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第7章 獄窟
第22話 既視
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焚火を見つめる俺の探知に反応があった。視線を移せば、川上から少年が流れてくる。
――――全裸の。
確かこの辺りに人は住んでいなかったと思うが。
少年は躰中が黒く固まった血で覆われているが、傷は見当たらない。返り血か? 水の温度で体温が下がって唇は紫色だ。
急激に温めると良くないから焚火から放してベッドを取り出しシャララン魔法で汚れも水も取り除く。そして、毛布を掛けて様子を見てみる。
検査魔法で躰を調べれば命に係わる異常はないが衰弱している。それと気になる反応があるな。……嫌な兆しだ。脳が黒く霞んでいる。シュバインさん程ではないが、近い感覚だ。
この子は一体……。
勿論、保護は決定だが、どうしたものかと思案する。
この子が眼覚めるまで出来ることもない。取り敢えず焼けた魚をトゥエアルの皿に数匹置き。俺も焼き魚を食べ始めた。
パリッとした皮目とふっくらとした身が口に広がり、香ばしさと共に身の甘やかさが鼻腔を抜けてゆく。
「――旨い!」
俺は瞬く間に五匹を平らげた。
~~~
――――深夜
寝静まった林で地面に突き刺した焼き魚に小さな手を伸ばす者がいる。
俺は寝たふりをしてその様子を伺う。万一夜に目を覚ました場合に食べられるように用意していたものだ。
ガツガツと咀嚼する音が聞こえた。食べ終わるのを見計らい起き上がって声をかけた。なるべく穏やかな声色を心がける。
「――少年。落ち着いたか? 俺はノア。君の名を教えて欲しい」
少年は身を竦め警戒するようにこちらを睨む。
「川を流されていた君を掬い上げた。腹が減っているなら食事を何か提供しようか?」
「……」
まぁ。全裸で川流れるくらいの訳ありだろう。戻る場所があるなら、そこまでは送ってやりたいもんだ。
「飲み物の方が良いかい?」
「グィオァー」
聞こえてきたのは獣のような唸り。
「! ……喋れないのか? それとも違う言語?」
その日、俺は裸の少年を保護した。
――――全裸の。
確かこの辺りに人は住んでいなかったと思うが。
少年は躰中が黒く固まった血で覆われているが、傷は見当たらない。返り血か? 水の温度で体温が下がって唇は紫色だ。
急激に温めると良くないから焚火から放してベッドを取り出しシャララン魔法で汚れも水も取り除く。そして、毛布を掛けて様子を見てみる。
検査魔法で躰を調べれば命に係わる異常はないが衰弱している。それと気になる反応があるな。……嫌な兆しだ。脳が黒く霞んでいる。シュバインさん程ではないが、近い感覚だ。
この子は一体……。
勿論、保護は決定だが、どうしたものかと思案する。
この子が眼覚めるまで出来ることもない。取り敢えず焼けた魚をトゥエアルの皿に数匹置き。俺も焼き魚を食べ始めた。
パリッとした皮目とふっくらとした身が口に広がり、香ばしさと共に身の甘やかさが鼻腔を抜けてゆく。
「――旨い!」
俺は瞬く間に五匹を平らげた。
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――――深夜
寝静まった林で地面に突き刺した焼き魚に小さな手を伸ばす者がいる。
俺は寝たふりをしてその様子を伺う。万一夜に目を覚ました場合に食べられるように用意していたものだ。
ガツガツと咀嚼する音が聞こえた。食べ終わるのを見計らい起き上がって声をかけた。なるべく穏やかな声色を心がける。
「――少年。落ち着いたか? 俺はノア。君の名を教えて欲しい」
少年は身を竦め警戒するようにこちらを睨む。
「川を流されていた君を掬い上げた。腹が減っているなら食事を何か提供しようか?」
「……」
まぁ。全裸で川流れるくらいの訳ありだろう。戻る場所があるなら、そこまでは送ってやりたいもんだ。
「飲み物の方が良いかい?」
「グィオァー」
聞こえてきたのは獣のような唸り。
「! ……喋れないのか? それとも違う言語?」
その日、俺は裸の少年を保護した。
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