そう言うごくありきたりなダンジョンは・・・」

 言われてみたら、孤島ダンジョンもダンジョンっぽくないな。

「んー、前にあったのは玄武のダンジョンだけど、もうないしね」
「俺様も諸国旅してたが、ダンジョンって言われてもピンとコネー」
「知らずのうちに素通りしているのかもしれませんね。ここもダンジョンらしいですから」

 それはあるかもしれない。
 ああ、そうだ。

「アベリア王国の南東にあるババビアルカのさらに東に、真紅さんのダンジョンがあるよ」
「真紅さん、ハイゴブリンの妖精さんのですか?」
「そうそう。ただ、あそこのダンジョン、モンスターがほとんど出ないんだよね。ゴブリンが最大三匹に、オークが一匹、かなり強いけどオーガが一匹くらいじゃなかったかな」
「ハッ。それならラクショーじゃねーカ!」

[真紅:ちょっと物申したいわ。出ていいかしら?]

 ん? メッセージと共に手の平に硬い感触が・・・。手の平を見れば、真っ赤なちかい・・・じゃなくて真っ赤な魔石が。

「真紅さん? いやなんで俺の『収納小箱』から勝手に出てきてんの!?」

 謎が謎を呼ぶって言うか、『収納小箱』って、俺のスキルじゃないの!? うちの主神様の言う『ステータス』の信仰欄もそうだけど、神様ってなんでこうも人の思惑と言うか、常識打ち破ってくれるんですかねぇ。

[真紅:いいから女勇者に渡しなさい]

「えーと、良く分からないけどミチルさん、はい」
「え? いやな予感がするので、ワン! 受け取って!」
「また俺様かよ!?」

 そう言いながらも手に取るワン君は結構女性にも優しい。本当に黙っていればモテるタイプだよな。絶対に口で損しているわー。
 なんて考えていたら、魔石がギュインギュイン光りだして、次の瞬間にはピカっと光って、ワン君の頭がバーコードドレッドヘアーになっていた。

「どきっ☆隙間だらけのドレッドヘアー。隙間に指を突っ込んでみたいです・・・」
「ブフッ!?」

 ポツリと呟いたミチルさんの言葉に思わず吹き出してしまったよ!
 何てことを言うんだ・・・うん、間違ってはいない。俺も指突っ込んでみたいし。

「オイ、テメーら。俺様も、泣く時だってあるんだゾ? ウ、ウウ・・・」

 すでに泣いてますけどね。ごめんねごめんねー。

「呼ばれてないけど来たわ! 真紅様よ! そして死ねええええ!」
「なんでだヨ!? グハァ!?」

 パンクロックな衣装に身を包んだ妖精サイズの真紅さんが現れたと思ったら、唐突のグーパンをワン君に食らわせていた。
 そして彼はそのままお星さまに・・・って、飛びすぎじゃない!?

「大丈夫よ。仮にも元勇者なら半日で帰ってくるわ」
「そ、そうなの・・・。でも真紅さん、さすがに強いね」
「そうですね。小さくてかわいいのに、すごい力持ち」

 そうでしょ? と胸を張る真紅さん。あれ? 思ったより胸あるぞ、この子。もし人間大サイズならミチルさんよりもあるんじゃなかろうか・・・。

「って、ミチルさん睨まないで! またHP減ってるから! ら、らめぇっ」
「ハッ!? すいません。なんだか急にリュータさんに殺意が沸いてしまって・・・」

 恐るべし勇者の勘。

[藍子:それはたぶん、女の勘]

 まじか。それは世界最強の勘だな。ミチルさんに対して余計なことを考えるのはやめておこう。身体的な意味では特に。

「それで、真紅さんはどうして出てきたの?」
「そうだわ! 言っておくけど、私のダンジョンはそこの女勇者でも攻略は無理よ!」
「そうなんですか?」
「そもそも百年以上も攻略者はいないわ。辛うじて脱出した者が一名いるのみよ」

 そうなの!?
 だって、玄武ダンジョンと比べてゴブリンが最大三匹とか、ものすごく難易度低かったよ!?

「あのね。ご主人だから言うけど、私の眷属のゴブリンはそこの女勇者の本気の一撃でやっと倒せるくらいタフなのよ。もうね、ものすんごく固いのよ?」
「本気・・・大地が割れるほどでも?」
「大地割る程度じゃ無理よ」

 うぇぇ!?
 真紅さんのセリフにもビビったけど、ミチルさん、あなた大地割れるんですか!?
 勇者パネェ・・・。

「ならなんで俺は攻略出来たんだろう」

 理由は、うん。
 いや、分かったよ。

「考えるまでもなかったわ」
「何? 攻略法が分かれば私でも行けるかもしれませんし、ぜひご教授を!」
「ダメよ! ご主人、分かってるんでしょうね!」

 お、おう。いやいや、よく考えてみたら『生活魔法』を魔物に使うって発想自体がこの世界にはなかったんだっけか。いや、違うな。ババビアルカのフライングマタンゴの一件でもそうだったけど、固い相手に有効だったってだけなんだよな。

「ヒントはその、防御無視です!」

 強者二人に睨まれた末に、もやっとした回答でお茶を濁した俺は、悪くないと思います!

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