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第5章  流来

第73話  何故

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 ノアが急に走り去ったあと、サイネとアネリアは、言葉を交わす。

「アネリア。神武かみたけを助けに行きたいの。ずっと助けられてばかりのあたしが、困っているときに助けに行かないで、いつお礼を返すのよ」

「サイネ様。危険です。もしもの場合は、サイネ様の安全を優先するように、神武かみたけより指示を受けています」

「止めても無駄よ。あたしは、もう決めたの。アネリア。協力して」

 そこにせいんだ少女の面影はない。

 瞳には溌剌とした光があった。

 神武かみたけが望み育んだ、そして、少女の選んだ輝きだ。

 アネリアは、主人の意思を知り、困った顔をしながらも、それに従う。

「サイネ様。安全を第一義でお願いします。もしもの時は、私がこの身を挺します。気にせずにご自愛ください」

「――平気よ。あそこは、私の庭だもの」

 そう言うと、サイネは強い眼差しで笑った。

 二人は、ダンジョンへと向かう。

 いつもいる警備員もおらず、ダンジョンへの門は閉じられている。

 ダンジョン入り口に設置された門とは何か?

 ――気休めだ。

 スタンピードが発生すれば、門を閉じても別の出口がいくつも出来る。

 少しでも、その進行が遅れるように形式的に設置されているに過ぎない。

 アネリアは、門と接するダンジョンの壁に触れる。

 そして、首を振るとサイネに伝える。

「――反応が、ありません」

 続いて、サイネもダンジョンへ触れるが、やはり反応はない。

 通常ならば、門を閉じていても、二人が触れれば、別の入り口が作られる。

 アネリアは、剣を抜くと門の南京錠を破壊した。

 そして、閂を外して門を開けると、そこからダンジョンへと入り込んだ。

 前回のヌクレオ迷宮核沈黙の失敗を踏まえて、ダンジョンに設置された機構がある。

 ――最下層までの直通の階段だ。

 神武かみたけが沈黙しても利用できるよう、独立して設けられた。

 それでも、最下層は遠く、アネリアが急いで下っても一時間半。

 サイネを連れれば、二時間は下らないときを要する。

 アネリアは、不測の事態にも備えながら、サイネが遅れないように階段を進んだ。

~~~

 アネリアの予想通り、凡そ二時間でサイネは最下層へとたどり着く。

 その場は、耳が痛くなるほどの静謐さだ。

 たまらず、サイネは声を張る。

「――神武かみたけっ!」

 その声すら、無に吸い取られたように虚しく響かない。

 サイネは、アネリアに指示して、制御管理室。――ヌクレオ迷宮核が据えられている場所を目指す。

 ゆっくり、慎重に進むアネリア。

 そして、ついに制御管理室へ続く、最後のスライドドアが開く。

 そこには――。



 ――満身創痍のノアが立っていた。
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