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第5章  流来

第36話  近接

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「エステラ君。君に協力してもらいたい。エイルミィのスタンピードを単騎で収束させた君だ。お願いできないだろうか?」

「――何をすれば良いの?」

 ユストゥスはエステラに依頼する。

「スタンピードを攻撃しながら辺りに工作員がいないか探してもらいたい」

「――今回のスタンピードは混乱を目的としているのではなく。試行実験ではないかと考えていてね」

 混乱が目的なら単発にする必要がない。

 ドゥブロベルクのように一気に起こせば良いのだ。

「それならば、近くで見ているのではないかと見当を付けている」

「君には負担をかけるが、他の冒険者の気配が探知の邪魔をしないように。単騎で対応してもらいたい。そのように手紙をしたためるよ」

 手紙を受け取るとエステラは直ぐにティラナ-タを目指した。


ж


 タラリアが示した場所を目指して、エステラは闇夜を飛翔する。

 ネットが捕らえた人物を確保するためだ。

 近づくと迷彩の布がかがんだ人型を形作っている。

 放ったネットは先が地面へと突き刺さると、返しが開いて抜けないようになる。

(――消失ファンブル

 タラリアの声が頭に響く。

 その声にエステラは長ナイフを抜き、迷彩を切り裂いた。

 中に詰まっていたのは土くれだ。

 それを見てエステラは上空へと飛び上がる。

「――広域散開……貫通」

(――準備完レディ了)

 素早く弓を引き千の矢を放つ。

 放たれた矢は一本が一〇本に増えて、万の矢となって辺りに降り注いだ。

 辺りが一瞬昼間のように明るくなり。

 地表が弾けたように土埃が舞う。

「――どう?」

(――不明アンノウン

「――失敗した」

(――同意トゥアグリ

 エステラは軽くため息を吐くとスタンピードの殲滅に戻っていった。


§


 男はいつものように悪態をつく。

「あぁ~ん? 夜中のパターンね。俺が監視で寝むれないんだから、都市のクソ連中も寝れねぇのが当たり前だ。ドンドン騒いでくれ。頼んだぜぇ」

「なんだ? なんだ! しょぼい怪物しかでてこねぇな。つまんねぇの」

「夜中のスタンピードだと。無駄に長く生きてる老害連中がぽっくりお陀仏するんだよね。ざまぁ~」

 そこに青く光る無数の矢が降り注ぐ。

「んっ! 何だ。――ヤな予感。おい。おい。おいっ! ……クソあまがっ! 誰に断って来ているんだよ。おかしいだろ」

 男の計算では、ティラナ-タのギルドがスタンピードの予兆を感知して、エイルミィに連絡を走らせても、今頃やっと情報が到着するぐらいの時間だ。

 仮に長距離通信でギルドが報せを送ったとしても、エイルミィを出てこの場所に現れるのはあり得ない。

 偶然居合わせたとしか思えない。男はそう判断した。
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