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第2章  氾濫

第4話  監視

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 この都市に来た目的の為にむさおっさんへ声を掛ける。

「むっ……おじさん。冒険者ギルドって何処にありますか?」

 やべっ! 心の声が……むさおっさんと言いかけた。

「あ? ――向こうにあるが、何か用があんのか?」

「私はこの街に冒険者登録しに来たんです」

「……この非常事態時に登録なんて出来る訳ねぇだろ。――兄ちゃん頭大丈夫か?」

 残念なものを見る目でそう言われた。そして、続ける。

「俺はこの後ギルドから召集がかかるだろうから向かうが、兄ちゃんは宿でもとって籠ってな。1日もすれば騒ぎも落ち着くだろう。そのあと、登録でもなんでもすればいい」

 混雑する前に宿に行けと言った後、じゃあなとむさおっさんは雑然と騒ぐ人並みの中に消えて行った。

 へぇ。――なれないのか。

 まぁ。冒険者は旅の理由に必要だから取りたいだけで、別に急ぐ理由も無い。
 
 今の旅立ちの季節ならともかく、冒険者でも商人でもない人間がウロチョロ移動していると不審に思われるからね。

 他にはダンジョンに入るのに、冒険者登録は必要だって事だね。

 せっかくだしダンジョンには入りたいしさ。

 本で読んだ話だと美しい景色も見られるそうだ。

 それはもう神話時代を切り取ったとか。300mの落差のある滝とか冒険者じゃないと眺められない風光明媚な場所を目にしてみたい。

 あるなら見てみたいよねエンジェルフォール。

 酒の肴にその数々の神秘的な光景を、俺はこの目で見て来たぜって自慢気するんだ。

 鼻の穴をピクピクさせながらもったいぶってね。

 この世界で人生を楽しむ事が、連れてこられた俺の反逆のひとつだ。

 俺は人生を満喫したぞ! と叫んでも恥ずかしくならない程楽しめば、なんだか勝った気分になれると思う。

 笑いながら死ぬという目標は変わらないが、その意味は変わった。

 ――王都のみんなのおかげだ。

 そして――ジョシュアさんとシェリルさんが与えてくれた機会だ。

 すさんでいた昔の自分に言ってやりたい。この世界の人間は善良で温かい。

 お前が諦めずに歩いたから今ここにいるんだぞと。始まりは最悪だったが、未来はそんなに悪くない。

 自分勝手な俺は慰留してくれた仲間の手を放して旅に出てしまったが、それでもみんなは許してくれた。

 ありがたい事だよね。

 俺はこれから見た事の無い様々なものを目にするんだ。

 その為にあのほんわりと温かい場所を出てここに来たんだから。

 ――そういえば。

 スタンピードが発生中なんだよね。

 滅多にある事でもないみたいだし、それがどんなんか見てみよう。

 冒険者じゃなくても見られるかは分からんが。

 こんだけ街が混乱していれば、スルっと入り込めるよね。きっと。

 駄目なら秘密兵器もあるし大丈夫か。

 ウェン師のおかげで俺は錬金術師としては一人前? ……一歩手前にはなった。

 俺は城壁に向かって歩き出した。


§


 雑踏に紛れてノアを見つめる人物がいる。

「――あれが例の対象者ですか?」

 仲間の男が声をかける。

「そうだ。だがお前たちは気にするな。自分の任務を優先させろ」

「はい。承知しました」

 その人物は十分な距離を保ちノアの後を辿る。

 そして、城壁に登って行くノアをそっと見つめ続けた。
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