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鍵探し

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 放課後、僕は不良くんとともに鍵探しの名目で生徒会室の前まで来ていた。
 
「えーと、僕の耳によれば鍵は生徒会室周辺です!」
「へぇ。大したもんだな。お前一人でも見つけられるんじゃねぇの」
 
 内心ギクッとしながらも、へどもどと言い訳する。

「へああ、いや、不良くんの能力じゃないと取れないところとかにあるかもしれないからあ」
「ふーん?」

 三十分経った。僕は愕然とした。

 この不良くん、よっぽどのアホの人なのだろうか。ポストを見ようともしない。
 それとも生徒会が賢いのか? 裏をかいた感じになっているのか?
 何とか不良くんに見つけてほしいのに! できれば格好良く能力で!

「不良くんの能力って『スリ』でしたっけ?珍しいですよね」
「あー。正確には『財宝探知』。スリ以外に使ったことがないからそう呼んでんだ」
「……それって、人から盗む以外にも使えないですか? 名前的に。一定の空間とか」
「ええ、んなのやったことねぇけど……やってみるか。あ、こっちだって」

 ガチャンと不良くんがポストを開けた。

「……あ、あった」
「すごーい不良くん! お手柄だあ!」

 パチパチと盛大な拍手を送る。
 不良くん多分本当にすごいバカなのかも……。能力の使い道、今まで分からなかったのかな。いや、教えてくれる環境がなかった?

「良かったですね。先輩もきっと喜びますよ」

 不良くんは先輩のことが大好きみたいだから、本当は僕に頼まないで鍵を見つけたかっただろうなと前から思っていた。能力の『スリ』もとい『財宝探知』も鍵を盗むのに向いているし。元々思ってた能力とは違う使い方だったけど。

 それに最初に会った日、食堂で対価無しでお菓子をもらったから、何かの形で貸し借り無しの状態にしておきたかったのだ。

「先輩が、喜んでくれる……」

 不良くんの耳が赤く染まる。
 
「何で不良くんは、反生徒会に入ったんですか? やっぱり先輩のスカウトで?」
「ああ、俺ん家は……元々貧乏で成金なんだ」

 どんなカミングアウト?

「親父が商売で一発当ててな。ここ、バカでも金積めば入れるから入学させてくれた。学歴はあったほうがいいって。ただ、俺は手癖悪くて『スリ』連発してて、生徒会にしょっちゅうつかまってた」

 逆恨み?

「停学に何回かなって、退学もあり得るみたいな時に先輩と出会って……能力の制御の仕方とか、色々教えてくれた」

 いい話になってきた!

「で、その見返りに先輩が欲しいモン盗ってるんだ」

 うーん倫理!

「あ、そうなんですね……」
「ああ。先輩は俺の恩人だ」

 恩人、君に盗みさせてますけど? 

 まあ確かに、能力は適度に使わないと体内で魔力が滞っちゃうからある程度は必要なんだけど。
 『財宝探知』として能力使うなら、今後は盗みじゃなくても発散できると思う。

 もしかして魔力の滞りとかも知らないのかな?!
 僕、この学園の教科書一生懸命読んで幼馴染くんに教えてもらって勉強したけど、不良くんは不良だから勉強してないかも。

「あの、不良くん。魔力の滞りとか、発散とかって分かります?」
「え、ああ。先輩に教えてもらったから分かる」
「双方同意の下で能力を使うと効率が良いっていうのも大丈夫です?」

 僕と幼馴染くんがいつもしてるやつだ。
 相手に対して深く能力を行使するほど気持ちよかったりする。魔力の相性や信頼関係、精神状態によってはかえって痛みを伴ったり。

「先輩が時々するから、分かる……」

 そうか。先輩と仲良いんだな。案ずるまでもなかった。

「うん、良かったです! じゃあ不良くんは先に先輩のとこ行ってください。僕はあと少し気になることがあるので」

 不良くんを見送ってから、僕は生徒会室から少し離れた物陰に隠れた。 
 時々生徒会室に『聞き耳』を立てたりしていたが、滅多に物音もしないし、たまにする日があっても料理をするような音しか聞こえてこない。

 生徒会の実態とは何なのか? お料理研究会なのか? では誰が生徒会の仕事をしているのか?
 僕はこの謎を解明してみせる!

 物陰から生徒会室に誰か来ないか見張っていると、向こうの廊下から見知った顔が歩いてきた。
 銀髪の前髪で目元を隠しているもふもふの毛艶。
 狼さんだ。大量の書類を抱えている。

 何か委員会の仕事とかかな?

 狼さんは生徒会室の前で一度書類を置き、制服の内ポケットから鍵を取り出し生徒会室を開錠し、書類を持って生徒会室に入った。

 ええと、生徒会室の鍵はさっき不良くんが持っていって、ていうか狼さんはポストを確認することもなく何の迷いもなくポケットから鍵を取り出していて……つまり、常習的に使っている生徒会室の合鍵?

 でも狼さんは反生徒会のメンバーだよね? 一体どういうことなんだ……!?

「まあいっか!」

 僕は不良くんのことをとやかく言えないバカだ。分からないことは幼馴染くんに教えてもらえばいいし。

 とりあえず反生徒会の皆と合流だ!
 今日は先輩の部屋に集合。ハイランクの金持ちだから部屋が大きいらしい。楽しみ!












「鍵、盗って来れたな。えらいえらい」
「んん……」

 先輩の部屋に着いたら、既に何か始まってた。
 不良くんのご褒美タイム?

 テーブルを挟んだ向かい側のソファで、不良くんに先輩が馬乗りにって指を舐めさせている。
 舌を引っ張られたり、頬を内側からぐにぐに押されたり、されたい放題だ。

「気持ちいいな。もっとして欲しい?」
「んぅ、ん、ん、して、くださ」

 『懐柔』で言わされてるのかな? いや、不良くんは本当にしてほしいんだろうな。

「ああ、こんなものを見せて新入りくんの教育に悪いじゃないか」

 遅れて来たお兄様が、僕の隣に座る。
 一拍遅れのブロンドがふわりと舞ってお兄様の胸下で揃った。
 今日もすごいフローラルな匂いする! 麗しい!
 貴重な女子生徒……じゃないんだった。貴重な美貌をまた拝見してしまった! 
 
 そもそもやっぱり声が良いのだ。中性的な見た目より低くてハスキーで色香がある。僕の耳好みだ。

「お兄様……」

 はわわと熱を持った耳をおさえて羨望の視線を送る。

「新入りくんはそうして耳を塞いでおいで。私が目を隠してあげよう。……早く終わらせてくれるかね!」

 お姉様もといお兄様は、お兄様になってから何というか兄面するようになった。
 こうして僕をお兄様の膝の間に入れて抱き込んだり。
 甘やかされてる?

 教育に悪いとか言っている割に「もっと舌を使いたまえ!」とか野次を飛ばしているけど。インキュバスの血が抑えられないのだろうか。

「お兄様、今日は遅かったですね」
「料理部にお邪魔して合法薬草調合の手伝いを少々ね。私の『幻惑』を薬草そのものにかけてみたり、試行錯誤しているよ」

 パチモンドラッグの改良に思いっきり加担している……。話変えよう。

「た、たいへんですね。ところでお兄様はどうして反生徒会に入ったんですか?」
「私は反・生徒会というより反・人生なのさ。厭世家だね」

 エンセイカ?

「私は一族の中で落ちこぼれで醜い鼻摘み者だと以前に話したね。家族は私を忌み、私は家族を憎んだ」

 お兄様はゆったりとした仕草で脚を組み替えた。短いため息。

「私は魔息日になると自分自身に『幻惑』をかけているんだよ。家族が私を愛し、抱きしめ、共に生活する夢を見る。この世で最も憎んでいる者に、醜悪にも愛を乞わずにいられない……一生醒めない悪夢を、私は終わらせてしまいたい」

 お兄様のきらきら金色の瞳の奥にどろりとした濁りを見た気がした。

「第五高等魔界学園の生徒なんて、特Sを除けばみな将来の見えない者ばかりさ。第四にすら入れなかった落ちこぼれだ」
 
 確かに僕も馬鹿だから筆記ができなくて第五にしか入れなかった。
 将来は幼馴染くんと廃村に帰って祠の跡でセックスをしようと思っている。

「先のない者たちが一時の夢を見て生きながらえる……私にはそれが悪い事だとは思えなくてね。生徒会の取り締まりの方が過剰に感じられる」
 
 お兄様の指先に摘まれている合法薬草のパッケージには「100パーセント合法成分配合!」と虹色で大きく印字してある。
 チカチカの幾何学模様と絶妙のバランスだ。

「我らが反生徒会の首謀者殿も同じさ。彼は結構な名家の出身で彼自身も魔力・能力申し分ないけれどね、彼の兄君の方が全てを上回っている。次男はもっぱら長男の下位互換だと世間は噂しているよ。本来評価されるべき十分な能力があるにも関わらず、悪評を立てられ跡取りにもなれない……気の毒な男だね」

 その時、お兄様の手元にあった合法薬草が一袋、パッと消えた。

「盗るのが本当に上手だな。良い子」

 先輩の声がしてテーブルの向かい側を見ると、不良くんが合法薬草を五袋ほど手にして先輩の胸にもたれかかっていた。半裸で。

 情報量多いな。

 先輩は困ったように眉を下げて、それでいて全然困っていないような三日月型に目を細めてお兄様を見ていた。 
 これが機嫌を損ねた表情であるらしいことを、僕はこちらを怒気を含んで睨みつけている不良くんから知る。

「これは失敬。お喋りが過ぎたようだ」

 先輩は笑んでいるようにも見える形に口元を歪ませてお兄様から視線を外した。
 次には不良くんをソファに逆戻りさせて「ご褒美がいるよな」とご褒美タイムを再開する。

「おお怖い。慰めておくれ」

 お兄様の腕が背後から僕の腹にまわる。
 そのままぎゅむと抱きすくめられ、肩にお兄様の顔が埋められた。

「可愛い私の弟くん。私たちと一時の夢を見よう」




 その後、更に遅れて狼さんがやって来た頃には僕はお兄様の披露するあやとりに拍手喝采し、拍手のたびにお兄様は僕の頬に軽いキスを落としていた。

 先輩と不良くんはあわや性行為の域に片足を突っ込んでいたところを狼さんの『無効化』によって事なきを得たのだった(?)。












 そして、夜。

「うえ~ん同室の幼馴染くん~~」
「よしよし」

 僕は同室の幼馴染くんに泣きついていた。
 
「反生徒会が料理部もとい合法薬草販売部にすごい加担してるよぉ」
「可哀想に」

 事の顛末を、幼馴染くんはうんうんと聞いてくれた。

「ハーブか。懐かしいね」
「ん」

 幼馴染くんの胸にすりすりと頬を寄せる。
 耳をくっつけるとゆっくり心臓の音が聞こえてくる。
 パジャマ越しに胸の真ん中に口付けた。

 幼馴染くんはあやすように髪に指を差し込んで後頭部を撫でてくれる。

「村の儀式で使った時に飛び過ぎちゃって、幼馴染くんが『回復』かけてくれた」
「ふふ、その話は恥ずかしいよ」
「はじめて『回復』が発現したんだよね。能力のコントロールもめちゃくちゃで痛かった」
「痛がってるのも可愛かったけれど」
「それから幼馴染くん、時々心配症が出るようになったね」

 幼馴染くんの両腕が背中にまわって、ぎゅうと抱きしめられる。少し苦しい。
 今度は僕が幼馴染くんの頭を撫でてやる。
 髪をすくようにゆっくりてのひらを上下させる。

「ハーブ何個かもらったからさあ、村に帰ったら使おうよ」
「んふふ。いいよ。祠でセックスする時に使ってあげようね」
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