小春と日和。

真上誠生

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日和の夢。

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 帰り道を歩いている最中、僕達の間には気まずい空気が流れていた。



 何とかこの空気を変えないと⋯⋯話題話題⋯⋯



「あ、明日は遊べるかな?」悩んだ結果、無難な話の切り出し方をした。



 もしかしたら少し唐突過ぎたかもしれないけど今はこの空気を変える方が先だ。



「あ、明日は習い事が⋯⋯」日和は申し訳なさそうに返事をしてくる。



 違う意味でさっきまでの空気の流れが切れてしまう。僕は笑いながら「大丈夫だよ」と言った。



「日和って何の習い事をしてるの? 絵画とかかな?」



 日和の習い事が気になったので何気なく聞いてみる事にした。



「そうそう、絵画教室通ってるんだよ」あっさりと答えが返ってくる。隠してる訳じゃなかったみたいだ。



「日和って将来はそういう仕事に付きたいとか考えてるの?」何も考えずに聞いていた。少し深く聞きすぎただろうか?



 僕の問いに日和は下を向いた。また地雷を踏んだのかもしれないと内心で焦る。



「私のお母さんがね、アパレル関連の仕事をしてるんだけど、後二年もすればそこで働く予定なんだよね」日和は苦笑いしながらそう答える。



 日和の事を一つ知る事が出来た。その事が嬉しい。



「お母さんにはね、今の教室は期限付きなら良いって言われているの。この夏の間だけなんだ、今は有名な先生が来ているから詰め込んで教えて貰いたいんだよ」



 日和は苦笑いを崩さないままそう続けた。本当はずっと通っていたいんだろう。



「でも、仕事が決まってるならいいんじゃないの? そこまで必死に勉強しなくても」不況の今なら就職先が決まっているのはありがたい事だと思う。



 そこまで絵画に力を入れる事はないんじゃないかそう考えてしまった。



 その言葉に「そうかもしれないね⋯⋯」と頷いた後に「けど⋯⋯」と日和は否定する。 



「──それでも、私は絵を描きながら暮らしたい。そう思っている」



 日和は僕の目を見ながらハッキリとそう言った。



 その顔は、水族館に向かう時に見た決意に満ちている顔をしている。その表情に目を奪われてしまう。



「甘い世界じゃないのはわかってる、それでも⋯⋯これを趣味で終わらせたくないの」



 日和にとって絵とはどういう存在なのだろう。僕にとっての小説みたいな物なのだろうか。



 どうする?ここで僕も小説家を目指している事を言うべきだろうか。

 母さんにしか言った事のない事を日和に言うのか?

 僕は日和みたいにハッキリと言えるくらい力を入れているのか?

 日和に比べて僕のは趣味みたいなものじゃないのか?

 もし、僕がこの道を諦めなければいけないならどうしていたのだろうか。

 日和みたいに「それでも⋯⋯」と否定する事が出来るのか、わからない⋯⋯わからない⋯⋯



 自問自答を繰り返す。頭が熱くなっているのに気付くと頭を掻いていた。

 ここまで気付かない程考えてしまっていたらしい。



 考えた末、僕は出した答えは⋯⋯



「頑張ってね、応援してる」



 逃げてしまっていた。日和からだけではなく自分からも。



 胸を張って言えるようになったら言えばいいだろう、そうやって自分に言い聞かせる。何でだろう、何故だか心が重くなったように感じる。



 最初の美術館で親近感を覚えていた自分が恥ずかしくなる。僕と日和ではとても同じとは言えない。



 ⋯⋯覚悟が違っていた。



 今はまだ言うべきじゃないんだ⋯⋯そう、今はまだ⋯⋯



 そこまで思って、ようやく自分の心を騙す事が出来た。



「⋯⋯うん、ハル君が応援してくれるなら頑張れる気がする」

 僕の顔をじっと見ていた日和はそう力なく笑った。



 そこで、一旦話を切ることにした。



 明日の昼は日和が絵画教室に行くから遊べないのか⋯⋯そう落ち込んでいると、何かを忘れている気がした。



 昼は駄目でも、夜? 僕は急いで携帯を取り出し検索をかける。



 明日は八月の頭で土曜日だ。と、いうことは⋯⋯見つけた。



 そこには、花火大会と大きく書かれていた。

 夏と言えば花火だよな、一回は行っておかないと。

 日和に聞いてみると「門限が⋯⋯」と言われるが、「そこを何とか⋯⋯」そう頼み込むと日和は何かを閃いたみたいだった。



「新しい浴衣を宣伝すると言う建前なら、もしかしたら行かせてもらえるかも」

 なるほど、母親がアパレル関係なのを逆手にとった良い手段だった。

 何も夏祭りは明日だけではない。目を惹けばレンタルの浴衣がよく捌けるかもしれない。

 しかも、モデルは日和だ。効果は抜群だろう。

 というか、日和の浴衣が見れる事にテンションが上がっていくのを感じた。



「ダメでもガッカリしないでね?」そう念押しされてしまったけど、僕は明日への期待は収まる事はなかった。



 電車が日和が降りる駅に着く。僕達はいつも通りに手を振り合いながらお互いを見送った。



 さて、明日の夜まで時間が空いたし小説でも書こう。





 僕も日和みたいに、本気で言えるようにならなくちゃな⋯⋯そう思いながら帰路についた。
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