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第二話 未知の空間
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ここから出ることは無理そう。だからといってただ何もせず時間を潰すのも惜しい。
そこであたしはとりあえず床に散らばるカードを見てみることにした。
カードは一束四十枚でまとめられていて、裏は部屋に合わせているのか真っ白だった。
一番近くにあったカードの束を拾い上げた時、まず最初にこのツルツルとした感触に驚いた。どう見ても見た目は紙なのに滑らかすぎる。
次に驚いたのはカードをひっくり返して表を見た時だった。
「……なにこれ?」
カードごとに色んな武器や防具が描かれていたけど、その全てが今まで見たことがないほど精密な描画。
しかも、あたしの手で隠れてしまうほど小さなカードに描いている。
その神業にあたしは一人感嘆の声を上げる。
「これも綺麗。あ~、これはライル兄の槍に似てるかも!」
「そんなに喜んでもらえるなんて、招待したかいがあったよ」
「こんなの誰が見ても喜ぶに決まってるじゃない。って、誰?」
あたしは声が聞こえた方に首を向けると、そこには自分よりも背の低い少年らしき人がいた。
『らしき』といったのにはわけがあって、シルエットがハッキリとしないというか、そこにいるのは分かるけど表情や仕草がぼやけて見える。
「えっと、あなたは?」
「私はただの概念だから誰とかじゃないんだよね。でも強いて言うならば『神様』ってやつかな」
「カミサマさんって言うのね。あたしはリーティア、よろしくね」
「うん、よろしく。それでリーティアはどのデッキを使うか決めた?」
「デッキって何?」
「デッキってのはそのカードの束のことだよ。私はこれを使って遊ぶのに最近ハマっていてね」
それからカミサマさんはこのカードでの遊び方を教えてくれた。遊び方はとても簡単で基本はデッキから一番の上のカードをめくってそこに書かれた数値を競う。それに剣や槍、弓などの武器種での相性で数値が変化する。
たったそれだけのシンプルなルールなのに、あたしは連敗し続けた。
「だぁ~、また負けた!」
「これで私の九十連勝。どうするまだやるかい?」
「もちろんよ。勝ち逃げなんて絶対許さないんだから!」
「それじゃ次はこのデッキでお相手しようかな」
あたしはこの部屋に元々あったデッキを全部使い切っても勝てなかった。ならば、もう残された手はあれしかない。
あたしは各デッキから気に入ったカードを抜き出し、自分だけのデッキを作り上げた。
デッキをカミサマさんにかざし再戦を申し込む。
「よっし、これで勝負だ。カミサマさん!」
「その自由な発想。やっぱり君をここに呼んで正解だった」
そしてあたしはこのデッキを使ってはじめてカミサマさんに勝つことができた。とはいっても一勝九十敗と惨敗の一言に尽きるわけだけど。
それでも一勝をもぎ取れたことが嬉しくてしょうがなかった。
なぜかカミサマさんは負けたというのにニコニコと嬉しそうにしている。
「カミサマさん負けたのにどうしてそんなに笑顔なのよ。もうちょっと悔しがってくれるとあたしとしては嬉しいんだけど?」
「それは申し訳ない。でもね、私はリーティアが自分で考え私に勝ってくれたことが嬉しいんだよ」
「そういうものなの?」
「そういうもんだよ」
カミサマさんと会話をしていると急に眠気が襲ってきた。
一度も休憩をはさまずに遊び続ければ疲れるのも当たり前か。
「ふあぁ~、ちょっと眠たくなっちゃったわ。カミサマさん、ちょこっとだけ横になってもいい?」
「あぁいいよ。でも、その前にさっき作ったデッキを手に持っておきなさい」
「これを?」
「うん、きっと役に立つよ」
あたしはカミサマさんに言われるがまま初勝利したデッキを掴むとそのまま横になる。
「次はあたしが連勝するんだから……ね、カミサマさん……」
「期待しているよ、リーティア。再戦も、君がこの先どんな人生を歩むのかということにもね」
あたしはカミサマさんの話に耳を傾けてつつ眠りに就いた。
「起きろリーティア、リーティア。なぁ起きろってリーティア!」
リッザの声が聞こえる。それも酷く焦った声で何度も何度もあたしの名前を呼び続けている。
何がどうなっているのか分からないけど、とりあえずリッザに起きろって言われてるし起きないと。
あたしはリッザの声に導かれるように目を開けた。
眼前には安堵の表情であたしを見下ろすリッザと、涙を浮かべ不安そうにあたしを見つめるライミの姿が映った。
「おはよう二人とも」
「リーティアァァァ!」
あたしが挨拶すると同時にライミは抱き着いてきた。
「なになになにどうしたのライミ。ちょ、ちょっと苦しいんだけど。それになんか体中あちこち痛い」
「どうしたのって聞きたいのはわたしたちの方よ。リーティアあなた、ずっと目を覚まさなかったのよ」
「ずっと?」
ステンドグラスに目を向けてみるがまだ外は明るいし、それほど時間が経ったようには思えない。それでもこの二人の言動を見る限り、最低でも数十分は気を失っていたのかもしれない。
そしてあたしはいつベンチに寝っ転がったのだろう。
「あぁそうだ。手っ取り早く説明するぞ。まずその前にお前、今日のことどこまで覚えている?」
「どこまでって……神様にお祈りを捧げるため床に膝をついて……あれ?」
「なるほど、そこから説明すりゃいいわけか」
膝をつき手を組んだとこまでは覚えているが、そこから先のことは思い出せなかった。
あたしはベンチに仰向けに寝そべったままリッザの話を聞いた。
どうやらあたしは神様にお祈りを捧げる姿勢のまま三十分ほど硬直していたらしい。
そんなに長い間あの姿勢なら体が痛いのも納得。
リッザがあたしの姿勢を何度か崩そうとしてくれたらしいんだけど、鉄のように硬く重たかったようで動かすのも無理だったみたい。その硬直がとけた瞬間にあたしをベンチに運んでくれたようだ。
女性に向かって鉄のように硬く重たいって表現もどうかとは思うけど、色々心配をかけたみたいだし今は追及しないでおこう。
そこであたしはとりあえず床に散らばるカードを見てみることにした。
カードは一束四十枚でまとめられていて、裏は部屋に合わせているのか真っ白だった。
一番近くにあったカードの束を拾い上げた時、まず最初にこのツルツルとした感触に驚いた。どう見ても見た目は紙なのに滑らかすぎる。
次に驚いたのはカードをひっくり返して表を見た時だった。
「……なにこれ?」
カードごとに色んな武器や防具が描かれていたけど、その全てが今まで見たことがないほど精密な描画。
しかも、あたしの手で隠れてしまうほど小さなカードに描いている。
その神業にあたしは一人感嘆の声を上げる。
「これも綺麗。あ~、これはライル兄の槍に似てるかも!」
「そんなに喜んでもらえるなんて、招待したかいがあったよ」
「こんなの誰が見ても喜ぶに決まってるじゃない。って、誰?」
あたしは声が聞こえた方に首を向けると、そこには自分よりも背の低い少年らしき人がいた。
『らしき』といったのにはわけがあって、シルエットがハッキリとしないというか、そこにいるのは分かるけど表情や仕草がぼやけて見える。
「えっと、あなたは?」
「私はただの概念だから誰とかじゃないんだよね。でも強いて言うならば『神様』ってやつかな」
「カミサマさんって言うのね。あたしはリーティア、よろしくね」
「うん、よろしく。それでリーティアはどのデッキを使うか決めた?」
「デッキって何?」
「デッキってのはそのカードの束のことだよ。私はこれを使って遊ぶのに最近ハマっていてね」
それからカミサマさんはこのカードでの遊び方を教えてくれた。遊び方はとても簡単で基本はデッキから一番の上のカードをめくってそこに書かれた数値を競う。それに剣や槍、弓などの武器種での相性で数値が変化する。
たったそれだけのシンプルなルールなのに、あたしは連敗し続けた。
「だぁ~、また負けた!」
「これで私の九十連勝。どうするまだやるかい?」
「もちろんよ。勝ち逃げなんて絶対許さないんだから!」
「それじゃ次はこのデッキでお相手しようかな」
あたしはこの部屋に元々あったデッキを全部使い切っても勝てなかった。ならば、もう残された手はあれしかない。
あたしは各デッキから気に入ったカードを抜き出し、自分だけのデッキを作り上げた。
デッキをカミサマさんにかざし再戦を申し込む。
「よっし、これで勝負だ。カミサマさん!」
「その自由な発想。やっぱり君をここに呼んで正解だった」
そしてあたしはこのデッキを使ってはじめてカミサマさんに勝つことができた。とはいっても一勝九十敗と惨敗の一言に尽きるわけだけど。
それでも一勝をもぎ取れたことが嬉しくてしょうがなかった。
なぜかカミサマさんは負けたというのにニコニコと嬉しそうにしている。
「カミサマさん負けたのにどうしてそんなに笑顔なのよ。もうちょっと悔しがってくれるとあたしとしては嬉しいんだけど?」
「それは申し訳ない。でもね、私はリーティアが自分で考え私に勝ってくれたことが嬉しいんだよ」
「そういうものなの?」
「そういうもんだよ」
カミサマさんと会話をしていると急に眠気が襲ってきた。
一度も休憩をはさまずに遊び続ければ疲れるのも当たり前か。
「ふあぁ~、ちょっと眠たくなっちゃったわ。カミサマさん、ちょこっとだけ横になってもいい?」
「あぁいいよ。でも、その前にさっき作ったデッキを手に持っておきなさい」
「これを?」
「うん、きっと役に立つよ」
あたしはカミサマさんに言われるがまま初勝利したデッキを掴むとそのまま横になる。
「次はあたしが連勝するんだから……ね、カミサマさん……」
「期待しているよ、リーティア。再戦も、君がこの先どんな人生を歩むのかということにもね」
あたしはカミサマさんの話に耳を傾けてつつ眠りに就いた。
「起きろリーティア、リーティア。なぁ起きろってリーティア!」
リッザの声が聞こえる。それも酷く焦った声で何度も何度もあたしの名前を呼び続けている。
何がどうなっているのか分からないけど、とりあえずリッザに起きろって言われてるし起きないと。
あたしはリッザの声に導かれるように目を開けた。
眼前には安堵の表情であたしを見下ろすリッザと、涙を浮かべ不安そうにあたしを見つめるライミの姿が映った。
「おはよう二人とも」
「リーティアァァァ!」
あたしが挨拶すると同時にライミは抱き着いてきた。
「なになになにどうしたのライミ。ちょ、ちょっと苦しいんだけど。それになんか体中あちこち痛い」
「どうしたのって聞きたいのはわたしたちの方よ。リーティアあなた、ずっと目を覚まさなかったのよ」
「ずっと?」
ステンドグラスに目を向けてみるがまだ外は明るいし、それほど時間が経ったようには思えない。それでもこの二人の言動を見る限り、最低でも数十分は気を失っていたのかもしれない。
そしてあたしはいつベンチに寝っ転がったのだろう。
「あぁそうだ。手っ取り早く説明するぞ。まずその前にお前、今日のことどこまで覚えている?」
「どこまでって……神様にお祈りを捧げるため床に膝をついて……あれ?」
「なるほど、そこから説明すりゃいいわけか」
膝をつき手を組んだとこまでは覚えているが、そこから先のことは思い出せなかった。
あたしはベンチに仰向けに寝そべったままリッザの話を聞いた。
どうやらあたしは神様にお祈りを捧げる姿勢のまま三十分ほど硬直していたらしい。
そんなに長い間あの姿勢なら体が痛いのも納得。
リッザがあたしの姿勢を何度か崩そうとしてくれたらしいんだけど、鉄のように硬く重たかったようで動かすのも無理だったみたい。その硬直がとけた瞬間にあたしをベンチに運んでくれたようだ。
女性に向かって鉄のように硬く重たいって表現もどうかとは思うけど、色々心配をかけたみたいだし今は追及しないでおこう。
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