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第6章  罪咎

第68話  掲盃

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 全員が座れるテーブルも用意した。子供向けにはドリンクバー。そしてアルコールも各種用意している。

 トレーには椀に盛られたキノコと鳥の炊き込みご飯。その上にはたっぷりの錦糸卵だ。汁物は水炊き風鍋と薬味一式。湯呑に注いだ水炊きの作法に則る素の白濁スープ。皿には素焼きの本シメジ。後は思い思いのドリンクが選ばれている。

 音頭はホブゴブリン。皆からおさと呼ばれている方に任せた方が良いだろう。俺の要望は一つだけ。

「食べ方に注文はつけませんが、始めにこの湯呑ゆのみ――。これですこれ。このスープをそのまま一口飲んで下さい。その後はそれに塩一つまみと、この緑のネギを加えて味の変化を楽しんでもらいたい。この鍋、スープの始めの味です。具材を加えると複雑さを増しますが、その比較を感じて欲しいのです」

 それだけ伝えて目線で長へと挨拶を譲る。

「好意でこのような料理を用意してもらった。貴重な卵もな。感謝して頂こう」

 全員が神への感謝の祈りを捧げ食事を開始した。

 俺の要望通り湯呑の素スープから飲んでくれている。美味しさに驚いているね。

 俺達三人も席について食事を開始する。

「ノア。すごく美味しいね、このスープ。後を引いていつまででも飲んでいたい感じ」

 そうだろうとも。湯呑一杯分というのも効いている。ちょっと足らない位が適量だ。初めは手間暇をかけた、素のコクを楽しみ、少量の塩でちょっと薄い塩味えんみに調整する。初めこそ塩気が物足りない気がするが、飲み終わりにはそれが程よくもう少し飲みたいなと感じさせる。それこそまさに、いい塩梅ってもんだ。そこから素材の旨味の溶け込んだ複雑な味の鍋へ繋げる。

「ノアさん。すごく美味しいです。こんなの初めて。スティ姉のレシピは全部、あなたが考えたんですよね? 尊敬します」

「――腕はもうエステラの方が上だよ。それに、ネスリングみんなスが作ったオリジナルもある」

 俺は苦笑いでそう答える、彼女は『謙遜してっ!』と笑顔で肩をバチコーンと叩いてきたが事実だ。

 にぎやかな食事風景を見ながら、俺は用意した盃の日本酒をそっと掲げる。



 ――――献杯。

 そして、あおるように飲み干した。二十歳ではないが今日は許してくれ。俺の国には故人をいたみにぎやかに食事をして送る文化がある。この場はジョシュアさんの為に誂えた追悼だ。

 ゴブリンへ恩を返したいと願った恩人へ、俺が出来る感謝の形だ。
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