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第四章 リュータ、定住する

第三十八話 リュータの日常と再会

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 あれから俺はせっせと畑を耕し続け、一か月以上が経過した。
 その間に収穫したのは、なんとキュウリ。しかもメロン味。同じウリ科だし、そう言うこともあるよね。って、ンな訳あるか!!

「これ、絶対日本人絡んでるわ。もう間違いない」
「日本人? ああ、お前さんの故郷の連中か」
「そう、絶対そう!」
「日本人は俺の祖先でもあるぞ。これはその祖が作ったものだな。この領地の特産品だ」

 え、そうなの? って、どおりでホッカ街とかオビヒロ村とか、どこかで聞いた名前だと思ったんだよね。しかしならばどうしてユウバリ村にしなかったのか。

「ユーバリ地方のジューリは有名だからな! ただ日持ちしないからババビアルカでは見なかったけどよ。王都になら出回っていたぜ。高級食材だ!」
「へー、そうなんだー」

 あったよユウバリ。しかもこの果物、名前はジューリか。

「キューリの次を行くもの、と言うのが名の由来だそうだ」

 キュウリの次 → 九リの次 → 十リ → ジューリ

 って、なんじゃそりゃー!

「恐るべし、日本人パワー」

 ひどいダジャレである。

「リュータを見てると本当にそう思うな」
「なんでだよ! 俺、十分平凡だろ!?」
「平凡な貴様でさえこれほどの才を持つのだ。勇者など、想像すら出来ん」

 ああ、確かにそうだな。獣人王国を依存レベルまでダメにしちゃったサーナさんの便利すぎる魔道具もそうだったけど、確かに俺を凌駕する日本人は多そうだ。だが勇者に過度の期待をよこすのはやめて欲しい。

「芋の収穫が、あとちょっとと、こっちはトマトも、もうちょいだな」

 トマトは普通のトマトだった。先に出来たものを食べさせてもらったので間違いない。ただし酸味がかなり強い。
 他にも大根のようなものやキャベツのようなものも植えている。季節感が全くないが、さすが異世界、あまり気にしないでいいようである。ただし連作の影響は滅茶苦茶デカので、計画的に場所を移して植えなければならない。

「異世界、ハンパないな」
「いや、お前さんのいた世界の方が半端ないだろ。勇者やお前さんがいた世界なんだから」

 ごもっともで。


***

 ガルフ、俺、ウィルに、時々ジョンソンさんが混じり、野郎同士で畑仕事をし、風呂に入り、バカ話をしながらウィルとバカげた魔道具を作る毎日が続く中、世界に異変が起きた。

「おい、ありゃなんだ? 西のお山が、燃えてるぞ!?」
「え? あっちは確か、ミントさんたちが住んでいる場所じゃないか!!」
「ダンジョンから魔物的なモンスターがあふれたのかもしれん」

 出たよ魔物的なモンスター。最近ご無沙汰だったから土に還ったのかと思っていたよ。しかしやはりこの世界は過酷なのだな。のんびりと農作業しているだけでは済ませてくれない。

「ひとまず知り合いに連絡を入れてみる。『電話』!」

 ミントさん、ミントさん・・・。

「ダメだ、出ない」

 ただ、反応から察するにノイズが混じっているが一応繋がってはいるみたいなので、『メール』機能で簡単に無事かどうかと、何かあれば近い場所にいるから頼って欲しい旨を添えておいた。

「警戒を密にして、いつ魔物的なモンスターの襲撃があってもいいように備えるか」
「いざとなれば、この魔道具、悪臭君を放つ覚悟をせねばならぬな」
「いや、それダメだって言ったでしょ!!」

 なんでコイツは封印指定の凶悪魔道具を肌身離さず持ち歩いているんですかね。そしてどうして俺の『芳香剤:カメムシ』を魔道具で再現しちゃったのか。これだから天才ってヤツはタチが悪い。

「大丈夫だ。タイマー式にしてある。敵陣に放り投げればよいのだ」

 よいのだ、じゃねーよ! 香るでしょ! 超、香るでしょ!! そこら一帯を生物が住まわない死の大地にでもしたいんですかねぇ!


***

「リュータよ、久しぶりじゃの」
「え?」

 唐突に名前を呼ばれたので振り返れば、背は160㎝程度で俺よりわずかに低く、綺麗な金髪に可愛らしいワンピースを来た美少女がそこにはいた。耳は長く横に出ており、明らかにエルフです。

「シルちゃん!? どうしてここに!」

 驚く俺と、他二人。
 なんで、どうしてエルフの里の長であるシルちゃんがここに!?

「おいリュータ。なんだこのかわいい子は? まさかお前さんが度々『電話』をかけていた相手だ、なんて言うんじゃないだろうな? 今の、聞き覚えのある名前だったぞ」
「ほほう、エルフか。しかし俺が知る者より随分と小さいな。まだ子供か?」

 二人が無遠慮にジロジロと見たり、ガルフは俺の肩に腕を回したりしているが、シルちゃんはニコニコ笑顔で対応している。大人の余裕を感じる。さすが801歳だぜぇ。

「ほっほ。ワシの名はシルビィエンテクライテアじゃ。どうか、よろしくのぉ」

 ちょこんとスカートに手をやって、軽く摘まむように上げながら挨拶をするシルちゃんに、あ、どうもーと言う感じのガルフに、何故か固まっているウィル。
 ウィル?

「まさか、本物か?」
「偽物がおるのかの? ワシも有名になったもんじゃて」
「!? こ、これはご無礼を!」

 いきなりひざまずいたよ! ナンデ!? ナンデナン!?

「よいよい。楽にいたすのじゃ」
「ハ、ハハァ!」

 俺とガルフはそんな二人のやり取りを見て、顔を見合わせる。

 お前さん、何か知ってる?
 いんや?

「ワシはこれの実験とやらに付き合うために来たのじゃよ。リュータの様子見も兼ねてのぉ」
「ああ、王冠型の翻訳機か。でもシルちゃん、言葉分かるよね?」
「それでも方言の類は知らんのじゃが、よもやここまでの代物とはのぉ。ここに来るまでに何一つ不自由せなんだわ」

 へー、そうなんだ。って、おいおい、他にも聞くべきことあるだろ、俺。

「いや、じゃなくて!」
「皆まで言わずともよいのじゃ。根回しは十分なのじゃ」
「へ?」

 なんだかやる気がみなぎっている様子のシルちゃんに少し違和感があるが、元気なのはいい事だろう。
 俺はたぶんこの時、油断していたんだと思う。この後の展開を全く予想できなかったんだから。

「里の者たちの説得は済んでおるのじゃ! むしろ大手を振って見送られたのじゃ!」
「そうなんだ」
「だから今日から、よろしくのぉ」
「へ?」

「今日から一つ屋根の下、よろしく頼むのぉ、リュータ!」


「なんだとー!?」
「なんと・・・」


 俺の家は一軒家だが、部屋は一つしかないワンルームなのだ。そこで二人で暮らす? この美少女と? え? まじで?

 どうしてこうなったのか。


 [藍子:ちょっと待ったコールよ]


「は? あ、いや、ちょっと待ってね」

 いきなり視界をふさぐように現れた謎のアナウンスにたじろぎつつ、何があったのかと思い青の魔石を取り出した。

「むむっ」
「え? なにシルちゃんこれが気になるの? って、おわっ」

 ボフン、と言う音と共に飛び出てきたのは藍子さん。
 しかし大きい。俺と同サイズである。いつもの妖精サイズではない。ナイトドレス越しにも分かる見事なプロポーションに、思わず生唾を飲み込む音が三つ。

「そこの小娘。この男は私が先に目をつけてい」

 セリフの途中でボフン、と言う音と共に消えたのは藍子さん。
 え?

「何がしたかったんだよ!!」


***

「ダンジョンコアが認めたものにしか渡さない特別な魔石ねぇ。お前さんはどうしてそうもあり得ないような代物ばかり持ってるんだ?」
「そう言われても」
「実に興味深いが、これでも俺は信心深いのだ。その魔石の研究だけはよしておこう」
「それが賢明じゃの」

 あれから俺たちは俺の家に集合していた。

「して、リュータよ。話をする前にその魔石を全て出してはもらえんかの」
「はい、どうぞ」

 疑問は尽きないが、シルちゃんが俺に対して何か悪いことをするはずがないのですんなりと魔石を渡す。

「ふむ、赤、青、黒に、これは宙か。四大色のみならず上位色に特異色まであるとはの」
「まぁ、全部成り行きだったけど、何度も助けらているからなぁ」

 特に真紅さんには割と本気でお世話になった。ダンジョンコア撃破の半分は彼女によるものだ。そう考えるととんでもないな。

「あの、私からよろしいでしょうか?」
「なんか、話し方おかしくないか、ウィル?」
「バ、バカ者! この方をどなたと心得ておるのだ! このお方は、高名なハイエルフ様だぞ!」

 知ってますが、何か。

「ほっほ。ワシの事は気軽にシルちゃんと呼んでおくれ」
「お、恐れ多いです!」
「申し訳ないが、俺もさすがにそう気軽には呼べないな」
「これが普通の反応じゃろうて」

 うん、その言外に「リュータは変」と言うのはやめようね? 俺だって生きているんだ、傷つきだってするんだよ?

 そしてシルちゃんは何をするかと思えば、魔石に何やらゴニャゴニャとし始めた。するとそれぞれの魔石が淡く光り出した。
 そして流れる [ 魔石の魔力充填が完了しました ] のアナウンス。
 おや?

「ふん、アンタの魔力ってのが気に食わないけど、呼んでくれてどうもありがとう!」
「先ほどは失礼をしたわ。あなた、中々やるじゃない」
「フフフ、久しぶりのシャバ」

 出てきたのは、赤い髪にパンクスーツに身を包んだ真紅さん、青い髪にナイトドレスをまとっている藍子さん。
 そして、なんか一人だけ場違いなセリフを口にしている黒髪に白装束の妖精。何、クロちゃんは塀の中の人だったの?
 そして気になるのはもう一人。黒に金銀赤青などの細かなラメが入った髪をポニーテールにしたスーツを着たお姉さん。ハイヒールまではいて、藍子さんに負けないセクシーさを放っております。

「初めまして、ね。やっと会えたわね、リュータ」
「そ、そうですね。初めまして?」
「気にしないでいいわ。私とあのダンジョンコアは似て非なるものよ。記憶はあるけど別人ね」
「そうですか。では初めまして。それと助けてくれてありがとうございました」
「どういたしまして。それと私の事はあなたが付けたソラミと呼んで欲しいわ」
「え? 本当にそれでいいの?」

 それって、俺が畑仕事している最中に口ずさんでいた替え歌の、アレだよね?


 ソラミ♪ソラミ♪ソーラミソラー♪ラララ♪ラララ♪ミーニソラミー♪


 青いタヌキの妹の、大昔の映画で流れたあのミュージック。
 父さんが大好きだったと言うあの映画をじっちゃん家で見て、それで覚えていたんだけど・・・。
 ちなみに俺、現代版も昭和版も、どちらも好きですよ。

「大好きと言われたのよ。これにするしかないじゃない!」

 歌の最後は、ハローダイスキ〇ラミちゃん、だからな。
 あとたぶん、ちゃん付けも気に入っていると思う。

「ならこれからよろしく、ソラミちゃん」
「え、ええ!! ええそうね! 分かったわ! 私になんでも言って!」

 お、おう。簡単に懐柔できてしまったぞ。
 そしてみんな、俺をそんな目で見るんじゃない!!

「相変わらずタラシじゃのぉ」

 誤解だ!!
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