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第4章  飄々

第2話  誰何

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 静寂のコアルームに突然届けられた。パイプオルガンのように響くしょうの調べ。

 緩やかなカノン進行で荘厳に響き渡る。

 肩をビクつかせた少女の目の前で、光輝き出すヌクレオ。

 徐々に――真っ黒だったヌクレオの色が抜けてゆく。

 ――と

 それにともない床に集まる光。

 ゆっくりと光の輪郭を伴って人型となってゆく。

 光が落ち着き現れたのはこの世界ではあまり見ない黒髪の男性。

 一枚に縫われた襟付きの真っ白な検査衣を身に纏っている。

 ヌクレオの色は元の青を通り越して力を失ったような透明だ。

 呆然とする少女の目の前で男がゆっくりと起き上がる。

 立ち上がった男は二十代で身長は180cm程度。

 白の検査衣の袖はゆったりとした肘丈で裾は軽い末広がりでくるぶしまであった。

 左手に真っ黒なツイストバンクルを付けている。

 やせ形で整った顔をしており不思議そうに少女を見た。

 男は少女と目を合わせると話しかける。

「――ここは何処ですか?」

 少女は警戒しながら問いに問いを返す。

「あなたは何?」

 男は目をしばたたかせると。

「あっ。――私はカミタケと言います」

 二人の間に長い沈黙が流れた。


§


 アネリアは混乱するダンジョン入り口に忍び込むことに成功した。

 転移門の作動が止まってしまったため各階層からの帰還が階段を一層ずつ登らないと脱出出来なくなってしまった。

 その為通常の転移の出口が使えず全員が入口から出るしかなくなり混乱と混雑が発生していた。

 アネリアは辺りを見回しダンジョンのショートカットルートに体を滑り込ませる。

 最速で最下層を目指し状況を確認しなければならない。

 自らの主である少女の安否も心配だ。

 絶えずヌクレオには連絡を入れているが一向に反応はない。

 転移門を使えば一瞬の距離もアネリアが全力で急いでも三~四日はかかる日程となる。

 感情を発しないアネリアは今焦るという言葉の意味を知る。

 唯々。最速で最下層を目指す。


§


 カミタケと名乗った男は静寂を破り再度同じ質問を問いかける。

「すみません。ここは何処ですか?」

 警戒する少女はその問いには答えない。

(何なのこいつ? 急に現れて。――でもこいつが姿を見せると同時にダンジョン内の映像は復活してる。コマンドも?)

「隣の部屋で話をしましょう。お茶を用意するわ」

 この男をコアルームから外に出してからどうするか考えよう。

 そのあとここにロックをかければ入られることもない。

 ここは少女にとって重要な場所だ。その事をわざわざ相手に教える必要もない。

 そこへ土足で入り込んだ男は直ぐこの場から排除しなければならない。

「はい。分かりました。何処へ移動すれば良いですか?」

 少女は黙ってドアを指差す。少女は戦いが得意ではない。その事を自分が一番良く知っている。

 男とは距離を測り男がコアルームから出てゆくのをジッと待つ。

 男が躊躇なくコアルームの外に出るとふぅと息を吐き。

 最後にもう一度声を上げる。

「ヌクレオ?」

 声は部屋に虚しく響いた。


§


 ――――王都

 ノルトライブからの急ぎの便で王都のバルサタールの元に酒瓶が届けられた。

 昔馴染みからの短い手紙が添えられていた。

「……何をやっているんだか」

 ノアの目立たずコツコツと冒険者のランクを上げるという要望にそって一般的な冒険者の育成要領を渡してやったのだが、全部すっ飛ばしてノルトライブで登録したらしい。

(あぁいう奴は結局そういう道を進むってもんさ。強制力が働く様にな)

 疎遠になっていた友人の嬉しそうな文字を眺めながら、バルサタールは盃を二つを酒で満たすとそれと自分の盃を合わせた。

 バルサタールがノア失踪の報を聞いたのはその翌日。

 つい最近預かり出した少女のノアを信じる真っ直ぐな瞳を見て、殺しても死ななそうな弟子もどきの無事を願う。

 バルサタールは心の中でノアに問いかける。

 追いかけられる背中はそう簡単に倒れてはいけない。

 自身がそうであったように。 
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