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第4章 飄々
第14話 開始
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農家も野菜を作らないと生活できないという側面はあるが、誰も効率的な栽培限界に挑んでいないのだ。
本来ならば公の部署が管轄しなければいけない問題だと思う。
例として参考になるか分からないが、先進的農業を試したケンちゃんの圃場で麦の1haの収穫量は5tだ。
この収穫量は化成肥料の使用実験ではもっと伸ばせるかもしれない。
以上が今の王国を取りまく農業の環境だ。
今回俺が計画した100haは、試算で五,〇〇〇人分の小麦を作れる面積だ。
だが王国の方針もありどの都市も今のところ小麦は足りていた。
だから俺達はそれ以外の野菜を作ることを都市から期待され求められている。
王民団体の料理部門は農業部門との両輪だ。
農業部門が作った野菜を料理として提供する。と同時に王民事業体は野菜の集積販売店を兼ねる。
余りそうな野菜で料理を作りロスをなくし、野菜の認知度を上げてゆく。
今の王国で穀物以外の生産物を作り消費及び販売する仕組みがあるのが唯一王民事業体ということだ。
さて、話は変わるが俺はケンちゃんの圃場で色々試したことがある。
俺の魔法で耕した圃場は俺の管理地として登録される。
そしてモルトが耕した圃場もまた俺の管理地として登録される。
逆もまた同じで俺とモルトは管理地を共有する。
まぁ。もっともモルトの方が出来ることが多いんだがね。
では俺は開墾では監督するだけ何もしないのか?
それは否だ。
頼んだぞっ!
――チャムとカロ。
ケンちゃんのところで実験した結果。
チャムとカロが手伝っても俺の管理地とはならない。
チャムが水の精霊でカロが植物――エルフ的には生命の精霊だ。
灌木がまばらに生え膝丈の草が生い茂った開墾予定地。
カロが灌木も草も枯れさせ黒い腐食へと変えてゆく。黒く変わった草原が視界の中で瞬く間に広がった。
チャムが水分をコントロールして最適な土壌水分を維持する。
十分ほどで10ha程の凹凸のある表面が真っ黒の地面が出来上がった。
それじゃっ! いきますかっ!
◇
王民事業体イ-ディセルで農業部門の事前説明を受けていたクラウスは急に現れた青年に連れ出されると開墾予定地へとやって来た。
十九歳のクラウスより少し背の低い青年はノアと名乗った。
開墾作業の指導員だという。
クラウスが見つめる中、青年の前の荒れ地の灌木や草が緑の光とともにみるみる枯れて黒く変色して行く。
「――っ! ノア君。何が起きているの?」
「あぁ。これはケンちゃん直伝のスペシャル魔法です。本家はもっと凄いですよ」
「ケンちゃん? それは誰だい?」
付き添いで来ていた王民事業のコンラートがため息交じりに補足する。
「王都の王民事業体イーディセルの農業部門の代表ケィンリッドさんの愛称です。ノアさんは懇意にしていましてね」
「ケィンリッドさんの……すごい魔法ですね」
コンラートは苦笑いして相槌を打った。
「ははは。そうですね」
コンラートはケィンリッドがそんな魔法を使えないことを良く知っている。
レオカディオからノアのフォロ-をくれぐれも頼むと言いつかってはいるが。
王都では居たブレーキ役のパオラの存在を懐かしく、そして心強かったなと思う。
(ノアさん。お目付け役がいなくなって自重しなくなってないかな)
コンラートは自分では止められそうもないノアに戦々恐々だ。
「準備も出来ましたので早速トラクターゴーレムの操作説明を始めます」
そうノアが言うとクラウスの目の前に黒い軽鉄で出来た見たことの無い大きなものが現れる。
「これがメイリン&ガンソ社製のトラクターゴーレムです。畑の耕耘などに使います。後ろの部分がロータリーです」
「紹介票を見ましたが皆さん土魔法が使えると聞いています。あとでどんなことが出来るか見せてもらいますが、先にこのトラクターゴーレムで開墾予定地の耕耘作業をしてもらいます」
そう言ってノアはトラクターゴーレムの後部座席に狭そうに座り込んだ。
「それでは一番前のあなたからいってみましょうかっ!」
そう言ってクラウスを手招きする。
クラウスはおっかなびっくり座席に座りノアの方を振り向く。
「どうすればいいのかな?」
ノアの指示通りトラクターゴーレムを動かすと驚くほどの速さで土が耕かされてゆく。
「旋回するときはブレーキが左右で独立していますから回る方と逆のペダルを――そうそっちです」
(なるほど。こうすると回り易いのか)
クラウスが畑を行き返りしてくると他の者と交代して一巡するまで繰り返された。
「トラクターゴーレムの感覚は分かったと思います。何度か繰り返し耕耘して土が柔らかくなりました。ここへ魔法で畝を立ててください。畝幅は90cmで二列いけるかな? 四人で分担してお願いします」
言われた通り二人は半分ほどのところから土魔法を使い畝立てを始める歩く速度で段々と畝が出来てゆく。
二畝出来たところでノアが集まるように声をかける。
「ケンちゃんから分けてもらった種を撒きます。左端の一畝はホウレン草を三列。実験も兼ねて一列は慣行の筋蒔きで他の二列は株間が4cm間隔で一列は二粒撒きもう一列は一粒撒きです。この農具を使ってください。ガンソ式播種機です。筋蒔きも播種間隔もすでに調整してあります。ほうれん草の畝間は15cmでお願いします」
ノアが軽鉄で出来た黒いガンソ式播種機を三台とりだして操作を説明する。
「となりのもう一畝にはキャベツを撒きます。畝間は60cmで株間は40cmです。撒く種は三粒で調整しています。この播種機を使ってください」
そう言うと更に二台の播種機を取り出した。
ノアは細かい指示をしながら播種機の使い方を指導するそれが終わると。
「ホウレン草はこの鎮圧ローラーでしっかりと鎮圧してください。鎮圧すると地表の乾燥を防ぎ地下の水分が地中に集まり発芽を助けてくれます」
「明日は朝から開墾作業を始めましょう。予定が合わない方はいますか?」
いつの間にか農業部門は始動していた。
本来ならば公の部署が管轄しなければいけない問題だと思う。
例として参考になるか分からないが、先進的農業を試したケンちゃんの圃場で麦の1haの収穫量は5tだ。
この収穫量は化成肥料の使用実験ではもっと伸ばせるかもしれない。
以上が今の王国を取りまく農業の環境だ。
今回俺が計画した100haは、試算で五,〇〇〇人分の小麦を作れる面積だ。
だが王国の方針もありどの都市も今のところ小麦は足りていた。
だから俺達はそれ以外の野菜を作ることを都市から期待され求められている。
王民団体の料理部門は農業部門との両輪だ。
農業部門が作った野菜を料理として提供する。と同時に王民事業体は野菜の集積販売店を兼ねる。
余りそうな野菜で料理を作りロスをなくし、野菜の認知度を上げてゆく。
今の王国で穀物以外の生産物を作り消費及び販売する仕組みがあるのが唯一王民事業体ということだ。
さて、話は変わるが俺はケンちゃんの圃場で色々試したことがある。
俺の魔法で耕した圃場は俺の管理地として登録される。
そしてモルトが耕した圃場もまた俺の管理地として登録される。
逆もまた同じで俺とモルトは管理地を共有する。
まぁ。もっともモルトの方が出来ることが多いんだがね。
では俺は開墾では監督するだけ何もしないのか?
それは否だ。
頼んだぞっ!
――チャムとカロ。
ケンちゃんのところで実験した結果。
チャムとカロが手伝っても俺の管理地とはならない。
チャムが水の精霊でカロが植物――エルフ的には生命の精霊だ。
灌木がまばらに生え膝丈の草が生い茂った開墾予定地。
カロが灌木も草も枯れさせ黒い腐食へと変えてゆく。黒く変わった草原が視界の中で瞬く間に広がった。
チャムが水分をコントロールして最適な土壌水分を維持する。
十分ほどで10ha程の凹凸のある表面が真っ黒の地面が出来上がった。
それじゃっ! いきますかっ!
◇
王民事業体イ-ディセルで農業部門の事前説明を受けていたクラウスは急に現れた青年に連れ出されると開墾予定地へとやって来た。
十九歳のクラウスより少し背の低い青年はノアと名乗った。
開墾作業の指導員だという。
クラウスが見つめる中、青年の前の荒れ地の灌木や草が緑の光とともにみるみる枯れて黒く変色して行く。
「――っ! ノア君。何が起きているの?」
「あぁ。これはケンちゃん直伝のスペシャル魔法です。本家はもっと凄いですよ」
「ケンちゃん? それは誰だい?」
付き添いで来ていた王民事業のコンラートがため息交じりに補足する。
「王都の王民事業体イーディセルの農業部門の代表ケィンリッドさんの愛称です。ノアさんは懇意にしていましてね」
「ケィンリッドさんの……すごい魔法ですね」
コンラートは苦笑いして相槌を打った。
「ははは。そうですね」
コンラートはケィンリッドがそんな魔法を使えないことを良く知っている。
レオカディオからノアのフォロ-をくれぐれも頼むと言いつかってはいるが。
王都では居たブレーキ役のパオラの存在を懐かしく、そして心強かったなと思う。
(ノアさん。お目付け役がいなくなって自重しなくなってないかな)
コンラートは自分では止められそうもないノアに戦々恐々だ。
「準備も出来ましたので早速トラクターゴーレムの操作説明を始めます」
そうノアが言うとクラウスの目の前に黒い軽鉄で出来た見たことの無い大きなものが現れる。
「これがメイリン&ガンソ社製のトラクターゴーレムです。畑の耕耘などに使います。後ろの部分がロータリーです」
「紹介票を見ましたが皆さん土魔法が使えると聞いています。あとでどんなことが出来るか見せてもらいますが、先にこのトラクターゴーレムで開墾予定地の耕耘作業をしてもらいます」
そう言ってノアはトラクターゴーレムの後部座席に狭そうに座り込んだ。
「それでは一番前のあなたからいってみましょうかっ!」
そう言ってクラウスを手招きする。
クラウスはおっかなびっくり座席に座りノアの方を振り向く。
「どうすればいいのかな?」
ノアの指示通りトラクターゴーレムを動かすと驚くほどの速さで土が耕かされてゆく。
「旋回するときはブレーキが左右で独立していますから回る方と逆のペダルを――そうそっちです」
(なるほど。こうすると回り易いのか)
クラウスが畑を行き返りしてくると他の者と交代して一巡するまで繰り返された。
「トラクターゴーレムの感覚は分かったと思います。何度か繰り返し耕耘して土が柔らかくなりました。ここへ魔法で畝を立ててください。畝幅は90cmで二列いけるかな? 四人で分担してお願いします」
言われた通り二人は半分ほどのところから土魔法を使い畝立てを始める歩く速度で段々と畝が出来てゆく。
二畝出来たところでノアが集まるように声をかける。
「ケンちゃんから分けてもらった種を撒きます。左端の一畝はホウレン草を三列。実験も兼ねて一列は慣行の筋蒔きで他の二列は株間が4cm間隔で一列は二粒撒きもう一列は一粒撒きです。この農具を使ってください。ガンソ式播種機です。筋蒔きも播種間隔もすでに調整してあります。ほうれん草の畝間は15cmでお願いします」
ノアが軽鉄で出来た黒いガンソ式播種機を三台とりだして操作を説明する。
「となりのもう一畝にはキャベツを撒きます。畝間は60cmで株間は40cmです。撒く種は三粒で調整しています。この播種機を使ってください」
そう言うと更に二台の播種機を取り出した。
ノアは細かい指示をしながら播種機の使い方を指導するそれが終わると。
「ホウレン草はこの鎮圧ローラーでしっかりと鎮圧してください。鎮圧すると地表の乾燥を防ぎ地下の水分が地中に集まり発芽を助けてくれます」
「明日は朝から開墾作業を始めましょう。予定が合わない方はいますか?」
いつの間にか農業部門は始動していた。
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