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第1章  伏龍

第57話  直播

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 モルト。ここの農場はケンちゃんのだから手を出しちゃだめだぞ。

 俺の思いが届いたように、モルトはこちらを振り返るとにっこりとほほ笑み。

 オッケ! とばかりに親指を立てた。

 モルト。お前……人をキュン死にさせるような仕草どこで覚えて来たんだ。

 パオラさんまで射抜いているぞ。

 ……ケンちゃんには見えていないな。

 ケンちゃん。変な格好していないで、お前も植え付け手伝えよ。

「ケンちゃんは毎日ここに通って生育状況を確認してね。上手く行けばまた来年に男爵を作ることになるから」

「その芋はダンシャクっていうのか?」

「うんそう。俺もたまに顔だすけど。ここの責任者はケンちゃんだから宜しくね」

「責任者かぁ。俺の上役はどの人?」

「――――いないっ!」

「……え?」

「トップオブトップ! それがケンちゃん」

「――――嘘だろ」

 ケンちゃん聞いてねぇよって顔してるけど。

 言ってねぇからな! だが、言質は取ったぞ。もう遅い。

 パオラさんが作業中の顔役を連れてきてケンちゃんに紹介している。

 ジャガイモは半分は逆さ植えにして、残り半分は普通に植えるように指示している。

 逆さ植えとはジャガイモの芽が出る方を下にした植え方で、それにより強い芽しか出てこなくなる。

 通常の植え方だと必要になる芽かき作業をやらなくてよくなるのとストレスがかかり収量が増えやすくなる。
 
「ケンちゃん。何したらいいかは今作業してる人に聞いて」

 どんなに偉くても一緒に汗掻いて行動で示さないと人はついてこないからな。

 決して部下に使われる一番偉い人を楽しく観察している訳ではない。ニッシシ。

 俺は目立たない様に気配を消したつもりで作業を見ている。
 
 モルトが飽きたのか、俺の左肩に馬乗りとなり俺の頭に手を回して休んでいる。

 この頃のモルトのお気に入りのスタイルだな。

 ケンちゃんに午後に迎えに行くから飯食って家で待つように伝え、俺達は昼食の為に研究所へ向かった。





 ――――午後

 ケンちゃんを回収してここにやって来た。この場所は以前に申請した水辺の開拓予定地だ。

 暇をみてこつこつ開拓し3haの場所が完了している。

 1haごとに畔で区切られており、水が風を受けてさざ波を立てている。

 日本人が種を召喚できたら作らないわけがない水田だな。

 ただ困ったことが一つあった。

 1ha開墾したら聞こえちまったんだ。

 ――――ベルの様なあの音……リリン♪ って。

 覚えてる? 初めて畑を耕したときに聞いた音だ。

 俺は慌てたね。
 
 アイテムボックスを確認したが、追加機能は今のところ見当たらなかった。

 ちくしょう! ポンコツさんのトラップは面積依存だったか!

 だが農家が栽培面積を増やさないなんてあり得ない。

 なんていやらしいトラップ呪いだ。

 だがな! 俺の人生を道具に縛られて自由に行動出来ないなんてまっぴらだ。

 だから気をつけるが、気にしないことにした。

 ……ルールが開示されていないから、気を付けようが無いのだがな。

 作付け品種は悩んだが、こしひかり系が基本路線だろうな。

 俺が決めたのはつくばエスディだ。

 こしひかりの短稈品種で多収性に優れ食味についても粒が大きく甘味が強い。

 試験圃場で収量がコシヒカリの112%と一割強の増収が見込める優良品種だ。

「ケンちゃん。今年は俺が管理するけど。それを覚えて来年はケンちゃんが稲を育てるんだよ」

「あ? ここもか?」俺はニッコリ微笑んだ。

 株間は尺植えはちょっとやりすぎか? 魔法を使い25cm間隔で種もみを飛ばして全面に直播した。

 等間隔で飛び上がった種もみが、バッシャっと音を立てながら一列ずつ水田に落ちてゆく。

 おれは浮かないように気をつけながら、出来るだけ浅植を意識した。

「――――おい! ……なんだ今の?」

 まぁ。来年はケンちゃんのためにも普通の育苗でもするか。
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