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第1章  伏龍

第12話  偏在

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 パオラさんに連れられたカフェで飲むのは、紅茶っぽい何かだ。

 飲み物の名前を聞いたら、お茶と言われた。

 神聖語での訳語が無いか知らないらしい。

 パオラ嬢は砂糖がチョロっとかかったパンケーキ的な何かを絶賛満喫中。

 ケーキは無いのか尋ねたら、それは何だと尋ね返された。

 ケーキがあるかどうかは分からないが、どうやらケーキは少なくとも市民の口には入らないようだ。

 ――時間を潰すこと小一時間ほど。

 だらだらと過ごした。

 雑談ついでに魔法についても聞いてみる。

 神の啓示をうけて、授かる魔法が生活魔法。

 神に感謝の言葉を唱えながら発動するのが一般的。

 発動するなら無言でも可能。例のシャララン魔法が生活魔法の事でそれのみ授かる。

 衛生管理は生死にかかわる。良い祝福をありがとう。知らない神様。

 他に攻撃魔法もあるが、才能の有無が問われるらしい。

 出来るなら、おいおい試してみたい。

 カフェを出た後、一張羅もヘタってきたので服屋に案内してもらい。

 適当に三、四着分の服と下着を見繕ってもらい購入する。

 そして、いよいよ当面の住処である。大学院の学舎へ向かう。

 学舎の玄関に一人の男性が立っていた。

 パオラ嬢は手を挙げて挨拶すると話掛ける。

「レオ。入舎の準備は整った?」

 男性は頷くと、笑顔で歓迎するように両手を広げる。

「大丈夫終わっている。パオラそれより、挨拶させてくれ。初めまして、レオカディオと言います。気軽にレオと呼んでくれよ。学舎内での世話人だ。ここには、男性しかいないからね。パオラ。ここからは、私が引き継ぐ。お疲れ様」

 軽く頷くように挨拶しながら、自己紹介してくれた。

「初めましてレオさん、わたしはノアと申します。お手間を取らせますが、宜しくお願いします」

「かたい! かたい! さんなんて付けなくていいぜ?」

 背中をバッシバッシ叩かれる。

 ――近い近い。

 だが、俺の心の壁は厚くて高いぞ。

 そう簡単に陥落で来ると思ったら大間違いだ! キリッ

 パオラ嬢と別れの挨拶をする。

 明日の8:30に玄関前待ち合わせの約束をして別れた。

 時間ごとに鐘がなり、三十分にも一度鐘が鳴るそうである。

 レオの案内で部屋まで向かう。二階の何度か角を曲がった部屋に通された。

 この学舎かなりでかいな。

 案内された、部屋はセミダブルサイズのベットがあり。棚が組み合わされた机、扉なしのクローゼットが備え付いていた。上等上等十分だ。

「今後の事の打ち合わせをしよう。お茶を持ってくるから待っててね」

 そう言ってレオさんは出ていく。

 一人になりしみじみと思う。

 世話になった翻訳シートを机に置いて眺める。

 ――――シェリルさん。

 お陰様で、この世界に居場所が出来ました。万感の思いで手を合わせる。

 シェリル教に入信していますからね。
 
 そこでふと気づく。

 アレ? トイレ行きたいな。

 喫茶店でガバガバお茶を飲みすぎた。

 辺りを見回すが、部屋にトイレはない。

 レオさんが出て行ったばかりだから、追いかけて聞いてみよう。

 俺は部屋を出ると外を窺う。

 あっ! レオさんがちょうど角を曲がる。俺は慌てて追いかける。

 レオさ~んと叫びながら、角を曲がる。こっちから来たような気がする。

 直感を信じて突き進め! で、……迷った。

 どの部屋も同じドアで、元居た部屋にも戻れない。

 焦りと比例するように高まる尿意。

「すみません! トイレの場所を教えてください!」

 話が通じる人が近くにいることを願い声を張る。

 ふいに、近くの部屋のドアが開く。

 顔の印象の薄いお兄さんが不審そうに出て来た。

 俺をみて驚いた顔をするが、かまわずもう一度同じ言葉を繰り返す。お兄さんには伝わらない。

 十三歳で失禁なんて、黒歴史を作るわけにはいかない。

 だがな――俺は魔法の言葉を知っている。

 この最強の言葉は、どんな感情をも表すことが出来るのだ。

 俺は、少し内股になり、下腹部を抑え、最強の言葉を紡ぐ。もう我慢できないよと言う万感の意思を込めて!

「ジャンボォ~!」

 ハッとしたお兄さんは、ついて来いと手を振るうと足早に歩き出す。お兄さんは一枚の扉を開き俺を促した。

 そして、――俺はなんとかトイレに間に合った。

 ありがとう薄味お兄さん。

 だがな、トイレの扉も他の部屋の扉と変わらない。これで見分けろとはどういう事だ。

 ピクトグラムの設置を要求する。
 
 この後は、レオさんの名前を連呼したらお兄さんが探して来てくれて何とか合流できた。

 レオさんから一通り食事の時間や決まり事、トイレの場所なども確認しいよいよ食堂で初めての夕食だ。

 食堂での食事は、朝食は二種類から夕食は三種類から選べる。日によって料理が変わると聞いた。

 バリエーションは多くはなく、飽きて外に食べに出る学生もいるらしい。

 主食はパンなので、今日の料理はサラサラ半透明のスープとトロトロ白濁スープと焼いた肉の三択。

 肉に惹かれたが、シチューに似た白濁スープを選んだ。

 レオさんが前に腰かけているので、話しかけて来る学生はいないが、遠巻きに見られているのには気づいている。

 子供が普通いない場所だからね。

 レオさんと会話を楽しみながら食事をしていると。

 ふいに肩を叩かれて、声を掛けられる。

「ジャンボ?」

 不安そうな声だ。振り返るとさっきの薄味お兄さん。
 
 そうですか。

 貴方もその最強の言葉を習得しましたか、さっきはありがとねという気持ちを込めて俺も返す。

「ジャンボ!」と

 お兄さんが俺の隣に座る。お兄さんの食事は俺が迷って選ばなかった。

 ――焼いた肉だ。

 思わずジッと見てしまった。

 すると、薄味お兄さんがそれに気づき食べるか? とばかりにそっと差し出す。

 俺は、本当に食べていいのか? の気持ちを込めて問う

「ジャンボ?」

 頷くお兄さん。

 俺は感謝の気持ちを込めて言葉にする。

「ジャンボ」と。

 お肉の味はスープ選んで良かったなって感じです。

 その後は、お兄さんとは会話することなく。

 初めての食事会は終わった。

 その日、学舎にジャンボの名は、瞬く間に、そしてあまねく広がった。
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