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第三章 最終都市防衛戦編

第三十九話 白衣を着た女性プレイヤー

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 修羅刹は南西エリアを目指していた。

 プレイヤーの犠牲によって修羅刹は、犯人が潜んでいる場所の目星を付けていた。

「石が飛んできた方角はこっちで間違いないはず……はぁ、それよりもタクトのやつ、何が大丈夫よ。あんなに顔真っ青にして、本当にあの思い込む性格は昔からずっと変わらないわね」

 心配させまいとするタクトの言動に、修羅刹は少しだけ苛立ちを覚えた。

 十字路の大通りを越え走り続けていると、武器や防具を取り扱う店が軒を連ねる商店街の入口が見えてきた。

 この商店街は南西エリアのほぼ中心に位置する場所にある。

 商店街に入った修羅刹は自分が見たものを信じられずにいた。

「南門に近い場所なのにどうしてこんなに被害が少ないの?」

 この辺一帯はなぜか街の中心よりも明らかに被害が少なかった。店の壁にはいくつか斬りつけられた跡はあったが、被害としてはそれぐらいで中心部のように店の窓ガラスが割れて事もなく、またドアが壊されず綺麗の状態を保っていた。

 ただ移動中ちょいちょい視線を感じる事はあった。その正体は家に閉じこもっているNPCだった。

 あとで彼らにどうして隠れていたのか尋ねると、あるプレイヤーからそうするように指示されていたようだ。

 そのまま北上したとしても魔物に襲われていたかもしれないから、プレイヤーがNPCの隠れるように指示したのは妥当な判断。

「ここまで被害を抑えて戦う事が出来るプレイヤーがいるなんて、拙僧も一度会ってみたいものだわ」

 修羅刹はキョロキョロと見渡しつつ、商店街に進んで行くがプレイヤー、それに魔物とも出くわす事なく通り抜けてしまった。

「ふむぅ~、こんなに静かだと逆に不安になるわね。それに石を投げてきたボスも見当たらないし、この辺にはいないのかもしれないわね」

 修羅刹はさらに南西方向に向かって走り出した。

 そして防壁まで残り10mほど進んだところで、探していたものを見つけた。

「あれ……もう倒されている?」
 
 そこにはピクリとも動かない頭が牛の巨人が、目を開けたまま仰向けの状態で倒れていた。

 修羅刹が見つけたこのボスの名前はフォモール。全長はムスペルと同程度の巨人、ただ大きく違うのは頭部が牛である事、片腕が異常に肥大化している事。この肥大化した腕を使って、ここから投石による遠距離攻撃を仕掛けていたようだ。

 修羅刹は不用意に近づこうとはせずに、静かに物陰に隠れフォモールの様子をうかがう。

 このゲームで死んだ場合は誰であろうがすべからく、キラキラ輝く光の粒子となって跡形も残さずに消滅する。

 目の前で倒されているフォモールは、まだそこに存在している。それはつまりフォモールはまだ生きている証拠に他ならない。

「さすがにこの状況で迂闊に近づくのはねぇ……」

 北門で戦っていた時はタクトやサン、あのふたりが一緒だった。だから自分がヘマをしたとしても、絶対にフォローしてくれると信じていたから、多少の無理も出来た。ただひとりで戦うとなると、ほんの些細なミスでもそれが致命傷となる。

「でも、ここでずっとこうしている訳にもいかないし……」

 修羅刹は投石してきた犯人フォモールを見つけたのはいいが、どう攻めるべきか悩んでいた。
 
 安全圏からクイックフィストで少しずつダメージを与えるべきか、それとも多少の危険を承知の上でフォモールに近づき、スキルによる圧倒的な火力で一気に止めを刺すべきか。

 クイックフィストはソニックブレイドと同様に衝撃波を放つスキル。こちらはソニックブレイドのように振って発動するのではなく、拳を突き出す事で衝撃波を発生させる。クールタイムは1分、また距離が離れれば離れるほど威力が減少するなど、ほとんどソニックブレイドと使用方法は同じ。
 
 フォモールが本当に死にかけならクイックフィスト一択。だけど、もしあの倒れているのがただの演技だった時は、無駄に相手を怒らせてしまう。別にあんなやつから反感を買ったところで、こちらとしては特に支障はないのだけど、ただ問題なのがあの巨体でウロチョロされると、無駄に被害が広がってしまう。

 それだけは何が何でも回避しないといけない。

「そうなると……やっぱこっちしかないわよね」

 フォモールに渾身の一撃を叩きこむため修羅刹は、物陰から飛び出すとそのまま一気に駆けた。

 そして倒れているフォモールの目と鼻の先まで接近した時、修羅刹は上空から注意を促す声が聞こえた。

「そこのひとぉ~!!聞こえているのなら、今すぐ離れるであります!!!!」

「離れろってどういう事……えっ?」

 見上げるとそこには真っ逆さまに落ちてくる白衣を着た女の人が見えた。

 その手にはジャベリンが握られていた。そしてそのジャベリンの先端はフォモールの心臓、左胸に向けられていた。

 修羅刹はすぐに反転しさっきまで潜んでいた場所に急いで戻る。

 フォモールはやはり倒れた演技していた。生命の危機を感じ取ったフォモールは女性を返り討ちにするため巨大な右腕を振り上げた。

 フォモールの動きを落下しながら観察していた女性は、ニヤッと笑みを浮かべスキルを発動した。 
 
「やっぱりそうするかないでありますよね。飛翔空穿 ひしょうくうせん 

 修羅刹はその光景に目を疑った。白衣をなびかせ空中で方向転換して、フォモールの攻撃を躱していた。

 グシャァァァ!!

 そしてジャベリンはフォモールの頭部に突き刺さるのだった。

 フォモールは伸ばしていた右腕をだらりと下ろし消えていった。

 何事もなかったように地面に着地したその女性は、すぐに手に持ったジャベリンを背負い両手が自由になった瞬間、修羅刹に抱き着いたのだった。

 パフン!?

 その体験した事がない感触といきなりハグされた衝撃で修羅刹の思考回路は停止した。

「大丈夫でありますか?どこも痛くはないでありますか?」

 修羅刹は声を上げる事もなく壊れた玩具のように、ただただ首を何度も縦に振り続けていた。

 修羅刹の反応を見た女性はすぐに手を離し一歩後ろに下がると、何度もペコペコと頭を下げる。

「ごめんなさい!小官、またやってしまったであります……」

 凛としていながらも艶のある声で独特な話し方をするだけなら、修羅刹はまだ耐える事が出来た。だが、深淵落花しんえんらっかという名前のプレイヤーはそれだけではなく、表情もコロコロ変わるため修羅刹はついに耐え切れず吹き出してしまう。

 さっきまであれほどカッコ良かった女性が、ひとりパニックになっているのが妙に可笑しく思えた。

「あっは!あはははははは!!」

 急に笑い出した修羅刹を見た深淵落花はキョトンとした表情で修羅刹を見つめていた。

「あ~、はぁ……ふぅ。拙僧は修羅刹って言います。どうぞよろしくお願いします」

「そういえば自己紹介してなかったでありますね。小官は深淵落花であります。よろしくであります。時間に余裕があればゆっくりとお話がしたいところではありますが、いまは一刻を争う状況でありますので、また今度会えたときにはゆっくりとお話しようであります」

 深淵落花はそう言うとその場でジャンプして家の屋根に着地すると、屋根をピョンピョンと飛び移りながら東の方角に消えていった。

「台風みたいな人だったなぁ~。それにしてもフォモールをあっさり倒した手際の良さ。なるほどねぇ、あれほどの実力がある人なら被害が少ないのは納得だわ」

 ここに来た目的があっさりと達成してしまった修羅刹は、次にとるべき行動をどうするべきか悩んでいた。

「タクトの事も気がかりだけど……まずはこの防衛戦を終わらせないとね」

 修羅刹は街の外で戦っているプレイヤーを援護するために南門に向かって行った。
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