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第1章  伏龍

第54話  菓子

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 長崎の三大カステラ店と言えば何処か?
 
 異論もあるだろうが、松翁軒しょうおうけん、福砂屋、文明堂だろう。(あいうえお順)

 支持率の高いメジャーどころだよね?

 カステラって一切れ二切れ食べるもので、開封すると乾燥するから急いで食べなければならない。

 今では食べきりサイズも売られているけど。長い物の方がしっとりしていて間違いなく美味しいよね?

 開封後は早く食べきりたいから、何店舗かのカステラを買っても、結局は一種類ずつ食べる事になる。

 どれを食べても旨いから、複数店舗なんて買わずにお気に入りの一店舗で買い続けるかな?
 
 でもね、思い切って食べ比べると驚くほど違う。

 ちょうど今日は人数も多いし、今の俺には時間が止まるアイテムボックスがあるからな。

 まぁ。残ったら店のあいつらに食べさせてやろう。

 ばーさまの口癖じゃないが、カステラは和菓子だ。

 日本で生まれて今の姿になった。カステラの原型と言われるポルトガルのポォンデローとは似て非なる食べ物だぜ。

 材料は卵と小麦粉とザラメと水飴のみ。そのシンプルな生地に空気を混合して膨らませている。

 釜で焼いている間も付きっきりで面切り。あるいは泡切りと呼ばれる作業でザラメと気泡を均等にしながら焼き上げる。

 ――職人技の極致だ。その技術の結晶を呼び出してやるぜ!
 

 ――――まずは福砂屋!


 いでよ! カステラ一号!

 添加物を一切使用せず、古来の製法通り卵の手割から生地の撹拌、焼き上げまで全て、手作業で一人の職人が行う。

 一人一貫主義と伝統的製法にこだわった一品だ。

 無添加ゆえに他店に比べて日持ちがしないが、それは欠点ではなく魅力だろ?

 安心安全はGAPギャップの理念にも通じる素晴らしい志だ。

 続いては松翁軒!


 いでよ! ――――五三焼カステラ!

 松翁軒といえばやっぱり五三焼だろう。

 桐の箱に入って現れたちょっとお高いカステラだぞ。

 黄身の配合を多くしているのが特徴だ。

 五三焼は他店にもあるが、やはり松翁軒が代表格だろうな。

 長崎以外には福岡に一店舗しか出店していない。九州でも長崎以外ではなかなか手に入らないお店だ。

 まぁ。うちのばーさまは文明堂派だった。

 カステラナイフは使うたびに毎回研ぐほどの念の入れようだったな。

 その点福砂屋も松翁軒もすでに切れてるから楽でいい。

 さて、みんな食べ終わったみたいだな。味の感想を聞いてみるか。

「司書長、エルフの皆さんお口に合いましたか?」

「ノア君。このうどんは以前食べたスープと一緒だが、お揚げ? といったか? それをのせるとスープの表情が大きく変わるな。どちらも美味しいが、揚げをのせた方が後引く魅力がある。完璧に整えられたスープに、あえて加えられる甘辛いインパクトが調和を乱し複雑な味わいを醸し出している。美味しかった」

 司書長今回も完璧な食レポですね。

「本当! ルル。いつも自分たちだけで食べるなんてずるいわね。私たちにも食べる機会を設けて!」

 リオン師が司書長を睨みながら言った。

「ノア君。私も大変おいしゅうございました」とリリ師。

「リオン。ルル様を困らせてはいけません。お考えあっての事です。ノアさん。美味しいうどんを提供頂き感謝します」とドリー師

「ドリーはすぐルルの肩持つんだから、たまには私の味方してよね」

「まぁまぁ。お二人ともノアさんが困ってしまいますよ。お静かにしてください」とティル師。

 お揚げのうどんはエルフに受け入れられたみたいだね。

「パオラさんは如何ですか?」

「ノアくんのおすすめを食べて良かったわ。鳥かな? このお肉が柔らかくて、甘酸っぱくて香ばしい。まわりとの皮? とこの白いソースが最高。ごはんにもパンにも合うわ。あたし今幸せ」

 そういえば揚げ料理も無いから衣って言葉がないのか。幸せになれてよかったねパオラさん。

 本当かどうかは知らないが、聞いたことがある。

 宮崎県民は言う、宮崎県で食べられているものが本物のチキン南蛮だと。

 他県で出されているチキン南蛮は、から揚げを甘酢に付けてタルタルをのせた別の料理だと。

 宮崎で食べて初めてその話に納得する、説得力のある旨さだからな。

「それでは皆さん今回は、初めての勉強会を記念してデザートを用意させて頂きました。カステラと言うスィーツです。二種類をご用意しましたので味わいの違いをお楽しみください」

 パオラさんがぐぬぬって顔をしている。

 ――ぐぬぬっ! てそういう顔の事を言うんですね。

 時計回りに司書長から全員にサーブする。
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