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第3章  進窟

第22話  侵不

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 レオカディオに伝えられない。エルフの盟約の拘束にルルが渋い顔をする。

「でも不思議なのはこの”暴走”兵器は定着させることに神経を使っているの。感染力を高める方が簡単なのに、それでノアは助かったといえるし、製作者の意図はみえるけどその目的の考察は思考の幅をひろげたほうが良いわね。なにしろ、ダンジョンを”暴走”させることを目的の兵器が、人間を”暴走”させることに意味があるんでしょうから」

「その意味はなんじゃね?」

「残念ながらまだ分からない。設計者は変人で狂人の異常者よ。思考が破滅的で選択肢が多すぎる。もう少し開発が進まないと絞りきれないわ」

「私達にできることはあるか?」

「――ないわ」

 ルルは思う、エルフの錬金術師は総じて弟子に甘い。

 自身がパオラとレオカディオに甘いこと以上に。

(ウェンの弟子のノア君に期待するか)

 ウェンもノアには協力を惜しまない。

 双方の関係にエルフの盟約の縛りは緩くなる。

 もちろん情報の開示は制限されるがウェンの協力を最大限受けられるのがノアだ。

「ノア君を助けてやってくれ」

「もちろんよ。一番弟子ですからね」

 このとき重い顔をしていたウェンが今日一番の笑顔で笑った。





 いつも通りの時間でダンジョンに入る。

 昨日到着した9階層からが今日の出発地点だ。

 9階層からは冒険者をチラホラ見かけるようになった。

 8階層までは全くいなかったので色々実験したが、ここからは目立つ行動を控えよう。

 そもそも1日で5階層に行くのもハイペースだったらしい。

 まぁ。ほぼ全力疾走で攻略したんだが、師匠のおっさんの『それゆけ! ノア育成ガイダンス(自称)』で15階層からが本番って書いてあったから15階層を目指したんだけどね。

 それを聞いてからは1日1階層を攻略して、早すぎないように時間調整してギルドへ報告に行く。

 俺が立てた普通の冒険者計画だ。

 これで目立たないだろう。

 本当に8階層までは冒険者が1人もいないのには驚いた。

 なんでも8階層までは稼ぎが悪いらしい。

 おかげでモルトが土を耕してトラップを突破してくれて攻略が楽ちんだった。

 モンスターの消滅も確認した。

 例えば腕を切り落とすと煙のように消える。

 致命傷にならない部位の欠損は煙のように消えて、頭や心臓を攻撃して致命傷を受けると体全体が煙のように消える。

 ドロップアイテムがだいぶ渋くなった。

 おおよそ2割だ。

 初めのフィーバーを思えば正直ケチクソと思わないでもない。

 9階層からは目立たないようにモルトには何もしないようにお願いした。

 いつも俺の勝手に付き合わせて悪いなモルト。

 モルトはにっこりと微笑んで親指を立てた。

 ここからはトラップも自分で見つけないといけない。

 15階層以降の練習も兼ねてボチボチいきますか。





 10階層の転移の柱に触って昼頃に家に帰る。

 あとは夕方まで時間を潰してギルドへ報告だ。

 リノベーションから4日が経ち家はすでに完成を見ている。

 ふっふっふっ。

 大人たちに支配されるなと叫ぶ心の声に耳を傾け、俺はソーラーパネルを取り付けた。

 配線設備は初めにしておかないと大変だし、こればっかりは魔法が使えず手作業だからね。

 電気を必要としたのはテレビと映像媒体を用意してモルトに情操教育を計画しているからだ。

 まずは全員がハマるトラップ。

 マァンパンマン!!

 勇気と正義と友情を熱い拳と共に汲み取ってくれ。

 モルトは家に帰って来るとそれはもう夢中で齧り付いているぞ。

 さすが誰もが一度はまる沼。――間違いない鉄板だ。

 その間に俺は飯でも食べますか。


§


 夕方のギルドでエレオノーラに報告が終わったノアをシュバインが食事に誘う。

「兄さん。好きなのを好きなだけ頼んでくれ」

「そうだぞ。兄さん。シュバインの詫びだ。遠慮なく頼んでくれていいぞ」

「えっと。初めて来たのですが、何かおススメはありませんか?」

「そうだな。マナナンガルのステーキはどうだ? 食べ応えもあって腹にもたまるぞ」

(結構いい値段のステーキだな。でも。まぁ。シュバインさんのおススメだしそれにするか、マナナンガルって要覧にあった牛にコウモリの羽がついた15階層のモンスターだったよな)

「せっかくおススメしてもらったのでマナナンガルのステーキにします。飲み物はこのジュースでお願いします」

「おうさっ! 何枚でも食べてくれ」

「あらぁ? シュバイン。仲直りしたの?」

(あのお姉さんが声かけて来た)

「おうっ! アネリア。今日はこの間の詫びの会だ。お前も付き合えよ」

(あのお姉さんの名前が分かった。アネリアさんか)

 アネリアも席につき酒を頼む。

 4人で雑談する間にステーキがサーブされる。

「いただきます!」

 声を上げ切り分けて食べるノア。

(うまい! A5ほど脂っこくない。好みの肉だ。この肉は買いだな)

「シュバインさん。凄く美味しいです。おススメを頼んでよかったと思います」

「おっ? そうか? そいつはなによりだ」

「あらぁ? あたしも頼んでいいかしら?」

「おうさっ! 俺の奢りだ! 頼め頼め」

「じゃあ遠慮なく頼むぜ」

「――バステン! テメェはダメだ!」

 ギャーギャーと騒ぎながら食事は進む。


§


「シュバインは絶界の弟子と繋がりをつけたと見える」

「そうだな。上手いことやったみたいだな」

「絶界――その剣域に立つこと能わず、界を切り絶った男の弟子が、侵不しんふ――その者侵不おかせず。違う言葉なのに似た意味になるとは、弟子は師匠に似るってことか」

 絶界の弟子の2つ名は”侵不しんふ”として広まる。

 本人は知らずに。
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