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第3章  進窟

第14話  欺瞞  

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 面倒くせぇと思ったけど、ひょうたんから駒だな。

 スキップしたい気分だ。俺はこっそりとにやける。

 目には目を! 歯には歯を! という法がある。

 やられたらやり返す復讐法だと思っている人が多いが実際は全く違う。

 歴史に名を残す賢王の作った法だ。

 この法律は目をつぶしたなら、自分も目をつぶされますという誓いの法だ。

 自分が起こした悪しき行為は、同等の罰を甘んじて受けるという宣誓だ。

 性善説にも則った善人なら全く恐れる必要のない法律だ。

 誰かを傷付けない自信があれば、この法律は自分を徹底的に守る。

 誰かを安易にぶん殴らない自信がある良識人なら、簡単に宣誓できるだろう。

 賢王が願った本質は人間の善良さと良識を信じる崇高なものだ。

 翻って、この国の決闘の権利は俺には同意できない。

 ギルド以外では違法行為が法外に認められている。

 何が権利だちゃんちゃら可笑しい。

 あの決闘を申し込む赤い布は、元は仲間の傷を拭った血染めの布を相手に叩きつけたのが由来だと聞く。

 ――完全に復讐じゃねぇか!

 しかも善良で良識かどうかも分からん奴ら全員が行使可能ときている。

 だったらその環から外れた方が俺にとってはありがたい。

 復習ごっこは勝手にやってくれ。

 俺はこの国の法律に則ってギルドのルールには縛られず冒険を続ける。

 エレオノーラさんだと上手くいかなかったかもしれないが、冒険者上がりのギルトマスターは脇が甘い。

 ドア・イン・ザ・フェイスは古典的手法だ。過大要求からの引き下げで譲歩をとり、要求が通りやすくなる。

 それにギルドマスターの目的は分からないが、無理筋を通しすぎだ。

 罪悪感を煽ったら案外簡単だったな。

 勝敗に関係なく決闘権を放棄できるなんて、素敵発言ありがとう!

 ポイントは『誰も私に決闘を申し込まない』だ。

 本当の意味は『俺に決闘を申し込めない』だな。

 後は『最高刑はギルドからの除籍』を大勢の冒険者の前でギルドマスターから言質を取った事。

 つなげると『俺に決闘を申し込むとギルドから追放される』だ。

 ギルドとの話し合いで決めるんだろうだって?

 知っているだろ? 世の中は刺激的な言葉に支配されるんだぜ。

 後はやりようだ。

 それはさておき、あの兄ちゃんとは面倒だが戯れないといけない。

 あの兄ちゃんの本気が、師匠のおっさんの手抜きより上って事はないよね?

 まぁ。その時はいろんな手札を切らせてもらおう。

 へぇ~! 闘技場って小型のコロシアムみたいになってんのね。

 50mくらいの円形の広場の周りに傾斜のついた座席が備え付けてある。

 っつうか。見物客多すぎじゃない?

 みんな暇なの? 働きなよ。

 正面にはもう土気色になった兄ちゃんが立っている。

 さてと得物は何にしようかな?


§


「おいっ! 絶界の弟子に決闘を売った奴がいるって?」

「あぁ。B級のシュバインだって話だ」

「シュバイン? そんなことする奴だったか?」

「詳しくは知らないがなんか因縁でもあったんだろ。それより、絶界の弟子がどんなもんか見物に行こうぜ」

「おうさっ! どっちに賭ける? 俺は絶界の弟子の方だ」

「あぁ? 俺だってそっちだよ!」

「おいっ! だれかシュバインに賭けるやつぁいねぇのか? 薄情なやつらだな」

「だったら。お前がシュバインに賭けてやれよ」

「連れのバステンはどうした? あいつにシュバインに賭けさせようぜ」

「1人じゃ足らねぇよ! チェッ! 賭けは無理か」

 お祭りの様な騒ぎの中ギルドマスターも会場の上座に座る。

 エレオノーラが苦言を呈す。

「ノアさんのギルドへの好感度はかなり下がったと思わざる負えません。無理やり決闘をさせましたね?」

「わりぃ、わりぃ。あいつの弟子だと思うとどうしても戦っているところを見たくてな。無理強いしすぎた」

「決闘権の放棄も簡単に容認しすぎです。後での調整が難航するかもしれませんよ」

「放棄なんて言い出した奴は初めてだが、売りも買いもしないってんなら許容範囲だろ?」

「だと良いんですが……」

 闘技場では審判員のギルドスタッフが、神聖な戦いの祝詞を唱えている。

 そして、始めの合図とともに上に上げた手を素早く振り下ろした。

 ギルドマスターはノアを見る。

「なんだ? あいつの武器は――棒?」





 対人戦にはじょうが扱いやすい。

 相手の獲物が剣なのが不満だがしょうがない。

 審判のギルドスタッフは開始の合図を送る。

 気炎を吐く勢いで襲い掛かって来る兄ちゃんを見つめ、ため息をついた。

 はぁぁ~。やっぱり面倒くさいな。
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