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第4章 飄々
第34話 召喚
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――――城楯都市ドゥブロベルク
初代ギルド統括を務めた賢者は言った。この世界は努力が報われる世界だと。
だからこそ冒険者達を叱咤した。強さはダンジョンと日々の研鑽の中にあると。
その言葉を思い出しながらバルサタールはエステラに話しかける。
「嬢ちゃん。基礎の体力と訓練は付けたが、結局はダンジョンに入らないと冒険者は強くなれない。訓練だけで強くなる坊主みたいなのが異常だ。あいつの場合は未成年で冒険者に成れなかったが、嬢ちゃんなら問題ない。これから初めてのダンジョンだ。気合を入れろ」
「先生。分かってる」
エステラは短い金髪の下の青い瞳を力強く見開いて答える。
美しい白亜の肌に可愛らしいそばかすの頬は少し紅潮して見える。
気合を入れるように無地のバンダナを頭に巻いた。
バルサタールはエステラに近接戦闘では回避をメインで教えた。
彼女の獲物は両手に持つ長めのナイフだ。逆手に構え攻撃を躰から逃がすように受け流すパリィが基本戦術だ。
攻撃はパリィカウンター。
敵からの攻撃を外に流して、そのままワンアクションで相手を刻む。
メイン武器はウェンの要望の通り弓を練習している。
(初心者ダンジョンで様子見と行くか)
~~~
(嬢ちゃんの能力は並みか。少し劣る。だが、急所と好機を見通す目は良いな。料理人の特徴か? だが、最初の見立て通り頑張ってB級ってとこだな)
バルサタールは特別の許可を貰いエステラをダンジョン内でも引率している。
弓の訓練の時は前衛を引き受け、近接戦闘の訓練の時は後衛にいていつでも危険を排除できるようにする。
(努力が実を結ぶ。そんな甘い話はないが、自分の場所を勝ち取ろうとするなら協力するまでよ)
「嬢ちゃん。馬鹿正直に真っ直ぐ下がるな。ステップだ。虚と実を混ぜろ。――そうっ! それだ」
バルサタールは気丈にも弱い体で最前線の辺境都市までやって来た嫁を思い出していた。
今の肝っ玉に通ずる芯の強さはその頃からあった。
「力では勝てない相手の方が多い。今のうちから力の流し方。そして勝負の勘所を磨け。そこが嬢ちゃんの活路だ」
若かりし日の細君と同じ光を目に宿した少女の未来を微笑ましく見守る。
◇
――――半年後
やって参りました。
日本で言えば五月の田植え。
水の張られた水田て素朴な美しさがあるよね。
秋に撒いたレンゲは問題なく根粒菌を取り込んで育った。
レンゲは可哀そうだが咲いたら直ぐにすき込んじゃうんだけどね。
緑肥は全般的にそうだけどその方が柔らかくて分解も早いんだ。
代掻きなんかの準備もあるし仕方がない。
それにここの田んぼはもう俺の手を完全に離れた。
王都と同じように六条植えの乗用田植機が今まさに苗を植えている。
イェルダさんのたっての希望で前倒しされた社内食堂の開店も間近だ。
社内食堂は一般にも開放されて新たな野菜と料理のアンテナショップとなる。
当初計画していた通りレセプション。
プレオープンを経てグランドオープンを迎える予定だ。
イェルダさんから賄い料理のレシピを頼まれたんだけど。
どうしてだろう?
賄いは店の人が考えるものだよね? まぁ。料理を考えるのは吝かではないが。
料理と言えばマスターさんが何故か料理に目覚めた。
今はもう名前のサイネさんて呼んでるんだ。
毎週もらってる卵も余り気味だけど。
卵の受け取りの時に何か新しい料理を教えている。
メキメキと上達中だ。
他にはこの都市で取れた赤卵が少しずつ流通するようになった。
まだ富裕層でしか手にできないが採卵場の規模は拡大しているから夢は広がる。
――――さらに1年後
この世界で四度目の田植えの時期だ。
それを見守りながらこの一年を思い返す。
冒険者のランクはB級に上がった。
A級に上がるには複数のギルド長の推薦が必要らしい。
まぁ。急ぐ必要もない。
大きな変化は一般市民でもたまに卵が買えるくらいには普及した。
トラクターゴーレムの数も増えて珍しくなくなって来た。
俺の身長も伸びたぜ。190cm近いかな?
結構この都市には長居したしボチボチ河岸を変える時期だと思う。
この世界の色々な風景を見てみたいしね。
見た事の無い食材を口にしたい。
当初の計画の通りアレを錬金召喚しようと思う。
目立ちすぎるからトラクターゴーレムの普及を待っていたんだ。
もう我慢できないってのもあるけどね。
人気のない場所を見つけて日本から錬金召喚するっ!
――――いでよっ!
俺は呼び出した確かな手応えとともに意識を失った。
暗転する意識の中で何か鈴の音を聞いた気がした。
§
――――リリン♪
知的エネルギー体を顕現させました。
階位が上がります。
初代ギルド統括を務めた賢者は言った。この世界は努力が報われる世界だと。
だからこそ冒険者達を叱咤した。強さはダンジョンと日々の研鑽の中にあると。
その言葉を思い出しながらバルサタールはエステラに話しかける。
「嬢ちゃん。基礎の体力と訓練は付けたが、結局はダンジョンに入らないと冒険者は強くなれない。訓練だけで強くなる坊主みたいなのが異常だ。あいつの場合は未成年で冒険者に成れなかったが、嬢ちゃんなら問題ない。これから初めてのダンジョンだ。気合を入れろ」
「先生。分かってる」
エステラは短い金髪の下の青い瞳を力強く見開いて答える。
美しい白亜の肌に可愛らしいそばかすの頬は少し紅潮して見える。
気合を入れるように無地のバンダナを頭に巻いた。
バルサタールはエステラに近接戦闘では回避をメインで教えた。
彼女の獲物は両手に持つ長めのナイフだ。逆手に構え攻撃を躰から逃がすように受け流すパリィが基本戦術だ。
攻撃はパリィカウンター。
敵からの攻撃を外に流して、そのままワンアクションで相手を刻む。
メイン武器はウェンの要望の通り弓を練習している。
(初心者ダンジョンで様子見と行くか)
~~~
(嬢ちゃんの能力は並みか。少し劣る。だが、急所と好機を見通す目は良いな。料理人の特徴か? だが、最初の見立て通り頑張ってB級ってとこだな)
バルサタールは特別の許可を貰いエステラをダンジョン内でも引率している。
弓の訓練の時は前衛を引き受け、近接戦闘の訓練の時は後衛にいていつでも危険を排除できるようにする。
(努力が実を結ぶ。そんな甘い話はないが、自分の場所を勝ち取ろうとするなら協力するまでよ)
「嬢ちゃん。馬鹿正直に真っ直ぐ下がるな。ステップだ。虚と実を混ぜろ。――そうっ! それだ」
バルサタールは気丈にも弱い体で最前線の辺境都市までやって来た嫁を思い出していた。
今の肝っ玉に通ずる芯の強さはその頃からあった。
「力では勝てない相手の方が多い。今のうちから力の流し方。そして勝負の勘所を磨け。そこが嬢ちゃんの活路だ」
若かりし日の細君と同じ光を目に宿した少女の未来を微笑ましく見守る。
◇
――――半年後
やって参りました。
日本で言えば五月の田植え。
水の張られた水田て素朴な美しさがあるよね。
秋に撒いたレンゲは問題なく根粒菌を取り込んで育った。
レンゲは可哀そうだが咲いたら直ぐにすき込んじゃうんだけどね。
緑肥は全般的にそうだけどその方が柔らかくて分解も早いんだ。
代掻きなんかの準備もあるし仕方がない。
それにここの田んぼはもう俺の手を完全に離れた。
王都と同じように六条植えの乗用田植機が今まさに苗を植えている。
イェルダさんのたっての希望で前倒しされた社内食堂の開店も間近だ。
社内食堂は一般にも開放されて新たな野菜と料理のアンテナショップとなる。
当初計画していた通りレセプション。
プレオープンを経てグランドオープンを迎える予定だ。
イェルダさんから賄い料理のレシピを頼まれたんだけど。
どうしてだろう?
賄いは店の人が考えるものだよね? まぁ。料理を考えるのは吝かではないが。
料理と言えばマスターさんが何故か料理に目覚めた。
今はもう名前のサイネさんて呼んでるんだ。
毎週もらってる卵も余り気味だけど。
卵の受け取りの時に何か新しい料理を教えている。
メキメキと上達中だ。
他にはこの都市で取れた赤卵が少しずつ流通するようになった。
まだ富裕層でしか手にできないが採卵場の規模は拡大しているから夢は広がる。
――――さらに1年後
この世界で四度目の田植えの時期だ。
それを見守りながらこの一年を思い返す。
冒険者のランクはB級に上がった。
A級に上がるには複数のギルド長の推薦が必要らしい。
まぁ。急ぐ必要もない。
大きな変化は一般市民でもたまに卵が買えるくらいには普及した。
トラクターゴーレムの数も増えて珍しくなくなって来た。
俺の身長も伸びたぜ。190cm近いかな?
結構この都市には長居したしボチボチ河岸を変える時期だと思う。
この世界の色々な風景を見てみたいしね。
見た事の無い食材を口にしたい。
当初の計画の通りアレを錬金召喚しようと思う。
目立ちすぎるからトラクターゴーレムの普及を待っていたんだ。
もう我慢できないってのもあるけどね。
人気のない場所を見つけて日本から錬金召喚するっ!
――――いでよっ!
俺は呼び出した確かな手応えとともに意識を失った。
暗転する意識の中で何か鈴の音を聞いた気がした。
§
――――リリン♪
知的エネルギー体を顕現させました。
階位が上がります。
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