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After.花図鑑
Aft1.黒百合
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誰かが言った。
よくもあの女に「百合」なんて名を付けたものだと。
あれはしとやかな花に全く似つかわしくない、怖ろしい女だと。
リリーが耳を澄ますと、「混ざり血」「罪人の子」「身の程知らず」「冷血」といった悪口が聞こえてくる。よく聞き慣れたそれらの言葉に、リリーは唇を片方だけ曲げる特徴的な笑みを浮かべた。
「喧しいな」
リリーは声のする方向へ真っ直ぐに魔力の刃を飛ばした。彼女の黒い魔力を纏った刃は、凄まじい速さで対象の服を切り裂いていく。辺りに甲高い女の悲鳴が響き渡った。
リリーはゆっくりとした足取りで声の元に近づき、顎を突き出しながら高慢に言い放った。
「用があるなら聞こうか? 馬鹿女ども」
嘲りが多分に含まれた低い声に、陰口を叩いていたエルフ達は顔を強張らせ、散り散りになって逃げ出した。リリーは切り裂かれた服の断片を拾い上げ、ぐしゃぐしゃに丸めて屑入れに放り込んだ。
「相変わらず下らん連中だ。私を前にして堂々と文句を言う勇気もない」
リリーは溜息を吐き、己の長く艶やかな黒髪をかき上げた。
「陰口を叩いてる暇があるなら、私よりも多くの犯罪人を捕縛すればいいものを……」
中央政府刑事部所属、リリー=リローラン。
ダークエルフとハーフドワーフの合いの子。
彼女は魔法に対する深い造詣と冷静沈着な性格を持ち、数々の重要任務を成功させてきた役人だった。
捕縛した犯罪人は数知れず。リリーの熱心な働きによって、中央政府が管轄する刑務所の牢の空きは少しずつ無くなっていった。
同僚からの陰口と牢から聞こえてくる怒号を聞き流し、リリーは今日も刑務所内をゆっくりとした足取りで巡った。看守たちと連絡を取り合いながら、犯罪人が怪しい動きをしていないか欠かさず見張る。
ふと、リリーは牢のひとつに目をつけた。
(……あの男、怪しいな)
薄汚れた牢の中にはひとりのエルフが入れられている。俯き、静かに座ったままの男に特別怪しい点は見られない。
だがリリーは、確信を持ってその牢に近づいた。
「気分はどうだ? 六十二番」
エルフの男はゆっくりと顔を上げ、そしてリリーを憎悪の込もった目で見つめた。
「最悪以外の何物でもないわ! 無能な役人のせいでこの私が謂れのない罪に問われている! 即刻この薄汚い牢から出せ! さもなくば貴様の命はないぞ!」
男は勢い良く鉄格子を掴み、唾を飛ばしながらリリーに怒鳴った。男の血走った目をにやにやと見つめながら、リリーは嘲りの声を出した。
「私の命がないだと? はん、何も出来ないくせに随分と威勢のいいことを言う。なあ、お貴族様。こっちはお前が殺しに手を染めた証拠をしっかりと握っているんだよ……。牢の中にいる時間を増やしたくなければ、それ以上囀らないほうがいいぞ」
リリーの言葉に男はぎりぎりと鉄格子を握りしめ、廊下中に響き渡るほどの大声を出した。
「混ざり血風情がよくも……! 醜いドワーフの血を引いた出来損ないのくせに、貴族の私に歯向かうか! リリー=リローラン、貴様の父親は罪人だろう! 貴様こそ一族共々牢の中に入れられて然るべきだ! この汚いエルフもどきが! 私は高貴なるパルナパなのだぞ! 早くここから出せ! 命令だ!」
男の言葉に、リリーは青い目をすっと細めた。
「はあ、喧しいな……。全く、お前ら純血のエルフはどうして揃いも揃って同じようなことばかり言うんだ?」
リリーは己の青い目に冷徹さを宿した。
「貴族だろうが何だろうが、罪を犯したら罰を受けるべきだろうが。愚鈍なお坊ちゃま、お前はそう教育過程で教わらなかったか?」
「……き、貴様ァ!! その生意気な口、二度と利けなくしてやる!」
男が吼えると同時にぶわりと魔力の風が渦巻く。
魔力が込められた風はリリーを傷つけようとしたが、リリーはにやりと笑い、難なく風を払い除けた。
「あーあ……。本当、馬鹿ってのは挑発に乗りやすくて助かるよ。おいお前、魔封じの首輪はどうした?」
リリーが男の首に嵌められた枷を指差すと、男はしまったという様に顔を青褪めさせた。
「その首輪、怪しいと思ったんだ。魔法を使えるように看守のひとりと取引をしたな? ……ははっ、本物とそっくりだ。随分と巧妙に作られている。私でなければ見抜けなかっただろうな」
面白そうに笑いながら、リリーは牢の扉を勢い良く開けた。そして男の胸倉を掴み、氷のような目で薄汚れたエルフを見据えた。リリーから漏れ出る黒い魔力が手を形作り、男の首をぎりぎりと締め上げる。男は苦痛に呻きながら、恐怖が混じる視線を彼女に向けた。
「よく覚えておけ、貴族の豚。このリリーがいる限り、第一刑務所の中で如何なる小細工も通用しない。お前は刑期を全うするまでずっとこの薄汚い牢の中にいるんだ。皮剥ぎ拷問官のいる第二刑務所へブチ込まれたくなければ大人しくしていろ!」
「っ……!」
怯えの表情を浮かべる男をひと睨みした後、リリーは乱暴に彼を突き飛ばした。
「なっ、なぜ? なぜ分かった……? 偽装は完璧だったはずっ……なのに、なぜ……」
男は首に手を当てながらリリーに問いかけた。
「なぜだって? さあてな、ただの勘だよ」
リリーは看守のひとりに連絡を取り、騒ぐ男を尋問部屋に連れて行くよう指示をした。
(ははっ……。相変わらず、私の勘はよく当たるな)
どこからか漂う濃い鉄の臭い、怒号、悲鳴、陰口。
リリーは慣れ親しんだそれらに口角を上げた。
そしてまた、罪人の様子を確認するために刑務所の廊下をゆっくりと歩き始めるのだった。
――――――――――
リリー=リローラン。
ダークエルフの父とハーフドワーフの母の間に生まれた彼女は、王都から遠く離れた田舎村にて伸び伸びと育った。リリーの父――ゼルドリックは、彼女を大層可愛がった。お前の優しげな目元は愛おしい妻によく似ているのだと、リリーを抱えあげては嬉しそうに小さな頭を撫で回した。
五人の子の一人目として生を受けたリリーは、混ざり血でありながらも優れた魔術の才を見せた。ゼルドリックはリリーが見せた魔術の才を称賛し、首に魔封じの枷を付けられながらも、リリーに基礎的な魔力操作の心得と、魔術に対する知識を積極的に分け与えた。
娯楽の少ない田舎村だったが、幸いにしてリリーの生まれ育った家には大きな図書室があった。彼女は日々読書に没頭し、分からないことはすぐさまゼルドリックに質問した。そうして、リリーの頭の中には深い知識の根が張り巡らされていった。
八を迎える頃、リリーはかねてより疑問に思っていたことを父に尋ねた。
――ねえ、父さんの首のそれはなに?
ゼルドリックはリリーの問いに顔を強張らせ、そして何かを堪えるように眉を下げた。リリーの艷やかな黒髪を梳きながら、ゼルドリックはぽつぽつと話し始めた。
――罪人の徴だ。リリー。父さんは過去に罪を犯したんだ。重い罪だ、そのせいでお前に迷惑をかけてしまうかもしれない。
そしてリリーは、父の口から彼の犯した罪と、混ざり血に対する差別の話を聞いた。
混血であり、罪人の子であるお前は純血のエルフたちから悪意を向けられるだろうと。
ゼルドリックは優しげな娘の顔立ちを見つめ、くしゃりと顔を歪ませた。
父の悲しそうな顔と、彼の背を摩る母の姿。それは幼いリリーの頭に焼き付けられた。
リリーは両親のことが大好きだった。
力強く頭の回転が速い父のことも、優しく穏やかな母のことも心から愛していた。
彼らの悲しむ顔を見たくない。弟や妹にも辛い思いをさせたくない。
聡明なリリーは、そのために自分が出来ることが何なのかずっと考え続けていた。
――ねえ、父さん。私が強くなって周囲から尊敬を集められるようになったら、誰も私たちのことを馬鹿にしないかな? 父さんも母さんも悲しい顔をしなくて済むの?
娘の問いに、ゼルドリックは困ったように微笑んだ。
だがその翌日から、ゼルドリックはリリーに稽古をつけるようになった。
――リリー。父さんは三百年の間、一切の魔法を使うことができない。幼いお前にこんなことを頼むのは本当に情けないが、いざという時に家族を守るための力を、戦うための力を身に着けてほしい。
リリーは父の言葉に力強く頷きを返した。
五人の子の中で一番魔術の才能があるのは、家族を守れる力があるのはこのリリーだという自負があった。
それから彼女は、魔法を使えぬ父に代わって家族を守り抜くという決心のもと、厳しい稽古に必死に耐え続けた。ゼルドリックの稽古は容赦がなかったが、リリーは父からの稽古の中で確かな実力を身に着けていった。
そして十八の歳、自ら進んで中央政府の役人となることを選んだ。
――立派な役人となって父さんの汚名を濯ぎたい。家族の名誉はこのリリーが守ってみせる。
両親、特にゼルドリックは娘の選んだ道に強く反対したが、リリーは自分の選択を決して変えることはしなかった。自分が確固たる地位と名声を手にすれば、己も己の家族も傷付けられないだろうとリリーは考えた。
置き手紙を残し、リリーはひとり中央政府本部のある王都へと旅立った。
艶やかで美しいひとりの女性として育ったリリーは、この国のエルフが通常名乗ることのない姓――リローランを誇り高く名乗り、中央政府へと入庁した。
父の言葉通り、リリーは周囲のエルフたちから大層な差別を受けた。だがリリーはゼルドリックとの稽古で身に付けた力を振るい、向けられた差別を全て弾き返してきた。
「混ざり血」だから何なのだと。
自分はそこらの純血共よりも余程魔術の才があるのだと。
「混ざり血に負けた気分はどうだ? 木偶どもが」
嫌がらせをしようと襲いかかってきたエルフたちを叩きのめし、リリーは唇を歪めながらそう言い放った。
彼女の苛烈な性格と容赦のない復讐に、手を出すエルフたちは段々と少なくなっていった。
刑事部第一課の黒百合。
リリーはやがて、周囲からそう称されるようになった。
(ふふ、父さんは黒い鷹って言われてたそうじゃないか? お揃いみたいで嬉しいよ)
――リリー。父さんのせいで済まない……。
リリーの頭には、いつも泣きそうな顔で謝るかつての父の姿があった。
(あんな顔をもうさせたくない。このリリーが父を、母を、弟と妹を守るのだ)
リリーは唇を片方だけ上げる特徴的な笑みを浮かべながら、自分とその家族に悪意を向ける者たちを、しつこくしつこく苛み続けるのだった。
そうして、長い月日が経った。
一日の終わり。
リリーは鏡に映る自分をじっと見つめた後、長く伸びた黒髪を丁寧に後ろに撫で付けながら、己の盛り上がった眉間を解すように揉んだ。
(顔をしかめすぎてすっかり眉間が盛り上がってしまった! ああ嫌だ……。私も父さんの顔つきに似てきたな)
鏡に映る女の顔は険しい。
まるで猛禽類のような、優しさの欠片もない己の顔つきを見てリリーは大きく息を吐いた。
「……全く可愛げがない。目は鋭くて、鼻はやたらに高い。私も、もう少し母さんに似れば良かったか」
長身、尖った耳、真っ直ぐな黒髪、滑らかな黒い肌、そして青い目。
それらは父、ゼルドリックから受け継いだもので、リリーは彼の険しい顔立ちを思い浮かべながら、盛り上がった眉間を何とか元に戻そうと試みた。
(私の姿は父さんに似ている。でも、柔らかな目元は母さん似だってよく褒めてくれた)
リリーは天に旅立ったハーフドワーフの母を思い出し、懐かしさに微笑んだ。
(少しでも私の顔に残しておきたいんだ、母さんの面影を。顔を見せる度に父さんが喜んでくれるから……)
ゼルドリックは愛おしい妻を喪った日、大きく肩を震わせ泣き続けた。年老いてすっかり小さくなった母の身体に縋り付き、悲痛な泣き声を上げる父の姿をリリーは今でも覚えている。
(あれから父さんはすっかり元気がなくなった。……心配だ。自ら命を絶つような真似をしなければいいが)
リリーは窓から夜空を見上げ、そこにいるであろう母に語りかけた。
「ねえ、母さん。早く戻ってきてよ。父さんが寂しがってるよ」
ハーフドワーフの母、リアが亡くなった日。
泣きじゃくる妹や弟たちを慰めながら、リリーは涙を流すことなく母の埋葬を見届けた。リリーは母を深く愛していたが、彼女の死は悲しいものではなかった。長い長い生を送る上で訪れる、束の間の別れだと考えていた。
エルフの血を引く者として、言葉では言い表し難い勘の良さ――『第六感』というべきものを天から授けられたリリーは、漠然と、母が父のもとに戻ってくることを理解していた。
それをゼルドリックに伝えたが、彼は娘の言う言葉を優しい慰めだと思い込み、己の心を孤独の海に沈めた。
(いつかまた会える気がする。でも……それがいつになるかは分からない。五百年後か、あるいは千年後かもしれない。だから私も寂しくて仕方がない時がある)
リリーは夜空を眺めながら、静かな声で呟いた。
「父さんね、私が顔を出す度に痩せていってるんだ。母さんが傍にいないのが辛くて、食欲が湧かないんだって……。ねえ、私も早く母さんに会いたいよ。私はしっかり者で気が強いけど、それでも誰かに甘えたくなる時はあるんだ。母さんに、また頭を撫でてもらいたいな……」
夏の夜空には、一滴の血のような赤い赤いアンタレスが輝いている。
母の瞳もあのように赤く美しく輝いていたと、リリーは目を潤ませた。
――――――――――
リリーはその日、感じたこともないくらいの強い胸騒ぎがした。
(今日は絶対に何かが起きる気がする……)
何が起きるか分からない不安に、リリーはより一層気を張って仕事をした。だが特に変わったことは起きず、疲れた身体を引きずりながら寮へと向かった。夜空に瞬く赤星を眺めながら、リリーはぼんやりと考えた。
(気のせいだったか? いや……だがこの感じは……)
胸騒ぎを覚えたまま自室の前に立つ。
(ん? 私の部屋の中……誰かの気配がする)
己の心臓が強く跳ねる。
そっと扉を開けたリリーは、寝台に腰掛けている女のエルフを見て大きな悲鳴を上げそうになった。
「久しぶりね、リリー」
「かっ、母さん……!?」
普段冷静なリリーも、暫し衝撃に呆けた。
高く柔らかな声、パルシファーの綿毛の如き真っ赤な髪。
己の母、リアに良く似たエルフが自分に笑いかけている。
記憶の中にある母よりもずっと若い姿で、目の前のエルフはくすくすと笑い声を上げた。
「驚かせてごめんなさいね、会いに来ちゃった」
エルフは己の赤い目を潤ませ、長身のリリーをじっと見つめた。その視線には懐かしさと優しさが込められている。
「ああ、私の可愛いリリー。こうして話をするのは何年ぶりかしら? リリー、あなたは本当に立派になったわね……」
記憶の中の母によく似た姿。だがリリーは女の姿形よりも、己が天から与えられた不思議な力を以て、目の前のエルフこそが己の母なのだと確信した。
「母さんっ……。母さん!」
リリーは寝台に駆け寄り、背丈の小さな女をぎゅっと抱きしめた。自分に縋り付く娘の頭を、リアは何度も何度も撫でた。
「戻ってきてくれたのね! 会いたかったわ!」
「ええ、可愛いリリー。私もあなたにずっと会いたかったわよ……」
母のふわふわとした赤い髪から突き出た長い耳を見て、リリーは潤む目を瞬かせた。
「……まさか、母さんがエルフになって戻ってくるなんて」
赤い髪、優しげな目元、そばかすのある優しい顔立ち。全てが記憶の中の母に重なるのに、尖った長い耳だけが異なっている。リリーが不思議そうに母の耳を見つめると、リアは微笑みながら己の長い耳をひくりと動かした。
それからリリーは、母の高く柔らかな声に耳を傾けながら夜を過ごした。
寝転び、母に頭を撫でられながら話を聞く。母に存分に甘えた幼少期の思い出が蘇ってきて、リリーは微笑みながらもひとつ感動の涙を流した。
リアは静かな声で今までのことを語った。
北部の地で「オフィーリア」という名を授けられたこと。
一人のエルフとして教育課程を通過し、王都で中央政府の役人となったこと。
家族や友人のことを思い出し、彼らを守るために強くなろうと決めたこと。
今はオリヴァーの部下となって行政部で働き、ミーミスやメルローから指導を受けていること。
そこまで聞いた後、リリーは眉を跳ね上げた。
「ちょっと、母さんが戻ってきたことを何人かはとっくに知ってたってこと? ……オリヴァーのおじさんもメルローさんも酷いわ。母さんが戻ってきたことを知っているなら、父さんや私に教えてくれても良かったのに。どれだけ父さんが泣いて過ごしていたか!」
リリーがむすっとした様子でそう言うと、リアは眉を下げた。
「私が頼んだのよ、私が戻ってきたことは家族に秘密にしてくださいって。本当は記憶を取り戻してからすぐに挨拶したかったけど、あなたのお父さんは私が戻ってきたことを知ったら、絶対に放してくれないでしょう?」
「……まあ、そうね。私だって母さんを危険な目に遭わせたくないわ」
「そう思うのは私も一緒よ! 私は家族を守る力を身に着けたかったの。あなたたちを見守りつつ、私があなたのお父さんと出逢った歳まで必死に修行して、誰よりも強くなろうと誓ったのよ……」
リアは娘の艶やかな黒髪を撫でた。
「リリー。可愛いリリー……。あなたには苦労をさせてしまったわね。あなたが私たちを守ろうとしてくれたように、今度は私があなたたちを守るわ」
リアはまたしっかりとリリーを抱きしめた。リリーは母の腕の中で、自分の心が安心感に和らいでいくのを感じた。
(嬉しい。私の勘が当たってこれほど嬉しいことはなかった。まさか母さんがエルフとなって戻ってきてくれるだなんて……! ……だが……)
リリーは寝転がりながら、ぼんやりと母の顔を見つめた。
パルシファーの綿毛のような真っ赤な髪から、ルビーのような赤い目、低い鼻にそばかすまで、全てが「リア=リローラン」と全く一緒だった。柔らかな声で紡がれる思い出も、話し方も、全てがかつての母が持つものと同じだった。
(…………)
リリーは心に疑念が湧き上がるのを感じた。
(姿かたち、そして記憶まで……それらを丸ごと引き継いで生まれ変わるなど、そんなことがあり得るのだろうか……? 奇跡、あるいは偶然と言ってしまうにはあまりに、都合が良すぎないだろうか……)
(命は廻ると聞く。生まれ変わりの話は私も聞いたことがある。だが記憶、姿、人格……。全てが以前と同じままということは有り得ないはずだ、そんな生まれ変わりの話は聞いたことがない。何かを失い、何かを得て、そうして新たな生を歩んでいくものではないか……?)
微笑みを浮かべる女神像の前で夜な夜な祈りを捧げていた父の後ろ姿。
リリーは唐突に、それを思い出した。
(女神が……。祈りに応えた?)
「……母さん」
赤くふわふわとした母の髪に指を絡めながら、リリーは静かな声で問いかけた。
「母さんが戻ってきてくれたのは、女神様が母さんに祝福をくれたから?」
「……ふふっ」
リアは笑った。穏やかな母の笑み。
細められた赤い目に、リリーは一瞬、陰のようなものを見た。
「そうね。……オーレリア様が私に祝福をくださったのだわ」
リアはそれだけ言って、また娘の黒髪を撫でた。
「リリー。私ね、あなたのお父さんを驚かせたいのよ。あんぐりと口を開けるところを一度くらい目にしたいものだわ。だから私が戻ってきたことは、もう少しだけ秘密にしておいてちょうだいね」
悪戯そうにリアは笑った。その赤い目に、先程の陰はもう見られない。
自分の気のせいだったかと、リリーは微笑みを返して頷いた。
次の橙陽の月に、自分はとうとう百二十七になる。だからやっとゼルドリックに会いに行けるのだと、リアは嬉しそうにリリーの前で話した。
暖かな夏日。
自分、そしてウィロー、イリス、ヴィオラ、セージ。
五人の子供に挨拶を済ませた母は、晴れやかな顔で父の元に向かっていった。
(父さん、喜ぶだろうな……)
エルフに生まれ変わった母を見て父がどんな反応をするのか、リリーも楽しみだった。
――――――――――
次にリアと顔を合わせた際、彼女は首に黒いチョーカーを着けていた。
リリーは母の首にあるそれを見て微笑んだ。
「懐かしいね、それ」
薔薇のレース模様に、きらきらとした青い貴石が付いたチョーカー。黒と青、ゼルドリックを思わせる色彩。
リアは首のチョーカーに手を這わせ、嬉しそうに笑った。
ゼルドリックは同族に生まれ変わった自分を見ても、あんぐりと口を開けて驚くことはしなかったが、涙を溢れさせながらこの身体を強く強く抱きしめてくれたのだと。リアはそうリリーの前で話した。
リリーは母の言葉に耳を傾け続けた。
孤独から解放された父を思いながら、目を潤ませ母の話に相槌を打った。
鍛冶修行に出ているウィロー、外国を巡っているイリスやセージ、植物園で研究をしているヴィオラ。
また全員を呼び集め、あの屋敷で食事をしようとリアは言った。
「皆に会うのが楽しみだわ。みんなの好物だったベリーのコブラーもたくさん用意しておかなくちゃ」
「本当!? 嬉しい! 母さんのコブラーがまた食べられるなんて夢みたい! 集まるのが楽しみだわ!」
リリーは青い目を期待に輝かせ、家族全員で再び集まる日を心待ちにしながら日々を過ごした。
リアが現れてからというもの、リリーは毎日心穏やかに過ごした。
(大好きな母さんが戻ってきてくれた……!)
自分以外に家族を守ってくれるひとがいる。
私を守ってくれるひとがいる。
頭を撫でてくれるひとがいる。
それは常に気を張り続けていたリリーにとって、とても嬉しいことだった。
――――――――――
母、リアが自分の前に姿を現してから数日後のこと。
リリーは安らかな気持ちを忘れ、また顔をしかめながら日々仕事に取り組んでいた。
(嫌な胸騒ぎが止まらない。この事件は絶対に何かがある)
リリーは椅子に腰掛け、机の上にうず高く積み上げられた書類の山と格闘していた。
(怖ろしい事件だ。中央政府を揺るがす大事件だ……)
中央政府上層部「円卓」が壊滅した。
構成する五十五人が互いの身体を刃物で刺し合い、一人残らず血の海に沈んだ。
悍ましい報告を受けたリリーは、すぐさま中央政府本部の地下へと向かった。
足を踏み入れたことのないそこには、刑事部からの他、魔法部、諜報部、行政部、祓魔部から研究部まで、あらゆる部署から役人が派遣され、念入りに調査を進めていた。
優れた力を持つエルフたちが数十人がかりで調査をしているにもかかわらず、何の手がかりも掴めない。
攻撃魔法や幻惑魔法を施された形跡も見られないと、役人のひとりが不思議そうに溢した。
リリーもまた魔力の在り処を探ろうと試みたが、その役人の言う通り、辺りには魔力の残滓が一切存在しなかった。
(魔法が使われた訳ではない? だが、魔法でも使わなければとても……)
この不可解な事件は説明できない。
リリーは血の海を前にして、唇を噛み締めた。
刑事部で長年働いてきたリリーは、「円卓」が中央政府の癌だということはよく知っていた。
汚職、賄賂、暗殺。あらゆる犯罪行為が平然と行われているにもかかわらず、大きな権力から円卓内部の者が罪に問われることはない。
奴らが消えてくれて良かった。
そうエルフのひとりが口にした。
リリーはその言葉に心の内で同意しながらも、頷きを示すことはなかった。
(……この騒動を引き起こした犯人を、調べなければ)
円卓がどれほど罪に塗れていた組織で、そしてその構成員たちが消えたとしても、この不可解な事件を放っておくことなどできなかった。全容を明らかにしなければいけない気がした。
嫌な予感がする。
リリーは胸騒ぎを感じる中、ひとり犯人捜しを始めた。
――――――――――
「…………」
行政部第二課の責任者、オリヴァーのために用意された執務室。
遮蔽魔術で姿を隠したリリーは、豪奢な扉の向こうから聞こえた話の内容に眉を寄せた。
(犯人は、母さんだったのね……)
――彼らは私の夫をしつこくしつこく狙い続けていたので。諦めてもらおうと思って、つい。
母の声。
柔らかくも、確かな狂気を秘めた声。
その狂気はオリヴァーにも伝わったらしい。
彼は震えを抑えた声で、貴様を罪に問うことはできないと静かに言った。
(嫌な予感がしたんだ。私の勘が当たらなければいいってそう思った。あの血の海を見た時から、私は犯人が母さんだって漠然と解っていたんだ……)
リアの笑い声と、オリヴァーの静かな声。
それ以上ふたりの話を聞いていられず、リリーは額を抑えそっと執務室の扉の前から離れた。
そして自室へと素早く転移し、勢い良く寝台に腰掛けた。
「……母さん」
リリーは跳ねる胸を落ち着かせるように、何度も何度も深呼吸をした。
どこまでも優しかった。
真面目で、穏やかで、いつも微笑んでいた。
リア=リローランという女性は、そういうひとだった。
――彼らは私の夫をしつこくしつこく狙い続けていたので。諦めてもらおうと思って、つい。
――オリヴァー様、私はとても幸せです。愛とは素晴らしいものですよ。
窈溟。狂気が滲む声。
愛する夫のためならば円卓さえ滅ぼす。
オフィーリア=オルフィアンというエルフは怖ろしい女だった。
リリーは母の赤い瞳に一瞬宿った陰を思い出した。
(そうだ。そのままというのは……あり得ない)
何かを失い、何かを得て、そうして新たな生を歩んでいく。
「母さん……。あなたは確かに……変わってしまったのね」
リア=リローランは、オフィーリア=オルフィアンとなってから狂気を表に出すようになった。
己が身に宿す苛烈さを更に上回る、地獄の炎のような怖ろしい激情を内に飼うようになった。
(それでも……。それでも、私の愛おしい母さんには変わりない)
(……そう。「糸」自体に他者を害する魔法が仕掛けられていないのなら、母さんは無罪だ。だから……)
胸から数枚の書類を取り出す。ひとり、不可解な事件を追い続けた記録。
リリーは逡巡した後、その書類をすべて燃やした。
(あの会話は、自分の胸に仕舞っておこう)
リリーはそう決め寝台に寝転がった。
窓から強烈な夕日が射し込んでいる。リリーは眩しさに目を眇めながら、ぼんやりと考えた。
(父さんが母さんを深く愛していたように、母さんもまた……父さんを深く愛していた。女神の手によって、母さんが抱える愛は怖ろしいものに変わってしまったのかもしれない)
リリーは目を瞑った。
「……家族全員で集まる日が楽しみね」
自分に言い聞かせるようにひとりごち、リリーは父と母のことを考え続けた。
よくもあの女に「百合」なんて名を付けたものだと。
あれはしとやかな花に全く似つかわしくない、怖ろしい女だと。
リリーが耳を澄ますと、「混ざり血」「罪人の子」「身の程知らず」「冷血」といった悪口が聞こえてくる。よく聞き慣れたそれらの言葉に、リリーは唇を片方だけ曲げる特徴的な笑みを浮かべた。
「喧しいな」
リリーは声のする方向へ真っ直ぐに魔力の刃を飛ばした。彼女の黒い魔力を纏った刃は、凄まじい速さで対象の服を切り裂いていく。辺りに甲高い女の悲鳴が響き渡った。
リリーはゆっくりとした足取りで声の元に近づき、顎を突き出しながら高慢に言い放った。
「用があるなら聞こうか? 馬鹿女ども」
嘲りが多分に含まれた低い声に、陰口を叩いていたエルフ達は顔を強張らせ、散り散りになって逃げ出した。リリーは切り裂かれた服の断片を拾い上げ、ぐしゃぐしゃに丸めて屑入れに放り込んだ。
「相変わらず下らん連中だ。私を前にして堂々と文句を言う勇気もない」
リリーは溜息を吐き、己の長く艶やかな黒髪をかき上げた。
「陰口を叩いてる暇があるなら、私よりも多くの犯罪人を捕縛すればいいものを……」
中央政府刑事部所属、リリー=リローラン。
ダークエルフとハーフドワーフの合いの子。
彼女は魔法に対する深い造詣と冷静沈着な性格を持ち、数々の重要任務を成功させてきた役人だった。
捕縛した犯罪人は数知れず。リリーの熱心な働きによって、中央政府が管轄する刑務所の牢の空きは少しずつ無くなっていった。
同僚からの陰口と牢から聞こえてくる怒号を聞き流し、リリーは今日も刑務所内をゆっくりとした足取りで巡った。看守たちと連絡を取り合いながら、犯罪人が怪しい動きをしていないか欠かさず見張る。
ふと、リリーは牢のひとつに目をつけた。
(……あの男、怪しいな)
薄汚れた牢の中にはひとりのエルフが入れられている。俯き、静かに座ったままの男に特別怪しい点は見られない。
だがリリーは、確信を持ってその牢に近づいた。
「気分はどうだ? 六十二番」
エルフの男はゆっくりと顔を上げ、そしてリリーを憎悪の込もった目で見つめた。
「最悪以外の何物でもないわ! 無能な役人のせいでこの私が謂れのない罪に問われている! 即刻この薄汚い牢から出せ! さもなくば貴様の命はないぞ!」
男は勢い良く鉄格子を掴み、唾を飛ばしながらリリーに怒鳴った。男の血走った目をにやにやと見つめながら、リリーは嘲りの声を出した。
「私の命がないだと? はん、何も出来ないくせに随分と威勢のいいことを言う。なあ、お貴族様。こっちはお前が殺しに手を染めた証拠をしっかりと握っているんだよ……。牢の中にいる時間を増やしたくなければ、それ以上囀らないほうがいいぞ」
リリーの言葉に男はぎりぎりと鉄格子を握りしめ、廊下中に響き渡るほどの大声を出した。
「混ざり血風情がよくも……! 醜いドワーフの血を引いた出来損ないのくせに、貴族の私に歯向かうか! リリー=リローラン、貴様の父親は罪人だろう! 貴様こそ一族共々牢の中に入れられて然るべきだ! この汚いエルフもどきが! 私は高貴なるパルナパなのだぞ! 早くここから出せ! 命令だ!」
男の言葉に、リリーは青い目をすっと細めた。
「はあ、喧しいな……。全く、お前ら純血のエルフはどうして揃いも揃って同じようなことばかり言うんだ?」
リリーは己の青い目に冷徹さを宿した。
「貴族だろうが何だろうが、罪を犯したら罰を受けるべきだろうが。愚鈍なお坊ちゃま、お前はそう教育過程で教わらなかったか?」
「……き、貴様ァ!! その生意気な口、二度と利けなくしてやる!」
男が吼えると同時にぶわりと魔力の風が渦巻く。
魔力が込められた風はリリーを傷つけようとしたが、リリーはにやりと笑い、難なく風を払い除けた。
「あーあ……。本当、馬鹿ってのは挑発に乗りやすくて助かるよ。おいお前、魔封じの首輪はどうした?」
リリーが男の首に嵌められた枷を指差すと、男はしまったという様に顔を青褪めさせた。
「その首輪、怪しいと思ったんだ。魔法を使えるように看守のひとりと取引をしたな? ……ははっ、本物とそっくりだ。随分と巧妙に作られている。私でなければ見抜けなかっただろうな」
面白そうに笑いながら、リリーは牢の扉を勢い良く開けた。そして男の胸倉を掴み、氷のような目で薄汚れたエルフを見据えた。リリーから漏れ出る黒い魔力が手を形作り、男の首をぎりぎりと締め上げる。男は苦痛に呻きながら、恐怖が混じる視線を彼女に向けた。
「よく覚えておけ、貴族の豚。このリリーがいる限り、第一刑務所の中で如何なる小細工も通用しない。お前は刑期を全うするまでずっとこの薄汚い牢の中にいるんだ。皮剥ぎ拷問官のいる第二刑務所へブチ込まれたくなければ大人しくしていろ!」
「っ……!」
怯えの表情を浮かべる男をひと睨みした後、リリーは乱暴に彼を突き飛ばした。
「なっ、なぜ? なぜ分かった……? 偽装は完璧だったはずっ……なのに、なぜ……」
男は首に手を当てながらリリーに問いかけた。
「なぜだって? さあてな、ただの勘だよ」
リリーは看守のひとりに連絡を取り、騒ぐ男を尋問部屋に連れて行くよう指示をした。
(ははっ……。相変わらず、私の勘はよく当たるな)
どこからか漂う濃い鉄の臭い、怒号、悲鳴、陰口。
リリーは慣れ親しんだそれらに口角を上げた。
そしてまた、罪人の様子を確認するために刑務所の廊下をゆっくりと歩き始めるのだった。
――――――――――
リリー=リローラン。
ダークエルフの父とハーフドワーフの母の間に生まれた彼女は、王都から遠く離れた田舎村にて伸び伸びと育った。リリーの父――ゼルドリックは、彼女を大層可愛がった。お前の優しげな目元は愛おしい妻によく似ているのだと、リリーを抱えあげては嬉しそうに小さな頭を撫で回した。
五人の子の一人目として生を受けたリリーは、混ざり血でありながらも優れた魔術の才を見せた。ゼルドリックはリリーが見せた魔術の才を称賛し、首に魔封じの枷を付けられながらも、リリーに基礎的な魔力操作の心得と、魔術に対する知識を積極的に分け与えた。
娯楽の少ない田舎村だったが、幸いにしてリリーの生まれ育った家には大きな図書室があった。彼女は日々読書に没頭し、分からないことはすぐさまゼルドリックに質問した。そうして、リリーの頭の中には深い知識の根が張り巡らされていった。
八を迎える頃、リリーはかねてより疑問に思っていたことを父に尋ねた。
――ねえ、父さんの首のそれはなに?
ゼルドリックはリリーの問いに顔を強張らせ、そして何かを堪えるように眉を下げた。リリーの艷やかな黒髪を梳きながら、ゼルドリックはぽつぽつと話し始めた。
――罪人の徴だ。リリー。父さんは過去に罪を犯したんだ。重い罪だ、そのせいでお前に迷惑をかけてしまうかもしれない。
そしてリリーは、父の口から彼の犯した罪と、混ざり血に対する差別の話を聞いた。
混血であり、罪人の子であるお前は純血のエルフたちから悪意を向けられるだろうと。
ゼルドリックは優しげな娘の顔立ちを見つめ、くしゃりと顔を歪ませた。
父の悲しそうな顔と、彼の背を摩る母の姿。それは幼いリリーの頭に焼き付けられた。
リリーは両親のことが大好きだった。
力強く頭の回転が速い父のことも、優しく穏やかな母のことも心から愛していた。
彼らの悲しむ顔を見たくない。弟や妹にも辛い思いをさせたくない。
聡明なリリーは、そのために自分が出来ることが何なのかずっと考え続けていた。
――ねえ、父さん。私が強くなって周囲から尊敬を集められるようになったら、誰も私たちのことを馬鹿にしないかな? 父さんも母さんも悲しい顔をしなくて済むの?
娘の問いに、ゼルドリックは困ったように微笑んだ。
だがその翌日から、ゼルドリックはリリーに稽古をつけるようになった。
――リリー。父さんは三百年の間、一切の魔法を使うことができない。幼いお前にこんなことを頼むのは本当に情けないが、いざという時に家族を守るための力を、戦うための力を身に着けてほしい。
リリーは父の言葉に力強く頷きを返した。
五人の子の中で一番魔術の才能があるのは、家族を守れる力があるのはこのリリーだという自負があった。
それから彼女は、魔法を使えぬ父に代わって家族を守り抜くという決心のもと、厳しい稽古に必死に耐え続けた。ゼルドリックの稽古は容赦がなかったが、リリーは父からの稽古の中で確かな実力を身に着けていった。
そして十八の歳、自ら進んで中央政府の役人となることを選んだ。
――立派な役人となって父さんの汚名を濯ぎたい。家族の名誉はこのリリーが守ってみせる。
両親、特にゼルドリックは娘の選んだ道に強く反対したが、リリーは自分の選択を決して変えることはしなかった。自分が確固たる地位と名声を手にすれば、己も己の家族も傷付けられないだろうとリリーは考えた。
置き手紙を残し、リリーはひとり中央政府本部のある王都へと旅立った。
艶やかで美しいひとりの女性として育ったリリーは、この国のエルフが通常名乗ることのない姓――リローランを誇り高く名乗り、中央政府へと入庁した。
父の言葉通り、リリーは周囲のエルフたちから大層な差別を受けた。だがリリーはゼルドリックとの稽古で身に付けた力を振るい、向けられた差別を全て弾き返してきた。
「混ざり血」だから何なのだと。
自分はそこらの純血共よりも余程魔術の才があるのだと。
「混ざり血に負けた気分はどうだ? 木偶どもが」
嫌がらせをしようと襲いかかってきたエルフたちを叩きのめし、リリーは唇を歪めながらそう言い放った。
彼女の苛烈な性格と容赦のない復讐に、手を出すエルフたちは段々と少なくなっていった。
刑事部第一課の黒百合。
リリーはやがて、周囲からそう称されるようになった。
(ふふ、父さんは黒い鷹って言われてたそうじゃないか? お揃いみたいで嬉しいよ)
――リリー。父さんのせいで済まない……。
リリーの頭には、いつも泣きそうな顔で謝るかつての父の姿があった。
(あんな顔をもうさせたくない。このリリーが父を、母を、弟と妹を守るのだ)
リリーは唇を片方だけ上げる特徴的な笑みを浮かべながら、自分とその家族に悪意を向ける者たちを、しつこくしつこく苛み続けるのだった。
そうして、長い月日が経った。
一日の終わり。
リリーは鏡に映る自分をじっと見つめた後、長く伸びた黒髪を丁寧に後ろに撫で付けながら、己の盛り上がった眉間を解すように揉んだ。
(顔をしかめすぎてすっかり眉間が盛り上がってしまった! ああ嫌だ……。私も父さんの顔つきに似てきたな)
鏡に映る女の顔は険しい。
まるで猛禽類のような、優しさの欠片もない己の顔つきを見てリリーは大きく息を吐いた。
「……全く可愛げがない。目は鋭くて、鼻はやたらに高い。私も、もう少し母さんに似れば良かったか」
長身、尖った耳、真っ直ぐな黒髪、滑らかな黒い肌、そして青い目。
それらは父、ゼルドリックから受け継いだもので、リリーは彼の険しい顔立ちを思い浮かべながら、盛り上がった眉間を何とか元に戻そうと試みた。
(私の姿は父さんに似ている。でも、柔らかな目元は母さん似だってよく褒めてくれた)
リリーは天に旅立ったハーフドワーフの母を思い出し、懐かしさに微笑んだ。
(少しでも私の顔に残しておきたいんだ、母さんの面影を。顔を見せる度に父さんが喜んでくれるから……)
ゼルドリックは愛おしい妻を喪った日、大きく肩を震わせ泣き続けた。年老いてすっかり小さくなった母の身体に縋り付き、悲痛な泣き声を上げる父の姿をリリーは今でも覚えている。
(あれから父さんはすっかり元気がなくなった。……心配だ。自ら命を絶つような真似をしなければいいが)
リリーは窓から夜空を見上げ、そこにいるであろう母に語りかけた。
「ねえ、母さん。早く戻ってきてよ。父さんが寂しがってるよ」
ハーフドワーフの母、リアが亡くなった日。
泣きじゃくる妹や弟たちを慰めながら、リリーは涙を流すことなく母の埋葬を見届けた。リリーは母を深く愛していたが、彼女の死は悲しいものではなかった。長い長い生を送る上で訪れる、束の間の別れだと考えていた。
エルフの血を引く者として、言葉では言い表し難い勘の良さ――『第六感』というべきものを天から授けられたリリーは、漠然と、母が父のもとに戻ってくることを理解していた。
それをゼルドリックに伝えたが、彼は娘の言う言葉を優しい慰めだと思い込み、己の心を孤独の海に沈めた。
(いつかまた会える気がする。でも……それがいつになるかは分からない。五百年後か、あるいは千年後かもしれない。だから私も寂しくて仕方がない時がある)
リリーは夜空を眺めながら、静かな声で呟いた。
「父さんね、私が顔を出す度に痩せていってるんだ。母さんが傍にいないのが辛くて、食欲が湧かないんだって……。ねえ、私も早く母さんに会いたいよ。私はしっかり者で気が強いけど、それでも誰かに甘えたくなる時はあるんだ。母さんに、また頭を撫でてもらいたいな……」
夏の夜空には、一滴の血のような赤い赤いアンタレスが輝いている。
母の瞳もあのように赤く美しく輝いていたと、リリーは目を潤ませた。
――――――――――
リリーはその日、感じたこともないくらいの強い胸騒ぎがした。
(今日は絶対に何かが起きる気がする……)
何が起きるか分からない不安に、リリーはより一層気を張って仕事をした。だが特に変わったことは起きず、疲れた身体を引きずりながら寮へと向かった。夜空に瞬く赤星を眺めながら、リリーはぼんやりと考えた。
(気のせいだったか? いや……だがこの感じは……)
胸騒ぎを覚えたまま自室の前に立つ。
(ん? 私の部屋の中……誰かの気配がする)
己の心臓が強く跳ねる。
そっと扉を開けたリリーは、寝台に腰掛けている女のエルフを見て大きな悲鳴を上げそうになった。
「久しぶりね、リリー」
「かっ、母さん……!?」
普段冷静なリリーも、暫し衝撃に呆けた。
高く柔らかな声、パルシファーの綿毛の如き真っ赤な髪。
己の母、リアに良く似たエルフが自分に笑いかけている。
記憶の中にある母よりもずっと若い姿で、目の前のエルフはくすくすと笑い声を上げた。
「驚かせてごめんなさいね、会いに来ちゃった」
エルフは己の赤い目を潤ませ、長身のリリーをじっと見つめた。その視線には懐かしさと優しさが込められている。
「ああ、私の可愛いリリー。こうして話をするのは何年ぶりかしら? リリー、あなたは本当に立派になったわね……」
記憶の中の母によく似た姿。だがリリーは女の姿形よりも、己が天から与えられた不思議な力を以て、目の前のエルフこそが己の母なのだと確信した。
「母さんっ……。母さん!」
リリーは寝台に駆け寄り、背丈の小さな女をぎゅっと抱きしめた。自分に縋り付く娘の頭を、リアは何度も何度も撫でた。
「戻ってきてくれたのね! 会いたかったわ!」
「ええ、可愛いリリー。私もあなたにずっと会いたかったわよ……」
母のふわふわとした赤い髪から突き出た長い耳を見て、リリーは潤む目を瞬かせた。
「……まさか、母さんがエルフになって戻ってくるなんて」
赤い髪、優しげな目元、そばかすのある優しい顔立ち。全てが記憶の中の母に重なるのに、尖った長い耳だけが異なっている。リリーが不思議そうに母の耳を見つめると、リアは微笑みながら己の長い耳をひくりと動かした。
それからリリーは、母の高く柔らかな声に耳を傾けながら夜を過ごした。
寝転び、母に頭を撫でられながら話を聞く。母に存分に甘えた幼少期の思い出が蘇ってきて、リリーは微笑みながらもひとつ感動の涙を流した。
リアは静かな声で今までのことを語った。
北部の地で「オフィーリア」という名を授けられたこと。
一人のエルフとして教育課程を通過し、王都で中央政府の役人となったこと。
家族や友人のことを思い出し、彼らを守るために強くなろうと決めたこと。
今はオリヴァーの部下となって行政部で働き、ミーミスやメルローから指導を受けていること。
そこまで聞いた後、リリーは眉を跳ね上げた。
「ちょっと、母さんが戻ってきたことを何人かはとっくに知ってたってこと? ……オリヴァーのおじさんもメルローさんも酷いわ。母さんが戻ってきたことを知っているなら、父さんや私に教えてくれても良かったのに。どれだけ父さんが泣いて過ごしていたか!」
リリーがむすっとした様子でそう言うと、リアは眉を下げた。
「私が頼んだのよ、私が戻ってきたことは家族に秘密にしてくださいって。本当は記憶を取り戻してからすぐに挨拶したかったけど、あなたのお父さんは私が戻ってきたことを知ったら、絶対に放してくれないでしょう?」
「……まあ、そうね。私だって母さんを危険な目に遭わせたくないわ」
「そう思うのは私も一緒よ! 私は家族を守る力を身に着けたかったの。あなたたちを見守りつつ、私があなたのお父さんと出逢った歳まで必死に修行して、誰よりも強くなろうと誓ったのよ……」
リアは娘の艶やかな黒髪を撫でた。
「リリー。可愛いリリー……。あなたには苦労をさせてしまったわね。あなたが私たちを守ろうとしてくれたように、今度は私があなたたちを守るわ」
リアはまたしっかりとリリーを抱きしめた。リリーは母の腕の中で、自分の心が安心感に和らいでいくのを感じた。
(嬉しい。私の勘が当たってこれほど嬉しいことはなかった。まさか母さんがエルフとなって戻ってきてくれるだなんて……! ……だが……)
リリーは寝転がりながら、ぼんやりと母の顔を見つめた。
パルシファーの綿毛のような真っ赤な髪から、ルビーのような赤い目、低い鼻にそばかすまで、全てが「リア=リローラン」と全く一緒だった。柔らかな声で紡がれる思い出も、話し方も、全てがかつての母が持つものと同じだった。
(…………)
リリーは心に疑念が湧き上がるのを感じた。
(姿かたち、そして記憶まで……それらを丸ごと引き継いで生まれ変わるなど、そんなことがあり得るのだろうか……? 奇跡、あるいは偶然と言ってしまうにはあまりに、都合が良すぎないだろうか……)
(命は廻ると聞く。生まれ変わりの話は私も聞いたことがある。だが記憶、姿、人格……。全てが以前と同じままということは有り得ないはずだ、そんな生まれ変わりの話は聞いたことがない。何かを失い、何かを得て、そうして新たな生を歩んでいくものではないか……?)
微笑みを浮かべる女神像の前で夜な夜な祈りを捧げていた父の後ろ姿。
リリーは唐突に、それを思い出した。
(女神が……。祈りに応えた?)
「……母さん」
赤くふわふわとした母の髪に指を絡めながら、リリーは静かな声で問いかけた。
「母さんが戻ってきてくれたのは、女神様が母さんに祝福をくれたから?」
「……ふふっ」
リアは笑った。穏やかな母の笑み。
細められた赤い目に、リリーは一瞬、陰のようなものを見た。
「そうね。……オーレリア様が私に祝福をくださったのだわ」
リアはそれだけ言って、また娘の黒髪を撫でた。
「リリー。私ね、あなたのお父さんを驚かせたいのよ。あんぐりと口を開けるところを一度くらい目にしたいものだわ。だから私が戻ってきたことは、もう少しだけ秘密にしておいてちょうだいね」
悪戯そうにリアは笑った。その赤い目に、先程の陰はもう見られない。
自分の気のせいだったかと、リリーは微笑みを返して頷いた。
次の橙陽の月に、自分はとうとう百二十七になる。だからやっとゼルドリックに会いに行けるのだと、リアは嬉しそうにリリーの前で話した。
暖かな夏日。
自分、そしてウィロー、イリス、ヴィオラ、セージ。
五人の子供に挨拶を済ませた母は、晴れやかな顔で父の元に向かっていった。
(父さん、喜ぶだろうな……)
エルフに生まれ変わった母を見て父がどんな反応をするのか、リリーも楽しみだった。
――――――――――
次にリアと顔を合わせた際、彼女は首に黒いチョーカーを着けていた。
リリーは母の首にあるそれを見て微笑んだ。
「懐かしいね、それ」
薔薇のレース模様に、きらきらとした青い貴石が付いたチョーカー。黒と青、ゼルドリックを思わせる色彩。
リアは首のチョーカーに手を這わせ、嬉しそうに笑った。
ゼルドリックは同族に生まれ変わった自分を見ても、あんぐりと口を開けて驚くことはしなかったが、涙を溢れさせながらこの身体を強く強く抱きしめてくれたのだと。リアはそうリリーの前で話した。
リリーは母の言葉に耳を傾け続けた。
孤独から解放された父を思いながら、目を潤ませ母の話に相槌を打った。
鍛冶修行に出ているウィロー、外国を巡っているイリスやセージ、植物園で研究をしているヴィオラ。
また全員を呼び集め、あの屋敷で食事をしようとリアは言った。
「皆に会うのが楽しみだわ。みんなの好物だったベリーのコブラーもたくさん用意しておかなくちゃ」
「本当!? 嬉しい! 母さんのコブラーがまた食べられるなんて夢みたい! 集まるのが楽しみだわ!」
リリーは青い目を期待に輝かせ、家族全員で再び集まる日を心待ちにしながら日々を過ごした。
リアが現れてからというもの、リリーは毎日心穏やかに過ごした。
(大好きな母さんが戻ってきてくれた……!)
自分以外に家族を守ってくれるひとがいる。
私を守ってくれるひとがいる。
頭を撫でてくれるひとがいる。
それは常に気を張り続けていたリリーにとって、とても嬉しいことだった。
――――――――――
母、リアが自分の前に姿を現してから数日後のこと。
リリーは安らかな気持ちを忘れ、また顔をしかめながら日々仕事に取り組んでいた。
(嫌な胸騒ぎが止まらない。この事件は絶対に何かがある)
リリーは椅子に腰掛け、机の上にうず高く積み上げられた書類の山と格闘していた。
(怖ろしい事件だ。中央政府を揺るがす大事件だ……)
中央政府上層部「円卓」が壊滅した。
構成する五十五人が互いの身体を刃物で刺し合い、一人残らず血の海に沈んだ。
悍ましい報告を受けたリリーは、すぐさま中央政府本部の地下へと向かった。
足を踏み入れたことのないそこには、刑事部からの他、魔法部、諜報部、行政部、祓魔部から研究部まで、あらゆる部署から役人が派遣され、念入りに調査を進めていた。
優れた力を持つエルフたちが数十人がかりで調査をしているにもかかわらず、何の手がかりも掴めない。
攻撃魔法や幻惑魔法を施された形跡も見られないと、役人のひとりが不思議そうに溢した。
リリーもまた魔力の在り処を探ろうと試みたが、その役人の言う通り、辺りには魔力の残滓が一切存在しなかった。
(魔法が使われた訳ではない? だが、魔法でも使わなければとても……)
この不可解な事件は説明できない。
リリーは血の海を前にして、唇を噛み締めた。
刑事部で長年働いてきたリリーは、「円卓」が中央政府の癌だということはよく知っていた。
汚職、賄賂、暗殺。あらゆる犯罪行為が平然と行われているにもかかわらず、大きな権力から円卓内部の者が罪に問われることはない。
奴らが消えてくれて良かった。
そうエルフのひとりが口にした。
リリーはその言葉に心の内で同意しながらも、頷きを示すことはなかった。
(……この騒動を引き起こした犯人を、調べなければ)
円卓がどれほど罪に塗れていた組織で、そしてその構成員たちが消えたとしても、この不可解な事件を放っておくことなどできなかった。全容を明らかにしなければいけない気がした。
嫌な予感がする。
リリーは胸騒ぎを感じる中、ひとり犯人捜しを始めた。
――――――――――
「…………」
行政部第二課の責任者、オリヴァーのために用意された執務室。
遮蔽魔術で姿を隠したリリーは、豪奢な扉の向こうから聞こえた話の内容に眉を寄せた。
(犯人は、母さんだったのね……)
――彼らは私の夫をしつこくしつこく狙い続けていたので。諦めてもらおうと思って、つい。
母の声。
柔らかくも、確かな狂気を秘めた声。
その狂気はオリヴァーにも伝わったらしい。
彼は震えを抑えた声で、貴様を罪に問うことはできないと静かに言った。
(嫌な予感がしたんだ。私の勘が当たらなければいいってそう思った。あの血の海を見た時から、私は犯人が母さんだって漠然と解っていたんだ……)
リアの笑い声と、オリヴァーの静かな声。
それ以上ふたりの話を聞いていられず、リリーは額を抑えそっと執務室の扉の前から離れた。
そして自室へと素早く転移し、勢い良く寝台に腰掛けた。
「……母さん」
リリーは跳ねる胸を落ち着かせるように、何度も何度も深呼吸をした。
どこまでも優しかった。
真面目で、穏やかで、いつも微笑んでいた。
リア=リローランという女性は、そういうひとだった。
――彼らは私の夫をしつこくしつこく狙い続けていたので。諦めてもらおうと思って、つい。
――オリヴァー様、私はとても幸せです。愛とは素晴らしいものですよ。
窈溟。狂気が滲む声。
愛する夫のためならば円卓さえ滅ぼす。
オフィーリア=オルフィアンというエルフは怖ろしい女だった。
リリーは母の赤い瞳に一瞬宿った陰を思い出した。
(そうだ。そのままというのは……あり得ない)
何かを失い、何かを得て、そうして新たな生を歩んでいく。
「母さん……。あなたは確かに……変わってしまったのね」
リア=リローランは、オフィーリア=オルフィアンとなってから狂気を表に出すようになった。
己が身に宿す苛烈さを更に上回る、地獄の炎のような怖ろしい激情を内に飼うようになった。
(それでも……。それでも、私の愛おしい母さんには変わりない)
(……そう。「糸」自体に他者を害する魔法が仕掛けられていないのなら、母さんは無罪だ。だから……)
胸から数枚の書類を取り出す。ひとり、不可解な事件を追い続けた記録。
リリーは逡巡した後、その書類をすべて燃やした。
(あの会話は、自分の胸に仕舞っておこう)
リリーはそう決め寝台に寝転がった。
窓から強烈な夕日が射し込んでいる。リリーは眩しさに目を眇めながら、ぼんやりと考えた。
(父さんが母さんを深く愛していたように、母さんもまた……父さんを深く愛していた。女神の手によって、母さんが抱える愛は怖ろしいものに変わってしまったのかもしれない)
リリーは目を瞑った。
「……家族全員で集まる日が楽しみね」
自分に言い聞かせるようにひとりごち、リリーは父と母のことを考え続けた。
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