上 下
176 / 403
第5章  流来

第11話  疾駆

しおりを挟む
 ギルド長のダジルから呼び出されたエステラはスタンピードへの対策を依頼された。

 目的の方向と逆になる為に彼女は逡巡する。

 そして良くウェンから言われた言葉を考えた。

「そういう時は心に聞くの」という言葉だ。

 それがきっかけで弓挺きゅうてい料理人の自分がいる。

(師匠の元に直ぐに行きたい。でも……)

 そこでエステラはノアの言葉を思い出した。

 優しく温かい幸せなまじないの言葉だ。

 今回の提案はその“”内の事だろう。

「あたしが行かないと――困る人が居ますか?」

 うつされたまじないはエステラの中で昇華され彼女の人生の指針となった。

 他人の為に笑顔でノアのように、自分もそうある為に。

「今のこのギルドで――最善がお前だ」

 初級から準中級がひしめくドゥブロベルクでエステラのクラスはB級。

 そして――五つのダンジョンの制覇者だ。

 彼女を超える冒険者はドゥブロベルクにいない。

 決めたら直ぐに動き出せ。エステラの心がそう叫ぶ。

「――分かりました。行きます」

「すまない。無理を聞いてくれてありがとう。出来る範囲で良いからな」

 エイルミィのダンジョンはいつスタンピードが起きてもおかしくない状況だと連絡があった。

 冒険者のダンジョンへの立入りは既に禁止されていて、ドゥブロベルクからも応援の冒険者を出発させている。

 そんな時に現れたのがエステラだ。

 ドゥブロベルクが切れる最高の切り札。

「――はい」

 エステラはそう力強く返事をした。

 ギルド長のダジルは孫ほど年のはなれたエステラを見つめる。

(あいつはノルトライブの最高傑ワンズ作と自慢するが、ドゥブロベルクの最高傑作も引けをとらないぞ。心根の優しい冒険者だ)

 騎獣車を用意するというギルドの申し出を断りエステラは走り出す。

 ――その方が早いと言って。

 エステラはバルサタールから本気を出すなと制限されていた能力を開放する。

 腰に装備したタラリア。

 形は蝶を思わせる先の平らな菱形で大小対の二枚からなり計四枚で構成される。

 神話に登場する靴の名に由来を持つタラリアの能力は。


 ――飛行だ。

 エステラは空を飛ぶ。

 ドゥブロベルクからエイルミィまでの距離はおよそ300km。

 あるいて一週間。

 騎獣車でも二日の距離だ。

 その距離をエステラは四時間で到達する。

 今回がバルサタールの手を離れて一人で戦うデビュー戦だ。

 ノアが世間に知られるより早くエステラの名は広まる。

 万夫不当の一騎当千として。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

最強の男ギルドから引退勧告を受ける

たぬまる
ファンタジー
 ハンターギルド最強の男ブラウンが突如の引退勧告を受け  あっさり辞めてしまう  最強の男を失ったギルドは?切欠を作った者は?  結末は?  

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

処理中です...