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第二章 エインヘリャル最強決定戦編

第三十三話 二つのお祝い

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 第一回エインヘリャル最強決定戦が開催されてから数日後……。

 僕はいま自宅で山河と蘇芳院のふたりからお祝いされている。

 理由としてはまず一つ目は今日が僕の誕生日だという事、二つ目はあの大会で僕が優勝した事。

 山河は右手に持ったグレープジュースが入ったグラスを頭の位置まで上げた。僕と蘇芳院もそれに同調しグラスをかかげる。

 そして三人で声を合わせ乾杯するのだった。

「「「かんぱ~い!!!!」」」

 それぞれ手に持ったグラスを軽く当てると心地よい音が響いた。

「たくとぉ~!優勝アンド誕生日おめでとう!!」

「拓斗君!大会優勝そして誕生日おめでとう!!」

「あ~、ふたりともありがとう」

 ふたりから祝福されるのは少し照れくさいとこもあるけど、嬉しい事には変わりない。ただ……いまはその嬉しさよりも最後どうやってコタロウとの試合に決着がついたのか、その記憶がぼんやりとしか思い出せない事の方が残念で心残りだった。

 決勝戦以降の出来事などはちゃんと覚えている。

 優勝賞品のユニーク武器はプレイヤーがメインで使用している武器種から自動で選ばれるようになっていた。なので、僕は使用していたショートソードと同じ片手剣のテュルフィングを受け取った。

 テュルフィングは全長1mほどのショートソードよりも少し長い剣で黒一色、剣身も同じ黒色だが刃の部分のみ金色の加工がされていた。

 僕以外のプレイヤーは武器強化素材やリィンなどを順位に応じて受け取っていた。

 その後、本戦出場者16名全員がコロシアム中央に集められ観客から盛大な拍手が送られた。

 閉会式が終わった後は僕達が初日からお世話になっているあの酒場に、コタロウ達を招いてちょっとした打ち上げをした。みんなに優勝おめでとうと祝福されたけど、自分自身の力でコタロウに勝てた気があまりせず、心の底から喜ぶ事は出来なかった。

 それにしてもあの時、僕が発動したユニークスキル、【全てを見通し支配するヨグソトース者】とは何だったのか……。

 ユニークスキルは通常のスキルのようにポイントで覚えるというものではなく、何か特別な条件を満たした場合のみ習得する事が出来る。またユニークスキルは唯一無二、同じ能力をもったものは存在しない。そのためユニークスキルを習得したプレイヤーから条件を教えてもらったとしても、それが役に立つという事はないらしい。

 あの試合中に達成した条件とは何だったのだろうか、全く見当がつかない。

 全てを見通し支配するヨグソトース者の習得条件、アーティファクト・リズムを全てパーフェクトで尚且つ誰よりも最速でクリアする事。

 そしてパーフェクトを出した時と同等以上の集中力が発揮された場合に使用許可が下りる。それ以降は特に制限もなく使用可能となる。

 この事実を拓斗が知る事は一生ない。それはなぜか……拓斗が寝ている間に実績解除と共にアーティファクト・リズムがアンインストールされた事で、二度とその条件を確認する事が出来なくなったからだ。

 通常のスキルと違ってユニークスキルには、クールタイムがなく連続して発動する事が可能、ただし一日に発動できる回数に制限がある。

 僕が習得した全てを見通し支配するヨグソトース者は使用回数1、つまり一日に一度しか発動する事が出来ない。このゲームの仕様上、使用回数が少ないという事はそれだけ能力も強い。通常のスキルのクールタイムが長ければ長いほど強いのと同じ理論。

 その能力とは一定時間相手の動きが手に取るように分かるようになる。またあらゆる物体に干渉する事が可能となる。

 このゲームは全体的に説明が簡略すぎて実際に使ってからじゃないと、どんな能力なのかどんな性能なのか判断に困ってしまうのが難点ではある。まぁ逆に言えばそれがこのゲームの魅力だったりもする訳だけど……。

 このスキル発動後、コタロウの残像のようなものが見えたのは覚えているが、どうやって桜滅一刀流を破って勝利する事が出来たのか、その肝心な部分が記憶から抜け落ちていた。

 結局僕は最後の最後まで【桜滅一刀流奥義朔耶】がどういう技だったのか、理解する事も体験する事もなくコタロウに勝ってしまった。それは僕としても不本意だし全力を出してくれたコタロウにも申し訳ない。

 そういう事もあってコタロウじゃないけど、僕もこのチートのようなユニークスキルは封印する事に決めた。

 ユニーク武器であるテュルフィングにも使用回数3のユニークスキルが付与されていた。こちらは【三度の願いは貴方の命で叶えましょう】というスキル名だが、そのまま読まずに武器名を発声すると発動する。

 つまりヨグソトースと同じようにテュルフィングと声に出せばいいだけ。

 こっちの能力は対象を指定して発動するスキルで、攻撃力が大幅に上昇し羽根のように軽くなる。そして効果時間はその対象を倒すまでずっと効果が続くため、ボス攻略時に重宝している。ただこのスキルには大きなデメリットがある。それはスキル名どおり限度の3回使用するとプレイヤーは死亡する。

 このゲームでのデスペナルティは毎日ログインしている僕にとって致命的なもので、その内容は24時間ログイン不可になるというものだ。

 山河が言うのには他のVRMMOに比べてかなりぬるい調整らしい。前に山河がプレイしていたものは死亡すると装備品が消えたり、一週間ログイン出来なかったりと色々な仕様があったらしいが、その中でも一番辛かったのは丹精込めて育てたキャラが削除された事だそうだ。

 毎日2回までで止めておけば何ら問題もないので、それほど気にする事もないかもしれない。

 そんな感じでここ最近の出来事について振り返っていた僕に向けて、対面に座っている山河が空になったお茶碗を差し出しているのに気づいた。

「拓斗~!ご飯おかわり~!!」

「はいはい」 

 僕は山河からお茶碗を受け取るとご飯をよそうために席を立ち、炊飯器があるキッチンに向かおうとした時だった。もうひとりの食いしん坊も僕に向かってお茶碗を差し出しているのが見えた。

「わたしもおかわり~!」

「りょうかい」

 僕は手に持った二個のお茶碗を見つめながら、おかずを黙々と食べるふたりに問いかけた。

「あのさ~、一応念のために聞くけど今日は僕をお祝いするために集まったんだよな?」

 ふたりはゴックンと飲み込んだ後、平然と僕の質問に答えた。

「それ以外に何があるんだよ」

「変な質問してどうしたのよ。そんなの当たり前じゃない」

「……あ~、そうだな」

 まぁ美味しそうに食べてくれているし別にいいんだけど、ただ今日は僕が主役のはずなんだけどなぁと少しモヤモヤする紫乃月拓斗だった。
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