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六十九話 真相
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二人の足取りを示すものはすぐに見つかった。
「これ弾丸ですよね。こんなの、普通堕ちるわけないしわざと。罠とかですか?」
たぶんそうなんだろう。
「行くぞ」
緊張感はより一層激しくなる。
人通りが少ないわけでも、見知らぬ土地でもないのに歩を進めるたびに胃液がこみあげそうになる。
空気が気持ち悪い。
周りにはやじうま、こちらも大人数、周囲は見知った故郷の街並みなのに心がまるで休まらない。
そんな思いを抱えながらたどり着いたのは以前、あの通り魔殺人の犯人だった少年の遺体が見つかった廃工場だった。
「どうしてこんなところに」
あたりを見渡すが人影は見えない。
あの時と内装は変わって無いように見えるが、久しぶりに来たからだろうかやけに油のにおいが鼻につく。
「あたりに注意しろ」
「注意とは一体何に対してですか?」
その声はあまりにも無機質で美しいものだった。
「ッ!」
一体いつからそこにいたのか、ほんの十メートル先にある中央階段、その真下に金城百合と銃を構えた道長慶介が立っていた。
「お前ら!」
俺の怒号に表情一つ変えず道長慶介は無表情のまま、金城百合はうつむいていてその顔色をうかがうことができなかった。
「皆さん、動かないでください。動いた場合は撃ちます」
あくまで事務的なその対応に奴がどこまで本気なのかはうかがうことができない。
あせり回りの連中を見渡すが、他も似たようなもの。
誰もこの不意打ちに対応できないでいた。
「その銃。やっぱり刑務所の襲撃もお前たちの仕業か」
「そうです。あのビデオを見た貴方なら想像がついたでしょう」
何でこいつビデオを見たことを知っている?
そんな疑問が頭をよぎったが今はどうでもいい。
「銃を下ろせ。もう無駄だ。俺達も銃を持っている。たとえお前が撃ってもこの人数差だ勝ち目はないぞ」
「なら動けばどうですか?それで自分、あるいはほかのだれかの命が失われてもいいというなら。自分はどちらでも構いません」
脅しも全く効果はないようで奴は涼しい顔をしたままだ。
口ではああいったが、いくらなんでもそんな無謀なことはできない。
「あと、一つだけ勘違いしてます。自分が撃つといったのは貴方方ではなくその後ろにいる神山京香です」
予想外の名前に驚きつつ警戒は怠らないまま後方を確認するとそこには確かに顔面蒼白のまま突っ立っている神山がいた。
なぜ、こんなところに!
その悪態が出る前に、道長が口を開く。
「自分が呼んだんですよ。あのビデオにメッセージをつけまして。こういった場面では一般人の人質がいたほうが絵的に良いでしょう」
「そんな理由で巻き込んだのか?」
誰かがそう非難の声を上げた。
「無差別よりは理由があるほうが良いでしょう。アレも自分たちとは無関係ではありませんし。だから選んだんです。だから動かないでください」
「こんなことしても逃げきれないぞ。あれだけの事件を起こしたんだもう終わりだ」
「わかってますよ。むしろ終わりなので派手にしただけです。今あなたたちの動きを止めてるのは話をするためですよ事件の」
それは想像していなかった申し出だった。
「自白するってことか?」
「はい。この事件を終わらせるために」
それがどこまで本気かはわからないが、自白するというのなら話してもらおう。
「最初に警察あてに事件の予告ビデオを送ったのはお前か?」
「はい。貴方たちにより一層事件に関わってもらうために送りました。理由はそのほうが盛り上がるからです」
「・・・。なら、あのビデオで触れていた時見養護施設での事件それもお前たちがかかわっているのか?」
「全てではありません。鳩山静稀が起こした事件と時見早子が起こした事件はアレらが自らの意思で起こしました。時見早子の場合はその動機に少なからず自分がかかわりますが」
道長慶介はあくまで機械的に感情なく淡々と答えだけを晒していく。
その光景は異様でせいぜい160cmほどの道長慶介をやけに威圧的に見せた。
「時見早子の動機だと?」
それは確か、時見泰三が父の遺志を引き継ぎ起こそうとしていた実験。
「人格改造か」
「はい。元々時見養護施設に集められた子供たちは人格改造の被験者として選ばれた者たちでした。時見早子はその実験を強行しようとした時見泰三を止めるためにアレを殺しました。その部分には自分は何も関与はしていません。ですが、人格改造の技術あれは元々自分の実家のものなんです」
「道長家の!?」
驚きの声を上げる俺達を道長は一瞥し否定する。
「違います。道長家は関係ないです。それについてはお話しません。つまり、時見養護施設が自分たちの技術をどう使えるのかを見るため自分は金城百合をつれてあの施設に潜入したんです。結果はくだらないものでしたが。例の事件で時見養護施設にはもう用がなくなったのであの施設は燃やしました。これ以上存在させる理由もなかったですから」
「お前たちは最初っから手を組んでいたのか。そしてあの放火はやはりお前の仕業だったのか!」
「はい。金城百合は元々自分が拾ったものですからね。利用しないといけません。時見養護施設でやったのは放火だけではありません。鳩山静稀と大口大介の殺害も自分たちがやりました」
「な、なんであの二人を!?」
そこで初めて、立ち尽くしたままの神山京香が青ざめた顔のまま声を上げた。
体は小刻みに震えている。
銃を突き付けられているんだ当たり前だ。
仲間たちの何人かは苦い顔をしている。
声を出すな、そう言いたげだった。
道長を刺激させないために、だがそんな俺たちの思いとは裏腹に道長は何でもないように話を続けた。
「鳩山静稀は自分が金城百合に命じ殺させました。理由は一つ、金城百合に殺人を体験させるためです。コレは当時自分の影響下にありましたが、殺人はやはり未知の領域経験させるのが一番だと思ったので殺させました」
「お前の命令一つでか?」
「はい。貴方は異常だと感じるでしょうが自分にはそれができるんです。それが事実です。鳩山静稀を標的に選んだのはアレが金城百合の体を狙い最終的にはその命も奪おうと動いていたからです。正当防衛とすれば罪悪感も多少緩和されるでしょう。いえ、むしろ害虫退治のように気軽にその思考を誘導させることができました」
子供にそんなことできるか。
誰かがそう叫んだが、俺はそうは思わなかった。
いや、むしろ今までの事件の不可解さを考えれば妙に納得できる。
いや、納得しなければ話が進まない。
「大口大介の殺害はアレが近衛大志と響司を支配下に置いていたからです。アレがいたら二人の成長の妨げになるので殺しました」
「二人の成長だと。なぜ、そんなことを気にする?」
「自分が二人をこの町を舞台にした物語の重要キャラに添えていたからです」
道長が一体何の話をしているのわからず困惑する我々の中で一人だけその意図に気づいたものがいた。
「物語って、断罪への道のこと?」
そう尋ねた神山の言葉の意味は俺達にはわからなかったが道長には何か伝わったようだった。
「はい。あの断罪への道という本、実は自分も元々持っていたんです。この町の図書館にあったのは完全な偶然ですね。そしてそれがこの事件の発端です」
「動機?それは人類浄化の会が謳ってた、悪人のいない世界ってやつか?」
俺の言葉にヒルは首を振る。
「それはあくまで、響司の思想を他者に共感させることで成り立っていたもので彼らを縛る共通目的であっても事件の始まりとは無関係です。事件の始まりは簡単に言うと偶然と自分の思い付きです」
「偶然と思いつき?」
「はい。始まりは先ほど話した断罪への道という小説なのですが、その小説内容をかいつまんで話すと犯罪によりすべてを失った主人公が罪を憎み咎人達に私刑を下していきます。悪人は生きる価値などないという志向のもと。その一方で主人公の親友は同じく犯罪によりすべてをなくします。彼は主人公の志向を理解しつつも持ち前の正義感からか協力はできない主人公を止めると行動しだします。そんな二人の争いを描いた物語なんです」
なんともありきたりでつまらない物語だ、けれどその主人公たちの人間関係は確かにあの二人近衛大志と響司に似ていた。
「その物語と境遇が似ている。だからお前はあの二人に目を付けたのか」
「はい。偶然にも駒がそろっていたので自分がこの物語を現実で起こしてみようと思いつき実行しました。それがこの事件の始まりの動機です。響司をはじめほかの人間たちにもにも各々の思いはありましたが、それはあくまでこの事件を動かすための燃料です。事件のスイッチを入れて燃料に火をともしたのは自分です」
そこで限界がきたのか、俺たちのうちの誰かが大声で怒鳴った。
「よくもそんなことを平気で!この人でなしが!何が全部自分がやっただ、こんなこと誇らしいとでも思っているのか!!」
思いはみな同じだろう、俺たちは一丸となって道長をにらみつけるがそれでも奴は涼しげにその怒りを受け流した。
「誇らしくなどありません。自分からすればこの世に誇ることなど一切ありません。誰もそんなものはないんですよ。今回の件もできることを物語に沿ってしただけです」
「つまりお前はあの二人をその話の二人のように成長させるために邪魔だった大口大介を殺したわけか」
「はい」
こいつの思考が全く理解できない。
今までにも、理解できない人間には仕事の関係上何人にも会ってきたがこいつはそいつらと比べても別格だ。
いや、比べることすらおかしいと感じる。
これまで出会った犯罪者たちその動機は様々でそのほとんどが全く共感できないものばかりだったが。
そんな奴らでさえ動機の芯となるものが確かにあった。
時見早子には施設の子供を守りたいという動機が鳩山静稀には少女を汚したいという欲望が響司にはこの世界に対する怒りがそれぞれあった。
だがこいつはどうだ?
この道長慶介からはそれらしい感情が一切感じられない。
それが薄気味悪くてしょうがない。
「響司に人類浄化の会を立ち上げるようにさせたのは養護施設での一軒の後です。組織に入る人間を最初は人手もいるので質は考えず、集めました。元々犯罪などに恨みがある人間たちだったので彼らの意識を憎しみに持っていくのは容易でした。組織が形になった後行った行動は、貴方が知っている通り魔殺人を演出しました」
疑問に思わなかったわけじゃない。
最初の事件の発生から犯人の死までの異様な速さを。
素人が警察ですら目をつけていないうちに犯人を見つけ出すなんて滅多にない。
しかも、犯罪者を探している連中が都合よく町で偶然起きた殺人犯を見つけて始末するなんてほぼゼロだ。
「そうか、やはりあれも仕組まれてたのか」
「はい。最初はやっぱり印象深くいこうと罪の重いものが被害者のほうが良いと考えました。わかりやすさも重視して殺人犯を犠牲者にしようと考えました。ですが、そう簡単に見つかるものでもありません。ですので作れば早いと考えたんです。そういった意味では秋保勝生はよい人材でした。アレは元々殺人願望を胸に秘めてましたから。そういった人間は少なからずいるので探すのも手間ではありませんでした。あとはその思いを表層意識まで上げるだけなので簡単な作業でした。舞台も凶器も被害者もすべてこちらで手配したので秋保勝生は殺人を実行しただけです」
「被害者も用意しただと?」
「はい。被害者である七川浅利は道長慶介に恋心を持っていたのでその思いを利用しました。何か強い思いに支配されている人間は動かしやすいので」
「お前を思うその子の気持ちを殺すためだけに利用したのか!?」
「使えるものは使ったほうが良いので。その後は、貴方方も知るように秋保勝生を殺し、脅迫状を送りました。それ以降の連続殺人は自分ではなくほかの人間にやらせたものです。あれらにも殺人の経験を積ませるために。適当に選んだので犠牲者は比較的罪の軽いものが多くなりましたが」
「お前はそれを傍観してただけか?」
「いいえ。自分はその間にこの町で起きた狂気を全国に広げることに努めました。ゆっくりと病のように、各地で起きた暴動はそれです。各地の暴動はこの事件ではメインではないので手っ取り早く洗脳で済ませました」
随分簡単に言うが洗脳なんてそう簡単にできるもんじゃない、ましてや不特定多数に。
それとも、コイツに家の技術とやらはそれすらも簡単に行えるものなのか?
だとしたら、それはやばいなんてものじゃない。
これだけ世の中に影響が出てるんだ、個人の意思で国が壊れるなんてことも笑い話ではなくなってしまう。
そんな規模になればそれはもう事件では収まらないそれこそ内戦戦争へと発展しうる事案だ。
「事件も世間に強く認識されたころ自分は次の段階へと計画を移しました。それが選別です。人手ももういらなくなったので事件関与への意思の弱い人間たちを皆殺しました。貴方方が見つけた肉の塊はその犠牲者たちです」
「荒見組もお前たちの仕業か?」
「そうです。荒見組とかかわりを持ったのは資金調達と今回使った銃火器の調達が主な目的でした。荒見組は警察のお偉いの人間とも交友があったので、自分たちの捜査の足止めにも利用できましたので」
そうか、それで俺たちは動けずにいたのか。
腐ってやがる!
そんな怒りがこみ上げる。
「資金源は荒見組に薬を売ることで得ていました。洗脳技術を応用した薬、ヒュッピノスブレインなんて呼ばれてましたね。あれは自分が作ったものです。人を操る薬と触れ込んでいたので高値で売れました」
「あの薬もお前が。なら、毒殺事件も?」
「そうです、武器を手に入れるために荒見組を始末しました。そうなるともう薬を作る意味もないので中毒者の方々には死んでもらいました。ですがこれは彼らにっとっては救いでもありますよ。あの薬は完全に理性を破壊してしまうものです、獣として生きるよりは死んだほうが良いでしょう」
「勝手なことを!」
激昂する新人刑事に道長は冷ややかな目を送る。
「感情的なことで口を挟まないで下さい。無駄に話が止まります。・・・司が捕まったことで物語は終わりを迎えました。ですので自分は司との約束だった刑務所の襲撃を実行しもう用がなくなった人類浄化の会の皆さん委は警察と遭遇し次第死ぬように命令を下しここへときました」
「これ弾丸ですよね。こんなの、普通堕ちるわけないしわざと。罠とかですか?」
たぶんそうなんだろう。
「行くぞ」
緊張感はより一層激しくなる。
人通りが少ないわけでも、見知らぬ土地でもないのに歩を進めるたびに胃液がこみあげそうになる。
空気が気持ち悪い。
周りにはやじうま、こちらも大人数、周囲は見知った故郷の街並みなのに心がまるで休まらない。
そんな思いを抱えながらたどり着いたのは以前、あの通り魔殺人の犯人だった少年の遺体が見つかった廃工場だった。
「どうしてこんなところに」
あたりを見渡すが人影は見えない。
あの時と内装は変わって無いように見えるが、久しぶりに来たからだろうかやけに油のにおいが鼻につく。
「あたりに注意しろ」
「注意とは一体何に対してですか?」
その声はあまりにも無機質で美しいものだった。
「ッ!」
一体いつからそこにいたのか、ほんの十メートル先にある中央階段、その真下に金城百合と銃を構えた道長慶介が立っていた。
「お前ら!」
俺の怒号に表情一つ変えず道長慶介は無表情のまま、金城百合はうつむいていてその顔色をうかがうことができなかった。
「皆さん、動かないでください。動いた場合は撃ちます」
あくまで事務的なその対応に奴がどこまで本気なのかはうかがうことができない。
あせり回りの連中を見渡すが、他も似たようなもの。
誰もこの不意打ちに対応できないでいた。
「その銃。やっぱり刑務所の襲撃もお前たちの仕業か」
「そうです。あのビデオを見た貴方なら想像がついたでしょう」
何でこいつビデオを見たことを知っている?
そんな疑問が頭をよぎったが今はどうでもいい。
「銃を下ろせ。もう無駄だ。俺達も銃を持っている。たとえお前が撃ってもこの人数差だ勝ち目はないぞ」
「なら動けばどうですか?それで自分、あるいはほかのだれかの命が失われてもいいというなら。自分はどちらでも構いません」
脅しも全く効果はないようで奴は涼しい顔をしたままだ。
口ではああいったが、いくらなんでもそんな無謀なことはできない。
「あと、一つだけ勘違いしてます。自分が撃つといったのは貴方方ではなくその後ろにいる神山京香です」
予想外の名前に驚きつつ警戒は怠らないまま後方を確認するとそこには確かに顔面蒼白のまま突っ立っている神山がいた。
なぜ、こんなところに!
その悪態が出る前に、道長が口を開く。
「自分が呼んだんですよ。あのビデオにメッセージをつけまして。こういった場面では一般人の人質がいたほうが絵的に良いでしょう」
「そんな理由で巻き込んだのか?」
誰かがそう非難の声を上げた。
「無差別よりは理由があるほうが良いでしょう。アレも自分たちとは無関係ではありませんし。だから選んだんです。だから動かないでください」
「こんなことしても逃げきれないぞ。あれだけの事件を起こしたんだもう終わりだ」
「わかってますよ。むしろ終わりなので派手にしただけです。今あなたたちの動きを止めてるのは話をするためですよ事件の」
それは想像していなかった申し出だった。
「自白するってことか?」
「はい。この事件を終わらせるために」
それがどこまで本気かはわからないが、自白するというのなら話してもらおう。
「最初に警察あてに事件の予告ビデオを送ったのはお前か?」
「はい。貴方たちにより一層事件に関わってもらうために送りました。理由はそのほうが盛り上がるからです」
「・・・。なら、あのビデオで触れていた時見養護施設での事件それもお前たちがかかわっているのか?」
「全てではありません。鳩山静稀が起こした事件と時見早子が起こした事件はアレらが自らの意思で起こしました。時見早子の場合はその動機に少なからず自分がかかわりますが」
道長慶介はあくまで機械的に感情なく淡々と答えだけを晒していく。
その光景は異様でせいぜい160cmほどの道長慶介をやけに威圧的に見せた。
「時見早子の動機だと?」
それは確か、時見泰三が父の遺志を引き継ぎ起こそうとしていた実験。
「人格改造か」
「はい。元々時見養護施設に集められた子供たちは人格改造の被験者として選ばれた者たちでした。時見早子はその実験を強行しようとした時見泰三を止めるためにアレを殺しました。その部分には自分は何も関与はしていません。ですが、人格改造の技術あれは元々自分の実家のものなんです」
「道長家の!?」
驚きの声を上げる俺達を道長は一瞥し否定する。
「違います。道長家は関係ないです。それについてはお話しません。つまり、時見養護施設が自分たちの技術をどう使えるのかを見るため自分は金城百合をつれてあの施設に潜入したんです。結果はくだらないものでしたが。例の事件で時見養護施設にはもう用がなくなったのであの施設は燃やしました。これ以上存在させる理由もなかったですから」
「お前たちは最初っから手を組んでいたのか。そしてあの放火はやはりお前の仕業だったのか!」
「はい。金城百合は元々自分が拾ったものですからね。利用しないといけません。時見養護施設でやったのは放火だけではありません。鳩山静稀と大口大介の殺害も自分たちがやりました」
「な、なんであの二人を!?」
そこで初めて、立ち尽くしたままの神山京香が青ざめた顔のまま声を上げた。
体は小刻みに震えている。
銃を突き付けられているんだ当たり前だ。
仲間たちの何人かは苦い顔をしている。
声を出すな、そう言いたげだった。
道長を刺激させないために、だがそんな俺たちの思いとは裏腹に道長は何でもないように話を続けた。
「鳩山静稀は自分が金城百合に命じ殺させました。理由は一つ、金城百合に殺人を体験させるためです。コレは当時自分の影響下にありましたが、殺人はやはり未知の領域経験させるのが一番だと思ったので殺させました」
「お前の命令一つでか?」
「はい。貴方は異常だと感じるでしょうが自分にはそれができるんです。それが事実です。鳩山静稀を標的に選んだのはアレが金城百合の体を狙い最終的にはその命も奪おうと動いていたからです。正当防衛とすれば罪悪感も多少緩和されるでしょう。いえ、むしろ害虫退治のように気軽にその思考を誘導させることができました」
子供にそんなことできるか。
誰かがそう叫んだが、俺はそうは思わなかった。
いや、むしろ今までの事件の不可解さを考えれば妙に納得できる。
いや、納得しなければ話が進まない。
「大口大介の殺害はアレが近衛大志と響司を支配下に置いていたからです。アレがいたら二人の成長の妨げになるので殺しました」
「二人の成長だと。なぜ、そんなことを気にする?」
「自分が二人をこの町を舞台にした物語の重要キャラに添えていたからです」
道長が一体何の話をしているのわからず困惑する我々の中で一人だけその意図に気づいたものがいた。
「物語って、断罪への道のこと?」
そう尋ねた神山の言葉の意味は俺達にはわからなかったが道長には何か伝わったようだった。
「はい。あの断罪への道という本、実は自分も元々持っていたんです。この町の図書館にあったのは完全な偶然ですね。そしてそれがこの事件の発端です」
「動機?それは人類浄化の会が謳ってた、悪人のいない世界ってやつか?」
俺の言葉にヒルは首を振る。
「それはあくまで、響司の思想を他者に共感させることで成り立っていたもので彼らを縛る共通目的であっても事件の始まりとは無関係です。事件の始まりは簡単に言うと偶然と自分の思い付きです」
「偶然と思いつき?」
「はい。始まりは先ほど話した断罪への道という小説なのですが、その小説内容をかいつまんで話すと犯罪によりすべてを失った主人公が罪を憎み咎人達に私刑を下していきます。悪人は生きる価値などないという志向のもと。その一方で主人公の親友は同じく犯罪によりすべてをなくします。彼は主人公の志向を理解しつつも持ち前の正義感からか協力はできない主人公を止めると行動しだします。そんな二人の争いを描いた物語なんです」
なんともありきたりでつまらない物語だ、けれどその主人公たちの人間関係は確かにあの二人近衛大志と響司に似ていた。
「その物語と境遇が似ている。だからお前はあの二人に目を付けたのか」
「はい。偶然にも駒がそろっていたので自分がこの物語を現実で起こしてみようと思いつき実行しました。それがこの事件の始まりの動機です。響司をはじめほかの人間たちにもにも各々の思いはありましたが、それはあくまでこの事件を動かすための燃料です。事件のスイッチを入れて燃料に火をともしたのは自分です」
そこで限界がきたのか、俺たちのうちの誰かが大声で怒鳴った。
「よくもそんなことを平気で!この人でなしが!何が全部自分がやっただ、こんなこと誇らしいとでも思っているのか!!」
思いはみな同じだろう、俺たちは一丸となって道長をにらみつけるがそれでも奴は涼しげにその怒りを受け流した。
「誇らしくなどありません。自分からすればこの世に誇ることなど一切ありません。誰もそんなものはないんですよ。今回の件もできることを物語に沿ってしただけです」
「つまりお前はあの二人をその話の二人のように成長させるために邪魔だった大口大介を殺したわけか」
「はい」
こいつの思考が全く理解できない。
今までにも、理解できない人間には仕事の関係上何人にも会ってきたがこいつはそいつらと比べても別格だ。
いや、比べることすらおかしいと感じる。
これまで出会った犯罪者たちその動機は様々でそのほとんどが全く共感できないものばかりだったが。
そんな奴らでさえ動機の芯となるものが確かにあった。
時見早子には施設の子供を守りたいという動機が鳩山静稀には少女を汚したいという欲望が響司にはこの世界に対する怒りがそれぞれあった。
だがこいつはどうだ?
この道長慶介からはそれらしい感情が一切感じられない。
それが薄気味悪くてしょうがない。
「響司に人類浄化の会を立ち上げるようにさせたのは養護施設での一軒の後です。組織に入る人間を最初は人手もいるので質は考えず、集めました。元々犯罪などに恨みがある人間たちだったので彼らの意識を憎しみに持っていくのは容易でした。組織が形になった後行った行動は、貴方が知っている通り魔殺人を演出しました」
疑問に思わなかったわけじゃない。
最初の事件の発生から犯人の死までの異様な速さを。
素人が警察ですら目をつけていないうちに犯人を見つけ出すなんて滅多にない。
しかも、犯罪者を探している連中が都合よく町で偶然起きた殺人犯を見つけて始末するなんてほぼゼロだ。
「そうか、やはりあれも仕組まれてたのか」
「はい。最初はやっぱり印象深くいこうと罪の重いものが被害者のほうが良いと考えました。わかりやすさも重視して殺人犯を犠牲者にしようと考えました。ですが、そう簡単に見つかるものでもありません。ですので作れば早いと考えたんです。そういった意味では秋保勝生はよい人材でした。アレは元々殺人願望を胸に秘めてましたから。そういった人間は少なからずいるので探すのも手間ではありませんでした。あとはその思いを表層意識まで上げるだけなので簡単な作業でした。舞台も凶器も被害者もすべてこちらで手配したので秋保勝生は殺人を実行しただけです」
「被害者も用意しただと?」
「はい。被害者である七川浅利は道長慶介に恋心を持っていたのでその思いを利用しました。何か強い思いに支配されている人間は動かしやすいので」
「お前を思うその子の気持ちを殺すためだけに利用したのか!?」
「使えるものは使ったほうが良いので。その後は、貴方方も知るように秋保勝生を殺し、脅迫状を送りました。それ以降の連続殺人は自分ではなくほかの人間にやらせたものです。あれらにも殺人の経験を積ませるために。適当に選んだので犠牲者は比較的罪の軽いものが多くなりましたが」
「お前はそれを傍観してただけか?」
「いいえ。自分はその間にこの町で起きた狂気を全国に広げることに努めました。ゆっくりと病のように、各地で起きた暴動はそれです。各地の暴動はこの事件ではメインではないので手っ取り早く洗脳で済ませました」
随分簡単に言うが洗脳なんてそう簡単にできるもんじゃない、ましてや不特定多数に。
それとも、コイツに家の技術とやらはそれすらも簡単に行えるものなのか?
だとしたら、それはやばいなんてものじゃない。
これだけ世の中に影響が出てるんだ、個人の意思で国が壊れるなんてことも笑い話ではなくなってしまう。
そんな規模になればそれはもう事件では収まらないそれこそ内戦戦争へと発展しうる事案だ。
「事件も世間に強く認識されたころ自分は次の段階へと計画を移しました。それが選別です。人手ももういらなくなったので事件関与への意思の弱い人間たちを皆殺しました。貴方方が見つけた肉の塊はその犠牲者たちです」
「荒見組もお前たちの仕業か?」
「そうです。荒見組とかかわりを持ったのは資金調達と今回使った銃火器の調達が主な目的でした。荒見組は警察のお偉いの人間とも交友があったので、自分たちの捜査の足止めにも利用できましたので」
そうか、それで俺たちは動けずにいたのか。
腐ってやがる!
そんな怒りがこみ上げる。
「資金源は荒見組に薬を売ることで得ていました。洗脳技術を応用した薬、ヒュッピノスブレインなんて呼ばれてましたね。あれは自分が作ったものです。人を操る薬と触れ込んでいたので高値で売れました」
「あの薬もお前が。なら、毒殺事件も?」
「そうです、武器を手に入れるために荒見組を始末しました。そうなるともう薬を作る意味もないので中毒者の方々には死んでもらいました。ですがこれは彼らにっとっては救いでもありますよ。あの薬は完全に理性を破壊してしまうものです、獣として生きるよりは死んだほうが良いでしょう」
「勝手なことを!」
激昂する新人刑事に道長は冷ややかな目を送る。
「感情的なことで口を挟まないで下さい。無駄に話が止まります。・・・司が捕まったことで物語は終わりを迎えました。ですので自分は司との約束だった刑務所の襲撃を実行しもう用がなくなった人類浄化の会の皆さん委は警察と遭遇し次第死ぬように命令を下しここへときました」
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こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
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