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第6章  罪咎

第15話  月華

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 ――――二週間前

 その森に一番初めに辿り着いたのは騎獣を駆る。エレオノーラだった。

 満月が光で切り取る、樹もまばらな外縁で、あの黒い箱を取り出す。

 ここは神獣の森。彼女が指示された任務の地だ。

 そして――ゆっくりとそれを開く。飛び立つは鈍色にびいろの真っ黒な蝶。表面を虹色にぬめらせる。

 ひらひらと舞う蝶は月光の中、ゆっくりと奥へと飛んで行く。それを見届けると箱をそっと樹のうろに隠した。

 そして、彼女は艶やかに笑う。血でも塗ったかのように赤い唇が月明かりを受け闇夜に浮かび上がる。

 ――するとエレオノーラは振り返り。おもむろに上空へ魔法を放った。

 撃ち落としたのは『追跡くん』木の葉のようにユラユラと舞い地面へと落ちた。

 エレオノーラがその存在に気付いたのは偶然だった。

 満月の夜に動かない黒い点を見つけた。望遠鏡で覗いて見るとどうやら魔道具らしい。

 だからそれは、何かに気付いた何者かが、自分に付けた物だと考えた。彼女はそんな事をやりかねない人物を一人だけ知っていた。

 その者が来るかどうかは分からないが、この場所を印象付ける為にここまで放置していたのだ。

 そして、ノアが追い付くより早く彼女の任務は完了した。

 青藤アメジストの瞳を持つ帝国の特別な工作員はひっそりと舞台を降りる。この後の結果は彼女の領分ではない。


§


 ――――二か月前

 王都郊外にあるダンテス公爵家別邸に二人の人物が対面している。

 一人は公爵家の嫡子レオカディオ。もう一人はガンソ・アナザラス。赤髪と空色の瞳のドワーフだ。身長は180cmを超え。手足は人間の倍程の大きさがあり、分厚い身体で横幅も広い。

「招待を受けて下さりありがとうございます。当方に貴方の一門に仇なす意思はありません。関係を強化出来ればと望んでおります」

 そうレオカディオが告げる。

「――何処まで掴んでいるんだ? まさか、ギルドより先にあんたの処から当たりがくるとは思わなかったぜ」

 ノアを介して二人は面識がある。もっとも、軽い挨拶を交わす程度であったが。

 エルフと同じようにドワーフも王国に支配されている訳ではない。決められた納税はしているが、その在りようは自由だ。

「――実は、殆ど何も分かりません。我が家の秘文に王国のドワーフは同門であることが伝えられています。そして、その主長の名がアナザラスだと記されていました」

 レオカディオは、ノアからの手紙でノルトライブのスタンピードに関係する人物にドワーフがいる事を知る。

 その情報を元に王国中に放ったダンテス家配下の働きでギルドへの無名の手紙にドワーフが関わっている事を確定した。
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