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第三章 最終都市防衛戦編

第三十六話 最終都市防衛戦開始

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 はじめて街の外に出た僕が見た光景は、遠くにぽつぽつと木々が見えるだけで、それ以外は本当に何も無い広野だった。ただそんな面白味の何も無い景色でも僕は感動を覚えた。

 そう感じたのは僕ひとりだけではないようで、隣を歩いているサンや修羅刹、それに僕達と同じく北門で戦うプレイヤー達、その全員が街から出て外の世界に触れた事に感動しているようだ。

 テンションが上がり叫ぶ人、仲間内ではしゃぐ人、ただコクコクと頷き続ける人、気が焦り臨戦態勢にはいる人など、プレイヤーひとりひとりがそれぞれ行動で感動を表していた。

 正直な話、僕は街の外に出た程度では、特に何も感じる事はないだろうと思っていた。それはこのゲームのログイン時に、毎回上空からこの防壁に囲われた街を見ているからだ。その時に外の様子も自然と目に入る。なので、前情報どころかずっと見てきた景色を違う角度から見るだけだと、そう思っていたけど……実際にそこに立ち見た景色は全然違うものだった。

 僕はふたりに同意を求めるかのようにひとり感想を述べた。

「ダンジョンにも森とかあったけど、ポータル移動と実際に一歩街から踏み出す……全然違うな」

「そうねぇ、拙僧もこんなにも心が打ち震えるなんて思いもしなかったわ」

「だよなぁ~、俺様も同意見だけど……つうか修羅刹は景色うんぬんよりもアレだろ?その新調した武器を使いたいだけだろ?」

 サンはそう話しながら修羅刹の腰に括り付けられている鎖籠手を指差した。

「そういうサンだって、さっきからずっと剣をニギニギしてるじゃない。サンも試したくてウズウズしてるんでしょ?」

「チッ!バレたか!!」

「お前らなぁ~、今回のイベントは失敗したら街にも被害が出るんだから、もう少し真面目にさぁ……」

 少し気が緩み過ぎじゃないかとふたりに指摘すると、ふたりは僕をチラッと見て軽くため息をついた。

 サンは僕の肩に手をのせこう返してきた。

「あのなぁ~、タクト。俺様も修羅刹もマジでおちゃらけてはいないぞ。ただな……せっかくのイベントなんだから参加する以上は楽しまないともったいないだろ?それは他のプレイヤーも同じだと思うぜ?」

「サンの言うとおりよ。だからタクトももう少し肩の荷を下ろしなさい。そんなんじゃいざという時身体が強張って動けなくなるわよ」

 僕はふたりから言われた事に対してすぐに返事出来ずにいた。

 心の底から楽しもうという気持ちがこみ上げてくる事も、絶対に守らないといけないという焦燥感が払拭される事もないまま、最終都市防衛戦開始を告げる合図は刻々と迫っていた。

 イベント開始時刻まで残り5分となった頃、あの前回の大会で何度も聞いたあの声がプレイヤー全員に届いた。

「この度は最終都市防衛戦にご参加いただきまして誠にありがとうございます。今から5分後に街に通じる門が閉じられます。防衛戦にご参加する勇敢なる戦士エインヘリャルの皆さまは街に戻らず、外で待機していただけますようお願い申し上げます」

 アナウンスを聞いた事でプレイヤー達はソワソワし始める。

 修羅刹は手を後ろに回して腰に付けた鎖籠手からジャリジャリと音が出る事など、一切気にする様子もなく触り続けている。

 サンは相も変わらずツヴァイハンダーの持ち手を右手で掴んでは離すという動作を繰り返している。

 僕はというと手を合わせ指をトントンと動かしながら、ふたりから言われた事を考えていた。

 そしてその街に待った瞬間は轟音とともに訪れる。

 ゴゴゴゴゴゴオオオォォォォ!!!! 

 地響きを立てながらゆっくりと門が閉まっていき、完全に閉じ切ったところでまたあの声が街全体に響き渡る。

「これより最終都市防衛戦を開始いたします。その前に注意事項がございます。今回のイベントは前回と違い、倒れた場合はデスペナルティが発生いたしますので、ご留意ください。では……開始いたします」

 アナウンスが終わると同時にほら貝の重低音が響き渡った。

 ブオオオォォォォ~~~~~~ンッ!!

 そしてそれが開戦合図となり遠方に大量の魔物が出現すると、街に向かって侵攻し始めた。

 数としては2、300体といったとこだろう、それは北門に集まったプレイヤーとほぼ同じ。単純に数で戦力を測るのであれば僕達プレイヤーと魔物の戦力差はゼロ。

 実際は圧倒的にこちらが有利だった。なぜなら出現した魔物は10階層までに出現するゴブリンやホブゴブリンばかりだったからだ。

「数は多いけど、ゴブリンばかりなのね……。まぁそれでもいいわ、やぁっとこの鎖籠手で殴れるんだから!!」

 修羅刹は両手に鎖籠手を装備すると、自分の左拳を右手に向けてバンバンと放ちながら、狂気に満ちた表情を僕とサンに向けた後、魔物の群れに向かって走り出した。

 置いてけぼりにされた僕とサンは、苦笑いを浮かべながら先行する修羅刹を追って走るのだった。

 相手がゴブリンだった事もあり、僕達プレイヤーは特に苦戦する事もなく流れ作業のように魔物を倒していく。

 そして最後の1体が消滅すると、休憩する間もなくすぐに第2ラウンド開始された。

 今度はコボルトなど20階層以下に出現する魔物が追加されていた。数は前回と同じぐらいではあるが、10階層分追加された事により難易度が上がった。ただそれでもプレイヤー誰一人として、倒される事もなく余裕でクリアした。

 それからもひたすら出現する魔物を倒し続け、とうとう僕達は第5ラウンドを迎える。

 第5ラウンドは今までとはガラリと雰囲気が変わっていた。その理由はそこにいたプレイヤーなら、すぐに気づけるほど明白なものだった。

 第4ラウンドまでに出現していた魔物は、ダンジョンの道中で出会う魔物ばかりだった。それが第5ラウンドからは、その魔物が一切出現しなくなった……その代わりに出現する魔物が全てボスに変更されていた。

 第5ラウンドではゴブリンファイター、レッドキャップが、第6ラウンドではコボルトリーダー、コボルトマスターが加わり、そして第7ラウンドでは一気に40階層のボスであるサイクロプスまで出現するようになっていた。

 その強敵出現に倒されるプレイヤーが少しずつに出始め、第7ラウンドでは当初200人以上はいたはずのプレイヤーも、約半分100人程度まで減少していた。

 僕達三人はそんな状況でもまだ生き残っていた。

「グオォォォォ!!!!」

 サイクロプスは手に持った丸太を雄たけびを上げながら振り下ろす。

 僕を叩き潰すために姿勢が低くなったサイクロプスの目に向かって、ソニックブレイドガッシュを放った。

 シュパッ!!

 目を潰されたサイクロプスは激昂し、あたり構わず丸太を大地に向かってひたすら叩きつけるが、その場所には僕どころかプレイヤーすらいなかった。

 それでもサイクロプスは何度も丸太を振り下ろす。なぜなら骨を肉を自分の手で粉砕している感触、さらにその元所有者だったものの声が聞こえていたから。

 グシャ!バキィ!グアァァァ!ギャァァァ!

 サイクロプスは気づいていない、自分が叩き潰しているものが魔物だったという事を……。

 僕の行動を最初から最後まで見ていたサンは淡々としゃべり始めた。

「タクトお前ってさ、結構エグイ事を顔色ひとつ変えずにやる時あるよな。まぁそのおかげで今は助かってるけどさ」

「それを言うなら、お前だって魔物を脳天から真っ二つによくやってるじゃないか、僕としてはあれよりかはまだマシだと思うんだけど。それにさ、ついでに倒す魔物も減るし楽だろ?」

 サンはモグラ叩きをするサイクロプスを見上げながら問いかけた。

「考えは人それぞれって事か……あとさ~、ひとつ聞いていいか?あのデッカイやつ俺様まだダンジョンで一度も見た事ねぇんだけど?」

「あ~、あいつは40階層のボスだからな~」

「やっぱそうか……どおりで見た事ねぇ訳だわ」

「まぁサンなら余裕じゃないか」

「おうよ、両手剣にはソニックブレイドのようなスキルはないが、それでも他にやりようはあるからな。つうことで、ちょっと試してくるわ。予習は大事だからな!!」

 サンはそう言うと他のサイクロプスに向かって駆けて行った。

 そんなサンの後ろ姿を見送った後、僕は仕事を終えたサイクロプスに止めを刺した。

 修羅刹はというとにこやかな笑顔で、手当たり次第にボスを殴りつけていた。

 こうして第7ラウンドが終わろうとしていた時、忘れようとしていたあの予感が現実のものとなる。
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