3 / 10
第二章 そんな彼の日常は
しおりを挟む
Ⅰ
午前四時。
冷、起床。
冷は眠たい目をこすりながら身をゆっくりと起こす。眠たいのは必死に押し殺している。襖を開ければ、眩しい日差しが差し込むわけもなく、目の前に広がる暗い世界を見つめる。
冷は着替え、長い髪を結い上げる。それからゆっくりと歩を進め、部屋を後にした。
井戸へ向かい、水を汲んで桶へと移す。冷たい水で顔を洗えば、気が引き締まる。懐から手ぬぐいを出すと、顔を拭う。手ぬぐいを再度懐へ戻すと、今度は跳躍し、入口の鳥居へと向かった。
鳥居の上へと降り立つと、ゆっくりと世界を見渡す。それから、島の左側へと降り立った。
午前四時一五分。
鍛錬開始。
腰にたずさえていた刀をゆっくりと抜く。明け方に銀の三日月がきらりと存在を強く示す。それを構え、呼吸しながらすっと引いた。すると、海に小さく裂け目ができる。小さな傷跡はすぐに波に飲み込まれて行った。何度か同じように振りを確認し、再度構え直す。目を閉じて、すーっと深呼吸をした。そして、かっと目を開くと、一気に振りかぶって振り下ろす。今度は海に大きな裂け目を作った。波が出来たと思ったら、別のそれに飲み込まれていく。何度か同じように裂け目を作った後、静かに腰に刀を納めた。
次は抜刀術。ゆっくりと目を瞑って、かっと目を見開くと、一気に刀を抜く。海は何度も切り裂かれ、何度も再生した。いくつか大きな裂け目ができると、それと一緒に波が立つ。冷はその先を見据えた。
午前四時三〇分。
刀を鞘に納めると、島に向かって跳躍した。島の中を思うがままに走る。厳しそうな道は把握済みなため、そちらを好んで走った。現代で言う、「ランニング」と一緒だった。最も、冷の走り込みは相当きついものである。
午前五時。
昨夜警備をしてくれていた眷属たちとの会議。情報を共有する大事な会議だ。
全ての情報を聞き取ると、昨夜の警備組だった眷属たちを解散する。すぐに自分の住処へと帰っていく彼らを見送り、今度は現時刻から警備を任されている眷属たちと対峙する。情報を余すことなく伝え、気になったことは補足する。彼らから質問がなければ、こちらも解散する。各々持ち場へと歩き始めた彼らを見送ると、冷は踵を返した。
午前五時二〇分。
朝食作り開始。何しろ、三人の神様の分に眷属たちの分、ついでに自分の分である。さすがに量が多い。しかも、よく食べる方がこの中に約一名いるのである。
冷の計算では、約五〇人分の食事が必要となっている。ちなみに、成人男性で計算していた。よく食べる方以外にも、眷属によってはよく食べる者がいるためであった。
皆が小動物並であれば、楽なのだが……。
冷が毎日思うことである。しかし、そんなことを思っていても、どうにもならないことはよく分かっている。冷はその考えを頭を振って打ち消した。
ちなみに、皆がよく食べる理由の一つが、冷の料理が美味しすぎるからだということを、冷は知らない。
午前七時。
ようやく支度が落ち着いたところで、眷属たちが少しずつ集まり始めた。いい匂いに連れられ、皆食堂へと歩を進めてしまうのだ。もちろん、警備などの仕事をしている者は誘惑に打ち勝って、仕事をきちんとこなしているのだが。
気がついた冷は彼らの目線に合わせるため、腰を落とす。
「おはようございます。朝食はもう少し待っていてくれ」
一番手前にいた猫を撫でる。そうして、つい――。
「……皆さんのように、あの方々も早くに起きてくれれば良いのだが……」
冷の口からはため息が出てくる。すでに頭の中は今日どうやってあの方々を起こそうかと考えていた。
一方、目の前にいる眷属たちは各々心配そうに見つめた。
冷はしばし沈黙した後、眷属たちを見て告げる。
「……まだ少し時間がある。毛を解こうか」
その言葉に眷属たちが喜んだのは言うまでもない。
冷の膝上にて猫の毛が解かれていく。現代で言えば、「ブラッシング」というものだ。気持ちよさそうな猫の表情を見て、下で待機している兎や狼がまだかまだかと急かしていた。鼠は冷の肩でぴょんぴょんと跳ねて主張する。
次、次、また次と毛を解いていき、毛がない眷属たちには何度か撫でてやる。それだけでも彼らは満足していた。
午前七時四五分。
眷属たちの毛を解き終わると、食堂にて最後の仕上げを行う。すでに食堂で大人しく待っている眷属たちに一声かけ、食堂を後にする。三人の神様を起こしに行くのだった。
午前八時。
全員を起こし終え、食堂へとすでに戻ってきていた冷は、じっと入口を見つめる。やっと姿を現した神様たちを席へ案内すると、やっと食事が始まるのだった。
午前八時四〇分。
洗濯をした冷は、物干し竿へとかけていく。洗濯自体は少ないので、短い時間でさっさと終わらせることが出来た。
現代で「洗濯機」というものを、気に入った弁財天が衝動買いしてきたおかげで、今は楽に行えている。弁財天によれば、「冷くんが大変そうだから」が理由らしいが、恐らく自分が気に入っただけだろう、と冷は考えていた。文句を言われないための口実であることも見抜いている。当初は金額がかかったため、長くお小言を申したが、今では楽になったため、大変感謝していた。最も、本人に言えば調子に乗ることはよく分かっているので、絶対に言うことはないが。
Ⅱ
午前九時。
三人の神様の仕事が開始される。
冷はまず順番に社を回って様子を見る。まともに仕事をしない方々を、まずは仕事の状態にさせる必要があるからだ。
三人分様子を見て、三人分支援し、三人分遊ばないように警戒する。それだけで相当疲れるはずだが、冷は顔色一つ変えずにこなした。
午前十時三〇分。
冷は眷属の中で手の空いている者と手合わせを行う。今回は狼が相手だ。後程、猪も合流するらしい。
実は、冷との手合わせは、眷属たちに大人気だ。冷の実力が上だ、ということもあるが、冷の動きが勉強になるからだった。最も、当の本人は全く気がついていなかった。
対峙する狼は、唸り声を出す。
お互いに手を抜くことは基本ない。しかし、冷は刀は使わないようにしていた。間違って傷つける可能性があるからだ。
冷は刀を腰に差したまま、素手で構える。
さあっと風が吹いた。風が止むのを合図に、狼は足に力を入れた。駆け出した狼は牙を剥き出しに襲いかかってくる。冷はその様子を目で追いかけ、距離が縮まると手刀を首めがけて落とした。しかし、なんなく躱されてしまう。さすが神様の眷属といったところか。
十数分、手合わせを行って最終的に冷が狼を投げ飛ばして決着がついた。
続いて、狼との手合わせ中に合流した猪と力比べを行う。こちらも冷が勝利した。
全員怪我がないことを確認し合い、それから冷はその場を後にした。狼と猪が尊敬の眼差しを送っていたことを、彼は知らない。
午前一一時一〇分。
昼食の支度に取り掛かる。
念のため、三人の神様の様子を見に行けば、予想通りというか、期待を裏切らないというか……。集中力の切れた三人を、再度仕事に手をつけるよう焚きつける必要があった。疲労感がどっと押し寄せてくる。
そろそろ昼食の支度に取り掛かるつもりではあったし、何より気分転換になる。冷はすぐに厨房へと歩を進めた。
袖をたすき掛けでくくり、料理を開始する。
冷は料理が好きだった。日本食を作ることで覚えた料理だったが、三人の神様の要望によって、日本食以外も覚えることとなった。主に、弁財天の要望ではあったが。
弁財天は、「現代の流行」とやらが意外と好きで、気になるものがあれば、冷に相談しに来る。洋食、中華料理は彼女からの要望が始まりだった。
龍神は、主に酒のつまみの要望。たまに「変わったものが食べたい」、などの無茶振りもある。最近のお気に入りは、「たこ焼き」だった。
宇賀神は、基本要望がない。ただ、ごくたまに麺類が好きなこともあって、「麺が食べたい」と要望が来ることもあった。ちなみに、夏は素麺しか要望が出ないので、冷にとっては困りものである。
本日は、夕食が和食と決まっていた。これまた珍しい宇賀神からで、「肉じゃがが食べたい」、とのこと。そのため、昼食は洋食にしようと考えていた。
「……そういえば、弁財天様が言っていたものはなんだったか。これが食べたいと……、確か……」
冷はしばし考えた後、思い出して呟く。
「ああ、『おむらいす』、と言ったか」
冷はふむと頷いた。この間、一通り作り方は調べ終わっているため、作れなくはない。
冷は料理本をこまめに揃えていた。今は現代には機械があるようだが、どうもそれを使いたいとは思わず、ついつい本を購入してしまっている。日本食、洋食、中華料理など、要望があったものを揃えて、調べて作るようにしていた。冷の本棚には料理本がずらりと並んでおり、ごくたまに弁財天が覗きに来ているのは、ここだけの話。
料理本の内容を思い出し、冷は考える。
問題となっているのは――。
「――卵、だな」
卵の数をそこまでたくさん使えるわけではない。卵は何かと使えて便利だし、だいたい五〇人分を作ろうとしていることもあり、一人一個使うのはなんだか気が引けてしまった。
「……半分、いや、もう少し減らせるか。足りなかったら考えよう」
冷は考えをまとめると、調理を開始した。
午後零時。
全員分の昼食を作り終え、三人の神様の分を各々の社へと運ぶ。運び終わると、冷は食堂で眷属たちと昼食を共にする。冷がいまだに食べている中、食べ終わる眷属も出てきて、そうすると冷の膝上に乗ってくる者もいた。冷は意外とそれを気に入っていて、食べながら眷属を撫でる。
本日は猫が膝上に乗ってきた。大人しくそこに丸くなる猫を、冷は片手で撫でつつ、片手で食事を続ける。行儀が悪いのは重々承知していたが、目の前にあるもふもふには勝てなかった。
これは宇賀神様も勝てないわけだ……。
毎度そう思いつつ、それでもそれに縋ってしまっていることにため息をつく。
猫は満足したのか、膝上から降りた。足元には、他の眷属たちが控えていて、「私も」、「僕も」とじっと見つめてくる。少しばかりの休憩の時間だが、いつも安らぐ時間だった。
Ⅲ
午後一時。
片付けまで終わらせた冷は、三人の神様の社を確認し、叱咤や労いの言葉をかける。もうひと踏ん張りしてもらわなくてはいけないからだ。
それから向かったのは、島の入り口にある鳥居だ。実は冷のお気に入りの場所だった。本島がよく見え、橋を渡る人間の姿が間近で見える場所。そして、見張りがしやすい場所であった。その場所に降り立った冷の元へ、午前の警備を終えた者が、声をかけに来る。冷は鳥居から、再度世界を確認すると、とんと跳躍した。
森の中では、午前の警備を終えた眷属たちと、午後から警備を務める眷属たちがすでに集結していた。顔を確認し、それから会議を始める。午前の情報を全員で共有し、気になったことは確認し、午前の警備を終えた者たちは解散する。
冷も午後からは警備に参加する。多少は警備にも参加しないと、自分の感が鈍ってしまうのだ。いくら手合わせや個人鍛錬をしていると言っても、やはり現場の雰囲気とは違う。貴重な時間だと冷は考えていた。
午後の警備は、虎や狐を中心とした陸部隊と鷲を中心とした空部隊。鷲が飛んでいると、他の地域では珍しく思われることもあるが、この地域では鳶が飛ぶ。万が一、人間の目にとまったとしても、大きく騒がれることはない。最も、冷がそれを許すわけはないのだが。今回は鷲だとしても、龍が警備を行うこともある。眷属のうちの誰かが、気を緩ませて人間の目にとまるようなことがあっては、騒ぎになる可能性が高い。そうすれば、何が起こるか予想ができないのだ。そのため、冷は徹底して常に気を張るように、再三、注意を促していた。
「一つ言い忘れましたが、最近悪魂が多く彷徨いています。気をつけてください。では、お願いします」
冷の一言で、全員が行動を開始する。その場に一人となった冷は、自身の警備の場所に移動をしつつ、ため息をつく。
「……悪魂が多い理由、まさかあの方がかかわっていたり……」
冷は一人の神様の顔を思い出す。
悪魂とは、一番弱い悪霊、といったところか。強い神に取り憑いて、力を奪おうとする。それ以外に悪さはしないが、奪った力で極端に強くなる者もいた。しかし、弱いことから、取り憑く前に倒されることが多い。一般的に、心に隙が出来なければ、勝てると言われていた。
三人の神様が取り憑かれることはないと、冷は確信していたが、何かあると困るため、警備の時に必ず見つけ次第排除していた。
しかし、これまた問題なのは、弁財天である。彼女は悪魂の見た目が可愛いことから、たまに自分の社へと連れ込んでいることがあった。数が増えている可能性がそこにある気がしてならなかった。弁財天が力を与えていなくても、悪魂が少しずつ力を吸い取っている可能性もある。最も、それだけで彼女が取り憑かれることはないと分かっているが。
一度確認しておかないと。
弁財天曰く、悪魂は女性受けする、らしい。女性の神様方は結構可愛がっているとのこと。ちなみに、冷はその話を聞いた瞬間、知人の神守へと情報を共有し、警戒を促したのは、また別の話。
確かに、見た目は可愛らしかった。黒くて丸くてふよふよとしており、くりくりとした目、ぼうっとしているように見えるそれは、ゆっくりと動き、時折首を傾げるかのように傾く。胴体というのか、顔というのか、それしかないそれは、何も言わずに表情だけで訴えてくる。
しかし、忘れてはいけない。なんと言っても悪霊の一種である。
危機感がないのか、と一瞬怒りの感情が湧いたのはここだけの話。
ちなみに、冷は悪魂をばっさりと斬り捨てている。恐らく眷属たちも同様だ。
冷は頭が痛くなってきた。何回目か分からないため息をつくと、進める歩を早くし、警備へと参加するのだった。
午後二時四五分。
警備を眷属たちに任せ、三人の神様の休憩用の甘味を用意する。
弁財天には、季節の和菓子と抹茶を。
龍神には、塩辛い煎餅と緑茶を。
宇賀神には、大福と焙じ茶を、それぞれ用意した。
甘いものが大好きな弁財天には、基本和菓子を出している。ごくたまに洋菓子を出し、同様のものが立て続けにならないように気をつけていた。飲み物は、日によって緑茶か抹茶か変更している。
逆に甘いものを苦手とする龍神には、塩辛い煎餅やおかきを中心に出していた。人間の世界には、「ポテトチップス」等の変わったものがあるので、ごくたまにそういうのも出している。
食べるものより飲むものを重視する宇賀神には、毎回違った飲み物を出すように注意していた。たくさんの種類の茶葉を用意し、毎日変えている。ごくたまに、紅茶や珈琲も出すが、やはり日本茶を好むようだ。
和菓子や洋菓子は、冷のお手製である。茶葉や煎餅等は、発注して毒味を必ず行う。人間の世界で調達ふる、「ポテトチップス」等は、冷が直接購入しに行き、毒味を行ったり、作り方を試行錯誤したりしていた。
午後三時。
お盆の上に用意した、それを持ちながら順番に社へと伺う。社へ常備しといてもいいのだが、なんと言っても減りが早くなるため、その防止策もかねていた。
まずは、宇賀神の社、宇賀神社。
「失礼します」
襖を開けて入れば、宇賀神は机に突っ伏していた。
「うう……、冷くん……」
「お疲れ様です。少し休憩しましょう。進捗は――」
冷がちらりと書類を見れば、ほぼ終わっていた。湯呑へと注いだ茶を、宇賀神へ渡す。宇賀神はほっと一息ついた。少し気晴らしになったようだ。
その間に書類を確認する。小さくも丁寧に書かれた文字が並んでいた。書類の記載漏れや抜け漏れはなかった。
「問題ないですね。もう少しです、頑張りましょう」
「……うん、ありがとう」
「大福も食べてくださいね。糖分の補給も必要ですので」
「うん……」
社まで持ってくる間に、お茶が冷めぬよう急須に入っているため、お茶にはおかわりがある。宇賀神はゆっくりと二杯目を飲んでいた。それを確認すると、社を後にした。
次は龍神の社、八大龍神社。
先程と同じように、一声かけて社に入れば、そこには――。
「ぐがー……」
「やはりか」
冷はため息をつき、お盆を安全な場所に置くと、龍神の頭を叩いた。もちろん、力は加減している。
「何してるんですか」
「む……。おお、冷! 休憩か!」
「仕事中です、寝ないでください。……こちらをどうぞ」
「おお、いただこう!」
冷はため息をつきながら、書類を確認する。宇賀神よりも書類は残っているが、全く進んでいないわけではない。豪快で力強い文字が並ぶのを確認し、記載漏れ等の抜けがある書類は脇に避ける。
煎餅を食べている龍神へ声をかける。
「こちらの書類は、修正箇所に印をつけておきましたので、確認してください。残りも終わらせておいてくださいね」
「うむ! はっはっはっ!」
力強く頷き返す龍神を見て、冷はため息をつきたくなったのをぐっとこらえる。また様子を見に来よう、と心の中で決め、社を後にした。
最後は、弁財天の社、八百富神社。
同じように一声かけて社に入る。弁財天も宇賀神同様、机に突っ伏していた。
「もう無理ー……」
どうやら、集中力が切れたらしい。珍しく泣き言を言っている。
「お疲れ様です。休憩にしましょう」
「冷くん、ありがとうー……」
弁財天はほっと少し気が抜けたようだ。先にゆっくりと抹茶を飲む弁財天。彼女は意外にも猫舌らしく、訪れるのは一番最後にしていた。たまに熱いのが飲みたい、と言うこともあり、その時は社で入れるようにしている。ちなみに、仕事中のお茶は、仕事に熱中していて後で一気に飲むため、基本早く入れようが遅く入れようが関係なかった。熱いのが飲みたい時は、先に一口、二口飲むのだという。
「はあ、美味しい……」
「それは良かったです。ところで、弁財天様」
「ん?」
和菓子を口に運びつつ、冷を見つめる弁財天。冷はゆっくりと尋ねた。
「最近、悪魂を多く見かけますが、何かご存知でしょうか?」
冷の質問をゆっくりと理解した弁財天は手を叩いて声を上げた。
「……ああ! それなら、可愛いから一匹連れてきてるわ、ほら!」
「やはりあんたか」
目の前に突き出された悪魂を、冷は鷲掴みし、彼女の手から取り上げる。
「没収です」
「ええー! こんなに可愛いのにー!」
「何を言ってるんですか。可愛いとかの問題ではないんですよ。悪霊の一種なんですから」
「大丈夫よー、私は問題ないもの!」
「そういうことではありません。それに、『私は大丈夫』、と思っている者のが危ないんですよ」
冷は弁財天の意見を突っぱね、悪魂が逃げないようにしっかりと掴む。社から出たら、すぐに排除するつもりだ。しばらく口を尖らせていた弁財天は、やがてふふっと笑って冷を見つめる。冷は何事かと首を傾げた。
「大丈夫よ、私たちには冷くんがいるもの」
「……!」
「信頼しているもの。冷くんがいるから、安心できるのよ」
弁財天は微笑む。冷は目を瞬かせた後、一つ息をはき出す。
「……そんなこと言っても、返しませんよ」
「えー、駄目?」
「駄目です」
「むー」と口を尖らせる彼女は、気を取り直して再度和菓子を口へと運ぶ。冷はそれを見つつ、「ですが、」と小さく返した。弁財天が不思議そうに彼を見つめる。
「……ありがとうございます」
「……はーい」
ふふっと笑う弁財天を見るのが、何となく恥ずかしくて、冷は俯く。逃げるように書類を確認すると、彼女の書類は完璧だった。しなやかで綺麗な文字が並んでいる。残りの少ない書類を片付けるのみとなっていた。
「……さすがですね。残りもお願いします」
「はーい」
冷はそそくさと社を出た。社から少し離れると、すぐに悪魂を排除する。それからしばらく歩を進めると、ぼんっと顔を真っ赤にした。湯気が出た気がした。
「……慣れ、ない」
直接褒められたり、素直に感謝されたりすると、どうも落ち着かなかった。冷は元々そういうのが苦手であった。弁財天の前でそんなところを見せたら、からかわれるのが目に見えている。社を出るまで、よく我慢できたものだ。
低く唸り、赤くなった顔を首を横に振って元に戻すように努める。はあっと一つ息をついて、口元を手で隠す。
「本当に、困る……」
小さく呟かれたその言葉は、木々のざわめきによってかき消されていた。
IV
午後四時三〇分。
あれから警備に戻った冷は、夜の警備当番を見送ると、厨房に向かい、食事の支度を開始した。時が経てば、眷属たちがぞろぞろと集まり始めてきたが、冷の動きが止まることはない。かすかに眷属たちが話す声を聞き取るが、冷は首を動かして返答するだけだった。
「もう少し待っててくれ。お腹が空いたのは分かったから」
冷は急いで調理を進めた。
午後五時五五分。
ようやく支度が終わったところで、今度は食卓を整える。もうすぐ、三人の神様が仕事を終え、戻ってくる。
午後六時。
三人の神様、仕事より帰還。
そして、全員揃ったところで、食事が開始された。
午後七時十五分。
自分の食事と片付けを終えた冷は、すでに取り込んでいた洗濯物をたたむ。さっさと終わらせると、その洗濯物を各場所に閉まって、一息つく。
午後七時三〇分。
風呂の準備を開始する。湯を沸かすのだ。一番風呂は弁財天で、次に宇賀神、龍神と入る。その後、眷属たちが入り、最後が冷であった。ちなみに、眷属たちは数が多いため、あらかた入れば冷が入るという、ざっくりした決まりになっている。
全員が風呂に入るまでは、冷が風呂の番をし、冷が入るときは警備の誰かしらが番をすることになっていた。
この時ばかりは神様たちも静かで、冷がそこまで気にかけることもなく、多少なりとも気が抜けた。とは言え、冷が気を抜くことなど、ないに等しかった。
午後九時。
全員が風呂を出て、神様たちの宴が始まる。基本、先に行って合流していることが多いが、今日は時間が決まっていたらしい。冷が風呂の掃除までして出てきた頃、ようやく騒がしくなった。
珍しい……。
冷はそう思いつつ、部屋へと入る。もちろん、一言かけるのは忘れずに。そうして、入って聞こえてきた会話は――。
「見て見てー、この冷くん! 顔真っ赤で可愛いでしょー!」
「ほう、珍しいこともあるものだ!」
「……可愛い」
「何をしている」
冷は思わず、いつもより低い声で言葉を発し、ずかずかと神様たちへ歩み寄る。弁財天の手の中には、見慣れない機械があった。
「……何ですか、これは」
「これはね、人が作ったっていう、『かめら』ってものなんですって! つい買っちゃってー!」
「買っちゃって、じゃないです。どこで入手したんですか。私は知りませんが」
「自分で買いに行ったわよ?」
「……この人は……!」
冷はいろんな想いを溜め込んで、そう呟く。怒鳴らなかった自分を褒めてやりたい。
そんなことを全く気にせずに、弁財天は二人へと話しかけている。
「冷くんの顔が可愛すぎて、つい撮っちゃったわよねー!」
「いつの間に……!」
冷は弁財天の手から、かめらという機械を奪った。初めて触るが、目的の項目である、「削除」を見つけ、該当の写真を抹消した。
以前、使い方を調べたことがあったため、操作はお手の物だ。最も、それを調べたことも弁財天から相談を受けたからだったのだが。
あそこで気がつくべきだった……!
「えー、冷くんひどーい」
「酷くないです。知ってますか、これを『盗撮』、と言うのですよ」
「むう、これでは冷の写真は増えずに終わってしまったな!」
「これくしょん、って言うんだっけ……」
「……待ってください、初耳なんですが。私の写真とは何の話でしょうか」
咄嗟に聞き返したが、冷はすごく嫌な予感がしていた。まさかの弁財天以外の神様の口からもそのような言葉が出てきている。不安になるのも当然だった。
冷はごくりと一つ息を呑む。
三人の神様は、そんな冷の心情など考えることも無く、笑って告げた。
「冷くんの写真、あるばむっていうのに貼って残してあるのよー」
「たっくさんあるぞー! 見てみるか、冷!」
「過去から現在まで、幅広く、ね……」
三人の神様の手には、たくさんの冊子が出てきた。冷はぎょっと目を見張る。そんな当の本人を置いて、三人の神様は笑いながら一つ一つの写真を解説していく。冷は固まった。そして、数秒でなんとか我に返った冷は、身体を震わせ全力で叫ぶ。
「全て没収!」
午後十時三〇分。
結局、写真は回収できずに、冷は悔しさを抱えながら部屋を後にした。島の入口にある、お気に入りの鳥居に腰掛け、顔を悔しさで歪める。
「くっそ……!」
思わず口から出た悪態は、偶然夜の警備中だった猿に聞かれ、心配される。悪態など滅多につかない冷が、急にいつもより低い声でそう呟けば、身内同然の眷属たちは心配した。
「すまない、大丈夫だ」
そう言っても、眷属たちは次から次へと増えて心配していく。終いには、休むように懇願されてしまう。あまりにも心配をかけてしまったらしく、バツが悪くなった冷は眷属たちの言葉に甘えることにした。
午後十一時。
いつもより早くに就寝時間を迎える。本来は、日付が変わる頃までは起きていた。というのも、三人の神様がなかなか寝ないからである。眷属たちの警備があるとはいえ、自分の守らなければいけない神様たちより早くに寝ることは出来ないと考えていた。最も、飲み会が長すぎる時は、日付が変わる頃に眷属たちに任せて休むことにはしていたが。
しかし、今回はなんと言っても、眷属たちに心配をかけてしまっている。早い時間だろうが、大人しく寝ることにした。彼らのことは信頼しているため、不安はない。
「……切り替えなくては」
冷はそれからゆっくりと目を閉じ、夢の世界へと誘われるのであった。
午前四時。
冷、起床。
冷は眠たい目をこすりながら身をゆっくりと起こす。眠たいのは必死に押し殺している。襖を開ければ、眩しい日差しが差し込むわけもなく、目の前に広がる暗い世界を見つめる。
冷は着替え、長い髪を結い上げる。それからゆっくりと歩を進め、部屋を後にした。
井戸へ向かい、水を汲んで桶へと移す。冷たい水で顔を洗えば、気が引き締まる。懐から手ぬぐいを出すと、顔を拭う。手ぬぐいを再度懐へ戻すと、今度は跳躍し、入口の鳥居へと向かった。
鳥居の上へと降り立つと、ゆっくりと世界を見渡す。それから、島の左側へと降り立った。
午前四時一五分。
鍛錬開始。
腰にたずさえていた刀をゆっくりと抜く。明け方に銀の三日月がきらりと存在を強く示す。それを構え、呼吸しながらすっと引いた。すると、海に小さく裂け目ができる。小さな傷跡はすぐに波に飲み込まれて行った。何度か同じように振りを確認し、再度構え直す。目を閉じて、すーっと深呼吸をした。そして、かっと目を開くと、一気に振りかぶって振り下ろす。今度は海に大きな裂け目を作った。波が出来たと思ったら、別のそれに飲み込まれていく。何度か同じように裂け目を作った後、静かに腰に刀を納めた。
次は抜刀術。ゆっくりと目を瞑って、かっと目を見開くと、一気に刀を抜く。海は何度も切り裂かれ、何度も再生した。いくつか大きな裂け目ができると、それと一緒に波が立つ。冷はその先を見据えた。
午前四時三〇分。
刀を鞘に納めると、島に向かって跳躍した。島の中を思うがままに走る。厳しそうな道は把握済みなため、そちらを好んで走った。現代で言う、「ランニング」と一緒だった。最も、冷の走り込みは相当きついものである。
午前五時。
昨夜警備をしてくれていた眷属たちとの会議。情報を共有する大事な会議だ。
全ての情報を聞き取ると、昨夜の警備組だった眷属たちを解散する。すぐに自分の住処へと帰っていく彼らを見送り、今度は現時刻から警備を任されている眷属たちと対峙する。情報を余すことなく伝え、気になったことは補足する。彼らから質問がなければ、こちらも解散する。各々持ち場へと歩き始めた彼らを見送ると、冷は踵を返した。
午前五時二〇分。
朝食作り開始。何しろ、三人の神様の分に眷属たちの分、ついでに自分の分である。さすがに量が多い。しかも、よく食べる方がこの中に約一名いるのである。
冷の計算では、約五〇人分の食事が必要となっている。ちなみに、成人男性で計算していた。よく食べる方以外にも、眷属によってはよく食べる者がいるためであった。
皆が小動物並であれば、楽なのだが……。
冷が毎日思うことである。しかし、そんなことを思っていても、どうにもならないことはよく分かっている。冷はその考えを頭を振って打ち消した。
ちなみに、皆がよく食べる理由の一つが、冷の料理が美味しすぎるからだということを、冷は知らない。
午前七時。
ようやく支度が落ち着いたところで、眷属たちが少しずつ集まり始めた。いい匂いに連れられ、皆食堂へと歩を進めてしまうのだ。もちろん、警備などの仕事をしている者は誘惑に打ち勝って、仕事をきちんとこなしているのだが。
気がついた冷は彼らの目線に合わせるため、腰を落とす。
「おはようございます。朝食はもう少し待っていてくれ」
一番手前にいた猫を撫でる。そうして、つい――。
「……皆さんのように、あの方々も早くに起きてくれれば良いのだが……」
冷の口からはため息が出てくる。すでに頭の中は今日どうやってあの方々を起こそうかと考えていた。
一方、目の前にいる眷属たちは各々心配そうに見つめた。
冷はしばし沈黙した後、眷属たちを見て告げる。
「……まだ少し時間がある。毛を解こうか」
その言葉に眷属たちが喜んだのは言うまでもない。
冷の膝上にて猫の毛が解かれていく。現代で言えば、「ブラッシング」というものだ。気持ちよさそうな猫の表情を見て、下で待機している兎や狼がまだかまだかと急かしていた。鼠は冷の肩でぴょんぴょんと跳ねて主張する。
次、次、また次と毛を解いていき、毛がない眷属たちには何度か撫でてやる。それだけでも彼らは満足していた。
午前七時四五分。
眷属たちの毛を解き終わると、食堂にて最後の仕上げを行う。すでに食堂で大人しく待っている眷属たちに一声かけ、食堂を後にする。三人の神様を起こしに行くのだった。
午前八時。
全員を起こし終え、食堂へとすでに戻ってきていた冷は、じっと入口を見つめる。やっと姿を現した神様たちを席へ案内すると、やっと食事が始まるのだった。
午前八時四〇分。
洗濯をした冷は、物干し竿へとかけていく。洗濯自体は少ないので、短い時間でさっさと終わらせることが出来た。
現代で「洗濯機」というものを、気に入った弁財天が衝動買いしてきたおかげで、今は楽に行えている。弁財天によれば、「冷くんが大変そうだから」が理由らしいが、恐らく自分が気に入っただけだろう、と冷は考えていた。文句を言われないための口実であることも見抜いている。当初は金額がかかったため、長くお小言を申したが、今では楽になったため、大変感謝していた。最も、本人に言えば調子に乗ることはよく分かっているので、絶対に言うことはないが。
Ⅱ
午前九時。
三人の神様の仕事が開始される。
冷はまず順番に社を回って様子を見る。まともに仕事をしない方々を、まずは仕事の状態にさせる必要があるからだ。
三人分様子を見て、三人分支援し、三人分遊ばないように警戒する。それだけで相当疲れるはずだが、冷は顔色一つ変えずにこなした。
午前十時三〇分。
冷は眷属の中で手の空いている者と手合わせを行う。今回は狼が相手だ。後程、猪も合流するらしい。
実は、冷との手合わせは、眷属たちに大人気だ。冷の実力が上だ、ということもあるが、冷の動きが勉強になるからだった。最も、当の本人は全く気がついていなかった。
対峙する狼は、唸り声を出す。
お互いに手を抜くことは基本ない。しかし、冷は刀は使わないようにしていた。間違って傷つける可能性があるからだ。
冷は刀を腰に差したまま、素手で構える。
さあっと風が吹いた。風が止むのを合図に、狼は足に力を入れた。駆け出した狼は牙を剥き出しに襲いかかってくる。冷はその様子を目で追いかけ、距離が縮まると手刀を首めがけて落とした。しかし、なんなく躱されてしまう。さすが神様の眷属といったところか。
十数分、手合わせを行って最終的に冷が狼を投げ飛ばして決着がついた。
続いて、狼との手合わせ中に合流した猪と力比べを行う。こちらも冷が勝利した。
全員怪我がないことを確認し合い、それから冷はその場を後にした。狼と猪が尊敬の眼差しを送っていたことを、彼は知らない。
午前一一時一〇分。
昼食の支度に取り掛かる。
念のため、三人の神様の様子を見に行けば、予想通りというか、期待を裏切らないというか……。集中力の切れた三人を、再度仕事に手をつけるよう焚きつける必要があった。疲労感がどっと押し寄せてくる。
そろそろ昼食の支度に取り掛かるつもりではあったし、何より気分転換になる。冷はすぐに厨房へと歩を進めた。
袖をたすき掛けでくくり、料理を開始する。
冷は料理が好きだった。日本食を作ることで覚えた料理だったが、三人の神様の要望によって、日本食以外も覚えることとなった。主に、弁財天の要望ではあったが。
弁財天は、「現代の流行」とやらが意外と好きで、気になるものがあれば、冷に相談しに来る。洋食、中華料理は彼女からの要望が始まりだった。
龍神は、主に酒のつまみの要望。たまに「変わったものが食べたい」、などの無茶振りもある。最近のお気に入りは、「たこ焼き」だった。
宇賀神は、基本要望がない。ただ、ごくたまに麺類が好きなこともあって、「麺が食べたい」と要望が来ることもあった。ちなみに、夏は素麺しか要望が出ないので、冷にとっては困りものである。
本日は、夕食が和食と決まっていた。これまた珍しい宇賀神からで、「肉じゃがが食べたい」、とのこと。そのため、昼食は洋食にしようと考えていた。
「……そういえば、弁財天様が言っていたものはなんだったか。これが食べたいと……、確か……」
冷はしばし考えた後、思い出して呟く。
「ああ、『おむらいす』、と言ったか」
冷はふむと頷いた。この間、一通り作り方は調べ終わっているため、作れなくはない。
冷は料理本をこまめに揃えていた。今は現代には機械があるようだが、どうもそれを使いたいとは思わず、ついつい本を購入してしまっている。日本食、洋食、中華料理など、要望があったものを揃えて、調べて作るようにしていた。冷の本棚には料理本がずらりと並んでおり、ごくたまに弁財天が覗きに来ているのは、ここだけの話。
料理本の内容を思い出し、冷は考える。
問題となっているのは――。
「――卵、だな」
卵の数をそこまでたくさん使えるわけではない。卵は何かと使えて便利だし、だいたい五〇人分を作ろうとしていることもあり、一人一個使うのはなんだか気が引けてしまった。
「……半分、いや、もう少し減らせるか。足りなかったら考えよう」
冷は考えをまとめると、調理を開始した。
午後零時。
全員分の昼食を作り終え、三人の神様の分を各々の社へと運ぶ。運び終わると、冷は食堂で眷属たちと昼食を共にする。冷がいまだに食べている中、食べ終わる眷属も出てきて、そうすると冷の膝上に乗ってくる者もいた。冷は意外とそれを気に入っていて、食べながら眷属を撫でる。
本日は猫が膝上に乗ってきた。大人しくそこに丸くなる猫を、冷は片手で撫でつつ、片手で食事を続ける。行儀が悪いのは重々承知していたが、目の前にあるもふもふには勝てなかった。
これは宇賀神様も勝てないわけだ……。
毎度そう思いつつ、それでもそれに縋ってしまっていることにため息をつく。
猫は満足したのか、膝上から降りた。足元には、他の眷属たちが控えていて、「私も」、「僕も」とじっと見つめてくる。少しばかりの休憩の時間だが、いつも安らぐ時間だった。
Ⅲ
午後一時。
片付けまで終わらせた冷は、三人の神様の社を確認し、叱咤や労いの言葉をかける。もうひと踏ん張りしてもらわなくてはいけないからだ。
それから向かったのは、島の入り口にある鳥居だ。実は冷のお気に入りの場所だった。本島がよく見え、橋を渡る人間の姿が間近で見える場所。そして、見張りがしやすい場所であった。その場所に降り立った冷の元へ、午前の警備を終えた者が、声をかけに来る。冷は鳥居から、再度世界を確認すると、とんと跳躍した。
森の中では、午前の警備を終えた眷属たちと、午後から警備を務める眷属たちがすでに集結していた。顔を確認し、それから会議を始める。午前の情報を全員で共有し、気になったことは確認し、午前の警備を終えた者たちは解散する。
冷も午後からは警備に参加する。多少は警備にも参加しないと、自分の感が鈍ってしまうのだ。いくら手合わせや個人鍛錬をしていると言っても、やはり現場の雰囲気とは違う。貴重な時間だと冷は考えていた。
午後の警備は、虎や狐を中心とした陸部隊と鷲を中心とした空部隊。鷲が飛んでいると、他の地域では珍しく思われることもあるが、この地域では鳶が飛ぶ。万が一、人間の目にとまったとしても、大きく騒がれることはない。最も、冷がそれを許すわけはないのだが。今回は鷲だとしても、龍が警備を行うこともある。眷属のうちの誰かが、気を緩ませて人間の目にとまるようなことがあっては、騒ぎになる可能性が高い。そうすれば、何が起こるか予想ができないのだ。そのため、冷は徹底して常に気を張るように、再三、注意を促していた。
「一つ言い忘れましたが、最近悪魂が多く彷徨いています。気をつけてください。では、お願いします」
冷の一言で、全員が行動を開始する。その場に一人となった冷は、自身の警備の場所に移動をしつつ、ため息をつく。
「……悪魂が多い理由、まさかあの方がかかわっていたり……」
冷は一人の神様の顔を思い出す。
悪魂とは、一番弱い悪霊、といったところか。強い神に取り憑いて、力を奪おうとする。それ以外に悪さはしないが、奪った力で極端に強くなる者もいた。しかし、弱いことから、取り憑く前に倒されることが多い。一般的に、心に隙が出来なければ、勝てると言われていた。
三人の神様が取り憑かれることはないと、冷は確信していたが、何かあると困るため、警備の時に必ず見つけ次第排除していた。
しかし、これまた問題なのは、弁財天である。彼女は悪魂の見た目が可愛いことから、たまに自分の社へと連れ込んでいることがあった。数が増えている可能性がそこにある気がしてならなかった。弁財天が力を与えていなくても、悪魂が少しずつ力を吸い取っている可能性もある。最も、それだけで彼女が取り憑かれることはないと分かっているが。
一度確認しておかないと。
弁財天曰く、悪魂は女性受けする、らしい。女性の神様方は結構可愛がっているとのこと。ちなみに、冷はその話を聞いた瞬間、知人の神守へと情報を共有し、警戒を促したのは、また別の話。
確かに、見た目は可愛らしかった。黒くて丸くてふよふよとしており、くりくりとした目、ぼうっとしているように見えるそれは、ゆっくりと動き、時折首を傾げるかのように傾く。胴体というのか、顔というのか、それしかないそれは、何も言わずに表情だけで訴えてくる。
しかし、忘れてはいけない。なんと言っても悪霊の一種である。
危機感がないのか、と一瞬怒りの感情が湧いたのはここだけの話。
ちなみに、冷は悪魂をばっさりと斬り捨てている。恐らく眷属たちも同様だ。
冷は頭が痛くなってきた。何回目か分からないため息をつくと、進める歩を早くし、警備へと参加するのだった。
午後二時四五分。
警備を眷属たちに任せ、三人の神様の休憩用の甘味を用意する。
弁財天には、季節の和菓子と抹茶を。
龍神には、塩辛い煎餅と緑茶を。
宇賀神には、大福と焙じ茶を、それぞれ用意した。
甘いものが大好きな弁財天には、基本和菓子を出している。ごくたまに洋菓子を出し、同様のものが立て続けにならないように気をつけていた。飲み物は、日によって緑茶か抹茶か変更している。
逆に甘いものを苦手とする龍神には、塩辛い煎餅やおかきを中心に出していた。人間の世界には、「ポテトチップス」等の変わったものがあるので、ごくたまにそういうのも出している。
食べるものより飲むものを重視する宇賀神には、毎回違った飲み物を出すように注意していた。たくさんの種類の茶葉を用意し、毎日変えている。ごくたまに、紅茶や珈琲も出すが、やはり日本茶を好むようだ。
和菓子や洋菓子は、冷のお手製である。茶葉や煎餅等は、発注して毒味を必ず行う。人間の世界で調達ふる、「ポテトチップス」等は、冷が直接購入しに行き、毒味を行ったり、作り方を試行錯誤したりしていた。
午後三時。
お盆の上に用意した、それを持ちながら順番に社へと伺う。社へ常備しといてもいいのだが、なんと言っても減りが早くなるため、その防止策もかねていた。
まずは、宇賀神の社、宇賀神社。
「失礼します」
襖を開けて入れば、宇賀神は机に突っ伏していた。
「うう……、冷くん……」
「お疲れ様です。少し休憩しましょう。進捗は――」
冷がちらりと書類を見れば、ほぼ終わっていた。湯呑へと注いだ茶を、宇賀神へ渡す。宇賀神はほっと一息ついた。少し気晴らしになったようだ。
その間に書類を確認する。小さくも丁寧に書かれた文字が並んでいた。書類の記載漏れや抜け漏れはなかった。
「問題ないですね。もう少しです、頑張りましょう」
「……うん、ありがとう」
「大福も食べてくださいね。糖分の補給も必要ですので」
「うん……」
社まで持ってくる間に、お茶が冷めぬよう急須に入っているため、お茶にはおかわりがある。宇賀神はゆっくりと二杯目を飲んでいた。それを確認すると、社を後にした。
次は龍神の社、八大龍神社。
先程と同じように、一声かけて社に入れば、そこには――。
「ぐがー……」
「やはりか」
冷はため息をつき、お盆を安全な場所に置くと、龍神の頭を叩いた。もちろん、力は加減している。
「何してるんですか」
「む……。おお、冷! 休憩か!」
「仕事中です、寝ないでください。……こちらをどうぞ」
「おお、いただこう!」
冷はため息をつきながら、書類を確認する。宇賀神よりも書類は残っているが、全く進んでいないわけではない。豪快で力強い文字が並ぶのを確認し、記載漏れ等の抜けがある書類は脇に避ける。
煎餅を食べている龍神へ声をかける。
「こちらの書類は、修正箇所に印をつけておきましたので、確認してください。残りも終わらせておいてくださいね」
「うむ! はっはっはっ!」
力強く頷き返す龍神を見て、冷はため息をつきたくなったのをぐっとこらえる。また様子を見に来よう、と心の中で決め、社を後にした。
最後は、弁財天の社、八百富神社。
同じように一声かけて社に入る。弁財天も宇賀神同様、机に突っ伏していた。
「もう無理ー……」
どうやら、集中力が切れたらしい。珍しく泣き言を言っている。
「お疲れ様です。休憩にしましょう」
「冷くん、ありがとうー……」
弁財天はほっと少し気が抜けたようだ。先にゆっくりと抹茶を飲む弁財天。彼女は意外にも猫舌らしく、訪れるのは一番最後にしていた。たまに熱いのが飲みたい、と言うこともあり、その時は社で入れるようにしている。ちなみに、仕事中のお茶は、仕事に熱中していて後で一気に飲むため、基本早く入れようが遅く入れようが関係なかった。熱いのが飲みたい時は、先に一口、二口飲むのだという。
「はあ、美味しい……」
「それは良かったです。ところで、弁財天様」
「ん?」
和菓子を口に運びつつ、冷を見つめる弁財天。冷はゆっくりと尋ねた。
「最近、悪魂を多く見かけますが、何かご存知でしょうか?」
冷の質問をゆっくりと理解した弁財天は手を叩いて声を上げた。
「……ああ! それなら、可愛いから一匹連れてきてるわ、ほら!」
「やはりあんたか」
目の前に突き出された悪魂を、冷は鷲掴みし、彼女の手から取り上げる。
「没収です」
「ええー! こんなに可愛いのにー!」
「何を言ってるんですか。可愛いとかの問題ではないんですよ。悪霊の一種なんですから」
「大丈夫よー、私は問題ないもの!」
「そういうことではありません。それに、『私は大丈夫』、と思っている者のが危ないんですよ」
冷は弁財天の意見を突っぱね、悪魂が逃げないようにしっかりと掴む。社から出たら、すぐに排除するつもりだ。しばらく口を尖らせていた弁財天は、やがてふふっと笑って冷を見つめる。冷は何事かと首を傾げた。
「大丈夫よ、私たちには冷くんがいるもの」
「……!」
「信頼しているもの。冷くんがいるから、安心できるのよ」
弁財天は微笑む。冷は目を瞬かせた後、一つ息をはき出す。
「……そんなこと言っても、返しませんよ」
「えー、駄目?」
「駄目です」
「むー」と口を尖らせる彼女は、気を取り直して再度和菓子を口へと運ぶ。冷はそれを見つつ、「ですが、」と小さく返した。弁財天が不思議そうに彼を見つめる。
「……ありがとうございます」
「……はーい」
ふふっと笑う弁財天を見るのが、何となく恥ずかしくて、冷は俯く。逃げるように書類を確認すると、彼女の書類は完璧だった。しなやかで綺麗な文字が並んでいる。残りの少ない書類を片付けるのみとなっていた。
「……さすがですね。残りもお願いします」
「はーい」
冷はそそくさと社を出た。社から少し離れると、すぐに悪魂を排除する。それからしばらく歩を進めると、ぼんっと顔を真っ赤にした。湯気が出た気がした。
「……慣れ、ない」
直接褒められたり、素直に感謝されたりすると、どうも落ち着かなかった。冷は元々そういうのが苦手であった。弁財天の前でそんなところを見せたら、からかわれるのが目に見えている。社を出るまで、よく我慢できたものだ。
低く唸り、赤くなった顔を首を横に振って元に戻すように努める。はあっと一つ息をついて、口元を手で隠す。
「本当に、困る……」
小さく呟かれたその言葉は、木々のざわめきによってかき消されていた。
IV
午後四時三〇分。
あれから警備に戻った冷は、夜の警備当番を見送ると、厨房に向かい、食事の支度を開始した。時が経てば、眷属たちがぞろぞろと集まり始めてきたが、冷の動きが止まることはない。かすかに眷属たちが話す声を聞き取るが、冷は首を動かして返答するだけだった。
「もう少し待っててくれ。お腹が空いたのは分かったから」
冷は急いで調理を進めた。
午後五時五五分。
ようやく支度が終わったところで、今度は食卓を整える。もうすぐ、三人の神様が仕事を終え、戻ってくる。
午後六時。
三人の神様、仕事より帰還。
そして、全員揃ったところで、食事が開始された。
午後七時十五分。
自分の食事と片付けを終えた冷は、すでに取り込んでいた洗濯物をたたむ。さっさと終わらせると、その洗濯物を各場所に閉まって、一息つく。
午後七時三〇分。
風呂の準備を開始する。湯を沸かすのだ。一番風呂は弁財天で、次に宇賀神、龍神と入る。その後、眷属たちが入り、最後が冷であった。ちなみに、眷属たちは数が多いため、あらかた入れば冷が入るという、ざっくりした決まりになっている。
全員が風呂に入るまでは、冷が風呂の番をし、冷が入るときは警備の誰かしらが番をすることになっていた。
この時ばかりは神様たちも静かで、冷がそこまで気にかけることもなく、多少なりとも気が抜けた。とは言え、冷が気を抜くことなど、ないに等しかった。
午後九時。
全員が風呂を出て、神様たちの宴が始まる。基本、先に行って合流していることが多いが、今日は時間が決まっていたらしい。冷が風呂の掃除までして出てきた頃、ようやく騒がしくなった。
珍しい……。
冷はそう思いつつ、部屋へと入る。もちろん、一言かけるのは忘れずに。そうして、入って聞こえてきた会話は――。
「見て見てー、この冷くん! 顔真っ赤で可愛いでしょー!」
「ほう、珍しいこともあるものだ!」
「……可愛い」
「何をしている」
冷は思わず、いつもより低い声で言葉を発し、ずかずかと神様たちへ歩み寄る。弁財天の手の中には、見慣れない機械があった。
「……何ですか、これは」
「これはね、人が作ったっていう、『かめら』ってものなんですって! つい買っちゃってー!」
「買っちゃって、じゃないです。どこで入手したんですか。私は知りませんが」
「自分で買いに行ったわよ?」
「……この人は……!」
冷はいろんな想いを溜め込んで、そう呟く。怒鳴らなかった自分を褒めてやりたい。
そんなことを全く気にせずに、弁財天は二人へと話しかけている。
「冷くんの顔が可愛すぎて、つい撮っちゃったわよねー!」
「いつの間に……!」
冷は弁財天の手から、かめらという機械を奪った。初めて触るが、目的の項目である、「削除」を見つけ、該当の写真を抹消した。
以前、使い方を調べたことがあったため、操作はお手の物だ。最も、それを調べたことも弁財天から相談を受けたからだったのだが。
あそこで気がつくべきだった……!
「えー、冷くんひどーい」
「酷くないです。知ってますか、これを『盗撮』、と言うのですよ」
「むう、これでは冷の写真は増えずに終わってしまったな!」
「これくしょん、って言うんだっけ……」
「……待ってください、初耳なんですが。私の写真とは何の話でしょうか」
咄嗟に聞き返したが、冷はすごく嫌な予感がしていた。まさかの弁財天以外の神様の口からもそのような言葉が出てきている。不安になるのも当然だった。
冷はごくりと一つ息を呑む。
三人の神様は、そんな冷の心情など考えることも無く、笑って告げた。
「冷くんの写真、あるばむっていうのに貼って残してあるのよー」
「たっくさんあるぞー! 見てみるか、冷!」
「過去から現在まで、幅広く、ね……」
三人の神様の手には、たくさんの冊子が出てきた。冷はぎょっと目を見張る。そんな当の本人を置いて、三人の神様は笑いながら一つ一つの写真を解説していく。冷は固まった。そして、数秒でなんとか我に返った冷は、身体を震わせ全力で叫ぶ。
「全て没収!」
午後十時三〇分。
結局、写真は回収できずに、冷は悔しさを抱えながら部屋を後にした。島の入口にある、お気に入りの鳥居に腰掛け、顔を悔しさで歪める。
「くっそ……!」
思わず口から出た悪態は、偶然夜の警備中だった猿に聞かれ、心配される。悪態など滅多につかない冷が、急にいつもより低い声でそう呟けば、身内同然の眷属たちは心配した。
「すまない、大丈夫だ」
そう言っても、眷属たちは次から次へと増えて心配していく。終いには、休むように懇願されてしまう。あまりにも心配をかけてしまったらしく、バツが悪くなった冷は眷属たちの言葉に甘えることにした。
午後十一時。
いつもより早くに就寝時間を迎える。本来は、日付が変わる頃までは起きていた。というのも、三人の神様がなかなか寝ないからである。眷属たちの警備があるとはいえ、自分の守らなければいけない神様たちより早くに寝ることは出来ないと考えていた。最も、飲み会が長すぎる時は、日付が変わる頃に眷属たちに任せて休むことにはしていたが。
しかし、今回はなんと言っても、眷属たちに心配をかけてしまっている。早い時間だろうが、大人しく寝ることにした。彼らのことは信頼しているため、不安はない。
「……切り替えなくては」
冷はそれからゆっくりと目を閉じ、夢の世界へと誘われるのであった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる