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はじめての寵愛その2

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 リアムが悪態をつきながら歩いていた時、グラファスもまた部下から一向に報告が上がってこないことに、愚痴をこぼしていた。部下に命令を下してからすでに一時間以上が経過していたからだ。

「少女一人連れ戻すこともできないとは……少し優しくし過ぎたか、次からは制限時間でも設けるようにするか。そのほうが彼らも死ぬ気で働いてくれるだろうしな。さて、無能な部下の様子でも見に行くとしよう……何なら、花嫁を私自ら迎えに行くというのもまた一興か」

 部下から直に進捗状況を聞くため彼は重い腰を上げた。自室から出てエレベーターまで行くと、ホールボタンを押した。部下が降りてから一度も使用されていなかったのか、階数表示灯は一階を示していた。エレベーターを待っている間、彼は『花嫁を迎えに行く』という自分自身が、口にした言葉について頭を悩ませていた。

「私の妻になってくれ。君と添い遂げたい、私と結婚して欲しい。君の人生を私にくれないか。私のファミリーになってくれ。候補としてはこの四つだな……ふふ、これでいこう。私らしくもあり、最愛の人に捧げる言葉としても最良だ」

 グラファスは少女に贈るプロポーズの言葉を心の中で決めると、目を閉じ何度も呟いた。いざ少女を目の前にした時に、噛まないようにするためにも練習は必須であった。彼はならず者バンディットを束ねる首領、欲しいものは全て力ずくで手に入れてきた。だが、いまここにいる彼は同一人物とは到底思えない、その様は淡い恋心を抱く乙女のように初々しかった。彼はポンと五階に着いたことを知らせる到着音を合図に目を開けた。無人だと思っていたエレベーターには先客がいて、顔をガスマスクで隠したいかにも怪しげな人物が乗っていた。その人物はドアが開くとグラファスに向かって深々と頭を下げた。

「私の部下に君のような滑稽な見た目のやつはいなかった気がするのだが? まあいいさ、それで私に何かようか? 私はいま非常に忙しい、あとでならいくらでも話を聞いてやる、そこの部屋で待っていろ」
「お初にお目にかかります、グラファス様。その必要はございません。私もエレベーターに同乗いたしますので、そこで勝手ながら話せていただきます。ささ、グラファス様。お急ぎなのでしょう? エレベーターにお乗りくださいませ」

 グラファスは謎の人物に促されるままエレベーターに乗った。エレベーターという密閉空間に得体の知れない人物と二人っきり。十秒にも満たないごく短時間、それでも常人であれば不安になるのには十分な時間である。だが、危ない橋を渡るどころか、往復しまくった彼にとってはただの日常に過ぎない。それにいざとなれば腰に差したリボルバーを引き抜き、銃口を向けてしまえば大抵の人間は大人しくなる。隣の傾奇者にも効果があるかは不明だが、それでも大人しくならなければ、引き金を引いて終わりにすればいい。
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