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「ジェラルド?」
「貴女は、殿下の婚約者ではなくなっても構わないと?」
「ええ、むしろ願ったり叶ったりですわ」
「「なっ!」」
ジェラルドの質問に答えたのに、それに反応を示したのは殿下とカレンデュラさんでした。
そんなに意外だったかしら?
「わたくし自分の両親がとても仲が良いですし、歴史で習う側妃や愛妾を持った王侯貴族の愛憎劇による崩壊ですとか見てますと政略結婚とか馬鹿馬鹿しいと常々思っておりまして。王子妃たれと教えられた振る舞いをしてまいりましたけれど、殿下がお考えを示された今、もうそんなものは必要ございませんわよね?
革新の時、ですわね・・・!!」
「か、革新?」
「そうです!革新です!殿下!
今こそ!!!恋愛結婚を推し進めてまいりましょう!?殿下が筆頭になればこの国は変わります!!」
「ロザリーヌは・・・俺とカレンデュラ嬢との仲を嫉妬していたのではないのか」
殿下がショックを受けたような顔をなさっています。
でもそれはきっと、わたくしが殿下を慕っていると思っていたのにそうではないとわかったから面白くないだけです。
勝手ですわね。
「そ、そうよ!あんたアーサー様のことっ」
「嫌いではありませんが仲間とか盟友とかそういった気持ちです」
カレンデュラさんがはしたなくも割り込んで腹の立つことを言いそうだったので、食い気味に否定させていただきますわ。
「それに、殿下と恋人同士になりたいのでしょう?身分にとらわれないと仰るなら尚のこと、今のような誰にも“所詮は貴族になりたての娘”と侮られるような軽はずみな言動をしてはなりません。身分に重きを置く相手にこそ、完璧な淑女として接しなければすぐに足元を掬われます。難しいことを成すのですから、努力で何とかなる部分の阻みは極力なくしておくべきです。そのためにわたくしができることでしたら協力は惜しみませんから」
「・・・っ」
「ロザリーヌの言う通りだ、カレンデュラ嬢。王子たる俺に並び立つ振る舞いを教わるのにこれ以上うってつけの者はいまい」
「で、でも、急にこんな・・・何か、他に目的があるのでは・・・」
失礼な・・・目的がお有りなのは貴女でしょう。
「目的・・・そうですわね・・・」
わたくしは思わせぶりに目を伏せ、ほんの少しだけジェラルドの方を見遣り、それから。
「わたくしも、お二人のように恋慕う方を見つけて、結婚できたら・・・と思っただけですわ」
ふふ、これで逆ハーレムの可能性は潰れましたわね。
アーサー殿下は良くも悪くも真っ直ぐな方なので、気持ちが傾きかけているカレンデュラさんとの仲を婚約者のわたくしが後押ししたことで一気に転がり落ちるでしょう。
カレンデュラさんがどう足掻こうとも、殿下以外の男性と必要以上に仲良くなることはもうできませんわ。
後は・・・ジェラルドなのだけれど・・・
ちらりとまたジェラルドの方を見ようとしたら、あら?いない?
こんな広くもない部屋で音もなく一体どこに・・・
「ひゃあっ!?」
ま、真横!
思わず変な声が出てしまいました!
咎められないような密室でよかった・・・
「ジェラルド、急にすぐ横にいたらびっくりするじゃない」
「すまない。だがあまりにも嬉しくなってしまって」
「嬉しい?」
「ああ、もう貴女と距離をとって我慢しなくていいんだと思ったら・・・」
ジェラルドはそう言いながら恭しくわたくしの手を取ると、そっと甲にキスを落として。
「今はまだ、殿下の婚約者だからここまでにしておく。身分や立場ではなく想い合えることを貴女が伴侶に望むなら、俺もその候補の一人として見てもらえるか?」
「えっ、あああの、は、はいっ」
ジェラルドの予想外の言葉に、彼にしては珍しい蕩けるような優しい微笑みに、わたくしは顔が茹だるのを感じて吃ってしまいました。
そんなわたくしを見て、一層笑みを深くして満足そうにすると、急に真顔になりグルッと殿下たちの方へ向いて背筋を伸ばしました。
「殿下」
「おっ、おお?」
呆けたように見ていた殿下も突然話を振られてびっくりしています。
「話は纏まりました。とりあえずロザリーヌ様との婚約を解消するまでもした後も、ロザリーヌ様が殿下とレヴィ子爵令嬢を応援し円満な関係であると周囲に知らしめるためにもこれから学園内ではできる限りお二方とご一緒に過ごされた方が良いかと。レヴィ子爵令嬢への淑女教育のこともありますし。
___もちろん、俺も同席します。殿下が元婚約者と新たな婚約者候補の両方を侍らせていると思われないように」
「お前、もっともらしいことを言ってるけどロザリーヌの近くにいたいだけだろ?」
「それが何か?今でこそ殿下とは気の置けない友人だが、そもそも俺はロザリーヌ様を守るために殿下の側付きの護衛をしてたんだ・・・忘れたのか?」
「あーはいはいわかったよ!本当ブレないなお前!」
わたくしを守るため?
よくわからないけど・・・嬉しいですわ。
「そういう訳だから、ロザリーヌ・・・もう、敬称をつけなくてもいいか?まずは幼馴染に戻りたい」
「ええ、構わないわ。昔のようにリィンと呼んでもいいのよ」
「魅力的な申し出だが・・・それは恋人として認めてもらえたときに呼ぶことにするよ」
「まあっ・・・は、恥ずかしいですわ」
「おーい、お前ら王子を放ったらかして盛り上がるなよ」
あ、そういえばまだいましたわね。
カレンデュラさんの方は・・・令嬢にあるまじき間抜け面で呆然としていて何もできないようです。
二度と殿下の婚約者という御鉢が回ってこないようにこの方にしっかりと淑女教育をたたきこまないといけないなんて前途多難ですわ。
ふぅ、と小さくため息をして横に立つジェラルドを見上げたら、それはそれは格好良く色気すら感じる眩しい笑顔を向けられたのでした。
「貴女は、殿下の婚約者ではなくなっても構わないと?」
「ええ、むしろ願ったり叶ったりですわ」
「「なっ!」」
ジェラルドの質問に答えたのに、それに反応を示したのは殿下とカレンデュラさんでした。
そんなに意外だったかしら?
「わたくし自分の両親がとても仲が良いですし、歴史で習う側妃や愛妾を持った王侯貴族の愛憎劇による崩壊ですとか見てますと政略結婚とか馬鹿馬鹿しいと常々思っておりまして。王子妃たれと教えられた振る舞いをしてまいりましたけれど、殿下がお考えを示された今、もうそんなものは必要ございませんわよね?
革新の時、ですわね・・・!!」
「か、革新?」
「そうです!革新です!殿下!
今こそ!!!恋愛結婚を推し進めてまいりましょう!?殿下が筆頭になればこの国は変わります!!」
「ロザリーヌは・・・俺とカレンデュラ嬢との仲を嫉妬していたのではないのか」
殿下がショックを受けたような顔をなさっています。
でもそれはきっと、わたくしが殿下を慕っていると思っていたのにそうではないとわかったから面白くないだけです。
勝手ですわね。
「そ、そうよ!あんたアーサー様のことっ」
「嫌いではありませんが仲間とか盟友とかそういった気持ちです」
カレンデュラさんがはしたなくも割り込んで腹の立つことを言いそうだったので、食い気味に否定させていただきますわ。
「それに、殿下と恋人同士になりたいのでしょう?身分にとらわれないと仰るなら尚のこと、今のような誰にも“所詮は貴族になりたての娘”と侮られるような軽はずみな言動をしてはなりません。身分に重きを置く相手にこそ、完璧な淑女として接しなければすぐに足元を掬われます。難しいことを成すのですから、努力で何とかなる部分の阻みは極力なくしておくべきです。そのためにわたくしができることでしたら協力は惜しみませんから」
「・・・っ」
「ロザリーヌの言う通りだ、カレンデュラ嬢。王子たる俺に並び立つ振る舞いを教わるのにこれ以上うってつけの者はいまい」
「で、でも、急にこんな・・・何か、他に目的があるのでは・・・」
失礼な・・・目的がお有りなのは貴女でしょう。
「目的・・・そうですわね・・・」
わたくしは思わせぶりに目を伏せ、ほんの少しだけジェラルドの方を見遣り、それから。
「わたくしも、お二人のように恋慕う方を見つけて、結婚できたら・・・と思っただけですわ」
ふふ、これで逆ハーレムの可能性は潰れましたわね。
アーサー殿下は良くも悪くも真っ直ぐな方なので、気持ちが傾きかけているカレンデュラさんとの仲を婚約者のわたくしが後押ししたことで一気に転がり落ちるでしょう。
カレンデュラさんがどう足掻こうとも、殿下以外の男性と必要以上に仲良くなることはもうできませんわ。
後は・・・ジェラルドなのだけれど・・・
ちらりとまたジェラルドの方を見ようとしたら、あら?いない?
こんな広くもない部屋で音もなく一体どこに・・・
「ひゃあっ!?」
ま、真横!
思わず変な声が出てしまいました!
咎められないような密室でよかった・・・
「ジェラルド、急にすぐ横にいたらびっくりするじゃない」
「すまない。だがあまりにも嬉しくなってしまって」
「嬉しい?」
「ああ、もう貴女と距離をとって我慢しなくていいんだと思ったら・・・」
ジェラルドはそう言いながら恭しくわたくしの手を取ると、そっと甲にキスを落として。
「今はまだ、殿下の婚約者だからここまでにしておく。身分や立場ではなく想い合えることを貴女が伴侶に望むなら、俺もその候補の一人として見てもらえるか?」
「えっ、あああの、は、はいっ」
ジェラルドの予想外の言葉に、彼にしては珍しい蕩けるような優しい微笑みに、わたくしは顔が茹だるのを感じて吃ってしまいました。
そんなわたくしを見て、一層笑みを深くして満足そうにすると、急に真顔になりグルッと殿下たちの方へ向いて背筋を伸ばしました。
「殿下」
「おっ、おお?」
呆けたように見ていた殿下も突然話を振られてびっくりしています。
「話は纏まりました。とりあえずロザリーヌ様との婚約を解消するまでもした後も、ロザリーヌ様が殿下とレヴィ子爵令嬢を応援し円満な関係であると周囲に知らしめるためにもこれから学園内ではできる限りお二方とご一緒に過ごされた方が良いかと。レヴィ子爵令嬢への淑女教育のこともありますし。
___もちろん、俺も同席します。殿下が元婚約者と新たな婚約者候補の両方を侍らせていると思われないように」
「お前、もっともらしいことを言ってるけどロザリーヌの近くにいたいだけだろ?」
「それが何か?今でこそ殿下とは気の置けない友人だが、そもそも俺はロザリーヌ様を守るために殿下の側付きの護衛をしてたんだ・・・忘れたのか?」
「あーはいはいわかったよ!本当ブレないなお前!」
わたくしを守るため?
よくわからないけど・・・嬉しいですわ。
「そういう訳だから、ロザリーヌ・・・もう、敬称をつけなくてもいいか?まずは幼馴染に戻りたい」
「ええ、構わないわ。昔のようにリィンと呼んでもいいのよ」
「魅力的な申し出だが・・・それは恋人として認めてもらえたときに呼ぶことにするよ」
「まあっ・・・は、恥ずかしいですわ」
「おーい、お前ら王子を放ったらかして盛り上がるなよ」
あ、そういえばまだいましたわね。
カレンデュラさんの方は・・・令嬢にあるまじき間抜け面で呆然としていて何もできないようです。
二度と殿下の婚約者という御鉢が回ってこないようにこの方にしっかりと淑女教育をたたきこまないといけないなんて前途多難ですわ。
ふぅ、と小さくため息をして横に立つジェラルドを見上げたら、それはそれは格好良く色気すら感じる眩しい笑顔を向けられたのでした。
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