6 / 29
第6話 不思議な少年
しおりを挟む
その後、少年は昨日生き倒れていたのがウソのように、私が用意した朝ご飯を次から次へと平らげていった。お昼ご飯も兼ねて大量に作ったスープは、彼の連続おかわりによって鍋を逆さまにしても一滴も落ちることなく、見事に食べ尽くされた。
食後の紅茶を振舞うと少年は「ありがとうございます」と、会釈をしてカップに口をつけていた。
「おなかも膨れたことだし、あなたがこの森に来た理由でも、そろそろ教えてもらえないかしら? 無理強いはしないから、話したいことだけ話してみなさい。まあ一応念のために言っておくけど、私はあなたの命の恩人だと言うことを理解した上で、話すことを忘れないようにね?」
私は少年に圧を与えるようにあえて声のトーンを低くして問いかけた。
相手と交渉する時は、常に先手で高圧的に行うようにする。これこそがヴィヴィアン姉さんから教わった交渉術。あと言質を取るために手帳も用意しておいた。これもヴィヴィアン姉さんの教えの一つ。
使い方って……これで合っているのかしら。教えてもらっただけで一回も使ったことないのよね。
少年はカップをテーブルに置くと、言葉に詰まることもなく流暢に話し始めた。
それはもう本当にとめどなく続き、こっちがもう分かったから止めてと言うまで終わらなかった。
なんかもう途中全く関係ないような話が混ざっていた気もするし、いま私が正しく理解できていると自信をもって言えるのは、彼がここに来た理由ぐらいかもしれない。残りはおいおい整理していこう、情報量が多すぎて処理しきれない。思っていたのと違う使い方だったけど、手帳を用意しておいて正解だったわ、これがなかったらもう理解するの諦めていたもの……。
それとこの交渉術は効果が強すぎるようなので、安易に使わないと心の中でひっそりと誓った。
私の対面に座っている子供はニール・フェクシオン、年齢は八歳で貴族の嫡男だそうだ。天窓からの日差しを浴びて、煌めく金髪に浅緑の瞳をした利発な少年。
その少年がこの樹海に足を踏み入れた理由……それは、私に会いに来たというものだった。正確に言えば、樹海の魔女が本当に存在するのかを確かめたかったらしい。
私はいま目の前にいるのがその会いに来た魔女だと伝えると、ニールは目を点にして固まってしまった。期待していた以上の面白い反応につい笑みをこぼしてしまった。
他にも魔女はいるのになぜ私を選んだのか聞くと、ニールはここが一番王都から近いという至ってシンプルな答えが返ってきた。子供の足ではここ以外に選択肢はないかもしれない、砂漠に沼地に海原……確かにここが一番無難かもしれないけど、実際に行動に起こす人間がいることに驚いた。
屈強な騎士ですら裸足で逃げ出すような恐ろしい森を、こんな子供がたった一人で挑んだ。しかも、途中で力尽きたとはいえ……私の家まであと一歩のところまでたどり着いた。ただ変な自信がつかないように、勇気と無謀は違うと諭しておいた。
私はその石像のように動かなくなったニールに、これからの予定について取り決めることにした。
「それで、このあとの予定なんだけど……あなたはどうしたい? 私の意見よりもまずはあなたの考えを教えてほしい」
「はい……はい、ぼくとしてはできればもう少しここに滞在させていただければと思っています。体調は特に問題がないのですが、体力面がまだ心もとないといいますか……」
「あなたがそれでいいのなら、私は別に構わないわよ。だけど、あなたが王都から飛び出して今日で一週間は経っているわよね? 親御さんのことは大丈夫なの? それにあなたがいなくなったことで、従者や侍女に迷惑がかかっている可能性もあるわよね? そっちは別に気にしなくてもいいの?」
「ぐっ……さすが樹海の魔女……痛いところを突いてきますね。確かにぼくもそのことは気になっています。でも、またこの森を抜けて王都に戻るとなると、心身ともに完全回復して挑まないとまたどっかで生き倒れてしまいます。そのことを鑑みても、ぼくはここにいるべきだと思うのです!」
この子供は私を褒めているのか貶しているのか……そして、なぜこの子供は私の顔をじっと見つめて、私の手を両手で覆って握ってくるのか? ほんとどういうことなの⁉
私はニールの言動に戸惑いつつも、その問題も解決できる最適案があるのを思い出し即座に提言した。このままニールを居座らせてはいけない……そんな予感がしたのだ。こういう時はその直感を信じるのが魔女の流儀。
「え~っと、そこで全てを問題を解決する策があります。あなたを森の外まで連れて行ってあげるから、大人しく私についてきなさい! あと反論は許しません……以上。さあ行くわよ!」
私は口を歪めて何か言おうとしたニールに先手を打って封じ込めた。
食後の紅茶を振舞うと少年は「ありがとうございます」と、会釈をしてカップに口をつけていた。
「おなかも膨れたことだし、あなたがこの森に来た理由でも、そろそろ教えてもらえないかしら? 無理強いはしないから、話したいことだけ話してみなさい。まあ一応念のために言っておくけど、私はあなたの命の恩人だと言うことを理解した上で、話すことを忘れないようにね?」
私は少年に圧を与えるようにあえて声のトーンを低くして問いかけた。
相手と交渉する時は、常に先手で高圧的に行うようにする。これこそがヴィヴィアン姉さんから教わった交渉術。あと言質を取るために手帳も用意しておいた。これもヴィヴィアン姉さんの教えの一つ。
使い方って……これで合っているのかしら。教えてもらっただけで一回も使ったことないのよね。
少年はカップをテーブルに置くと、言葉に詰まることもなく流暢に話し始めた。
それはもう本当にとめどなく続き、こっちがもう分かったから止めてと言うまで終わらなかった。
なんかもう途中全く関係ないような話が混ざっていた気もするし、いま私が正しく理解できていると自信をもって言えるのは、彼がここに来た理由ぐらいかもしれない。残りはおいおい整理していこう、情報量が多すぎて処理しきれない。思っていたのと違う使い方だったけど、手帳を用意しておいて正解だったわ、これがなかったらもう理解するの諦めていたもの……。
それとこの交渉術は効果が強すぎるようなので、安易に使わないと心の中でひっそりと誓った。
私の対面に座っている子供はニール・フェクシオン、年齢は八歳で貴族の嫡男だそうだ。天窓からの日差しを浴びて、煌めく金髪に浅緑の瞳をした利発な少年。
その少年がこの樹海に足を踏み入れた理由……それは、私に会いに来たというものだった。正確に言えば、樹海の魔女が本当に存在するのかを確かめたかったらしい。
私はいま目の前にいるのがその会いに来た魔女だと伝えると、ニールは目を点にして固まってしまった。期待していた以上の面白い反応につい笑みをこぼしてしまった。
他にも魔女はいるのになぜ私を選んだのか聞くと、ニールはここが一番王都から近いという至ってシンプルな答えが返ってきた。子供の足ではここ以外に選択肢はないかもしれない、砂漠に沼地に海原……確かにここが一番無難かもしれないけど、実際に行動に起こす人間がいることに驚いた。
屈強な騎士ですら裸足で逃げ出すような恐ろしい森を、こんな子供がたった一人で挑んだ。しかも、途中で力尽きたとはいえ……私の家まであと一歩のところまでたどり着いた。ただ変な自信がつかないように、勇気と無謀は違うと諭しておいた。
私はその石像のように動かなくなったニールに、これからの予定について取り決めることにした。
「それで、このあとの予定なんだけど……あなたはどうしたい? 私の意見よりもまずはあなたの考えを教えてほしい」
「はい……はい、ぼくとしてはできればもう少しここに滞在させていただければと思っています。体調は特に問題がないのですが、体力面がまだ心もとないといいますか……」
「あなたがそれでいいのなら、私は別に構わないわよ。だけど、あなたが王都から飛び出して今日で一週間は経っているわよね? 親御さんのことは大丈夫なの? それにあなたがいなくなったことで、従者や侍女に迷惑がかかっている可能性もあるわよね? そっちは別に気にしなくてもいいの?」
「ぐっ……さすが樹海の魔女……痛いところを突いてきますね。確かにぼくもそのことは気になっています。でも、またこの森を抜けて王都に戻るとなると、心身ともに完全回復して挑まないとまたどっかで生き倒れてしまいます。そのことを鑑みても、ぼくはここにいるべきだと思うのです!」
この子供は私を褒めているのか貶しているのか……そして、なぜこの子供は私の顔をじっと見つめて、私の手を両手で覆って握ってくるのか? ほんとどういうことなの⁉
私はニールの言動に戸惑いつつも、その問題も解決できる最適案があるのを思い出し即座に提言した。このままニールを居座らせてはいけない……そんな予感がしたのだ。こういう時はその直感を信じるのが魔女の流儀。
「え~っと、そこで全てを問題を解決する策があります。あなたを森の外まで連れて行ってあげるから、大人しく私についてきなさい! あと反論は許しません……以上。さあ行くわよ!」
私は口を歪めて何か言おうとしたニールに先手を打って封じ込めた。
10
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
竜帝は番に愛を乞う
浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる