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第5章  流来

第44話  天蓋

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 清らかな鈴の音が脳内に響く。

 そして慣れた感覚が俺を包む。──転移の感覚だ。

 移された場所は象牙を思わせる白い床の場所だった。

 それは錬金術の塔と同じ材質に見える。

 そこに俺は立っていた。

「――ここは天蓋てんがいと呼ばれているの」

 後ろからアノアディス大師が話しかけてくる。

 天井は透明なドーム状で星が見える。

 目の前には青い美しい惑星。

 たぶん500kmぐらいの高度だ。

 ここは宇宙との境目、外気圏と呼ばれる場所だろう。

 よく目にした宇宙からの映像に似ている。

「――これは何ですか?」

 俺が見て感じたのは宇宙船かな? だ。

 もしそうならば、いまの錬金術でも届かないオーバーテクノロジーだ。

「古代真聖紀の遺物よ。エルフが管理をしていたの」

「何をするための物なんですか?」

 まさか、――兵器じゃないよね?

「それは伝わっていないわ。少し歩きましょうか」

 そう言ってアノアディス大師は歩き出す。

 アノアディス大師が白い壁に近づくと、壁が消えて上がアーチの出口が現れた。

 そこを潜ると、現れたのは完璧に整えられた自然だ。

 遠くには滝が見える。

 林に隠れて見えないが、川のせせらぎが聞こえる。

 風がそよぎ、木立の葉がさざめいていた。

 鼻をくすぐる新緑の香り。

 赤茶色の三和土たたきを思わせる通路が、まっすぐ伸びている。

 ――完璧だ。――どこまでも。

 だからこそ俺には歪に映る。

 俺の探知に一つもかからないのだ。


 ――生き物が。

 ここは完全な自然を体現しながら、生物が一切いない場所だ。

 少しダンジョンに似ているが、ダンジョンの樹は折れると煙となって消える。

 怪物と同じようにダンジョンの理に縛られているオブジェだ。

 ここの樹のように生命溢れる生物として存在していない。

「これは何のための場所なのでしょうか?」

「それも、伝わっていないわ。さぁ。――行くわよ」

 アノアディス大師に連れられて到着したのは、純白な高さ20mの多角形の建造物。

 何角かも分からない程の円柱を思わせる多角だ。

 その建物にアノアディス大師が近づいて壁に手をかざす。

 その壁も消えて無くなりアーチ状の入り口が現れる。

 アノアディス大師はためらいもなくその中に入ったので、俺もそれについて行く。

 中に入るとその明るさに驚く。

 天井も壁も透明で外が見渡せる。

 障害物がある事を感じさせないほどだ。

 そして、広間にも植物が生い茂り、完璧な調和の自然が溢れている。

 その広間の中央には椅子がある。

 先ほど座った椅子よりも複雑で、同じように花を模した流線型だ。

 寝そべるほどの角度も一緒。

「ノアちゃん。座ってみてくれる?」
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