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39. 幸せをサポートします
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ポーリーンの店、オープンの日。
開店時間となり、看板を表に出しに行くと大きな花束が歩いてきた。
「おめでとう、ポーリーン」
「ありがとう、クロード」
クロードの大好きなピンクの薔薇の花。抱えたら前が見えなくなるほどに大きなそれは、店の外に花台に活けて飾ることにした。もちろん、「オクレール公爵様より」と看板をつけて。
店内に入ると、クロードは柔らかい表情でカウンターに座り、じっとポーリーンの顔を見つめた。
「コーヒーでよろしい?」
「ジョアンのコーヒーも、久しぶりだな」
ユーゴが小さなお盆に乗せたおしぼりを持ってくると、クロードはびっくりした顔をして、「ありがとう」と笑う。
「この子は、あの時の子かな」
「えぇ。可愛いでしょう?」
「あぁ……少しだけ大きくなった」
なぜだろう。
先日会ったときには、顔を見るなり反感しか覚えず、すぐさま追い払いたい気持ちになったのだけど。
カフェに人を呼ぶために公爵様の名前と存在が有用であることを差し引いても、あまり嫌悪感がない。
(店が始まって、家族のように大切に思う人たちが出来て、気持ちに余裕が出来たのかしら)
クロードはユーゴに手招きし、注文したクッキーを一つユーゴの口に入れた。
「おすそ分け」
一生懸命に急いで食べて、ユーゴはぺこりと頭を下げた。
「ありがとう、おじさん」
「君は、自分の居場所を決めたんだね」
その声には、どことなく寂しさが滲んでいるように感じた。けれど、自分から戻ろうという気持ちにはならない。
ユーゴはこくりと頷いて、
「この前はごめんなさい」
ともう一度頭を下げた。クロードはその少年の様子にくしゃりと顔を笑ませて、ユーゴの髪を撫でた。
「ポーリーンをよろしく」
「うん」
あの強引だった公爵様とは思えない。いっそ不審なくらいに穏やかな振る舞いに、ポーリーンも訊いてみた。
「公爵様?」
「ん?」
「何か、ありました?」
「あったんだよ、とてもいいことがね」
ポーリーンに、片目を閉じて公爵はいたずらっぽくもったいぶって言う。
「あら。どんなことか聞いても?」
カウンターから身を乗り出すように、クロードはポーリーンに耳を貸すようにと手招きした。
少しだけ耳を寄せると、彼は嬉しそうに破顔して、そっと囁いた。
「愛する人が、私を幸せにすると言ってくれたんだ」
「……愛する人がいらっしゃるの?」
「ポーリーン、君しかいないだろう」
馬鹿だなぁ、とでも言いたげに首を傾げ、クロードは笑う。
リフのやつが、余計なことを言い含めたか、とため息をついた。
仕方がない。
「えぇ、わたくしが、公爵様にふさわしい、素晴らしい奥様を探して差し上げますわ」
ゆっくりと、クロードの顔色を伺いながら、噛んで含めるように丁寧にそう告げた。
開店時間となり、看板を表に出しに行くと大きな花束が歩いてきた。
「おめでとう、ポーリーン」
「ありがとう、クロード」
クロードの大好きなピンクの薔薇の花。抱えたら前が見えなくなるほどに大きなそれは、店の外に花台に活けて飾ることにした。もちろん、「オクレール公爵様より」と看板をつけて。
店内に入ると、クロードは柔らかい表情でカウンターに座り、じっとポーリーンの顔を見つめた。
「コーヒーでよろしい?」
「ジョアンのコーヒーも、久しぶりだな」
ユーゴが小さなお盆に乗せたおしぼりを持ってくると、クロードはびっくりした顔をして、「ありがとう」と笑う。
「この子は、あの時の子かな」
「えぇ。可愛いでしょう?」
「あぁ……少しだけ大きくなった」
なぜだろう。
先日会ったときには、顔を見るなり反感しか覚えず、すぐさま追い払いたい気持ちになったのだけど。
カフェに人を呼ぶために公爵様の名前と存在が有用であることを差し引いても、あまり嫌悪感がない。
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一生懸命に急いで食べて、ユーゴはぺこりと頭を下げた。
「ありがとう、おじさん」
「君は、自分の居場所を決めたんだね」
その声には、どことなく寂しさが滲んでいるように感じた。けれど、自分から戻ろうという気持ちにはならない。
ユーゴはこくりと頷いて、
「この前はごめんなさい」
ともう一度頭を下げた。クロードはその少年の様子にくしゃりと顔を笑ませて、ユーゴの髪を撫でた。
「ポーリーンをよろしく」
「うん」
あの強引だった公爵様とは思えない。いっそ不審なくらいに穏やかな振る舞いに、ポーリーンも訊いてみた。
「公爵様?」
「ん?」
「何か、ありました?」
「あったんだよ、とてもいいことがね」
ポーリーンに、片目を閉じて公爵はいたずらっぽくもったいぶって言う。
「あら。どんなことか聞いても?」
カウンターから身を乗り出すように、クロードはポーリーンに耳を貸すようにと手招きした。
少しだけ耳を寄せると、彼は嬉しそうに破顔して、そっと囁いた。
「愛する人が、私を幸せにすると言ってくれたんだ」
「……愛する人がいらっしゃるの?」
「ポーリーン、君しかいないだろう」
馬鹿だなぁ、とでも言いたげに首を傾げ、クロードは笑う。
リフのやつが、余計なことを言い含めたか、とため息をついた。
仕方がない。
「えぇ、わたくしが、公爵様にふさわしい、素晴らしい奥様を探して差し上げますわ」
ゆっくりと、クロードの顔色を伺いながら、噛んで含めるように丁寧にそう告げた。
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