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自我の芽生えその4

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 彼女の性格は作業机やハンガーラックの現状を見ればすぐ分かる。彼女は偏った几帳面というか、自分が気になった箇所は徹底的に整理整頓をするが、それ以外の箇所は無法地帯ともよべる惨状と化す。今回はどちらかというと、もちろん前者のほうである。廃屋を改築どころか魔改造するような技術も才能もある彼女だが、なぜかこういった作業に関してだけは、信じられないほど不器用だった。数十回と結び直していた結果があれである。

 プレゼントを受け取ったリアムだが、数十秒が経過しても小箱を見つめるだけで、一向にリボンを解いて中身を確認しようとしない。しびれを切らした彼女は娘に尋ねた。自分が贈ったプレゼントの反応を知りたかったからだ。

「……あのリアム、プレゼントを開けんの?」
「――開封?」

 リアムが不思議そうに聞き返したことで、彼女は娘がなぜ頑なに小箱を開けようとしないのかをやっと理解した。事あるごとに記念と称してプレゼントしていたが、その度に包装を取って渡していた。どうやらリアムのなかでは、この外箱自体がプレゼントという認識になっているようだ。

「えっとな、リアム。この箱がプレゼントじゃなくてな、この箱の中にあるものがプレゼントなんよ」
「――内容?」
「そうなんよ。で、箱の開け方なんやけど、リボンの端っこを持ってグッと引っ張る。そうすると、リボンがほどけるから、あとは蓋を持ち上げる。リアムやってみ?」
「――是」

 リアムは慣れない手つきでリボンを解き、蓋を掴むとそのまま持ち上げた。箱の中にはフワフワの白毛に覆われた生物らしき物体が、びくりとも動かず丸くなっていた。これが何か全く見当がつなかいリアムは「――不明瞭」と呟いた。その声がアラームとなり、白い物体は目覚めゆっくりと起き上がった。耳をピクピク動かし周囲を警戒しつつも、気だるそうに体を伸ばしながら欠伸をしていた。それから毛づくろいなど小動物らしき行動を済ませたところで、箱の中からつぶらな瞳を少女に向けた。
 見つめ合ったまま視線を逸らそうとしない少女と物体を、正面から堂々と観察する創造主という謎の構図ができ上がった。またこのまま時間が過ぎ去るのかと思われたその時、リアムは唐突にある言葉を口にした。
 
「――倉鼠」
「えっ、リアムいま何か言った?」
「唯――倉鼠」
「正っ解! それでどうしてネズミじゃなくてハムスターやと思ったん?」
「――短小尻尾」

 その言葉を聞いた創造主は本日、何度目かの驚きの表情を見せた。今度は動物図鑑などから得た知識をもとに、外見が該当する動物をハムスターを導き出した。その成長に関して、彼女は嬉しいと思う反面寂しいという感情を覚えた。この一年間ずっと隣でリアムを見てきた。今日、これほど急激な成長した要因は、間違いなくリアムをひとりにしたこと。裏を返せば、自分がリアムの傍にいることで、成長の妨げになっている。あれこれと頭を悩ませる彼女だったが、ハムスターに興味を示しているリアムの姿を見て、ひとまず考えることをやめた。
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