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32. それぞれの役割

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 カフェとは、街の人の憩いの場であるべきだ。
 というわけで。

「テオ、わたくしとデートをしない?」
「え!?」
「え!?」
「どうしてジョアンもびっくりするのよ……」

 街を歩き、他の店の様子を調査し、それからいろいろなところで顔を売る必要がある。
 それには、散歩が一番だとポーリーンは思うわけだけど、ユーゴを連れて歩くのはまだ怖い。完全にポーリーンの息子となってくれた後でだったらもちろん連れ回したい。
「わたくしが思う店には、若い男女が入り浸ってほしいわけ」
「入り浸る、という言い方はあれですけど、ジョアンもそう思います」
「なら、若い男女の気持ちで街を歩き、市場調査をする必要があるわ」
「お嬢様とテオドールさんなら、若い男女そのままだとジョアンは思います!」

 気持ちはバツイチのポーリーン。
 年頃の精悍な男性を連れまわすのはちょっと可哀そうかなと思いながらテオドールを見ると、彼はやたらと眉間に力を入れてじっと話を聞いていた。

「……お顔が怖いのだけど、いやかしら」
「嫌なんてことは! 全然! あの、……光栄です」

 天下の侯爵家嫡男が、どうしてそう下からなのか。年下だからかしら、と可笑しい。

「それから、もちろんユーゴとクロエのことも調べたり。わたくしが一緒だと、テオの行動が制限されてしまうかしら?」
「いえ、それは大丈夫です。話を聞くにも、違う視点から見てもらえる人が一緒にいてくれると助かります」
 仕事の顔に戻り、テオドールはそう言って頷いた。

「ジョアンは、家でユーゴに味見してもらいながら、料理の練習をしますね!」
「ぼくは?」
「ユーゴにも手伝ってもらいますよ、ナフキン折ったりとか……できるかしらー?」
「できる!」

 すっかり仲良くなっている留守番組は安心だろう。ジョアンはノリは軽いが頭がいい。もし何かあっても、子供二人を守ることは出来る。心配な時は、父に頼んで男手を派遣してもらって……。

「もし、人が必要であればリュカが来ますよ」
「リュカが? だって、侯爵領のお仕事はいいの?」
 三男のリュカ、16歳。テオドールの弟だ。今は嫡男がここに来てしまっているから、次男と三男で侯爵領の仕事を手伝っていると言っていたが。
「ヴァルターが……余計に手間がかかるからしばらくリュカを引き取ってほしいと言っておりまして……」

 16歳。ユーゴの遊び相手にちょうどいいかしら。
 なんだか賑やかになりそうで、嬉しい。

(わたくしは、今楽しくて幸せだけれど)

 クロードはそうではないのだろうか。あのピンク髪の美少女とはもう切れたのだろうか。
 他に、クロードの奔放な性格を包み込んでくれるような女性はいるだろうか。

 自分が耐えられなかった男を他の女性に押し付けるというのは、どうなのだろうか。
 今更ながらそんなことを思い、ちくりと胸が痛む。

(わたくしも、大概自分本位ですわね……)



 
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