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第1章  伏龍

第2話  方針

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 俺の手持ちの水筒には三分の一程の水が入っていた。

 ――この量では節制しても、数日しかもたないよな。

 ナイフなどの武器や道具も無いので、危険への対処が非常に不安だ。

 しかも、食べ物は一切持ち合わせておらず、手持ちのアイテムはコインだけだった。

 空を見上げました。

 ――悲しいほどに抜けるような青空でした。

 誰がこんな状態にしたか知らんが、せめて食えるもんを用意しろ!

 できれば生き残る為の道具をくれよっ!

 人間が生きるために水は必須だろ!

 これってわがまま?

 コイン? ――――店どこにあるんだよっ!

 森と草原で持たせる意味あんの?

 なんて雑な扱いなんだろうな!

 本当に死んでもいいと思ってんのかな?

 でも死んでほしいならわざわざ雑に放置しないよな?

 ――う~ん。

 現在の状況に鑑みて今後どうするか判断するしかないか。

 どうだろう、遠くに見える森で食料でも探すべきか?

 だが、どんな生き物がいるか分からないのが不安というより恐怖心が強いな。
 
 狼的な肉食獣がいたら、簡単に終わる。

 道具があれば、猪ぐらいなら何とかなる気がするが。


 ――ん?

 ――少し記憶の扉が開いた。

 どうやら、猪をさばいた経験はあるらしい。

 だが、結局のところ道具がないので何も出来ない。

 行動方針を決める前にとりあえず自分自身を検証しよう。

 男の子だという事以外なんの情報も持っていないからな。
 
 目線は低いから子供だな。身長130~150cmで、体重40~50Kgだ。

 割と筋肉質で骨太な感じ、鼻は高いので西洋人っぽいのかな。

 鏡が無いので具体的な容姿は知れないが、短髪の茶髪っぽい。

 靴はサンダルで、踵と足首を皮の帯で覆うガッチリしたグラディエーター。

 パンツは深緑のダボッとしたペインターぽいの。

 シャツはリネン風の材質で、胸元がV字に切れ込みのある襟付きタイプ。

 胸元をジグザクに交差する黒い皮ひもで結んでいる。

 シャツの色は生成りが、まぁ、使い込まれた感じ。

 ――ダメージ加工? ……良いように言ったよ。

 ぶっちゃければ、薄汚れている。

 コートというより外套に近い革製の鈍色のアウター。

 右手首に白銀の細く切れ目の無い、ツイストバングルが一周している。

 これだけ急にオシャレアイテムだな。。。

 次は、身体能力確認だ。

 謎パワーが秘められているかもしれないと期待したが、結果はやや良しだった。

 垂直飛びは1m近く、足も速いし、反復横跳びも軽快だが、びっくりするほどではないという結果だった。

 まぁ。悪い結果でもない。

 さてさて、そんなこんなをしている間にお日様は天辺間近で、そろそろ行動方針を決めないといけない。

 複数あるが、大きく二択だ。

 そう俺が選ぶのは森か平原。

 ――どうすっかなぁ。

 森は怖いが食べ物は手に入る可能性が高そう。

 木の実とか山菜とかきっとあるよね? 果物とかは是非あって欲しい。

 だが獣がいるかもしれないのが心配。

 野生動物の方が人間より鼻はいいだろうし、襲われたら逃げ切れる自信が無い。

 更に獣より怖い何かが居る可能性も検討される。

 ……まじで怖い。

 平原は地平線が怖いくらいきれいに見える。

 何故か懐かしさを感じるな。

 記憶ほとんど無いけど。。。

 いつ人に遭遇できるかは情報が無いので運任せ。

 まぁ。平原に獣や危険な何かが無いとも限らない。

 例えばヤカラとか賊とか……そういうのはマジで勘弁。

 ボクは小銭しか持っていません。

 どうか襲わないで下さい。

 ――――その価値は分からないけれど。

 森も平原もどちらも五分五分か、野っ原でベリーをゲット出来るかもしれないしな。

 希望的観測ではなく、ポジティブなシンキングなのだよ。

 棒でも落ちてれば運任せも有りだと思うが、石ひとつ落ちていない。

 それとまぁ。俺なりに考えてみた。

 雑に捏ねまわして俺をここに置いたナニかが、俺がすぐ死ぬ事は望まないだろう。

 ――――望まないはず。……望まないよね?

 まぁ。すぐに殺すのが目的なら、長時間の混乱状況で今の様に生き残っていない。
 
 すぐに殺されるナニかに遭遇させればいいんだ。
 
 2時間ぐらい混乱して行動の決定が図れない現状で、とりあえず死なずに俺はここに居られた。
 
 ――それが答えのはずだ。そうでも思わないと絶望感が酷い。

 俺をエネルギーなり、対価なりをもって雑にここに放置したんだから。

 すぐ死んだらエネルギーなりなんなりが無駄になるからな。

 生き足掻きを長期観察したいなら、生き残るようにするはずだ。

 そして――目を覚ました時に、俺は俯せで寝ていた。

 そこから立ち上がって初めに見えたのは草原だった。

 パルプンな超常的、猟奇的ナニかは、人間の生態には詳しくないのだろう。

 人間が、虫は何を食べるか興味がないように、人間と虫以上に興味を持たない存在なのかもしれない。

 だから、人間? 水あげとけばいいよね♡ 扱いなのだ。

 だが、流石に生きて欲しいなら、生き延びる可能性の高い方へと頭を向けるはずだ。

 ――――虫くん。こっちが正解だよと。

 パルプンなポンコツには期待しないが、俺は合理的にそう判断する。

 いずれにしろ、決めなければいけないのだから。

 ――――そして、俺は森を背にして草原を進みだした。

 これにより、パルポンコツのことは一切信用してはいけないと決心するに至る。

 ひどい旅が始まる。
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