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第三章 最終都市防衛戦編

第三十八話 街の惨状

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 街に急行した僕が目にしたものは想像を絶する光景だった。

 どこか心の中では緊急報告だからからいって、魔物が街を襲うまでまだ多少の猶予があると思っていた。そんな楽観的な僕の考えはいとも簡単に崩れ去った。

 南門と東門から侵攻してきた魔物はもうすでに街の中心部、噴水広場まで攻め込んでいた。

 ガシャーン!パリーン!

「うわぁぁぁん!おかあさぁ~ん!おかあさぁ~~~ん!」

「誰かぁ!誰か助けてよぉ!!パパが!パパがぁぁぁ!!!!」

 あちこちで物が破壊される音、子供の泣き叫ぶ声、ありとあらゆる場所で負の感情を揺り起こす音が合わさり、狂騒曲のように奏でられていた。

 南門と東門に配置されたプレイヤーは、そこを防衛するので精一杯で街内部まで戦力を分ける事が出来なかった。その結果、真っすぐプレイヤーを無視して街に向かっている魔物を易々と通してしまっていた。

 僕がログインした時にいつも見ていた噴水は、魔物との戦闘により破壊尽くされていた。水を噴出していたノズルには亀裂が入り、その隙間から水が溢れ出ていた。いつも座っていたベンチがあった場所には廃材が散らばっていた。

 家や店は何とか建物としてのカタチは残していたが、窓は破壊されガラスがあたり一面に散らばり、ドアは出入口としての仕事を放棄していた。

 その中でも一番僕の心を打ち砕いたものは、あの母娘が営む露店の変わり果てた姿だった。

 無残に折られ塗装も剥げてしまった少女お手製の看板が目に入らなければ、僕はそれがあの露店だと気づく事もなかっただろう。

「は……はは。なんだよ……これ」

 その光景に絶望し呆然と立ちすくんでいる僕とは、正反対にサンはプレイヤー達と作戦を練っていた。

 そしてその作戦は10秒もかからずに決まる。
 
 街の掃除と南と東の防衛とでグループを3つに分ける。振り分けとしては6:2:2と街にいる魔物を全滅させる事を重要視した編成。ただ人材を振り分けただけの作戦ともいえないものだったが、協力し北門を守り抜いたプレイヤーにはそれだけで十分だった。

「それじゃ!みんなサクッとクリアしようぜぇ!!」

「「「「おおおおーーーー!!!!」」」」

 プレイヤー達はときの声を上げ、防衛するため散開していった。

「んじゃ、俺様は南東エリアを見に行ってくるからタクトの事任せたぞ。数分で元に戻るだろうから、それまでまぁ頑張れ!」

「あ~、もう分かったわよ。拙僧の分まで暴れてきなさい。あとママの事、任せたわよ!」

「おぅ、任せておけ!そのために俺様が行くんだからな!!」

 サンは修羅刹にタクトを預けると魔物を切り裂きながら街の奥に消えていった。

 サンが向かった南東エリアはその名のとおり南門と東門に一番近いエリア。そのため状況によっては街の外よりも危険な場所かもしれない。

 ただあの場所にはログイン初日から、ずっと世話になっている酒場のNPCがいる。

「タクトに修羅刹、それにチビッ子どもも懐いていたしな。無事でいてくれよ……ママ」

 サンは焦る気持ちを抑えつつ、ママの安否を確認するため先を急ぐ。

 南東エリアに近づくにつれて街の様相はどんどん酷くなっていた。建物は崩壊し瓦礫は散乱、魔物を退治しに来たプレイヤーとは出会う事はあったが、この街の住人であるNPCには一度でさえ出会う事がなかった。

 酒場にたどり着いたサンは、丁番が外れガタっと傾いた扉を押し開けて中に入った。足元はガラスが散らばり、テーブルとイスは見る影もないほどに破壊され、カウンターの後ろの棚ぎっしりに並べられていたボトルやグラスも見る影もなく粉々になっていた。

「お~い、ママー!無事かー!!」 

 サンの声が酒場内に広がってから、数秒経過した時だった。

 ゴソゴソとカウンターの下で何かが動く気配を感じたサンはもう一度声をかけた。

「そこにいるのはママか?俺様だ、サンシャインリバーだ」

 ママは「サンちゃん?」と投げかけた後、ゆっくりとカウンターから頭だけを出して覗き込んでいた。

「あらあらあらあら!本当にサンちゃんなのね~!」

「わりぃ……ママ。ちょっと助けに来るのが遅くなった」

「いいのよ~、だって~。ちゃ~んと助けに来てくれただから~。それよりもあなたもみんなも大丈夫なの?ケガしてない??」

「あぁ!大丈夫だ、誰一人としてケガしてない。って、こんな悠長に話している場合じゃねぇな。ママまずは安全な場所に移動しようぜ!!」

「分かったわ~、エスコートおねがいね~」

 ママはカウンターを迂回してサンに近づくと右手を差し出した。

 サンは「了解」と親指を立てサムズアップすると、ママの手を取りタクト達がいる噴水広場に向かうのだった。

 僕の周りではたくさんのプレイヤーが魔物と戦っていた。ただ連戦に続く連戦……士気が上がっているとはいえ、さすがに疲れが見え始めていた。

 一緒に北門を防衛していた仲間が傷つきながらも、街を守るため戦い続けるなか僕は未だに動けずにいた。

 そんな状態の僕を修羅刹はただひたすら守り続けていた。しかし、それもあまり長くは続かない事を修羅刹本人は気づいていた。

「あ~、もう!守りなら拙僧よりもサンの方が適任じゃないの。もうちょい早くこの事に気づいていれば!でも今のタクトを放っておく事なんて出来ないし、まぁそういうとこも嫌いじゃないけど……」

 修羅刹はそうボヤキながら、自分より倍以上あるオーガの顎めがけて拳を振り抜いた。

 オーガはその一撃で音もなく消滅した。

「ひとまず……これで最後ね。ふぅ~、案外なんとかなるものね」

 周辺にいた魔物を全滅させた事で、噴水広場で戦闘していた修羅刹や他のプレイヤーは完全に油断していた。まだ脅威が去っていなかった事に、北門にムスペルが出現したように他の門にも、それぞれ代表するボスが存在していた。

 まだ何とかベンチとしての役割を果たしているものに、腰を下ろし会話しているプレイヤーに悲劇が襲いかかる。

「もう少しここで待機して、追加が来ないようなら南の援護に行こうぜ」

「そうだな。こっちにはムスペルを倒した英雄もいるしよ。ふたりくらい減ったところで問題ないだろ」

「それもそうだな?」

 会話の途中で急に頭上が真っ暗になったプレイヤーは、自然と空を見上げた。そこで見たものは数mはあるであろう巨大な石のかたまりだった。

 ドカーーーーーーーーーーン!!!!

「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 凄まじい衝撃とふたりの断末魔が聞こえた。

 その光景を目の当たりにした修羅刹は、すぐにまた臨戦態勢にはいるのだった。

「あ~、もう!今度はあの飛んでくる石からタクトを守れって事ね……いいわよ、やってやろうじゃないの!!」

 修羅刹がそう意気込んでいた時、僕は頭の中を整理していた。

 これがVRMMOの神髄ってやつなのか、少々僕には刺激が強すぎた。まだごちゃごちゃと考えてはしまうけど、まずは魔物を倒さないと……いまはそれだけを考えて行動しよう。

 僕は前方にいる修羅刹に声をかけた。

「ふぅ~、ごめん修羅刹。もう大丈夫……」

「タクト、本当に大丈夫なの?」

「あぁ……問題ない。修羅刹はあの石の元凶を止めて来てくれ。僕はもう少しここで魔物が来ないか警戒しておくよ」

「分かったわ、あの石野郎は拙僧に任せておきなさい」

 僕と修羅刹はそれぞれ目的を達成するため別行動を開始した。
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