上 下
133 / 403
第4章  飄々

第6話  反転

しおりを挟む
 さて、どうしたもんかね。

 いろいろ試してみたが守武かみたけを名乗る男の人に俺の方から影響を与えることは出来ない。

 ヌクレオさんの意思は確認した。もとのコアの状態に戻りたいだ。そして少女の心に寄り添いたい(俺的な意訳)

 まぁ。実際にはいつも通り少女を支えたいということだった。

 コアルームには少女にロックをかけられた。

 もう守武かみたけさんが入ることは不可能だ。

「ノアさん。提案なのですがアレをこの部屋に呼んでもらえませんか?」

「えっ? 私にそんなこと出来ますかね?」

「はい。今は貴方にしか出来ません」

「えっ? ――それはどういう?」

 まぁ。ヌクレオさんが言うならダメもとでやってみようか、器用で貧乏が自慢な俺だ。

 為せば成るかな?

 今の少女はぼぉーっと突っ立っているように見える。

「あの女の子が居ない時の方がいいんじゃないですかね?」

「いえ。いた方が効果的です。是非今直ぐにお願いします」

「は、はぁぁ」

 今俺の右手首にツイストバンクルはない。

 晴れ晴れする気分だが、たぶん気のせいだ。

 ウェン師が言っていた魂にリンクしてる状態ってやつだろう。

 ウェン師は何て言っていた?

 リンクが強くなるか、手首に戻るかはやってみないと分からない。

 今の俺は不穏な方が起こらないことをお祈りしている。

 そしてその見覚えのあるヤツは守武かみたけさんの左手首についている。

 ヌクレコアオに触るにしてもツイストバンクル側で触った方がいいだろう。

 おれの予感がそう告げる。

 まぁ。それではリクエストにお応えしていっちょ念じてみましょうか!

 そのとき――少女が何か呟いた。 

 俺はコアルームのダンジョンのヌクレコアオが守武かみたけさんの左手近くに現れろと念ずる。


 ――現れたるは透明なヌクレコアオ。

 器用な俺は呼び出しに成功し、不器用な俺は逆をついて右側に出してしまった。

 実は守武かみたけさんへの人体実験アプローチで体には影響を及ぼせなかったが、俺には出来る事があった。

 それは――ツイストバンクルだ。それだけは無属性で動かせた。

 ツイストバンクルに強引に引っ張られて寝がえりを打つように守武かみたけさんの左腕はヌクレコアオに触れる。

 どうですかね?

「――ノアさん。……すみません。戻れません」

 おっとと! そのパターン。

「えっ? そうですか。――じゃあ。俺は戻ります。それで多分いけるんじゃないかと」

 俺はいつでも戻れた気がする。

 だがそれをするとヌクレオさんが消えてしまいそうだった。

 今がそのタイミングだと勘ではなく、シャンシャン鳴り響くサンタが降りて来そうな鈴の音が教えてくれる。

「ありがとうございます。――ノアさん。戻れそうです」

「そりゃぁなによりですね」

 数万年を異世界で過ごした先輩の言葉に安堵する。

 何万年も過ごしてそれでも同じ場所にいたいというなら手助けするのが同郷のよしみってもんだろ。

 青の世界の俺は意識を失うような、現実社会の俺は目を覚ますような相反する感覚に陥る。

 そして――


§


 自分の呟きと共に現れたヌクレオを少女は呆然と見つめる。

 ――すると。

 仰向けの男が無理やり左手を引っ張られるように寝返りを打ちヌクレオに触れた。

 虚をつかれた少女は動けない。

 男の体が青く輝き透明なヌクレオが徐々に透明から空色へそして元の青よりも濃い群青に輝いていく。

 男の体の光が弱くなるとその大きさも縮み、身体にノイズが走るように像がぶれた。

 そしてだまし絵のように左手だったはずの手が右手に変わり、後頭部だったはずの場所に顔が現れる。

 このところ少女の頭を悩ませる原因の少年がそこに浮かび上がった。

 少年は立ちあがると壁際まで飛び退り距離を取る。 

 その少年の頭から逃げ出すように数多の三角羽の蝶が舞い上がった。

 そして――舞い上がった瞬間に輪郭から白く色が抜けるようにハラハラと空気に溶ける。

 全ての歪な蝶がいなくなると少年が右手の平を上に向けた。

 すると、黒いツイストバンクルから飛び出すようにまた黒蝶が一羽出現する。
 
 それと同時にツイストバンクルが美しい白金へと変わった。

 少年は黒蝶を潰すように拳を握りしめる。





 頭から気狂いが作った真っ黒な切り絵の蝶が出るのは気分が悪いね。

 右のツイストバンクルが振動する。

 勘に従って手の平を上に向けて待つ。

 ツイストバンクルから弾き出された切り絵の黒蝶を握り潰してアイテムボックスに仕舞った。

 アイテムボックスを確認する。

 分類:ファギティーヴォ拡散媒体因子
 形態:セプテム
 状態:抗体獲得済み

 ……あとで分析にかけようか。

 と同時にチャロとカロが俺の中から現れる。

 そしてモルトも現れた。

 チャムとカロは俺のちょっと先の空中でチューチューなやつを発動中。

 いつもは陽気なその行動が今日は威嚇行動に見える。

 いてまうぞぉ? われぇ! のアテレコが合いそうだ。

 ちょっとまてっ! モルト! 今はシリアスパートだ。

 お前が混ざるとお遊戯にしか見えなくなる。

 精霊のそれを見て顔を引きつらせる少女。

 そこに声ではない意思が伝えられる。

(ノアさん。こちらに敵対の意思はありません。精霊を下げて頂いても?)

「――ヌクレオ?」

 意味を問いかける少女を置きざりに物語は進む。

 チャムとカロ戻って来てくれ。

(ダンナ? 無事ですかい?)

(おっ! ツンツク! 俺は大丈夫だよ。心配かけたかな?)

(いやいや。心配まではしてやせん。少し様子見でダンジョンを見回ってやした)

(手間を取らせて悪かったね)

(なんもなんもっ! 今はちょうど森林の階層にいやすんで適当に飛び回りやす。なんかあったら声かけてくだせい)

 その間も少女たちの打ち合わせは進んでいる。

 あの空間でヌクレオさんとは打ち合わせ済みだ。

 まぁ。悪いようにはならないだろう。俺にも敵対の意思はないしね。

 んっ? どうしたモルト。

 制帽風のブカブカのキャスケット帽に大きな半月型の鞄。

 いつものお手紙配達員の格好だ。

 俺が渡されたのはレオさんからの手紙。

 あれ? ――どんだけ時間経ったんだ?

 もう王都まで連絡が行ってるの?

 精々四~五時間の感覚なんだが……。

 やべぇかな?

 俺は走り書きの無事の文字を書き、手紙とも言えないそれをモルトに渡す。


§


 それによりノルトライブのギルドより早く王都のレオカディオがノアの無事を知った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

怠惰生活希望の第六王子~悪徳領主を目指してるのに、なぜか名君呼ばわりされているんですが~

服田 晃和
ファンタジー
 ブラック企業に勤めていた男──久岡達夫は、同僚の尻拭いによる三十連勤に体が耐え切れず、その短い人生を過労死という形で終えることとなった。  最悪な人生を送った彼に、神が与えてくれた二度目の人生。  今度は自由気ままな生活をしようと決意するも、彼が生まれ変わった先は一国の第六王子──アルス・ドステニアだった。当初は魔法と剣のファンタジー世界に転生した事に興奮し、何でも思い通りに出来る王子という立場も気に入っていた。 しかし年が経つにつれて、激化していく兄達の跡目争いに巻き込まれそうになる。 どうにか政戦から逃れようにも、王子という立場がそれを許さない。 また俺は辛い人生を送る羽目になるのかと頭を抱えた時、アルスの頭に一つの名案が思い浮かんだのだ。 『使えない存在になれば良いのだ。兄様達から邪魔者だと思われるようなそんな存在になろう!』 こうしてアルスは一つの存在を目指すことにした。兄達からだけではなく国民からも嫌われる存在。 『ちょい悪徳領主』になってやると。

異世界から元の世界に派遣された僕は他の勇者たちとは別にのんびり暮らします【DNAの改修者ー外伝】

kujibiki
ファンタジー
異世界で第二の人生の大往生を迎えた僕は再びあの場所へ飛ばされていた。 ※これは『DNAの改修者』のアフターストーリーとなります。 『DNAの改修者』を読まなくても大丈夫だとは思いますが、気になる方はご覧ください。

グラティールの公爵令嬢

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
ファンタジーランキング1位を達成しました!女主人公のゲーム異世界転生(主人公は恋愛しません) ゲーム知識でレアアイテムをゲットしてチート無双、ざまぁ要素、島でスローライフなど、やりたい放題の異世界ライフを楽しむ。 苦戦展開ナシ。ほのぼのストーリーでストレスフリー。 錬金術要素アリ。クラフトチートで、ものづくりを楽しみます。 グルメ要素アリ。お酒、魔物肉、サバイバル飯など充実。 上述の通り、主人公は恋愛しません。途中、婚約されるシーンがありますが婚約破棄に持ち込みます。主人公のルチルは生涯にわたって独身を貫くストーリーです。 広大な異世界ワールドを旅する物語です。冒険にも出ますし、海を渡ったりもします。

侍と忍者の記憶を持ったまま転生した俺は、居合と忍法を組み合わせた全く新しいスキル『居合忍法』で無双し異世界で成り上がる!

空地大乃
ファンタジー
かつてサムライとニンジャという理由で仲間に裏切られ殺された男がいた。そして彼は三度目の人生で『サムジャ』という天職を授かる。しかし刀や手裏剣を持たないと役に立たないとされる二つの天職を合わせたサムジャは不遇職として扱われ皆から馬鹿にされ冷遇されることとなる。しかし彼が手にした天職はニンジャとサムライの長所のみを引き継いた最強の天職だった。サムライの居合とニンジャの忍法を合わせた究極の居合忍法でかつて自分を追放し殺した勇者や賢者の剣術や魔法を上回る刀業と忍法を手にすることとなり、これまでの不遇な人生を一変させ最強への道を突き進む。だが彼は知らなかった。かつてサムライやニンジャであった自分を殺した賢者や勇者がその後どんどんと落ちぶれていったことを。そしてその子孫が逆恨みで彼にちょっかいをかけ返り討ちにあってしまう未来が待っていることを――

中年はチートなしでもなんとかなる -異世界に来たので欲望のまま生きてみる-

ながれ
ファンタジー
高卒中年のシュウイチ・サカイはどこにでもいる普通の中年だ。 変な酒を飲んで電車で寝込んでしまったら、素っ裸で異世界に来ていた。 特にチート的なスキルはないのだが、あるのは現代社会で得た知識と経験だけ、 『まずは生き抜こう!』と引きこもりコミュ障を封印し、必死に生きてみる。 化学や科学とは無縁の魔法が存在する異世界で、堂々と生きていく。 しかし、人間とは慣れるもの、いつしか彼は 『好きなことして生きていく!』のキャッチフレーズにたどり着いていく。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...