305 / 403
第6章 罪咎
第45話 凶楯
しおりを挟む
――――時間が少し遡る。
シルビニオンは薄暗い森の中を走る。鬱蒼と生茂った巨木は光を遮り、陰性の背の低い植物が僅かな光を求めて疎らに生えている。
こんなに奥地へ来たのも初めてだ。その瞳には必死さが表れ、口は一文字に結ばれていた。
すると静かになった森に閃光と轟音。続く地響きが起こる。
静寂が訪れる前に聞こえていた爆音が再び鳴り響いた。
そこからの僅かな空白と耳を覆いたくなる音と光が弾ける。
――近い。
シルビニオンは走る。何故か分からない焦燥を抱えて。
前方の森が開けているのか明るい。少年はその光の中へ躍り出た。
眩む視界が慣れると青年が血塗れで倒れていた。
そして、眼に映る見慣れぬ鎧を纏った父の姿。少年の知る父はいつも狩人の格好をしていた。それは、自身も憧れた職業だ。
「お父様。ご無事でしたか」
その声にシルビニオンの姿をジョシュアが捉える。口元は穏やかな微笑みだが、眼元は険しく血走らせていた。整合の取れない歪んだ表情だ。
ノアは一瞬意識を失い動かない。
「怪我はありませんか? お父様?」
答えの無い父へ言葉を繋げる。
「お父様。どうしたのですか?」
ノアが意識を取り戻す。
「ぐっ! モルト」
絞り出されたのは、空気が漏れたような声だった。
それに、呼応するように何処からか現れた蔦がジョシュアを繋ぎとめる。だが、二度目のそれから簡単に抜け出した。
そして、シールドバッシュと凶刃がその最愛へと放たれた。
――少年は吹き飛んだ。
§
タールの中からゆっくりと水面へと浮かび上がる感覚だ。逃がすまいと粘り絡みつく。
だが、彼は白く輝く世界へ意識を覚醒させた。
そして、同時に理解する。自分が今何をしようとしているのかを。
――焦燥。
その一撃を全霊で止めにかかるが、知覚するのが遅すぎた。
眼前へと迫る息子を殺傷する攻撃は放たれた。彼の最愛へと。
§
「逃がさんぞ。――聖騎士」
悪意は呟いた。一度見つけて狙いを付けていた者をとうとう取り込んだ。それが、今は自我を取り戻し、身体の主導権を奪い勝手に動き出した。
ありえない状況だが、ラインは切れていない。再度手に入れるのも時間の問題だ。
聖騎士。人類最高の素材の一つ。それを手駒として利用するのだ。
突然、悪意の領域を切り裂き一筋の線が引かれる。そして、それが開き単眼が現れた。
シルビニオンは薄暗い森の中を走る。鬱蒼と生茂った巨木は光を遮り、陰性の背の低い植物が僅かな光を求めて疎らに生えている。
こんなに奥地へ来たのも初めてだ。その瞳には必死さが表れ、口は一文字に結ばれていた。
すると静かになった森に閃光と轟音。続く地響きが起こる。
静寂が訪れる前に聞こえていた爆音が再び鳴り響いた。
そこからの僅かな空白と耳を覆いたくなる音と光が弾ける。
――近い。
シルビニオンは走る。何故か分からない焦燥を抱えて。
前方の森が開けているのか明るい。少年はその光の中へ躍り出た。
眩む視界が慣れると青年が血塗れで倒れていた。
そして、眼に映る見慣れぬ鎧を纏った父の姿。少年の知る父はいつも狩人の格好をしていた。それは、自身も憧れた職業だ。
「お父様。ご無事でしたか」
その声にシルビニオンの姿をジョシュアが捉える。口元は穏やかな微笑みだが、眼元は険しく血走らせていた。整合の取れない歪んだ表情だ。
ノアは一瞬意識を失い動かない。
「怪我はありませんか? お父様?」
答えの無い父へ言葉を繋げる。
「お父様。どうしたのですか?」
ノアが意識を取り戻す。
「ぐっ! モルト」
絞り出されたのは、空気が漏れたような声だった。
それに、呼応するように何処からか現れた蔦がジョシュアを繋ぎとめる。だが、二度目のそれから簡単に抜け出した。
そして、シールドバッシュと凶刃がその最愛へと放たれた。
――少年は吹き飛んだ。
§
タールの中からゆっくりと水面へと浮かび上がる感覚だ。逃がすまいと粘り絡みつく。
だが、彼は白く輝く世界へ意識を覚醒させた。
そして、同時に理解する。自分が今何をしようとしているのかを。
――焦燥。
その一撃を全霊で止めにかかるが、知覚するのが遅すぎた。
眼前へと迫る息子を殺傷する攻撃は放たれた。彼の最愛へと。
§
「逃がさんぞ。――聖騎士」
悪意は呟いた。一度見つけて狙いを付けていた者をとうとう取り込んだ。それが、今は自我を取り戻し、身体の主導権を奪い勝手に動き出した。
ありえない状況だが、ラインは切れていない。再度手に入れるのも時間の問題だ。
聖騎士。人類最高の素材の一つ。それを手駒として利用するのだ。
突然、悪意の領域を切り裂き一筋の線が引かれる。そして、それが開き単眼が現れた。
0
お気に入りに追加
1,587
あなたにおすすめの小説
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
魔力ゼロの天才、魔法学園に通う下級貴族に転生し無双する
黄舞
ファンタジー
魔法に誰よりも強い憧れを持ち、人生の全てを魔法のために費やした男がいた。
しかし彼は魔法の源である魔力を持たず、ついに魔法を使うことができずに死んだ。
強い未練を残した彼は魂のまま世界を彷徨い、やがていじめにより自死を選んだ貴族の少年フィリオの身体を得る。
魔法を使えるようになったことを喜ぶ男はフィリオとして振舞いながら、自ら構築した魔法理論の探究に精を出していた。
生前のフィリオをいじめていた貴族たちや、自ら首を突っ込んでいく厄介ごとをものともせず。
☆
お気に入り登録していただけると、更新の通知があり便利です。
作者のモチベーションにもつながりますので、アカウントお持ちの方はお気軽にお気に入り登録していただけるとありがたいです。
よろしくお願いします。
タイトル変えました。
元のタイトル
「魔法理論を極めし無能者〜魔力ゼロだが死んでも魔法の研究を続けた俺が、貴族が通う魔導学園の劣等生に転生したので、今度こそ魔法を極めます」
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。
武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。
人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】
前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。
そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。
そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。
様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。
村を出て冒険者となったその先は…。
※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。
よろしくお願いいたします。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる