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プロローグ。
プロローグ(前編)
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もし、神様なんて物がいるのなら、この世界を変えて欲しい。高校生の時、俺は本気でそう考えていた。
この世界は退屈だと思う。変わらない日常を送り続けるだけ。だから、人は娯楽に飢えてしまったのだろう──有り余る時間を浪費する為に。
しかし、俺は娯楽というものを楽しめる心を持って産まれて来なかったらしい。どうも、俺には娯楽が心の贅肉に見えて仕方なかった。
高校の時に俺はもう、この世界の本質が見えていた。贅肉を蓄える為に金を稼ぐ。それが日本という国に産まれてきた人間がやるべきこと。そのレールに乗っかろうとしない奴は全て屑としてみなされる。
俺は望んでその屑になった。最小限の生活を出来る物があれば人は生きていけるのを知っていたし、多くを望まなければ給料なんて十五万もあれば生きていける。そう思っていた……そんなある日のことだった。
世界は変わったんだ、俺の望みとは違う方向に。
始まりは一つの異変だった。有名な心霊スポットに突如『穴』が浮かんでいたのだという。奇妙なその穴に人が近付いていくと、辺りに落ちていた石が反応し、人に吸い込まれてしまった。
これが、世界初の冒険者が生まれた出来事だ。石を取り込んだその人は、穴の中へと入っていき……そして死んでしまった。
俺がダンジョンの存在を知ったのも丁度この時だ。学校で、盛り上がっていたからな、ニュースを見なくても勝手に耳に入ってくるくらいには賑わっていた……賑わってしまった。
それとは別に、もう一つ奇妙なことがあった。その冒険者が生まれたのと同時に新しい動画サイトが開設していたんだ。
その名前は『ÐーTube』。ダンジョン配信を主に扱うサイトだった。
それは、誰が設立したのかすらわからない謎のサイト。だが、そこではダンジョン内の冒険者達の姿を配信で見ることが出来た。
それは、娯楽を望む者達に大うけとなる。そりゃ、ゲームや物語の中だけと思っていたダンジョンを現実で目の当たりに出来るのだから当たり前だとも言える。
その人気と共に、冒険者ギルドや装備を創る鍛冶ギルドなども増えていき、5年も経たないうちに大きなうねりとなって世界を飲み込んでいく。
どうして世界が変わったのかはわからないが、こんなことを出来るのは神様に違いない。でも、確かに世界を変えろとは思っていたが、こんな風にしろと思った覚えがない。
元々俺は娯楽という物に興味が無い人間だ。ダンジョンが出来ようと、俺は別に嬉しくなかった。だが、俺を取り囲む周りは違ったようだ。冒険者になろうという者が後を絶たなかった。
でも、俺はその流れに呑み込まれず、今に至る。高校を卒業した今はただのフリーターだ。バイトをしつつのその日暮らし。まぁ、これはこれで悠々自適だと思う。
人は一日一合ご飯を食べれば生きていけることをこの身で実践しているところだ。それ以上を望むと待っているのは飽く無き欲求であることを俺は知っている。
欲には際限がない、だから人は望みを叶える為に色々なことをしてきた。俺にはそれが破滅へと向かっているように見えたから反対を向くことにしたのだ。
そんな満足した生活を過ごしていたある日のことだった。突然、俺のプリベイト携帯が鳴り響いた。両親が俺にこれだけは持っておけと言われたので持っている携帯だ。こちらから電話をすることが無いので、高校生から今までまだチャージが残っている。
面倒だなと思いながらも、バイト先の店長だったらまずいので相手を確認する。そこには珍しい人物の名前が書いてあった。俺は恐々、その電話を取った。──取ってしまった。
「隆史どうした?」
「おお、久々だな彩斗《さいと》。どうだ、一緒に冒険者にならないか!」
電話の向こうから、元友達である知り合いの宝田隆史の声が聞こえる。高校を卒業してからというもの、一度も連絡が無かったはずなのに、どういう風の吹き回しだろうか?
「断る」
俺は隆史に拒否の意志を示し電話を切る。別に命を張るような真似はしたくない。ÐーTubeが出てから死亡者の人数が増えている。俺はその中に加わりたいとは思わなかった。
しかし、一度携帯を切ったにも関わらず、隆史はしつこく電話を掛けてくる。仕方ないのでもう一度出てやった。
「……なに?」
「頼むから冒険者ギルドだけでも行かないか? それに、ほら。適正で弾かれるかもしれないしさ。受けるだけ受けようぜ。最悪受かってもダンジョンに潜らなければいいだけだしさ!」
隆史はとりあえず、適正チェックを受けたいそうだ。適正チェックとは、宝玉と言われる石のような玉が身体に吸い込まれるかどうかのチェックである。
判別は簡単、触るだけ。それで身体に宝玉が吸い込まれれば冒険者の仲間入りである。これ以上ない簡単なチェック方法だ、その玉に触るだけなら俺だって付き合うのはやぶさかではない。だが⋯⋯。
「⋯⋯金がないぞ」
「俺が払ってやるから!」
「それならまぁ……はぁ、断ってもどうせまた電話掛けてくるだろ? 面倒だし付き合ってやるよ」
「本当か!? またそのうち向かうから住所を教えてくれ!」
「ああ、今俺の住んでいるところは──」
俺が自分の住所を教えると、隆史は満足そうな声で「また行くからな!」と言い残し、電話を切った。
「あ、バイトの日以外にしてもらうべきだったな……」
俺はぽつりと呟き少し考えて、掛け直すのが面倒だと思い横になったのだった。
「お、彩斗来たか……なんか高校の時より痩せてないかお前?」
「まぁ、そんなに贅沢をしてないからな」
隆史と久々に再会したが開口一番に出た言葉がそれだった。もう既に帰りたい、帰らせてくれ。
電話があってから三日後、俺達は冒険者ギルドへ行くことになった。俺は隆史の車に乗り込み、シートベルトを締める。
「じゃあ行くぞ」隆史は一言俺に断った後、車のアクセルを踏んだ。車は段々と速度を上げていく。その加速があまりにも滑らかな物で俺は驚いた。バイトの店長に乗せてもらった車とは全然違うことに気付く。
「いい車だな。大分稼いでるんじゃないのか?」
「見栄だよ見栄。ほら、やっぱり他の人に俺のいいところを見せたいっていうかさ」
ああ、そういやこいつは高校の時から承認欲求の塊だったな。いつもクラスで目立ってないと気が済まない奴だった。その為に学級委員長とか生徒会にも入っていたっけ。よくやるよ、本当に。
「それで、今度は世界に向けて見栄を張りたくなったってところか」
「まあそんなとこだ。しかしお前は相変わらずだな体型以外」
俺は隆史の皮肉に「うるせぇ」と返した。こういう皮肉屋なところは高校の時から何も変わってない。
「お前も変わってないじゃないか、色々と」
「うるせぇ」
隆史は165も無い低い身長を気にしていた。だからこそ人より目立ちたいというコンプレックスになってしまったのかもしれない。
お互い煽りあって笑い合う。この感覚は久々だった。普段はいつもバイト先の人としか会わないから息が詰まりそうになっていたしな。
その後、隆史とはギルドに着くまで雑談が続いた。そして、ギルドに入り受付を済ませると、すぐに試験のある場所へと連れていかれた。この点は冒険者志望をする人が多いから事務的だと感じてしまった。
宝玉と呼ばれる石のような玉が机に二つ並んでいる。これは俺達の分だ。今日はたまたま、俺達以外に冒険者志望の人はいないみたいだった。
「それでは、宝田隆史さん。宝玉に触ってください」
隆史は何も言わず、そっと宝玉を触る。すると、宝玉は光となり隆史の身体へと吸い込まれていく。どうやら、隆史には適正があったようだ。
「お、おおおおおおお!」
隆史は天へと拳を突き上げ勝鬨を上げる。冒険者となれたことの喜びを身体で表現していた。しかし、ギルド員の表所は固まったままだ。
「まさか……スキル!? す、少し確認させてください。これを持って!」
そう言って、ギルド員は何かのカードを隆史に渡した。そのカードに書かれた内容はここからでは見えないが、ギルド員の表情を見る限りかなりレアな物で間違いないはずだ。
「剣神……凄い、世界に3人しかいないスキルですよ!」
「超レア物じゃねぇか! 俺って選ばれし者だったのか!」
隆史は更に嬉しそうに顔を綻ばせていた。そりゃ、そんなにレアなスキルなら喜ぶのも当たり前だ。
「来てよかったな、隆史。おめでとう」
俺は素直に賛辞を送った。これで俺がここに来た甲斐があるってものだ。後は適当に済ませよう。それでもうここに二度と来ることはないだろう。
「ああ、ありがとう。次はお前の番だぜ。まぁ、俺よりレアなスキルは出ないだろうが、適正があるといいな!」
「はは、別に俺には適正なんてなくていいんだよ。あの、すみません。次、やってもいいですか?」
「は、はい! 隆史様、少しそこでお待ちください! すぐに上の者をお呼びしますので!」
「様だってよ、冒険者になっただけで十分出世した気分だぜ」
隆史の奴は超レアスキルを手に入れて調子に乗っているようだ。まぁ、それくらいの価値があるってことだろう。俺はそんな隆史を見ているだけで満足だ。
「それでは、細島彩斗さん。適正をチェックします。宝玉を触ってください」
俺は言われるまま、宝玉を触る。その瞬間、頭の中に声が響いた。
──ようやく来たか、面白くしてくれよ。
俺は頭の中の声に驚きながら、その光を見た。宝玉が七色に輝いている。それはまるでプリズムのようにも見える。
俺にも適正があったのか、それにしてもなんだったんだ、さっきの声……。
目の前の光よりも頭の中に聞こえた声の方がよっぽど気になる。俺がぼうっと考え事をしていると、ギルド員が叫んでいる声が聞こえてきた。
「な、なんだこれ!?」
ギルド員が目を見開きその光景を見ている。そして、光は部屋全体を照らす大きな光となって俺の身体へと入り込んだ。身体は別に変化はない、多分俺にもスキルとやらが発動したのだろう。……望んでもいないのに。
俺がハァ……と溜息を吐くと、ギルド員はハッと何かに気付いたように俺にカードを渡して来た。その手が震えいるのに気付く。そんなに緊張してどうしたのだろうか?
「す、すみません! こ、これ……も、もしかして、ユニークスキルかも!」
「ユニークスキル?」
「い、いいですから早くカードを持ってください!」
俺は言われるまま、カードを手に取る。カードは虹色に染まり、文字が浮かんでくる。そこにはこう書かれていた。
──『編集』と。
この世界は退屈だと思う。変わらない日常を送り続けるだけ。だから、人は娯楽に飢えてしまったのだろう──有り余る時間を浪費する為に。
しかし、俺は娯楽というものを楽しめる心を持って産まれて来なかったらしい。どうも、俺には娯楽が心の贅肉に見えて仕方なかった。
高校の時に俺はもう、この世界の本質が見えていた。贅肉を蓄える為に金を稼ぐ。それが日本という国に産まれてきた人間がやるべきこと。そのレールに乗っかろうとしない奴は全て屑としてみなされる。
俺は望んでその屑になった。最小限の生活を出来る物があれば人は生きていけるのを知っていたし、多くを望まなければ給料なんて十五万もあれば生きていける。そう思っていた……そんなある日のことだった。
世界は変わったんだ、俺の望みとは違う方向に。
始まりは一つの異変だった。有名な心霊スポットに突如『穴』が浮かんでいたのだという。奇妙なその穴に人が近付いていくと、辺りに落ちていた石が反応し、人に吸い込まれてしまった。
これが、世界初の冒険者が生まれた出来事だ。石を取り込んだその人は、穴の中へと入っていき……そして死んでしまった。
俺がダンジョンの存在を知ったのも丁度この時だ。学校で、盛り上がっていたからな、ニュースを見なくても勝手に耳に入ってくるくらいには賑わっていた……賑わってしまった。
それとは別に、もう一つ奇妙なことがあった。その冒険者が生まれたのと同時に新しい動画サイトが開設していたんだ。
その名前は『ÐーTube』。ダンジョン配信を主に扱うサイトだった。
それは、誰が設立したのかすらわからない謎のサイト。だが、そこではダンジョン内の冒険者達の姿を配信で見ることが出来た。
それは、娯楽を望む者達に大うけとなる。そりゃ、ゲームや物語の中だけと思っていたダンジョンを現実で目の当たりに出来るのだから当たり前だとも言える。
その人気と共に、冒険者ギルドや装備を創る鍛冶ギルドなども増えていき、5年も経たないうちに大きなうねりとなって世界を飲み込んでいく。
どうして世界が変わったのかはわからないが、こんなことを出来るのは神様に違いない。でも、確かに世界を変えろとは思っていたが、こんな風にしろと思った覚えがない。
元々俺は娯楽という物に興味が無い人間だ。ダンジョンが出来ようと、俺は別に嬉しくなかった。だが、俺を取り囲む周りは違ったようだ。冒険者になろうという者が後を絶たなかった。
でも、俺はその流れに呑み込まれず、今に至る。高校を卒業した今はただのフリーターだ。バイトをしつつのその日暮らし。まぁ、これはこれで悠々自適だと思う。
人は一日一合ご飯を食べれば生きていけることをこの身で実践しているところだ。それ以上を望むと待っているのは飽く無き欲求であることを俺は知っている。
欲には際限がない、だから人は望みを叶える為に色々なことをしてきた。俺にはそれが破滅へと向かっているように見えたから反対を向くことにしたのだ。
そんな満足した生活を過ごしていたある日のことだった。突然、俺のプリベイト携帯が鳴り響いた。両親が俺にこれだけは持っておけと言われたので持っている携帯だ。こちらから電話をすることが無いので、高校生から今までまだチャージが残っている。
面倒だなと思いながらも、バイト先の店長だったらまずいので相手を確認する。そこには珍しい人物の名前が書いてあった。俺は恐々、その電話を取った。──取ってしまった。
「隆史どうした?」
「おお、久々だな彩斗《さいと》。どうだ、一緒に冒険者にならないか!」
電話の向こうから、元友達である知り合いの宝田隆史の声が聞こえる。高校を卒業してからというもの、一度も連絡が無かったはずなのに、どういう風の吹き回しだろうか?
「断る」
俺は隆史に拒否の意志を示し電話を切る。別に命を張るような真似はしたくない。ÐーTubeが出てから死亡者の人数が増えている。俺はその中に加わりたいとは思わなかった。
しかし、一度携帯を切ったにも関わらず、隆史はしつこく電話を掛けてくる。仕方ないのでもう一度出てやった。
「……なに?」
「頼むから冒険者ギルドだけでも行かないか? それに、ほら。適正で弾かれるかもしれないしさ。受けるだけ受けようぜ。最悪受かってもダンジョンに潜らなければいいだけだしさ!」
隆史はとりあえず、適正チェックを受けたいそうだ。適正チェックとは、宝玉と言われる石のような玉が身体に吸い込まれるかどうかのチェックである。
判別は簡単、触るだけ。それで身体に宝玉が吸い込まれれば冒険者の仲間入りである。これ以上ない簡単なチェック方法だ、その玉に触るだけなら俺だって付き合うのはやぶさかではない。だが⋯⋯。
「⋯⋯金がないぞ」
「俺が払ってやるから!」
「それならまぁ……はぁ、断ってもどうせまた電話掛けてくるだろ? 面倒だし付き合ってやるよ」
「本当か!? またそのうち向かうから住所を教えてくれ!」
「ああ、今俺の住んでいるところは──」
俺が自分の住所を教えると、隆史は満足そうな声で「また行くからな!」と言い残し、電話を切った。
「あ、バイトの日以外にしてもらうべきだったな……」
俺はぽつりと呟き少し考えて、掛け直すのが面倒だと思い横になったのだった。
「お、彩斗来たか……なんか高校の時より痩せてないかお前?」
「まぁ、そんなに贅沢をしてないからな」
隆史と久々に再会したが開口一番に出た言葉がそれだった。もう既に帰りたい、帰らせてくれ。
電話があってから三日後、俺達は冒険者ギルドへ行くことになった。俺は隆史の車に乗り込み、シートベルトを締める。
「じゃあ行くぞ」隆史は一言俺に断った後、車のアクセルを踏んだ。車は段々と速度を上げていく。その加速があまりにも滑らかな物で俺は驚いた。バイトの店長に乗せてもらった車とは全然違うことに気付く。
「いい車だな。大分稼いでるんじゃないのか?」
「見栄だよ見栄。ほら、やっぱり他の人に俺のいいところを見せたいっていうかさ」
ああ、そういやこいつは高校の時から承認欲求の塊だったな。いつもクラスで目立ってないと気が済まない奴だった。その為に学級委員長とか生徒会にも入っていたっけ。よくやるよ、本当に。
「それで、今度は世界に向けて見栄を張りたくなったってところか」
「まあそんなとこだ。しかしお前は相変わらずだな体型以外」
俺は隆史の皮肉に「うるせぇ」と返した。こういう皮肉屋なところは高校の時から何も変わってない。
「お前も変わってないじゃないか、色々と」
「うるせぇ」
隆史は165も無い低い身長を気にしていた。だからこそ人より目立ちたいというコンプレックスになってしまったのかもしれない。
お互い煽りあって笑い合う。この感覚は久々だった。普段はいつもバイト先の人としか会わないから息が詰まりそうになっていたしな。
その後、隆史とはギルドに着くまで雑談が続いた。そして、ギルドに入り受付を済ませると、すぐに試験のある場所へと連れていかれた。この点は冒険者志望をする人が多いから事務的だと感じてしまった。
宝玉と呼ばれる石のような玉が机に二つ並んでいる。これは俺達の分だ。今日はたまたま、俺達以外に冒険者志望の人はいないみたいだった。
「それでは、宝田隆史さん。宝玉に触ってください」
隆史は何も言わず、そっと宝玉を触る。すると、宝玉は光となり隆史の身体へと吸い込まれていく。どうやら、隆史には適正があったようだ。
「お、おおおおおおお!」
隆史は天へと拳を突き上げ勝鬨を上げる。冒険者となれたことの喜びを身体で表現していた。しかし、ギルド員の表所は固まったままだ。
「まさか……スキル!? す、少し確認させてください。これを持って!」
そう言って、ギルド員は何かのカードを隆史に渡した。そのカードに書かれた内容はここからでは見えないが、ギルド員の表情を見る限りかなりレアな物で間違いないはずだ。
「剣神……凄い、世界に3人しかいないスキルですよ!」
「超レア物じゃねぇか! 俺って選ばれし者だったのか!」
隆史は更に嬉しそうに顔を綻ばせていた。そりゃ、そんなにレアなスキルなら喜ぶのも当たり前だ。
「来てよかったな、隆史。おめでとう」
俺は素直に賛辞を送った。これで俺がここに来た甲斐があるってものだ。後は適当に済ませよう。それでもうここに二度と来ることはないだろう。
「ああ、ありがとう。次はお前の番だぜ。まぁ、俺よりレアなスキルは出ないだろうが、適正があるといいな!」
「はは、別に俺には適正なんてなくていいんだよ。あの、すみません。次、やってもいいですか?」
「は、はい! 隆史様、少しそこでお待ちください! すぐに上の者をお呼びしますので!」
「様だってよ、冒険者になっただけで十分出世した気分だぜ」
隆史の奴は超レアスキルを手に入れて調子に乗っているようだ。まぁ、それくらいの価値があるってことだろう。俺はそんな隆史を見ているだけで満足だ。
「それでは、細島彩斗さん。適正をチェックします。宝玉を触ってください」
俺は言われるまま、宝玉を触る。その瞬間、頭の中に声が響いた。
──ようやく来たか、面白くしてくれよ。
俺は頭の中の声に驚きながら、その光を見た。宝玉が七色に輝いている。それはまるでプリズムのようにも見える。
俺にも適正があったのか、それにしてもなんだったんだ、さっきの声……。
目の前の光よりも頭の中に聞こえた声の方がよっぽど気になる。俺がぼうっと考え事をしていると、ギルド員が叫んでいる声が聞こえてきた。
「な、なんだこれ!?」
ギルド員が目を見開きその光景を見ている。そして、光は部屋全体を照らす大きな光となって俺の身体へと入り込んだ。身体は別に変化はない、多分俺にもスキルとやらが発動したのだろう。……望んでもいないのに。
俺がハァ……と溜息を吐くと、ギルド員はハッと何かに気付いたように俺にカードを渡して来た。その手が震えいるのに気付く。そんなに緊張してどうしたのだろうか?
「す、すみません! こ、これ……も、もしかして、ユニークスキルかも!」
「ユニークスキル?」
「い、いいですから早くカードを持ってください!」
俺は言われるまま、カードを手に取る。カードは虹色に染まり、文字が浮かんでくる。そこにはこう書かれていた。
──『編集』と。
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