16 / 45
第二章 学校 ─ガッコウ─ 3
第1話
しおりを挟む
少年はこの春、この高校へ入学した。一年二組、出席番号は、何番だっただろう、覚えていないことに気がついた。まあ、そんなことは大した問題ではない。少年は自分の教室へ向かった。
おはようと朝の挨拶をして少年は、窓際の自分の席に腰を下ろして窓の外を眺めた。
青い空がどこまでも広がっていた。白い雲は風に吹かれてゆるやかに流れている。鳥が視界を横切り、少年の目はなにげなくその鳥を追っていた。
少年は、せわしない朝の教室の雰囲気が嫌いではなかった。生徒たちはいくつかのまとまりに分かれて、新しく見つけたSNSについて話していたり、昨日見たドラマの感想を語り合ったり、人気動画配信者の動画投稿サイトを開いたり、ネットでバズっているモノを互いに教え合ったりして、情報交換に余念がない。
入学から三ヶ月ほど経ち小規模なグループが幾つかできているが、喜ばしいことに一人で浮いている生徒はいなかった。少年自身はというと、同じ中学校から本校への進学者はいなかったので、誰一人として顔馴染みはいなかったのだが、何人かと話すきっかけがあって、その縁は今も続いており、友人という定義がなにげない会話を交わす間柄だとすると五人ほどいた。この数が多いか少ないかはわからなかったが、いないよりかは良いだろうと思う。同級生の中にはまだ話したことがない生徒もいて、顔と名前が一致しない生徒や、そもそも名前すら覚えていない生徒もいるが、なにも焦る必要もないと思う。なにがきっかけになるかなど、わからないのだから。
少年は、目線を下げて校庭に目を向けた。一周四〇〇メートルのトラックがあり、その内側はサッカーのピッチになっている。グラウンドに人の姿はまばらだった。もうすぐ予鈴がなる頃なので、朝練も少し前には終わっていたのだろう。その中の一人、重たそうなバッグを肩に掛けた生徒を少年は目で追っていたが、知り合いというわけではなかった。本当に、なにげなく目に止まっただけだった。
少年の目がその生徒から離れて学校の境界まで向けられた。そこは野球部のグラウンドになっていて、二〇〇メートル離れた別の境界辺りにテニス・コートが三面あった。その横には各クラブの部室棟があり、並んで体育館が建っていた。室内競技のバスケットや卓球、バレーの各部はここで練習をする。それとは別に、柔道、剣道、各部が使用する畳敷きの別棟があった。水泳部が使用するプールは校舎に近接してあった。
その時、挨拶をする声が聞こえてきたので少年は、目を教室内に向けて声の主を探そうとしたが、探すまでもなかった。前の席の同級生だった。少年はいつものようにおはようと応えた。彼は五人の友人の中の一人だった。
おはようと朝の挨拶をして少年は、窓際の自分の席に腰を下ろして窓の外を眺めた。
青い空がどこまでも広がっていた。白い雲は風に吹かれてゆるやかに流れている。鳥が視界を横切り、少年の目はなにげなくその鳥を追っていた。
少年は、せわしない朝の教室の雰囲気が嫌いではなかった。生徒たちはいくつかのまとまりに分かれて、新しく見つけたSNSについて話していたり、昨日見たドラマの感想を語り合ったり、人気動画配信者の動画投稿サイトを開いたり、ネットでバズっているモノを互いに教え合ったりして、情報交換に余念がない。
入学から三ヶ月ほど経ち小規模なグループが幾つかできているが、喜ばしいことに一人で浮いている生徒はいなかった。少年自身はというと、同じ中学校から本校への進学者はいなかったので、誰一人として顔馴染みはいなかったのだが、何人かと話すきっかけがあって、その縁は今も続いており、友人という定義がなにげない会話を交わす間柄だとすると五人ほどいた。この数が多いか少ないかはわからなかったが、いないよりかは良いだろうと思う。同級生の中にはまだ話したことがない生徒もいて、顔と名前が一致しない生徒や、そもそも名前すら覚えていない生徒もいるが、なにも焦る必要もないと思う。なにがきっかけになるかなど、わからないのだから。
少年は、目線を下げて校庭に目を向けた。一周四〇〇メートルのトラックがあり、その内側はサッカーのピッチになっている。グラウンドに人の姿はまばらだった。もうすぐ予鈴がなる頃なので、朝練も少し前には終わっていたのだろう。その中の一人、重たそうなバッグを肩に掛けた生徒を少年は目で追っていたが、知り合いというわけではなかった。本当に、なにげなく目に止まっただけだった。
少年の目がその生徒から離れて学校の境界まで向けられた。そこは野球部のグラウンドになっていて、二〇〇メートル離れた別の境界辺りにテニス・コートが三面あった。その横には各クラブの部室棟があり、並んで体育館が建っていた。室内競技のバスケットや卓球、バレーの各部はここで練習をする。それとは別に、柔道、剣道、各部が使用する畳敷きの別棟があった。水泳部が使用するプールは校舎に近接してあった。
その時、挨拶をする声が聞こえてきたので少年は、目を教室内に向けて声の主を探そうとしたが、探すまでもなかった。前の席の同級生だった。少年はいつものようにおはようと応えた。彼は五人の友人の中の一人だった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
月影館の呪い
葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽(しんどう はね)は、名門の一軒家に住み、学業成績は常にトップ。推理小説を愛し、暇さえあれば本を読みふける彼の日常は、ある日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)からの一通の招待状によって一変する。彩由美の親戚が管理する「月影館」で、家族にまつわる不気味な事件が起きたというのだ。
彼女の無邪気な笑顔に背中を押され、葉羽は月影館へと足を運ぶ。しかし、館に到着すると、彼を待ち受けていたのは、過去の悲劇と不気味な現象、そして不可解な暗号の数々だった。兄弟が失踪した事件、村に伝わる「月影の呪い」、さらには日記に隠された暗号が、葉羽と彩由美を恐怖の渦へと引きずり込む。
果たして、葉羽はこの謎を解き明かし、彩由美を守ることができるのか? 二人の絆と、月影館の真実が交錯する中、彼らは恐ろしい結末に直面する。
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
双極の鏡
葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。
事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。
おさかなの髪飾り
北川 悠
ミステリー
ある夫婦が殺された。妻は刺殺、夫の死因は不明
物語は10年前、ある殺人事件の目撃から始まる
なぜその夫婦は殺されなければならなかったのか?
夫婦には合計4億の生命保険が掛けられていた
保険金殺人なのか? それとも怨恨か?
果たしてその真実とは……
県警本部の巡査部長と新人キャリアが事件を解明していく物語です
無限の迷路
葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。
グレイマンションの謎
葉羽
ミステリー
東京の郊外にひっそりと佇む古びた洋館「グレイマンション」。その家には、何代にもわたる名家の歴史と共に、数々の怪奇現象が語り継がれてきた。主人公の神藤葉羽(しんどう はね)は、推理小説を愛する高校生。彼は、ある夏の日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)と共に、その洋館を訪れることになる。
二人は、グレイマンションにまつわる伝説や噂を確かめるために、館内を探索する。しかし、次第に彼らは奇妙な現象や不気味な出来事に巻き込まれていく。失踪した家族の影がちらつく中、葉羽は自らの推理力を駆使して真相に迫る。果たして、彼らはこの洋館の秘密を解き明かすことができるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる