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9. 町の様子と子供の様子

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 ジョアンの用意したお茶を一口飲むと、テオドールは皮表紙の手帳を取り出してゆっくり話し出した。

「まず、朝一で役所に行ってきました。探し人情報は、掲示されているものと未掲示のもの含めて、4~7歳の男の子はなし。乳児もなし」
「そう……」

 人がいなくなったときには、まず役所に届ける。それが一番確実で早く、信頼できる筋だからだ。捜査員も常駐しているし、すべての情報は役所に集まる。
 とはいえ、今回ポーリーンは二人を保護していることを役所に届けていないわけだけれど。
「子供がいなくなっても届けないということは、」
「いなくなったことに気付いていないか、出生届を出されていないから届けられないか、……」
 子供に聞かせていい話なのかを確認するように、ポーリーンの目を見つめる。
 大丈夫、と頷くと、少し低めた声でテオドールは続けた。

「捨て子、の線も考えられます」

 はっとしてポーリーンは身を固くした。
 テオドールは帽子を脱いだり被ったりしているユーゴを見つめて、「でも、」と続けた。

「この子たちを保護されたのが昨日。で、まだ丸一日も経っていない状況です。だから、情報が届いていないだけということも十分に考えられるので」
「そう、よね」
「とにかく、今言えることは、探されていないのであれば、まだここにいてもらっても問題ないということかと」
「! そうよね!」

 子供がいなくなって探しているかわいそうな親がいるのであれば、その親元に返してあげないといけない。
 けれど、家のことを語ることも名前を口にすることもないユーゴを、そしてまだ一人でご飯を食べることも歩くことも出来ないクロエを探している親がいないのであれば、まだ手元に置いておいてもいい。
 手元に置きたい、と思ってしまうのはやはり名前を付けて情が移ったということだろうか。

「本来であれば、役所に引き渡す必要があると思いますが」
 テオドールは、ポーリーンを安心させるように微かに表情をやわらげた。
「どちらにしても、役所側でも受け入れ体制が整うのには時間がかかるかと思います」

 ユーゴは、二人の会話をじっと聞いていた。
 痩せた指をできつく帽子を握り締めて、「ぼく、」と小さな声を出した。

 テオドールは少年の言葉を遮らないように、と黙って待つ。
 どうしたの、と聞きそうになったポーリーンは、彼の様子に倣って言葉を飲み込んだ。

「ここにいたい」

 微かな声でそう言い、ここに来て初めてユーゴはぽとりと大粒の涙をこぼした。

 思わずポーリーンがユーゴを引き寄せると、彼の痩せた身体は力なく胸に倒れこんできて、声を殺して泣く様子に締め付けられる。
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