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第四章 夢現 ─ウ・ツ・ツ─ 1
第3話
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夢の定義はこのようなものだろう。人が眠りに落ちいると、脳の波形がレム睡眠とノンレム睡眠と呼ばれる状態を繰り返す。レム睡眠の状態の場合、脳の大脳皮質や大脳辺縁系が活性化して、記憶の断片をつなぎ合わせて取り留めのない情景を見ているような状態になる。気になっていることや人、情報、悩み、願望など、より深く心に刻みつけられている、モノや感情がその内容に反映されるのが殆どだろう。これが夢と呼ばれるものなのだが、目が覚めると今、夢を見ていたようだが内容はよく覚えていないということが多いが、鮮明に細部まで覚えていることもあるそうだ。加えて、夢の中で、今、目にしている情景を夢だと思うことは稀なようだ。
意識的に夢を記憶してみようと思い、目が覚めて夢の内容をノートに書き記すことを繰り返せば、次第に記憶している質や量に変化が生じ、覚醒時に仮定、思索、判断を下すのは、ジークムント・フロイトの夢判断に関する書物で読んだような気がするが、内容はあまり覚えていなかった。
ただ、この定義を自分自身に当てはめて考えてみると、自分は家族を失うことを極端なほど恐れている、ということになるのだろうか。
ニュースでは交通事故の報道を目にすることがある。歴史に関する興味も人並みにある。たまには刑事ドラマを見ることだってある。病院の世話になったこともある。祖母のことを考えることもある。新聞や本を読むのもよくあることだった。人の死を目の当たりにしたこともあった。普段あまり気にはしていないが、自分の記憶の深層には、それら五感で得た膨大な情報が積み重なって保存されている。なにかをきっかけとして無意識下で表層に浮かび上がったとしても不自然ではない。夢を見ること自体は誰にでもあり得るのだ。その時々の精神の状態により、見る夢が違ったものになるだけだろう。
現状に不満はなかった。まったくないと胸を張ってまでは言えないが、少なくとも幸福ではある。幸福ではあるが故に、失うことを病的なまでに恐れているのかもしれない。理不尽に奪われることを極端なまでに恐れているのかもしれない。それら恐れの感情が、見たくもない状況を、この現実の中で夢として見せているのかもしれない。それが、大切なモノだからこそ。
少年は視線を友人に向けた。
おれは昨日、どうやって家に帰ったのか、お前は知っているか、そう尋ねた。これは先程迷いがあってできなかった質問であり、最近の少年が気にかけているコトの核心だった。どのような返事が返ってくるか、それが判断の一助になればと思っていた。
友人の口が開き、おかしなものを見るような目で、当然のような答が返ってきた。
お前さんの足でだよ。友人は冗談めかしてそう言った。そう言って、中座してトイレに行くために教室から出て行った。その姿を少年は見ていなかった。
おれの足で、なにかの比喩か、それとも単なる軽口なのだろうか。少年は首をひねった。
どちらにしても、その記憶がないのは動かし難い事実だった。やはり、今の自分に見えている光景が夢なのかもしれない。
少年は天井を見上げた。教室の天井も無機質で白い。まるで、夢で見た病室のようだった。
意識的に夢を記憶してみようと思い、目が覚めて夢の内容をノートに書き記すことを繰り返せば、次第に記憶している質や量に変化が生じ、覚醒時に仮定、思索、判断を下すのは、ジークムント・フロイトの夢判断に関する書物で読んだような気がするが、内容はあまり覚えていなかった。
ただ、この定義を自分自身に当てはめて考えてみると、自分は家族を失うことを極端なほど恐れている、ということになるのだろうか。
ニュースでは交通事故の報道を目にすることがある。歴史に関する興味も人並みにある。たまには刑事ドラマを見ることだってある。病院の世話になったこともある。祖母のことを考えることもある。新聞や本を読むのもよくあることだった。人の死を目の当たりにしたこともあった。普段あまり気にはしていないが、自分の記憶の深層には、それら五感で得た膨大な情報が積み重なって保存されている。なにかをきっかけとして無意識下で表層に浮かび上がったとしても不自然ではない。夢を見ること自体は誰にでもあり得るのだ。その時々の精神の状態により、見る夢が違ったものになるだけだろう。
現状に不満はなかった。まったくないと胸を張ってまでは言えないが、少なくとも幸福ではある。幸福ではあるが故に、失うことを病的なまでに恐れているのかもしれない。理不尽に奪われることを極端なまでに恐れているのかもしれない。それら恐れの感情が、見たくもない状況を、この現実の中で夢として見せているのかもしれない。それが、大切なモノだからこそ。
少年は視線を友人に向けた。
おれは昨日、どうやって家に帰ったのか、お前は知っているか、そう尋ねた。これは先程迷いがあってできなかった質問であり、最近の少年が気にかけているコトの核心だった。どのような返事が返ってくるか、それが判断の一助になればと思っていた。
友人の口が開き、おかしなものを見るような目で、当然のような答が返ってきた。
お前さんの足でだよ。友人は冗談めかしてそう言った。そう言って、中座してトイレに行くために教室から出て行った。その姿を少年は見ていなかった。
おれの足で、なにかの比喩か、それとも単なる軽口なのだろうか。少年は首をひねった。
どちらにしても、その記憶がないのは動かし難い事実だった。やはり、今の自分に見えている光景が夢なのかもしれない。
少年は天井を見上げた。教室の天井も無機質で白い。まるで、夢で見た病室のようだった。
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