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第5章  流来

第49話  窮鼠

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 ファギティーヴォを仕掛け街中で経過を見守っていた男の前をエステラが通り過ぎた。

 その姿は遠かったが、男にとってトラウマな人物だ。見間違うはずがない。

 男はティラナ-タの都市から騎獣車で二週間の距離を取った。

 騎獣で移動する男にとっても一〇日を要した距離だ。

 最大限の安全を確保したつもりだった。

 なのに現れた最悪の相手。

「今回の作戦は本当に憑りつかれてる。不運度がいかれてやがる。――任務の査定は下がるが、スタンピードの発生期間は、あいつに頼むか。情報は抑えているだろうしな」

 末端の男は自分が属する組織の敵対勢力が王国で根を張っていることを知らない。

 そして、その探知の精度が徐々に改善していることを。

 ファギティーヴォを使用したダンジョンの発生期間はマチマチだ。

 男にとって幸運だったのは、このダンジョンのスタンピードは二ヶ月を要した。

 不安と迷いを抱えたエステラを二ヶ月足止め出来たことになる。


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 ――半年が経った。

 今は年をまたぎ一月も半ばだ。

 エステラはその間に三つのスタンピードを制圧し、男を追って東へと移動している。

 最初の接敵以降、現場に工作員の影はない。

 男が追って来るエステラを恐れ、ファギティーヴォを仕掛けたら直ぐに移動するようになった為だ。

 エステラは最初に取り逃がした事を強く後悔している。

 追い詰められた男は無軌道になって行く。

 そして、それが一つの悲劇を生み出す。

 男は当初予定の無かったダンジョンにファギティーヴォを仕掛けた。

 仲間から自分の仕掛けたスタンピードを、的確に制圧されていると知らされたのだ。

 そこは階層も少ないほんの小さなダンジョンだ。

 近くに都市もない。

 あったのは小さな村。

 その小さなダンジョンは冒険者達が野宿をして怪物を狩っている。

 領主が依頼料を支払って行われているが、奉仕活動が目的の半分だ。

 もう半分はそれを行うことにより、ギルドへの貢献度を上げることが出来る。

 その後のランクアップに役立つ作業だ。

 ガンソの一門は王国に広く腕を広げたが、さすがに小さなその村には手は届いていなかった。

 精度の高い差出人不明の手紙は、今のエステラの行動指針となっていた。

 その報せを受けて待機していた都市。

 そこに未感知のスタンピードが現れる。

 行きがけの駄賃に自棄やけになった男の行動が発端だ。

 エステラが待機する都市より後に仕掛けられた、そのダンジョンは一週間という速さで氾濫を起こした。

 スタンピードを知らせる、警鐘と警笛の中で街に逃げ込む人の波。

 エステラはギルドへ急ぐ。
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