幸福の食卓

ますじ

文字の大きさ
上 下
12 / 15

11

しおりを挟む
 ――朔。ああ、実は少し前から目が覚めていたんだが、声がかけられなかったんだ。すまない。泣いているのか? 顔を見せてほしい……ああ、きれいだ、お前が無事で本当によかった。……ん、ああ、見えるさ。いいや、見えずとも分かるものだ。もっと、近くへ……ああ、ありがとう。まだ少し疼痛があるようだが、お前に触れると少しよくなった気がする。俺はもう大丈夫だ。どうか泣かないでくれ……ああ、今の俺でも、お前の涙を拭ってやることはできるんだな。もうお前は、俺の元から去るんじゃないかと思っていた。俺を選んでくれてありがとう。……この後いなくなるかもしれない? それは本心だろうか。もしお前がそう願っているなら、俺は引き止めはしない。お前の人生だ、これからはお前が決定していくといい……ああ、どうしてそんなに泣いているんだ? 俺はなにか間違ったことを……、……ああ、そうか。そうだったのか、朔。俺は十分に伝えたと思っていたが、ああ、いけないな、これでは確かに誤解を与えてしまう。朔、俺は、お前に去ってほしくない。お前がどんなことを考えて、どんな気持ちでいたとしても、俺の願いはただ一つ、お前と一緒に居たいということだ。共に食事をして、共に語らい、共に朝日を迎えたい。だが俺は、もうこんな身体になってしまった。これまでのようにお前を守ることはできないだろう。お前にも負担をかけてしまうかもしれない。それに、これまで俺は、お前のことを苦しめ続けてきた。俺にはお前を引き止める資格はない、だが……、……ああ、ああ、聞いてくれ、朔。これは、俺の素直な気持ちだ。朔、俺は、お前を愛してしまった。それは親としての感情でもあり、よき友としての感情でもあり、そして、性愛を孕んだ重い感情でもある。だから、朔、どうか、どうかお前が俺を赦すというならば、そばに居てほしい。お前を研究所から連れ去り、隠し続けてきたが、今はもうお前を籠に閉じ込める理由はなくなった。冷静に考えてみれば、どれだけ俺がお前の人権を無視した非道な環境に置いてきたか分かるものだというのに、お前と出会った時からきっと俺は正常ではなかったんだ。まだ赤子でしかないお前を、はじめて見た時のことはよく覚えている。全身に電流が走るような衝撃だった。そしてどこか懐かしく、苦しい気持ちにもなった。たまらなくなって、気付いたら君を抱き上げていた。自分が何をしているのか、分かっているようで分かっていなかった。この子を決して手放してはならないと、何にも触れさせず、守らねばならないと強く想った。それが結果として君を苦しめることになったが……。……俺は、ずっと何かを恐れていた。恐れるあまり、お前に酷いことをしてしまった……。すまない。本当に、すまなかった。こんなことになって、ようやく自分の過ちを知った。朔。俺は決して、お前を愛玩動物だなんて思っていないよ。いや、思っていない、つもりだった。だが、実際にそういう扱いをしてしまったようだ。そんなつもりはなかった。俺はただ、朔を守りたかったんだ。あまりにも大切すぎたんだ。……ああ……お前の表情が見えないのが、残念だ。なにか、喋ってくれないか。ゆっくりで構わないし、このまま去るというなら、それも受け入れよう。だが、最後にせめてお前の声を……、………………ああ。愛しいな。手放すなんて惜しいよ。……ん、ああ、そうだな……お前の答えを、俺は聞いていない。……朔? なぜ怒っているんだ? 独りよがり、か……ああ、そうかもしれない。それに、俺だけが勝手に喋りすぎてしまったようだ。次はお前の話を聞かせてくれ、…………ああ。そうか……うん……お前は、優しいな。…………はは、そうか。そうだな。お前の答えを聞く前に、引き止める資格がないだの、そんなことを言っては、まるで俺がお前を突き放そうとしているように聞こえてしまう。もちろんそれは誤解だ。朔、先にも言った通り、俺の願いはただ一つだ。お前のそばに……、…………ああ、そうか、朔……ああ、ああ………………ありがとう。お前を愛している。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

快感射精クラブ

ゆめゆき
BL
男どうしのセックスについて学ぶ塾のお話 このお話に限らず、BLは、ファンタジーーーー!!!!の心持ちで読んで下さい

プロデューサーの勃起した乳首が気になって打ち合わせに集中できない件~試される俺らの理性~【LINE形式】

あぐたまんづめ
BL
4人の人気アイドル『JEWEL』はプロデューサーのケンちゃんに恋してる。だけどケンちゃんは童貞で鈍感なので4人のアプローチに全く気づかない。思春期の女子のように恋心を隠していた4人だったが、ある日そんな関係が崩れる事件が。それはメンバーの一人のLINEから始まった。 【登場人物】 ★研磨…29歳。通称ケンちゃん。JEWELのプロデューサー兼マネージャー。自分よりJEWELを最優先に考える。仕事一筋だったので恋愛にかなり疎い。童貞。 ★ハリー…20歳。JEWELの天然担当。容姿端麗で売れっ子モデル。外人で日本語を勉強中。思ったことは直球で言う。 ★柘榴(ざくろ)…19歳。JEWELのまとめ役。しっかり者で大人びているが、メンバーの最年少。文武両道な大学生。ケンちゃんとは義兄弟。けっこう甘えたがりで寂しがり屋。役者としての才能を開花させていく。 ★琥珀(こはく)…22歳。JEWELのチャラ男。ヤクザの息子。女たらしでホストをしていた。ダンスが一番得意。 ★紫水(しすい)…25歳。JEWELのお色気担当。歩く18禁。天才子役として名をはせていたが、色々とやらかして転落人生に。その後はゲイ向けAVのネコ役として活躍していた。爽やかだが腹黒い。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

処理中です...