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第5章 流来
第51話 悲劇
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急いた心を落ち着かせて男は少女と視線を合わせ、満面の笑顔で頭を撫でた。
「――生きてくれ」
思い出すときに、親の笑顔を瞼に描けるように。
思い出が悲しみだけで染まらないように。
「えっ? どうしたの。――お父さん」
男は黙って少女を食糧庫へ入れると寒くないように毛布を掛け、水とパンを渡し最後に、自分のペンダントを握らせた。
男は扉を閉めて、神に祈り、亡くなった妻に願った。
絨毯を敷いてそのの扉を隠すと、剣を抜き放ち、──鞘を捨てた。
玄関の前に立ち、呼吸を整える。
何度かの衝撃音の後、レンガの壁をぶち破り青黒い猿が土埃を立ち上らせて家へ入って来る。
男は猿に無言で切りかかる。
伸びてくる猿の爪をかわし、腕を切り落とした。
猿が奇声を上げると、それを聞きつけ仲間がゾロゾロと家に入って来た。
男は返す刃で手負いの猿の喉笛を切り裂き、煙へと変じさせた。
「――頼むから、俺の魂だけで満足してくれ。クラーラ。――愛している」
数分後、その場には崩れた家と男の亡骸が残された。
その日、一つの村が消滅した。
ж
エステラが村に到着すると。
巨大な何かに押しつぶされたかの様な有様だった。
城壁だけが残り家はほとんど瓦解している。
逃げ伸びた冒険者が、生存者の確認の為に声を張り上げている。
ダンジョン内の冒険者は全て飲み込まれた。
外にいた冒険者も左右に逃げたものだけが生き延び、立ち向かったものは全て倒された。
冒険者達の顔には埃で出来た涙の跡が見える。
仲間の死をひとしきり悲しみ、立ち上がった後は、生活魔法を使うことも忘れて、生存者を確認しているのだ。
隈なく崩された家々。
シェルターの扉も破壊されている。
エステラは唇を噛む。
初めて直に目にする人の死に足から力が抜けそうだ。
子供が、老人が、女性が、平等に蹂躙されていた。
つらい時こそ笑え。
そう言った人がいた。
心を奮わせてエステラは頬を吊り上げる。
笑顔とは程遠い強張った表情だが、何故かそれで力が湧いた気がした。
「――タラリア。――生存者を探して」
(――了解)
ジリジリと流れる時間。
エステラはその表情のままにジッと待つ。
(――発見)
「――生きてくれ」
思い出すときに、親の笑顔を瞼に描けるように。
思い出が悲しみだけで染まらないように。
「えっ? どうしたの。――お父さん」
男は黙って少女を食糧庫へ入れると寒くないように毛布を掛け、水とパンを渡し最後に、自分のペンダントを握らせた。
男は扉を閉めて、神に祈り、亡くなった妻に願った。
絨毯を敷いてそのの扉を隠すと、剣を抜き放ち、──鞘を捨てた。
玄関の前に立ち、呼吸を整える。
何度かの衝撃音の後、レンガの壁をぶち破り青黒い猿が土埃を立ち上らせて家へ入って来る。
男は猿に無言で切りかかる。
伸びてくる猿の爪をかわし、腕を切り落とした。
猿が奇声を上げると、それを聞きつけ仲間がゾロゾロと家に入って来た。
男は返す刃で手負いの猿の喉笛を切り裂き、煙へと変じさせた。
「――頼むから、俺の魂だけで満足してくれ。クラーラ。――愛している」
数分後、その場には崩れた家と男の亡骸が残された。
その日、一つの村が消滅した。
ж
エステラが村に到着すると。
巨大な何かに押しつぶされたかの様な有様だった。
城壁だけが残り家はほとんど瓦解している。
逃げ伸びた冒険者が、生存者の確認の為に声を張り上げている。
ダンジョン内の冒険者は全て飲み込まれた。
外にいた冒険者も左右に逃げたものだけが生き延び、立ち向かったものは全て倒された。
冒険者達の顔には埃で出来た涙の跡が見える。
仲間の死をひとしきり悲しみ、立ち上がった後は、生活魔法を使うことも忘れて、生存者を確認しているのだ。
隈なく崩された家々。
シェルターの扉も破壊されている。
エステラは唇を噛む。
初めて直に目にする人の死に足から力が抜けそうだ。
子供が、老人が、女性が、平等に蹂躙されていた。
つらい時こそ笑え。
そう言った人がいた。
心を奮わせてエステラは頬を吊り上げる。
笑顔とは程遠い強張った表情だが、何故かそれで力が湧いた気がした。
「――タラリア。――生存者を探して」
(――了解)
ジリジリと流れる時間。
エステラはその表情のままにジッと待つ。
(――発見)
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