159 / 403
第4章 飄々
第32話 実演
しおりを挟む
収穫祭の翌日。
週の始まりはマスターさんと神武さんとの卵の取引だ。
まだ飼料を潤沢に用意できる王都だけだが地域ブランド地鶏化事業も開始されている。
卵の取引は事前に指定した量を受け取るだけだったが、今は少し変化があった。
俺が毎回持参する手土産のせいかマスターさんが料理に興味を持っているらしく。
神武さんから念話で秘密裏にマスターさんを料理作りに誘ってくれないかと打診があった。
言われてみるとつっけんどんだった態度が軟化し手土産を食べながら何で出来ているのか聞かれるようになった。
そうお願いされれば利は元にありを標榜する俺だ。
取引相手との円滑な関係の為に神武さんのお願いを聞き入れるのも吝かではない。
今日の手土産で持って来たクグロフを食べているマスターさんに話しかける。
クグロフは焦げ茶色の王冠状のお菓子で真ん中に空洞があり。斜めにねじり上がる規則的な凹凸が特徴的なお菓子だ。
シフォンケーキをイメージすると伝わりやすいかな。実際にクグロフ型でシフォンを焼くこともある。
表面をナパージュで艶を付けてあり、粉糖を溶いて流しかけた真っ白な化粧が美しい。
その上に細かく刻んだ色とりどりのドライフルーツが振りかけられている。
例のごとく菓子職人エミリアの作品だ。
「マスターさん。料理に興味があるなら何か作ってみませんか?」
ピタリと動きを止めるマスターさん。
「いえ。大丈夫。――――でもどうやって作るのかは見てみたいかも」
ちらりと神武さんを見ると先を促すように軽く頷いた。
「どんな料理に興味がありますか?」
「そうね。いつもあなたが持って帰る卵で作る料理を見てみたい」
「構いませんが――」
「ノアさん。調理場所と卵はこちらで用意します。お手間でなければお願いできますか?」
神武さんがそう言うと部屋にキッチンが現れた。
魔道具コンロというよりもホテルの厨房を思わせる設備だ。
「道具は好きに使っていただいて構いません。どうぞ宜しくお願いします」
戸棚を開けるとアルミのボウルにレードルと地球仕様の調理器具が揃っていた。
鍋に水を用意して卵とジャガイモをシャララン魔法できれいにして一緒に煮る。
根菜類は水から茹でるが基本だからね。
大きいボウルを用意して左手に手持ちの小さなボウルを持つ。
片手で割った卵を手持ちの小さなボウルに入れて異常がないか確認してから大きなボウルに入れる。
万に一つでも中に血の混ざった血卵の混入や異常のあった卵を入れて全てを台無しにしないようにする和食の基本作業だ。
食材を無駄にしてはいけないという生命への感謝と、そして最善の食材をお客様へお出しするおもてなしの心だ。
俺はばーさまに叩き込まれた。そこに手抜きは許されない。
必要分が溜まったら卵を泡立て器で混ぜて濾し器でこす。白身のかたまりやカラザ、泡を除いて滑らかにするためだ。
一つのボウルを用意して小さなボウルにエッグセパレーターを付けて白身と黄身を分離する。
同じように白身を濾しておいておく。
――俺が作る料理。
一つはド定番のプリン。
一つはプリンと同じ工程なのに温かく食べる茶碗蒸しで違いを味わってもらう。
もう一つは出汁巻き玉子。
もう一つは茹で玉子がポイントのポテトサラダ。
最後の一つはホウレン草と卵を使ったスフォルマートだ。
これが領主向けに開発したおしゃれレシピだぜ。
四〇分ほどで作り上げるとマスターさんは楽しそうに見ていた。
その後ろに立つ神武さんも嬉しそうだ。
どれも簡単な料理だから映像録画していれば再現できるだろう。
サービスで調味料と食材は置いて行った。
神武さんとの約束の温泉は三〇階層に用意してもらった。
このダンジョンに用意してもらった温泉は想像以上の場所だった。
左手にエメラルドグリーンの湖畔が広がり右手に白糸の滝が流れ落ちる。
木漏れ日が涼やかな水辺の一画。
無臭だがトロリとした肌触りの白濁した温泉が源泉かけ流しで湧いていた。
俺がダンジョンに来たときは毎回入浴している。
監視の目?
一五歳を過ぎた男が何を見られて恥ずかしいってんだ。
全く気にしない。
今日もこれから入りに行こう。
マスターさんに別れを告げて俺は三〇階層を目指した。
週の始まりはマスターさんと神武さんとの卵の取引だ。
まだ飼料を潤沢に用意できる王都だけだが地域ブランド地鶏化事業も開始されている。
卵の取引は事前に指定した量を受け取るだけだったが、今は少し変化があった。
俺が毎回持参する手土産のせいかマスターさんが料理に興味を持っているらしく。
神武さんから念話で秘密裏にマスターさんを料理作りに誘ってくれないかと打診があった。
言われてみるとつっけんどんだった態度が軟化し手土産を食べながら何で出来ているのか聞かれるようになった。
そうお願いされれば利は元にありを標榜する俺だ。
取引相手との円滑な関係の為に神武さんのお願いを聞き入れるのも吝かではない。
今日の手土産で持って来たクグロフを食べているマスターさんに話しかける。
クグロフは焦げ茶色の王冠状のお菓子で真ん中に空洞があり。斜めにねじり上がる規則的な凹凸が特徴的なお菓子だ。
シフォンケーキをイメージすると伝わりやすいかな。実際にクグロフ型でシフォンを焼くこともある。
表面をナパージュで艶を付けてあり、粉糖を溶いて流しかけた真っ白な化粧が美しい。
その上に細かく刻んだ色とりどりのドライフルーツが振りかけられている。
例のごとく菓子職人エミリアの作品だ。
「マスターさん。料理に興味があるなら何か作ってみませんか?」
ピタリと動きを止めるマスターさん。
「いえ。大丈夫。――――でもどうやって作るのかは見てみたいかも」
ちらりと神武さんを見ると先を促すように軽く頷いた。
「どんな料理に興味がありますか?」
「そうね。いつもあなたが持って帰る卵で作る料理を見てみたい」
「構いませんが――」
「ノアさん。調理場所と卵はこちらで用意します。お手間でなければお願いできますか?」
神武さんがそう言うと部屋にキッチンが現れた。
魔道具コンロというよりもホテルの厨房を思わせる設備だ。
「道具は好きに使っていただいて構いません。どうぞ宜しくお願いします」
戸棚を開けるとアルミのボウルにレードルと地球仕様の調理器具が揃っていた。
鍋に水を用意して卵とジャガイモをシャララン魔法できれいにして一緒に煮る。
根菜類は水から茹でるが基本だからね。
大きいボウルを用意して左手に手持ちの小さなボウルを持つ。
片手で割った卵を手持ちの小さなボウルに入れて異常がないか確認してから大きなボウルに入れる。
万に一つでも中に血の混ざった血卵の混入や異常のあった卵を入れて全てを台無しにしないようにする和食の基本作業だ。
食材を無駄にしてはいけないという生命への感謝と、そして最善の食材をお客様へお出しするおもてなしの心だ。
俺はばーさまに叩き込まれた。そこに手抜きは許されない。
必要分が溜まったら卵を泡立て器で混ぜて濾し器でこす。白身のかたまりやカラザ、泡を除いて滑らかにするためだ。
一つのボウルを用意して小さなボウルにエッグセパレーターを付けて白身と黄身を分離する。
同じように白身を濾しておいておく。
――俺が作る料理。
一つはド定番のプリン。
一つはプリンと同じ工程なのに温かく食べる茶碗蒸しで違いを味わってもらう。
もう一つは出汁巻き玉子。
もう一つは茹で玉子がポイントのポテトサラダ。
最後の一つはホウレン草と卵を使ったスフォルマートだ。
これが領主向けに開発したおしゃれレシピだぜ。
四〇分ほどで作り上げるとマスターさんは楽しそうに見ていた。
その後ろに立つ神武さんも嬉しそうだ。
どれも簡単な料理だから映像録画していれば再現できるだろう。
サービスで調味料と食材は置いて行った。
神武さんとの約束の温泉は三〇階層に用意してもらった。
このダンジョンに用意してもらった温泉は想像以上の場所だった。
左手にエメラルドグリーンの湖畔が広がり右手に白糸の滝が流れ落ちる。
木漏れ日が涼やかな水辺の一画。
無臭だがトロリとした肌触りの白濁した温泉が源泉かけ流しで湧いていた。
俺がダンジョンに来たときは毎回入浴している。
監視の目?
一五歳を過ぎた男が何を見られて恥ずかしいってんだ。
全く気にしない。
今日もこれから入りに行こう。
マスターさんに別れを告げて俺は三〇階層を目指した。
0
お気に入りに追加
1,583
あなたにおすすめの小説
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
異世界大日本帝国
暇人先生
ファンタジー
1959年1939年から始まった第二次世界大戦に勝利し大日本帝国は今ではナチス並ぶ超大国になりアジア、南アメリカ、北アメリカ大陸、ユーラシア大陸のほとんどを占領している、しかも技術も最先端で1948年には帝国主義を改めて国民が生活しやすいように民主化している、ある日、日本海の中心に巨大な霧が発生した、漁船や客船などが行方不明になった、そして霧の中は……
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。
かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる
竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。
ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする.
モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする.
その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる