9 / 29
第9話 長女カサンドラ
しおりを挟む
ひと仕事を終えた私は額の汗をハンカチで拭いながら、貴重な氷を入れて冷やした紅茶を一口また一口と味わい、イスに腰かけて優雅な一時を満喫していた。
「仕事終わりの一杯ってなんでこんなに美味しいのかしら、ゴク……ゴク……ふぅ。作物ばかり植えてる庭ってのも悪くはないけど、たまには花でも植えてみようかな。なんか彩りが足りないというか、生活感が溢れすぎというか……一画だけでも花を植えるだけでも、がらりと雰囲気が変わりそうだし今度やってみようかな」
「いいんじゃない、アリシャちゃん。そういう発想はとっても大事よ! 直感、直感よ‼」
独り言に相づちを打ち『ちゃん』付けで、私の名前を呼ぶ彼女は魔女姉妹の長女カサンドラである。
魔女特有の黒髪に橙色の瞳、日に焼けた肌が映える健康的な女性。アクティブな姉さんは身動きしやすい服を好んで着るため服装も私とは正反対。お揃いの三角帽子に、瞳の色と同じ刺繍が入ったチューブトップとショートパンツにサンダル。
彼女は天才発明家であり凄腕の商売人。私の家にある家電製品は全て姉さんが発明してプレゼントしてくれたもの。ただこのプレゼントにも裏があって、ここにある家電製品の大半は試作品。姉さんは姉妹を使って不具合がないかテストをして、特に問題がなければ商人を通じて売り出す。貴族に法外な値段で、庶民にはその二割にも満たない安価で売っている。
姉さんが人間の手には余ると判断したものについては、市場には流さずに私たち姉妹だけで使用している。
また不具合に関して言うならば、私も姉さんたちもたったの一度も起こったことがない。試作品ですら、もうすぐに売り出せるほど完璧な出来栄え。それに貴族が好きそうなゴテゴテしたデザインを付け足せば完成となる。そこで得た利益を庶民に還元しているというわけだ。
そのため貴族からは守銭奴と罵られているけど、庶民からは絶大な人気を誇っている。
姉さんを慕って、一緒に仕事をしたいと願い出る人間は後を絶えない。実際に姉さんの名前が表に出ていないだけで、彼女の会社は王国中に数多くある。商人とって彼女はかけがえのないもの、唯一絶対なる女神としての地位を確立している。
それが彼女が黄海の魔女と呼ばれている由縁。
私から見れば、ちょっと間の抜けた笑顔の似合う姉さんにしか見えないんだけど……。
「カサンドラ姉さん……来てたのならもっと早く声をかけてよ」
「ごめんって、アリシャちゃん。このとおりだから、ね? だから姉さんじゃなくて、お姉ちゃんって呼んで、ね?」
「はいはい、それでカサンドラ姉さん……そのママチャリは?」
そんな尊敬する姉さんなんだけど、なんかまたママチャリに乗って来た。見た目の変化はほどんどないけど、フレームになんか長方形の金属が取り付けられていた。
私がそう質問すると、姉さんは自慢げにママチャリについて語り始めた。つい私は彼女の地雷を踏みぬいてしまった。
「これ、ここを見てアリシャちゃん! ここにはね、バッテリーを入っているのよ! いままで自転車って、自分ひとりの力で漕いで進んでいたじゃない? それをこのバッテリーから電気の力を借りることで、負担を減らつつも速度がアップして――」
私は「はいはい」と聞いてますアピールをしながらキッチンに向かい、コップを三つ手に取ってまた元の場所に戻った。その間もずっと姉さんは、私にまとわりついて熱弁していた。一緒について来た姉さんには角砂糖やスプーンなどを持ってもらった。
私は饒舌に語る姉さんをイスに座らせると、桶から冷水筒を取り出して氷が入ったコップに注いで目の前に置いた。
「はい、カサンドラ姉さん。少し休憩しない?」
「……ありがとう、アリシャちゃん。うん、美味しいわ。さすがはあたしの最愛の妹だわ。あたしの味覚に合わせて苦みを抑えてくれているのね! あ~もう好き! アリシャちゃんだ~い好き‼」
「喜んでもらえたのは嬉しいんだけど、あんまり抱き着かないでもらえる?」
「アリアリアリ……アリ、アリシャちゃんはあたしのことが嫌い? 反抗期、反抗期がとうとう到来したの‼ あ~どうしよう、どうすればいいの⁉」
「違う、違うのよ……姉さん、カサンドラ姉さん……私の言い方が悪かったわ。あのだから、話を聞いて……私の話を……」
私がカサンドラ姉さんから熱烈なハグを受けて、身動き取れない状況に陥っていた時だった。姉さんの背後からすっと白い手が伸びて、抱き着く彼女を引き剝がしてくれた。
そして懐かしい二人の声が聞こえた――。
「仕事終わりの一杯ってなんでこんなに美味しいのかしら、ゴク……ゴク……ふぅ。作物ばかり植えてる庭ってのも悪くはないけど、たまには花でも植えてみようかな。なんか彩りが足りないというか、生活感が溢れすぎというか……一画だけでも花を植えるだけでも、がらりと雰囲気が変わりそうだし今度やってみようかな」
「いいんじゃない、アリシャちゃん。そういう発想はとっても大事よ! 直感、直感よ‼」
独り言に相づちを打ち『ちゃん』付けで、私の名前を呼ぶ彼女は魔女姉妹の長女カサンドラである。
魔女特有の黒髪に橙色の瞳、日に焼けた肌が映える健康的な女性。アクティブな姉さんは身動きしやすい服を好んで着るため服装も私とは正反対。お揃いの三角帽子に、瞳の色と同じ刺繍が入ったチューブトップとショートパンツにサンダル。
彼女は天才発明家であり凄腕の商売人。私の家にある家電製品は全て姉さんが発明してプレゼントしてくれたもの。ただこのプレゼントにも裏があって、ここにある家電製品の大半は試作品。姉さんは姉妹を使って不具合がないかテストをして、特に問題がなければ商人を通じて売り出す。貴族に法外な値段で、庶民にはその二割にも満たない安価で売っている。
姉さんが人間の手には余ると判断したものについては、市場には流さずに私たち姉妹だけで使用している。
また不具合に関して言うならば、私も姉さんたちもたったの一度も起こったことがない。試作品ですら、もうすぐに売り出せるほど完璧な出来栄え。それに貴族が好きそうなゴテゴテしたデザインを付け足せば完成となる。そこで得た利益を庶民に還元しているというわけだ。
そのため貴族からは守銭奴と罵られているけど、庶民からは絶大な人気を誇っている。
姉さんを慕って、一緒に仕事をしたいと願い出る人間は後を絶えない。実際に姉さんの名前が表に出ていないだけで、彼女の会社は王国中に数多くある。商人とって彼女はかけがえのないもの、唯一絶対なる女神としての地位を確立している。
それが彼女が黄海の魔女と呼ばれている由縁。
私から見れば、ちょっと間の抜けた笑顔の似合う姉さんにしか見えないんだけど……。
「カサンドラ姉さん……来てたのならもっと早く声をかけてよ」
「ごめんって、アリシャちゃん。このとおりだから、ね? だから姉さんじゃなくて、お姉ちゃんって呼んで、ね?」
「はいはい、それでカサンドラ姉さん……そのママチャリは?」
そんな尊敬する姉さんなんだけど、なんかまたママチャリに乗って来た。見た目の変化はほどんどないけど、フレームになんか長方形の金属が取り付けられていた。
私がそう質問すると、姉さんは自慢げにママチャリについて語り始めた。つい私は彼女の地雷を踏みぬいてしまった。
「これ、ここを見てアリシャちゃん! ここにはね、バッテリーを入っているのよ! いままで自転車って、自分ひとりの力で漕いで進んでいたじゃない? それをこのバッテリーから電気の力を借りることで、負担を減らつつも速度がアップして――」
私は「はいはい」と聞いてますアピールをしながらキッチンに向かい、コップを三つ手に取ってまた元の場所に戻った。その間もずっと姉さんは、私にまとわりついて熱弁していた。一緒について来た姉さんには角砂糖やスプーンなどを持ってもらった。
私は饒舌に語る姉さんをイスに座らせると、桶から冷水筒を取り出して氷が入ったコップに注いで目の前に置いた。
「はい、カサンドラ姉さん。少し休憩しない?」
「……ありがとう、アリシャちゃん。うん、美味しいわ。さすがはあたしの最愛の妹だわ。あたしの味覚に合わせて苦みを抑えてくれているのね! あ~もう好き! アリシャちゃんだ~い好き‼」
「喜んでもらえたのは嬉しいんだけど、あんまり抱き着かないでもらえる?」
「アリアリアリ……アリ、アリシャちゃんはあたしのことが嫌い? 反抗期、反抗期がとうとう到来したの‼ あ~どうしよう、どうすればいいの⁉」
「違う、違うのよ……姉さん、カサンドラ姉さん……私の言い方が悪かったわ。あのだから、話を聞いて……私の話を……」
私がカサンドラ姉さんから熱烈なハグを受けて、身動き取れない状況に陥っていた時だった。姉さんの背後からすっと白い手が伸びて、抱き着く彼女を引き剝がしてくれた。
そして懐かしい二人の声が聞こえた――。
10
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する
真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる